ラブホテルへ!?

 昼から学校をサボることになろうとはな。


「風紀委員長のクセに悪い奴だな」

「もう今更ですね。ほら、髪色とか特に取り締まってないですし」

「それもそうか。ウチの学校って自由だよなぁ」


「はい。なので風紀委員長も名ばかりですよ」


 学校を出て水瀬と二人きり。

 これからどこへ行くべきだろうか。


「俺が決めた方がいいのか?」

「いえ、私について来てください」

「分かった。任せる」


 どこへ連れて行かれるんだろうなあ。


 街を歩いてどんどん薄暗い路地へ向かっていく。……なんだか怪し気な道だな。


「こっちに何があるんだ」

「行けば分かります」


 行けばねぇ……こんな場所にお店とかあったかな。


 段々とその建物が見えて来て、俺は頭が真っ白になった。こんな昼間っからありえねぇだろ!!


「え……水瀬、ここって……まさか!」

「そ、ラブホ」

「ラ、ラブホって!! なんてところに連れてくるんだよ!」


「私のはじめてあげるから、風吹くんのはじめてをください」


 めちゃくちゃ冷静に言われ、俺は頭が爆発しそうになった。……水瀬はなに言っているんだ!? まともじゃねぇ!


 けど、冷静に考えれば美少女からのお誘い。男なら嬉しすぎるアプローチだ。


 ……が、いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。


「待ってくれ。落ち着いて状況を説明して欲しい。水瀬、なんでいきなりラブホなんだ?」

「男の子って興味あるでしょう? ……私も結構興味あるんですよ」


 マジかよ。

 俺の中の風紀委員長のイメージが崩れ去った。


 もっと真面目かと思っていたんだが……意外と大胆だな。


 正直、取引としては好条件だ。

 だが……それでも俺は。


「却下だ。……そりゃ、男としては嬉しいけど突然すぎるって」

「ですよね。分かりました、ラブホは諦めますね」

「諦め早いな」

「ええ、もし良かったらと思ったんです。では、他にしましょう」


 一応、本気だったんだな。

 ちょっと惜しかったかな。


 ラブホを過ぎ去って街へ向かう。


 今度はどこへ連れられていくんだろう。


 さすがに平日の街。

 それほど人は歩いていないし、おだやかだ。



 十分ほど歩いて『そば処・浅田』に到着。



「そば屋?」

「うん、お腹減ったし、そばでも食べましょう」


「そうだな、昼なしで学校を出たから……分かった。店に入ろう」

「それは良かったです! 風吹くんと初めてのそば屋さん、楽しみです」


 店に入るとそばの良い香りが漂っていた。テーブル席と座席があったが、テーブルにした。


 俺は無難に“ざるそば”を注文。

 水瀬も同じものを頼んだ。



「それで、なんで俺なんだ」

「……そうですね、そろそろお話ししないとですよね」

「教えてくれ。というか、俺が忘れていたのなら、先にすまん」


「いいんですよ。一瞬のことでしたし」

「一瞬……」

「はい。……あれは一年前、駅前であったことです」

「そんなところで?」

「私は隣町に住んでいるので電車で通学しているんです。その時、定期を入れていたお財布もスマホも落としちゃって……困り果てていたんですよ。そこへ現れたのが風吹くんでした」


 ……その話、少しずつ思い出してきた。

 あれは終電前だったかな。

 俺は家出してあっちこっち回っていたんだが、結局帰ってきたんだ。その帰りに困っている女子高生に会った。

 確かに一瞬の話だから覚えてはいなかったけど。



「それで俺どうしたっけ」

「風吹くんは、交通系ICカードをくれたんです。おかげで私は家へ帰ることができたんです! だから、嬉しくて嬉しくて……」


「そうだったのか。あの時は家出して頭がいっぱいだったからなぁ……」

「それでその……あの時のICカードのお礼といいますか、物々交換をしたいなと思うんです」


「え……いや、いいよ。礼とか交換も不要だ。困っている人を助けるのは当然ことだ」

「そんな風吹くんに惚れちゃったんです」


「……へ」


 聞き返そうと思ったけど、そばが届いた。今、水瀬は……惚れちゃったと?


 聞き違いでなければ、そう言っていたはずだ。


 ……困った。


 そばの味がわからねぇ。

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