結婚は認めん!

 木葉を連れ、次なる目的地へ向かう。

 徒歩ニ十分となかなかの距離だが、散歩には最適だ。


「疲れたら言ってくれ。と、言ってもぼちぼち見えてきているけどな

「え、こっちの方向って……あがたの森公園じゃん。学校の近くの」


 さすが勘が良いな。

 その通り、我が高校の近くであり、実家の近く。

 前に痴漢事件もあった現場である。


 歩いてついに公園の前へ。


「さあ、もう近いぞ」

「公園お散歩?」

「まあ、それもあるかな」


 公園の中へ入り、ショートカットしていく。

 何度も通った通路を歩いて――やがて、その『家』が見えてきた。


「到着だ」

「ここが風吹くんの目的地……って、まさか実家!?」

「そ。俺の家・・・だ」


「え、ええっ! ど、どうして?」

「どうしてって……そりゃ、木葉を紹介しておきたいんだ」

「あ、あたしを!? それって……え、もしかして……け、け、結婚のご挨拶的な!?」


 物凄く動揺する木葉だが、単に紹介するだけの話なんだが……面白いので勘違いしたままにさせておこう。


「そんなところだ」

「んな――!」


 木葉は、カチンコチンに固まった。

 直後、家の中から親父が現れた。

 相変わらず目つきがヤバい。


「なんだ、風吹じゃないか」

「親父、今お世話になっている同級生の木葉だ」

「おぉ、彼女を連れて来たのか。もうそんな挨拶とか……気が早いな、風吹」


「いやいや、お世話になっているからだって」

「照れ隠しか? まあいい、いつかはこうなるだろうと思っていた。家に上がれ」


 親父は先に家へ戻る。

 俺は……この石化した木葉をなんとかしないとなぁ。


「おーい、木葉。家へ入るぞ」

「…………」


 だめだこりゃ。

 完全に意識が飛んでる。



 * * *



 少し待つと木葉は意識を取り戻した。



「大丈夫か、木葉」

「……えっと、あの、うん」

「そう緊張するなって。ただの挨拶だってば」

「そ、そうだよね。あはは……ごめん」


 木葉の手を引っ張り、玄関へ向かう。

 靴を脱ぎ――リビングへ。


 そこには親父が構えていた。


 なんてツラしてやがる。

 怖すぎだろう。


「……よく来た、風吹。それと可愛いギャルちゃん」

「あたしは、木葉です。凩 木葉といいます」

「そうか、木葉ちゃん。さっそくだが……結婚は認めん!」



「「へ?」」



 俺も木葉も唖然とした。

 親父のヤツ、突然何を言いだすんだー!!



「だから最愛の息子はやれんのだよ」

「な、な、なんでですか!?」

「今こそ真実を話そう……。実はな、風吹には許嫁いいなずけがいるんだ」

「い、許嫁?」


「そうだ。名を『コガラシ』という。まあ、私ではなく……母さんがある人と仲が良くてな。勝手にそういう話が進んでいた。これを明かすことになろうとはな……私としても心苦しい」



 その瞬間、俺と木葉は顔を見合わせた。


 その『コガラシ』って――まさか。



「親父」

「なんだ、風吹」


「さっき木葉が自己紹介したが、俺が改めて紹介する。このギャルは『こがらし 木葉このは』さんだ」

「だから何だと言うのだ。結婚は認めんと――は!?」


 親父は挙動不審ながら、木葉を凝視する。


「あの、あたしがその『コガラシ』ですけど」

「んな!? なんですとおおおおお!!」


 飛び上がって親父はひっくり返りそうになっていた。アホだ。


「親父、母さんに聞かなかったのか」

「…………っ」


 親父はガタガタ震えて青ざめていた。

 まさか同居しているギャルが『凩家』とは思わなかったんだろうな。



「はぁ、実を言えば知っていたんですけどね」


「「え!?」」


 今度は俺と親父が叫ぶ。

 まて、木葉のヤツ……許嫁とか知っていたのか!

 おいおい、ということは俺と木葉の出会いは――必然だった!?


 そうだよな、いくらなんでもおかしいよな。


 ただパンツと物々交換しただけで仲良くなってくれるはずがない。そもそも、そんなパンツと交換した相手なんか、普通は近寄りたくない。

 けど、その後も木葉は俺と物々交換を続けた。


 思えば、距離感が近すぎると思ったんだよな。


「うちの母と微風さん家のお母様が仲が良いんですよ。それで、許嫁にしたらどうだって、そういう話になっていたそうです」


 凩父と俺の親父には内密にしてか。

 そりゃ、こんな大事件みたいな表情になるよな。俺もビックリして頭が混乱している。もう、どうすりゃいいんだ……!

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