交渉と交換
生徒会長・愛衣に連れて行かれそうになった。
だが、途中で木葉と水瀬が気づいて俺の腕を掴んだ。……なんかまずい状況になってきた。
「愛衣、いつの間にいたの!」
「ごめん、木葉。近所だから」
「そ、そうだった……愛衣って、この近くだったわね」
木葉は、うっかりみたいな表情で頭を押さえていた。
「ちょっと待って下さい。なんで生徒会長がいるんですか!」
驚きを隠せない水瀬は、凄い慌てようだった。そうだな、こんなところに風紀委員長に生徒会長が集まるとか奇跡でしかない。
こんな状況になって俺は、自分の無力さを痛感していた。
だけど、それでも……出来ることはあるはずだ。
俺に出来ること。
それはただひとつだ。
「みんな待ってくれ!」
「「「……!」」」
三人の視線が俺に集まる。
正直、チビりそうなほど緊張している。手も足も震えて、なんだか動悸もヤバい。死にそう。
けど、このままでは本当に収拾がつかなくなってしまう。
そうなる前に俺は木葉の為にも提案した。
「まず水瀬、交渉したい」
「え……私? 構いませんけど」
木葉と愛衣から少し離れ、俺はこう話した。
「今日のところはスマホを返してくれ。その代わりに今度一緒に遊ぼう」
「なるほど、次回にしたいのですね。……それならいいでしょう」
「本当か!」
「ええ、スマホはお返しします。だから、その……
マジな視線を向けられ、俺は圧倒されそうになった。まさか水瀬がそこまで本気だったとは……。
「分かった。男に二言はない」
俺は、水瀬と連絡先を交換。
友達リストに三人目の女子の名が刻まれた。
まさかの三人目。
今までだったらありえないが、そのありえないが現実となった。明日は嵐かな。
「ありがとう、風吹くん。これがまず第一歩です」
「いや、礼なんて……でも、なんでそんな俺のことなんて気にするんだ」
「そんなの決まっています。風吹くんが気になるからです」
「え……それって」
水瀬は笑って誤魔化した。
聞こうにも走り出して行ってしまう。
木葉と愛衣に別れの挨拶を交わして、爽快に去っていった。
……ふぅ、なんとか水瀬はクリア。
安心しきっていると、木葉と愛衣が詰め寄ってきた。
「ねえ、風吹くん、今何を話していたの!!」
「風紀委員長の機嫌がよくなっていたし、怪しいなぁ、風吹くん」
「そ、そんなことはない! 次、愛衣と話があるんだ」
「え、わたし? いいけど」
今度は愛衣を連れ出し、交渉を開始。
今までの経緯や水瀬とのやり取りをこっそり教えた。
「――というわけなんだ。今日という日を大切にしたい」
「なるほどねぇ、木葉とデートしていたんだ。負けてられない……って、言いたいところだけど今は空気を読んであげる。でも……」
「分かってる。スケジュールが合えば遊ぶか」
「さすが風吹くん! 分かってるね~。じゃ、約束だからね」
「ああ」
「生徒会にも入って貰うから」
「ああ……って、ええッ!?」
「それが交換条件だから。じゃなきゃ、一日中邪魔しちゃうよ?」
……嘘だろ。
生徒会なんて入ったら自由がないし、俺なんて雑魚が立ち入る場所でもない。無理だ。不可能だ。死ぬ、死んでしまう。
「考えておく……」
「分かった。保留ね」
ふぅ、愛衣はなんとか妥協してくれた。
「じゃあ、俺は木葉とのデートを再開する」
「うん。分かったけどさ、わたしも……多分、水瀬もだけど、風吹くんと木葉がどれだけの仲であろうとも決着がつくまで絶対に諦めないと思うから」
「愛衣がそんなに俺を気にしていたとはな」
「言っておくけど、かなり前から君の存在感はあったんだよ」
「え?」
聞き返そうとすると愛衣は背を向けた。
木葉の方へ向かい、手を振っていた。
「邪魔してごめんね、木葉」
「え……ううん。愛衣、ラインはするから」
「分かった。じゃあ、またねー!」
愛衣とも別れた。これで元に戻ったわけだが――木葉の機嫌がどうなっているやら……俺は内心バクバクしていた。怒られないといいけど。
「木葉……はい、スマホ。取り返したぞ」
「ありがとう、風吹くん。やっぱり頼りになる」
「その……水瀬と愛衣に何を話したのか聞かないのか」
「うん、聞かない。だって、風吹くんのこと信頼してるもん」
そんな純粋な眼差しを向けられ、俺は心がズッキンズッキンしていた。……なんかだ心苦しいぞ。
けど、デートを続行できる。まだ一日という時間は半分以上もある。残りを木葉と共に過ごす。ただひたすらに、
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