目覚めのキスと初デート

 ――息苦しい。


 なぜか息ができないほど苦しかった。

 おかしいな、昨晩は悪夢にうなされた覚えもない。というか、夢なんて見なかった。というのに、この呼吸困難寸前な息苦しさはなんだ?


 目を開けてみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


 俺はなんと……木葉からキスされていたんだ。



「…………」



 木葉の柔らかい唇によって口を塞がれていた。そりゃ、息苦しいわけだよ。――って、ええッ!? マジかよ。


 俺は激しく動揺し、飛び跳ねる寸前までいったが耐えた。耐え抜いた。ここで驚いて暴れればキスが終了してしまうからだ。


 ……ッッ!


 それにしても木葉のヤツ、俺がまだ寝ていると思っているのだろうか。けど……そうだな、このまま寝たふり・・・・をしていよう。



 おそらく、三十分はそうしていた。



 時間はあっと言う間に過ぎ、木葉は満足したのか「好きだよ」と耳元で囁いてくれた。それから静かに部屋から出ていった。



「……幸せだ」



 少しぼうっとして、俺も起床。


 洋服に着替えてリビングへ。

 ソファで寝っ転がってスマホをいじる木葉の姿があった。仰向けでおへそを出して……うん、悪くない光景だ。


 少々眺めていると、木葉が俺の存在に気づく。



「おはよ~、風吹くん」

「おはよう、木葉。ネットでも見てるのか?」

「うん、今日どこへ行こうかなって。デートするつもりだから」


「ほぉ~、デートか……誰と?」


「そんなの決まているじゃん。風吹くんと」

「なるほど、俺とか! って、俺ぇ!?」

「風吹くん以外誰がいるの。そういうわけだから、準備してね!」


「わ、分かった。直ぐ準備するよ」



 デートとなれば服とか身嗜みだしなみは、きちんとしておかないとな。



 * * *



 先に外で待っていると、準備を終えた木葉が現れた。今日は一段と可愛い服だ。大胆に肩を露出した肩出しのトップス。

 それとデニムショートパンツという組み合わせ。そんなモデル風味な大人な服装は、肩だけでなく、腕やふとももをより強調させていた。


 肌色の主張が激しいなぁ。

 金塊のようにまぶしい。



「私服を見せるの初めてだっけ」

「普段の木葉は、謎デザインのシャツを着てばかりだからな。なんだか新鮮だよ。うん、可愛い」


「良かったぁ、褒めて貰えて嬉しいっ」



 俺の腕に抱きついてくる笑顔の木葉。ありのままの感想を言っただけなんだが、こんなに嬉しそうにされると照れる。


 こそばゆい感情を抱きつつ、歩き出す。



「――で、どこへ行く?」

「いろいろ考えたんだけど、風吹くんのお任せにしようかなって」

「マジかよ。木葉、さっきスマホで調べていたんじゃないの?」

「実はあたしって引っ張ってもらいたい方なんだよね。だから、風吹くんに期待してる」


 星のようなキラキラした瞳を向けられ、俺は焦った。


 無茶ぶりすぎるだろッ!


 だが、ここで“無理”なんて言えない。


 木葉と初デートなんだぞ。

 ここで撤退はありえない。


 俺は思考をフル回転させて、目的地を考えた。


 う~ん……せっかくのデートだから、楽しい場所にしたい。木葉が喜ぶ場所と言えば…………分からん。



 てか、デートってどこへ行けばいいのか知らなかった。

 彼女なんていなかった人生。木葉と出会うまでは、女の子とどうこうするなんて考えもしなかったし。



 だからって諦めるつもりはない。

 ええい、出たとこ勝負でいくか。



 松本駅まで向かい、バス停へ。



 待っていると割と直ぐにバスが来た。



「木葉、バスに乗っていくぞ」

「うん。楽しみ」



 乗車し、空いている席へ座る。

 隣に木葉が座って俺は緊張が高まった。

 多分、いつもと状況が違い過ぎるからだろうな。こんなにドキドキするなんて思わなかった。



 バスで20分ほど揺られ――到着。



 降車し、俺は今更ながら頭を抱えた。



 ここでよかったのか~~~っ!?



「……うぅ」

「風吹くん、ここってアルプス公園じゃん」



 そう、俺は公園を選択した。

 思いつかなかったからだ!!


 あぁ、終わった。


 こりゃ木葉のヤツ、怒って帰っちゃうかな。



「選択ミスだった」

「ううん、普段あんまり来ないし! ていうか、ここって遊具もたくさんあるしさ、ドリームコースターに乗りたいっ!!」



 スマホで調べると『アルプスドリームコースター』というものがあるらしい。大人410円で乗れるジェットコースター的だとか。



 そんなのあったの!!



 ……知らなかった。



 動揺しながらも、俺は木葉に腕を引っ張られる。



「その、なんちゃらコースターでいいの?」

「うん、風吹くんと一緒に乗りたい。楽しいデートになりそうだねっ」



 良かったぁ……!

 近所でどうかと思ったけど、俺の選択は間違っていなかったんだ。


 公園内に入り、ゆっくりと歩いていく。


 朝だというのに家族連れがそこそこいた。散歩しているおじいさんおばあさんとすれ違っていく。


 そうして、アルプスドリームコースターの前に到着。チケット売り場でチケットを購入する。


「へえ、あの滑り台がコースか。どこまで続いているんだ? 林の奥まで続いているし、めちゃくちゃ長そうだな」

「あの“ソリ”みたいなのに乗って滑走するみたいだね」

「うわぁ、怖そ~」


 そのソリみたいな乗り物には、一名乗れるようだ。真ん中にレバーがあって、アレで操作するようだ。大丈夫なのかなぁ。


 スタッフの人から説明を受け、さっそく乗車する。


 ……いよいよスタートか。

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