風紀委員長の宣戦布告

 目を覚まして俺は違和感を感じた。

 ……知らない天井だ。


 くるっと横になると、そこには薄着姿の木葉の姿があった。



「――うわッ!!」



 キスできそうな距離。

 桃色の唇が目の前だ。


 木葉は、まだスヤスヤと眠っている。


 ……ああ、そうか。

 俺は昨日、物々交換の末に木葉のマンションにお持ち帰りされたんだった。



 飯食って風呂入って……それからどうしたっけ。お酒を嗜んだわけでもないのに妙に記憶が曖昧だ。



 気づいたら木葉の部屋にいて――眠っていた。


 少なくとも一緒に眠ったという事実は確定した。


 俺、女の子と一緒に寝たのか。

 童帝エンペラーの俺が?

 嘘だろ、信じられん。

 人生で初めてだった。奇跡かな。


「ん~…、おはよ、風吹くん」



 眠たそうに目を擦りながら起き上がる木葉は、俺の首に腕を回す。



「ちょ、木葉」

「風吹くん、おはようのキスしてくれる?」


 ……ッッ!


 早朝からいきなりエンジン全開か。

 嬉しいけど、時間がギリギリなんだよな。主に、木葉の顔を眺めすぎて。



「木葉、このままだと遅刻するぞ」

「え……だって、目覚ましは――あれぇッ!?」



 そう、目覚ましは十分前に消えていた。その五分後に俺は起きたんだけど、木葉に見惚れていて時間を忘れていたのだ。



「すぐ準備するぞ」

「う、うん! まずいね」



 残念そうに俺から離れ、木葉はその場で着替えを始めた。



「ちょ、脱ぐな!!」

「――はっ! ちょ、風吹くんっ、ジロジロ見ないでよ!」



 早朝でまだ頭が回っていないのか、木葉は激しく動揺。ありえないほど赤面した。俺はいったん木葉の部屋から脱出した。


 これは身が持たないな。



 * * *



 マンションを出ると清々しい空気が出迎えてくれた。

 ギャルと一緒に生活を送り、登校。

 なんか心躍るな。


 テンションアゲアゲで木葉と共に学校を目指す。幸せすぎて、後々に不幸が暴風雨となって降り注いでこないといいけど。



 学校まで歩き、事件もなく到着。

 ――いや、事件はあった。



 校内へ入った途端、風紀委員長の水瀬の声が俺たちを呼び止めた。



「おはようございます、微風くん。それに、凩さん」



 俺と木葉は振り向いて、その風紀委員長――水瀬の姿に驚愕きょうがくした。



「「えっ……!」」




 あの黒髪で地味、真面目キャラの水瀬が……ギャルになっとる――!?




 ド派手な青、緑、黄を混ぜたインナーカラー。ギャルっていうか……まるで今流行りのVTuberみたいな髪型と髪色だった。


 爪もフルカラーで驚く。


 てか、誰……。


 俺は「お、おはよう、風紀委員長」と普通を装ってに挨拶。木葉は「おはよ……」と、え、なにこれみたいな表情で水瀬を茫然となって眺めていた。



「お……俺に何か用かな」

「はい、微風くんにお願いがあるんです」


「お願い?」


「私とも物々交換して欲しいんです!!」

「は!?」



「「はああああああああ!?」」



 俺と木葉は同時に叫んだ。

 な、なんで……俺と木葉が物々交換それをしてるって知っているんだ。


 いや――だが、思い返せば水瀬らしい気配を度々感じていたことがあった。まさか、見られていたのか。



「微風くん、私は本気です。もう負けたくないんです、そこの凩さんに!!」

「はい!? あたし!?」


 名指しされ、木葉は顔をしかめる。

 えっと、これはいったいなんの勝負だ?

 ギャル対決……?


「そうです。どちらが微風くんに相応しいか物々交換・・・・で決めましょう」

「水瀬さん、なにがあったか知らないけどさー、言っておくけど風吹くんとの物々交換を舐め方がいいわよ!」


「……なっ。どういう意味ですか!」


「だって、彼は最初にあたしのパンツを所望したんだから!!(奪われたのっ)」



 最後ボソッと言うな!!


 てか、バラすなああああああああああ!!



 うああああああああああああ、木葉のばかあああああああああ……!!



 あーあ、水瀬が凍りついたよ。

 カチカチになって真っ青になっていた。


 そりゃ、物々交換のスタートが『ギャルのパンツ』だとか聞かされたら、衝撃的すぎて三日は悪夢を見ながら寝込むよな。



 けど、水瀬は直ぐに復活した。



「わ、わ、わ、わ、分かりました! そ、微風くん!! 私のパンツと交換してくださいぃぃぃぃ……」



 震えすぎ! 動揺しすぎ!

 それに、めっちゃ嫌そう。


 無理しすぎだろう、水瀬のヤツ。



「いや、さすがに無理」

「がーん……。でも、どうして!?」


「さすがに風紀委員長を相手に無理だよ。てか、こんな廊下の前でなんて話だよ! 通りかかる人に白い眼差しを向けられてるよ、俺」


「大丈夫です。私が責任取りますし」



 そういう問題なのかよ!?

 いやけど、これは意外すぎた。

 水瀬がこんなイメチェンをして、俺に物々交換を迫ってくるとは。しかも、木葉の目の前で堂々と。


 つまり、これは宣戦布告ってことなのか。


 考えていると、木葉が笑った。


「そういうこと。水瀬さん、風吹くんが好きなんだ」

「……ッ!」


「図星ね。だからあんな風に、あたしから遠ざけようと必死になって暴言の数々を……。まあいいわ、過去の事は水に流して忘れましょう。それより、物々交換だっけ」


「そ、そうです! 勝負しましょう。どちらが先に微風くんと“愛の交換”が出来るか」

「あ、愛の交換!? なんか、やらしーわね」


「凩さんも、それが目的でしょ?」

「いやぁ、別にそんなつもりは――けどね、面白そうね。その勝負、受けて立つわ」



 木葉と水瀬の『物々交換』という名の戦争が今ここに勃発ぼっぱつした。……俺に拒否権はなさそうだな。でも、水瀬がどんな物をくれるのか興味はあった。


 これから一体どうなるんだろうな?

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