嵐の前の静けさ
「うあああああああああああああ……」
終始叫びっぱなしだった。
走行中のことはほとんど覚えていなかった。記憶がぶっ飛んだよ、俺。
「あははは、面白かったね~、風吹くん」
「あんな高速とは聞いてないぞ! ジェットコースターじゃないかっ」
体感的に時速100kmは出ているんじゃないかと思った。それほどトンデモないスピードだったと思う。
遊園地のジェットコースターと大差なかったな……危うくチビるところだったぞ。
「楽しかったね!」
「はぁ……死ぬかと思った」
「そんな大袈裟なぁ~」
木葉は、こういうアトラクションは平気らしく、ずっと笑いっぱなしだった。アイアンハートかよっ。間違いない、化け物だ。
「ひとまず休憩したいな」
「あっちに自販機あるし、飲み物を買おうか」
「あぁ……」
ところてんみたいにヘロヘロになりながら俺は歩く。
自販機で飲み物を買って空いているベンチへ座った。
「ここの眺め最高だね」
「山に囲まれているから絶景だよなぁ」
どこまでも続く山脈。
あんまり行ったことはないけど観光地も多いと聞く。
「これからどうする?」
「んー、そうだなぁ……」
考えていると、木葉が全身をまさぐって青ざめていた。
「……あれ、ない」
「どうした、木葉」
「スマホがないの!!」
「マジかよ。さっきのドリームコースターで落としたとか?」
「そうかも……探してきていい?」
「んな無茶な。あの長いコースを回るなんて無理だ。しかも稼働中だし、事故とか起きたら大変だ。スタッフの人に事情を話しておくしかない」
「そ、そうだね……はぁ」
木葉は落ち込んで溜息を吐いた。
まさかスマホを落とすとはなぁ。
それから、先ほどのドリームコースターの方へ向かい、スタッフにスマホを発見したら教えて欲しいと願いした。
見つかるといいが……絶望的かも。
それにしても、凄い落ち込んでるな。
「大丈夫か、木葉」
「あのスマホに大切なデータが入っていたのにぃぃ……」
「それはまずいじゃないか。クラウドで保存とかしてないの?」
「くらうど?」
クラウドを御存知ないらしい。
「えっと、クラウドサービス。写真とか自動でバックアップしてくれる機能があるんだよ」
「あぁ、それ設定していたかも! 愛衣がやった方が良いって言うからさ」
おぉ、ならデータはワンチャン、バックアップされているかもしれないな。けど、本体が見つかるに越したことはない。
「なるほどな。ならデータは大丈夫かもな」
「ほんと!?」
「多分だけど」
「うん……」
なんとかしてやりたいが、バスの時点で忘れているかもしれないし……可能性の範囲が広すぎる。
だが、俺はひとつ思いついた事があった。
「なあ、木葉。俺のスマホで木葉に電話したら……どうなるかな」
「あ! それ名案かも!」
木葉のスマホに電池があれば繋がる可能性がある。それで誰かが拾っていれば……電話に出てくれるかも。俺はそう考えた。
「やってみるぞ」
「お願い!」
さっそくライン電話を飛ばしてみる。
『…………』
『…………』
う~ん、だめか。
電話自体はできているけど、繋がらない。
ということは、誰かに拾われてはいないってことかな。
諦めて電話を切ろうとした――その時だった。
『――もしもし』
「え!? 繋がった!?」
俺はびっくりした。
そのことを木葉にも報告すると「マジでぇ!?」と飛び跳ねていた。俺は通話を続けた。
「あの、そのスマホの持ち主が困っているんですよ。返して貰えませんか」
『あー…なるほど。風吹くんだったんですね』
「へ?」
……て、まて!
この声は聞き覚えがあるぞ。
『私です。水瀬ですよ』
「み、水瀬!?」
間違いない、風紀委員長の水瀬だ!
『あの、このスマホって凩さんのですよね』
「そうなんだ、返してくれ」
『今、もしかしてアルプス公園です?』
「な、なんで……え、まさか居るの!?」
『はい。私は今、アルプス公園を歩いています。このスマホは道路で拾ったんですよ』
そういうことか!
てか、普通に落としていたんだな。コースターのところじゃなくて良かったな。
「分かった。えっと……休憩所のところに来てくれないか」
『ええ、もう直ぐ着きますよ』
なんてもう水瀬の姿が見えていた。
「木葉、風紀委員長の水瀬が拾ってくれたってさ」
「え、ええ!? うそー、そんなことあるの!?」
木葉は、びっくりして鳥肌が立っていた。という俺もかなり驚いたけど。
こんなことってあるんだな。
そうして水瀬と合流を果たした。
だが、この時の俺は知らなかった。
このあと、とんでもない修羅場になるということを――。
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