百万円ゲット

「くぅ、母さんのヤツ……まさか木葉ちゃんとは思わなかったぞ」


 親父は内緒にされていたことがショックだったらしく、すっかり意気消沈していた。……やれやれ。


「親父、挨拶は済んだ。俺と木葉はもう戻るよ」

「母さんには挨拶していかないのか」

「今はいないんだろ?」

「まあな。今日はネイルサロンへ行ってしまった」


 ああ、だから親父ひとりなんだ。


「じゃあ、伝えておいてくれよ」

「仕方あるまい」


 俺と木葉は立ち上がり、リビングを後にする。

 玄関まで向かうと親父もついてきた。

 見送ってくれるらしい。


「またな、親父」

「まて、風吹。お前はもう十分な投資スキルを持っている。これからは、ひとりでやってみろ」

「やってみろって、資金がないじゃないか」

「お前の口座に百万円を振り込んでおいた。どうするかはお前次第……投資して増やすもよし、その百万円で企業するもよしだ」


 つまり、将来を考えて使えと言うわけか。

 そうだな……今までは親父の投資を手伝っていた単なるバイトだった。でも、これからは自分で収入を得ていかないとな。


 ずっと親父を頼りにするわけにもいかないし。


「ありがとう、親父。よく考えて使うよ」

「がんばれよ。じゃあ、木葉ちゃんとお幸せに!


「ま、まだ気が早いって!」

「その割には照れているな」

「う、うっさいわ!」


 背を向け、俺は玄関を出た。



 * * *



 公園に向かい、ベンチに座る。

 少し気まずいような、話し辛い空気感が漂う。


 許嫁……許嫁かぁ。


 信じられないな。

 運命は決まっていたってことかな。



「……びっくりした?」



 木葉が口を開き、苦笑する。

 驚かなかったと言えばウソになる。正直、かなり驚いた。でもだからと言って、今の関係性が変わることなんてない。


 元から俺は木葉が……。



「少しな。ほんの少し驚いた」

「ふぅん、素直じゃないんだ」

「……さ、さあな。それより、これからだろ。せっかくの日曜日だ、遊びに行くか?」

「うん。どこへ連れて行ってくれる?」


「ほう、主導権はまだ俺にあると」

「いいよ。どこでも連れていって」



 う~ん、とはいえ直ぐには思いつかない。なにか一緒に遊べるものと言えば……カラオケとか。いや、以前に行ったしな。


 外は少し暑いから、あんまり居たくはない。

 涼しい所がいいな。


 ……涼しいところ。


 おぉ、そうだ。



「よし、決めたぞ。またニ十分ほど歩くけど……いいか」

「歩くのは嫌いじゃないからいいよ~。で、どこへ行くの?」

「それは秘密だ」

「ふぅん。まさか、えっちなお店とかじゃないよね」


「んなッ! そんなところへ連れていくかって」

「なんだ、興味あったのに」

「あるのかよ!! てか、学生は入れないだろ」

「年齢なんて分からないよ」



 そうかもしれんが、どちらにせよ木葉と大人のお店になんて入れないって。

 それに、これから行く場所はそんな破廉恥なお店でもないのだ。


 公園を出て再び駅の方面へ。



 * * *



 ――到着っと。


「ここだ。ケアフリーカフェ」

「カフェ? 喫茶店?」

「お、木葉は利用したことないんだな。ここは“ネカフェ”だよ」


「おー、ネットカフェ! いいね、涼しいしゆっくりできるもんね」


 このネカフェは、ネット、カラオケ、シアタールーム、バー、コミック、シャワールームとなかなか充実している。


「シアタールームが100インチのスクリーンがあってな。しかも、パソコンもあるんだ。防音だし、めっちゃおススメなんだ」


「風吹くん利用したことあるんだ?」


「ま、まあね。あの大スクリーンで映画を見たり、本読んだりな」

「へ~、なんか良いね、そういうの」

「引く?」

「ううん。ぜんぜんいいと思う。じゃあ、今日はあたしと一緒にえっちな動画でも見よっか」


「――んなッ! 木葉、なんでそっちなんだ」


 そりゃ、ネカフェはそっちも充実しているけどな。動画とか。



「せっかくの100インチのスクリーンじゃん。大画面で楽しむしか!」

「却下だ。さあ、受付へ行くぞ」

「決定だからね!」


 人の話を聞いちゃいない!

 ……そんなに見たいのか?


 ともかく、ネカフェへ入った。


 幸い、シアタールームは空いていた。


 部屋へ向かう前にドリンクバーで飲み物を確保。それから部屋へ。


 椅子に腰掛けると、木葉は隣に座った。……近っ。


「木葉……」

「いいじゃん。二人きりなんだし」

「そ、そうか。木葉が良いならいいけど」


 パソコンを起動し、操作していく。


「なに見ようかね」

「決まってるじゃん。えっちなヤツ」

「なんでそんな見たがるんだ!?」


「風吹くんと一緒に見たいのっ」



 見たいのって言われてもなぁ……って、勝手に操作してるし! まずい、木葉のヤツなんか手慣れているぞ。もしかして利用したことあったのか!?


 阻止せねばと必死になるが、木葉は禁断のサイトへ接続を始めた。



 いかん!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る