一緒にお風呂

 届いた品は『牛丼』だった。

 よくあるチェーン店のものだが、高菜たかな明太めんたい牛丼とはよく分かっているな。


「木葉が牛丼とはな。好きなんだ?」

「だって安くて美味しいじゃん。はい、麦茶」


 容器をテーブルに並べ、蓋をあけるとイイ感じに盛り付けられた牛丼が出てきた。食欲そそられる良い匂いだ。



「「いただきまーす」」



 割り箸を手に取り、さっそく一口戴く。

 うん、高菜明太のモシャモシャっとした食感と絡み合う牛肉、そしてご飯がマッチして絶妙な塩梅あんばいとなっている。



「やっぱり安定して美味いな」

「うんうん、この高菜明太の濃厚な味わいがたまんないわ。美味し」



 どうやら、木葉は高菜明太が相当好きらしいな。ご機嫌になりながら、味わっていた。という俺も空腹のせいか、箸が止まらない。

 もぐもぐと食を進めていれば、あっと言う間に完食。



「――ふぅ、美味しかった」

「あたしも、もうお腹いっぱい。もう少ししたらお風呂も入ろうか」


「ああ、貸してくれるんだ」

「もちろん。一緒に入る?」


「ブッ――――!!」


 ちょうど飲んでいた麦茶を俺は吹いた。鼻から麦茶が……。


「あはは……ごめんごめん。って、大丈夫?」

「ちょ、木葉。さすがに一緒はまずいだろッ」

「別に平気だよ」

「だめだ。風呂場がスプラッター映画並みの血塗れになるぞ。ジグソウ先生もたちまち逃げ出すって」


 つまり、俺の鼻血でそうなるわけだが。


「それは困るわね。分かった、風吹くんが先に入りなよ」

「と、言っても着替えがないんだよなあ」

「そうだねえ、パンツは仕方ないとしても、シャツなら貸してあげるよ」


「え……でも」

「いいの。あたしのシャツを貸してあげる」


 と、木葉は自分の部屋まで取りにいった。しばらくしてシャツを持ってきた。


「へえ、文字入りのTシャツか」


 デカデカと『超ウケる』と刻まれていた。これ、恥ずかしいな。

 けど、これ以外でサイズの合うシャツがないようだった。人生、妥協も必要だな。



「それじゃ、案内するから」



 立ち上がり、バスルームへ向かう。

 浴槽バスタブはかなり広くて外の眺めも見渡せた。満月と夜景が綺麗だなあ――。



「本当に使っちゃっていいのか」

「気にしない気にしない。今、お風呂を沸かすね」



 俺はお言葉に甘えることにした。

 汗臭いままでは寝られないし、木葉に嫌われてしまう。


 十五分後ほどには風呂も沸き、準備が出来た。



「じゃあ、借りるよ」

「おーけー」


 ニコニコと笑顔で去っていく木葉。

 なんだろう、ちょっと悪い顔していたような。まさかな。


 脱衣所で服を脱ぎ、俺はもちろん全裸で風呂へ。


 まずは、シャワーを浴び全身を洗った。丁寧に洗った後、俺はジェットバスへ身を落とす。……なにげに高級な浴槽バスタブだな。



「――ふぅぁ……。気持ちいぃぃ」



 肩まで浸かると一瞬にして疲れが取れるような気がした。


 これは心地よい。

 こんなの自宅では味わえない。


 ……しかし、この風呂っていつも木葉が使っているんだよな。

 当たり前だけど――意識するとドキドキしてきた。


 両手でお湯をすくって、その水面に木葉の顔を思い浮かべる。



 ――ッッ!!



 一緒に入れば良かったかな。

 なんて思っていると、バスルームの扉が開いた。



「って、木葉!?」

「お邪魔しまーす!」



 普通に入ってくる木葉さん。

 全裸かと思いきや、水着をつけていた。



「そ、その手があったか!」

「えっへん。盲点だったでしょ」


「それなら問題な――って、俺が全裸じゃん!」


「……あ。だ、だ、大丈夫だよ。タオル巻けば見えないって……はい」



 そうだな、落ち着け俺。

 木葉からタオルを受け取り、俺は腰に巻いた。



「えっと、サプライズ?」

「そ。驚かせようと思って。どう、この水着」


 紺色の花柄ビキニ。

 しかもヒモ付き……だと。

 引っ張りたいロマンが詰まった逸品ではないか。



「か、可愛い。似合ってる」

「百点満点の回答だね。じゃあ、シャワー浴びたら入るね」


 シャワーを浴び、体を洗い終えると浴槽こちらに入ってくる。幸い、スペースが広くて二人なら余裕だった。



「……っ!」

「天井を見てどうしたの、風吹くん」


「ど、どうしたもあるか。こんなに近いんだぞ……目のやり場に困っているんだ。仕方ないので見知らぬ天井を仰ぎ見ている」


「変わった趣味だね」

「んなわけあるか! ちゃんと聞いていたのか、目のやり場に――」



 ツッコミを入れていると、木葉は俺の手を握ってきた。



「……二人きりだね」

「と、当然だろ」

「風吹くんって、あたしを襲わないんだ?」


「そんなことしないよ。これでも俺は紳士なんだ」

「ギャルの下着は欲しがるヘンタイ紳士さんだね」


「そうそう――って、ちゃうわいっ」



 誰がヘンタイ紳士だっつーの。

 下着は物々交換したけどさ。


 手で頭を押さえていると、メロディが鳴っていた。



「ん、音楽?」

「うん。このお風呂ってブルートゥーススピーカーがついていて、スマホを繋げて音楽が流せるんだ」


「へえ、便利だなあ」



 ラブソングが流れ始めて、木葉は俺に身を預けてきた。



「どうした、木葉……って、寝てるし」



 ノビタくん並みの早寝技だったけど、きっと疲れていたんだろうな。

 木葉は、安心した表情で寝息を立てている。こんな子猫みたいにされては、起こすに起こせられない。


 でもそうか、俺をそこまで信頼してくれるんだな。


 その事実が何よりも嬉しかった。

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