本人と交換
そば屋を出て――近くの公園へ向かった。
俺の家の近くだ。
けど、なんか落ち着かないというか、……そば屋の時点で視線を感じていた。
なんか誰かに尾行されている気がする。
公園へ入り、空いているベンチで座った。人はそんなにいない。
いないのだが……背後に人の気配が。
振り向くと変装しているヤツがいた。
あー…あの感じ、実に分かりやすい。
そうか、ついて来ていたのか。
「ごめんなさい、風吹くん」
「な、なんでいきなり謝るんだよ」
「私……やっぱり帰りますね」
「急だな。一応、理由を聞かせてもらってもいいか」
「その、気づいちゃったんです」
「気づいた?」
「風吹くん、ずっと凩さんのことばかり考えていますよね」
……バレていたか。
俺の脳内はずっと木葉のコロコロ変わる表情ばかりだった。今すぐにでも会いたい。そんな風に思っていた。
だからこそ、俺はもうハッキリさせるべきだと思った。
いつまでもグダグダしていられないよな。
「すまん。俺……木葉が好きなんだ」
「……知っていました。無駄な抵抗だと分かっていたけれど、敵わないですね。ハッキリ言ってくれてスッキリしました」
水瀬は少し震えて落ち込んでいた。
まさか女の子を振る人生が俺にあるとはな。
ちょっと心が……痛い。
「悪い。もっと早く言うべきだったかな」
「いいんです。最後にデートが出来て良かった。でも、これからも変わらず友達でいてください」
「もちろんだよ。遊んだりしようよ」
「はい……でも、残念ですが私は近々海外留学しなければならないんです」
「マジかよ!! 唐突だな」
「親がうるくさて……だから彼氏でも出来れば中止にできるかなぁとか思ったんですよ。もしくは、一緒に行ってくれる人がいたらなと思ったんです。……不安で。だから、風吹くんとアメリカへ行けたら楽しかったかも」
水瀬はアメリカへ留学するのか。
外交官の親を持つとそうなるんだな。
俺と付き合いたかったのも、不安を払拭したかった理由があったんだな。気持ちは分かる。でも、俺は日本にいたい。
「そうだったのか。寂しくなるな」
「ラインはしますね」
「ああ、頼む。ちなみにいつ留学?」
「来週にはアメリカです。長期留学なので直ぐには帰って来れないです」
「早いな。もうかよ……」
「旅立つ前にデート出来て良かった。風吹くん、今日はありがとうございました」
「もう行くのか」
「寂しくなる前に」
席を立つ水瀬の顔は、もう諦めの顔だった。残酷かもしれないけど……俺は引き留めない。
決めた以上、ここで信念を曲げるなんてダサい真似はしたくない。
「残り一週間、楽しもう」
「……はい。風吹くん、また明日」
「またな」
手を振って別れた。
せめてあと一週間、友達として全力で接しよう。
最後まで見送り、俺はベンチに倒れた。
……なんだかな。
これで良かったんだよな。
水瀬、泣いていたな。
こんな時はどうすればいいんだろう。
こうなれば近くで盗み見ているヤツに聞いてみよう。
「木葉、そこで何をしているんだ」
「…………にゃ~」
「猫の鳴き真似をしても無駄だ。バレバレだぞ。そば屋にいたよな! サングラスとマスクして変装していたけど、明らかに不審者だったぞ」
「……うぐっ」
草陰から姿を現す木葉さん。
葉っぱまみれになっていた。
なにやってんだか。
「こっちへ来い」
「うん」
隣に座らせ、木葉を抱き寄せた。
「さっき風紀委員長を振った」
「……見てた。風吹くん、あたしを取ってくれたんだね」
「当たり前だろ。俺が欲しい物は最初から決まっている」
「じゃあ、交換してくれる?」
「そうだな、もう誰にも取られたくもない」
俺が誰かのものになるのも、木葉が誰かのものになるのも……そんなの想像もしたくない。考えたくもない。
だから、もう交換すればいい。
「でも、もう風吹くんは貰ったよ?」
「俺はまだ木葉を貰ってない。交換してくれ」
「なにと?」
「……その、恥ずかしいんが……“愛”と」
「あはは……確かに恥ずかしいね」
顔を真っ赤にする木葉は、けれど馬鹿にせず受け入れてくれた。
抱きついて、寄り添って、ぬくもりをくれた。
さあ、交換しよう。
俺の愛と木葉を。
「木葉を愛してる」
「あたしも風吹くんを愛してる」
「木葉をくれ」
「うん、風吹くんの愛をもらう」
こうして俺は木葉をもらった。
愛と交換して――。
それからは日が沈むまでずっとキスをしていた。
* * *
夜になって手を繋いで……ずっと互いを感じ合った。ロマンチックな夜だった。
マンションへ戻って、またキスをした。
「木葉……好きだ」
「あたしも風吹くんが好き」
物々交換から始まった恋は、ついに『本人』との交換までに至った。この夜、俺は本当の意味で木葉と愛の交換をした。
俺はこれからも木葉と共に人生を歩んでいく。
【あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
約二ヶ月に及ぶ更新、少し早いですが『本編完結』とさせていただきます。ここまで頑張れたのも皆様の応援のおかげです。
後半は少し不定期更新になったところもありましたが、それでも九万文字も書けたのは応援のおかげでした。
特に★は偉大でした。最近では全然上がらなくなってしまいましたが……。やっぱり、★を貰うのって難しいですね(泣)
これにて本編は終わりですが『番外編』は入れたいと思います。1~3部を予定しています。そのままお待ち頂けたらと思います。
他の作品も応援よろしくお願いいたします。
◆異世界ラブホ経営
https://kakuyomu.jp/works/16817139557790309754
◆ヤンデレ義妹と旅するえっちな車中泊生活
https://kakuyomu.jp/works/16816927861458863501
◆無人島Lv.9999
ギャルと物々交換はじめたら『本人』と交換するまでに至った話 桜井正宗 @hana6hana
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