スマホと俺を物々交換!?

 変わった髪色をしていたから、水瀬と直ぐに分かった。

 真面目キャラだった水瀬が今ではギャル風の女子に生まれ変わってしまった。


 しかも今日は私服。

 ダボダボのオーバーサイズ。


 ギャルのいかにもな服装に驚く。


 あんまりイメージではなかったけど似合っているな。



「おはようございます、微風くん」

「おはよう。こんなところで奇遇だな」


「私はよく散歩に来るんです。凩さんもおはようございます」



 丁寧に挨拶する水瀬に姿に、木葉は驚いていた。



「おはよ、風紀委員長。それ……あたしのスマホ」

「あぁ、やっぱり凩さんのでしたか。微風くんから電話が掛かってきたので、そうではないかと思っていたんです」


「拾ってくれたことには感謝するわ。ありがとう」



 素直に礼を言う木葉は、水瀬からスマホを受け取っ――ん?


 いや、水瀬はスマホを渡さなかった。

 渡す動作をして、フェイントを掛けたんだ。小学生かよっ。



「凩さん、スマホを返して欲しければ微風くんと遊べる権利を交換してください」

「へ……は? はぁ!?」



 俺も驚いた。

 水瀬がそんな要求をしてくるとは思わなかったからだ。


 俺と遊べる権利?



「拾得物――つまり、落とし物を届けた時、遺失物法によれば報労金を請求する権利があるのです。そうでなくとも、費用を請求できるんですよ」


「んなッ」


「でも、お金よりも微風くんとの時間の方が欲しい。だから、このスマホと微風くんを交換してください!」



 なんという要求だ。

 拾ったスマホと俺を交換だって?


 けど、そうしないとスマホが返ってこないし……困ったぞ。


 困惑していると木葉がブチギレた。



「ふざけないで! スマホはあたしのだし、風吹くんと交換なんてするわけないじゃん」

「そうですか。では、このスマホはお返しできません」

「なによそれ。窃盗じゃない!」

「いえ、拾ったんです。落とし主不明・・・・・・のスマホを。だから、凩さんのものか分かりませんし」


「と、とぼけないでよ。それ、あたしのだって!」

「とぼけてなどいません。このスマホが凩さんのものという確証が得られない以上、警察に届けないといけませんね。ではでは」



 くるっと背を向ける水瀬。

 嘘だろ、おい。


 せっかく拾ってくれたと思ったら、まさかの交渉材料に使うとはな。


 あのスマホは間違いなく木葉のだ。

 俺が電話して繋がったし、あの派手なカバーも俺が何度もこの目で見ていたものだ。


 しかも、木葉のお気に入りのスマホだということも知っていた。大切なデータも多く保存されているようだし……ええい、仕方ない。



「待て、水瀬」

「……なんでしょう、微風くん」

「俺と交換ならいいんだな」


「自ら交換に名乗り出るのですね」

「それしかなさそうだからな。木葉、そういうことだ……悪い」



 正直、こんなことは言いたくなかった。でも、スマホを取り返す為だ。



「……風吹くん、スマホはいいよ。新しいの買うし」



 そんな辛そうな顔で言われてもな。


「そんなわけにもいかないだろ。木葉のスマホは最新機種で予約待ちのやつじゃないか。直ぐに手に入らないし、大切なデータも入っているんだろ。それを諦めるなんて……だめだ」


「でも」


「大丈夫だ。ちょっと水瀬と遊んでくるだけだ。必ず戻る」



「……っ。分かった」



 交渉成立。

 水瀬はスマホを俺に託してきた。それを木葉に渡した。



「じゃあ、交換完了ですね。微風くん、一緒に行きましょ」

「ああ、約束だからな……」



 出来ればこんな心苦しい真似はしたくなかったが、状況が状況だ。それに、水瀬がなぜ俺をつけ狙うのか――その理由も知りたかった。


 歩きだそうとすると、突然木葉が暴走した。なにごと!?



「やっぱり納得できない!! 水瀬さん、これっておかしいよ!!」


「――な。物々交換に文句をつけるというのですか!?」


「だってそうじゃない。あたしの落とし物で交換とか、そんなの反則よ」

「それはスマホを落とした凩さんが悪いでしょう。油断が招いた結果です!」


「あたしが悪いっていうの!」

「そうです。ぜんぶ貴女が悪いんです!」


「なによそれ!!」



 あわわ……どんどんエスカレートして言い合いになっていた。これはまずいな。ほぼ喧嘩になっとる。周囲からもジロジロ見られているし、恥ずかしいぞ。



「そもそも、凩さん。なんでそんなモテそうなギャルなのに微風くんばかりを相手にしているんです! そこがおかしいでしょ!」


「そんなのあたしの勝手じゃない。風紀委員長こそ、なんで地味キャラからギャルに変身してるの。今更、高校生デビュー? 遅すぎない。ていうか、あたしの真似!?」



「「……ッ!!」」



 あーあ、二人の間に火花がバチバチと。

 頭を痛めていると、背後から声を掛けられた。


 今度はなんだ!?



「ちょりーっす、風吹くん」

「――ん? って、会長!」

「風吹くん、わたしのことは愛衣でしょ」



 まさか生徒会長まで公園にいるとは……。



「愛衣も散歩か?」

「まー、近所だからね。風吹くんこそ……あぁ、木葉と水瀬か。それじゃ、わたしが風吹くん、もーらいっ」


 強制的に腕を組まれ、俺は連行される。

 木葉と水瀬はバチバチしているせいか、こっちに気づかない。


 俺、愛衣に連れていかれる!?

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