胸の中に飛び込んだような

 目のやり場に困った。

 どこを見ても刺激が強すぎるからだ。


「すまん、さすがに前は無理だ」

「え~、仕方ないなぁ。けどね、一緒に寝ようね」

「ああ、それなら大丈夫だ」


「眠くなってきたし、そろそろ寝ようか」

「そうだな」


 木葉の愛用するベッドは、ふかふかで気持ちがいい。寝心地抜群。どうやら、快眠効果のある結構お高いベッドらしいが。


 ――って、もう寝てるし!



「……すぅ、すぅ」



 可愛い天使の寝顔だ。

 見ていたいけど、俺も眠くなっていた。


 まぶたを閉じかけたその時だった。


 木葉は突然、腕を伸ばして俺の頭を抱き寄せた。顔が柔らかいものの中に沈み込む。……え、これって、このフワフワしたものは――まさか!!


 いや、けどこれは寝心地が良すぎる。


 もっとドキドキするかと思ったけれど、予想以上の弾力性に俺はラスボス級の睡魔に襲われて――眠ってしまった。



 * * *



 朝目覚めると、木葉と視線が合った。


「……お、おはよう。ん? なんだこの体勢」


 俺は今、木葉を抱き枕にしているようだった。

 って、あれからどうしてこうなった!?


 確か、寝る前は抱き寄せられて木葉の胸の中に飛び込んだような。

 う~ん、眠すぎて記憶が曖昧だな。



「風吹くん、あっちこっち触りすぎー!」

「え!? マジ? 寝てたから分からない」

「まあね。寝惚けて凄いところ触られちゃった。えっち!」


 す、凄いところ!?

 どこだよ、木葉のどこの部位に触れてしまったんだ、俺はー!!



 混乱の最中、木葉は離れていく。

 胸を押さえて顔を赤くしたまま。


 って、やっぱり胸なのか。



 俺は手を動かし、グーとパーを繰り返す。……感触は覚えていない。

 脳が完全に寝ていたから分からない。


 くそ、なんで眠ってしまっていたんだ!


 意識がしっかりしていれば、ワンチャン感触と覚えられていたかもしれないのに。


 悔しいが、仕方ない。


 木葉は、朝シャワーへ行った。

 俺もあとで入ろう。



 ――本日は日曜日。



 これといってやることも無いような有るような。――いや、あるな。俺は本格的に木葉の家に住もうと思った。

 だから実家から荷物をもっと移動させようと考えた。


 なんかすっかり住み慣れてきたし、居心地もいいし。木葉と暮らす毎日は楽しい。


 このままもっと親交を深め、やがては彼氏彼女の仲とか……なりたいな。



 その為にも、俺からアプローチを仕掛けていかないとかな。

 そうだ、ずっと待っていても仕方ない。


 逆白馬の王子様なんて幻想でしかないのだから――。




 数十分後、風呂から木葉が戻ってきた。




「木葉、今日はせっかくの日曜日だ。どこかへ行かないか」

「へえ、デートに誘ってくれるんだ?」


「……っ! ま、まあな。たまには俺から誘わないと不公平だろうし」

「あれぇ、風吹くん顔が赤いよ?」


「き、気のせいだ。ともかく、外出決定だな。木葉、どこか行きたい場所とかあるのか?」


「うん、一件だけどね」

「おーけー。俺もあるけど先に行くか?」

「そうだね、朝食も食べられるし、モーニングへ行こうか」

「え? 朝食が食べられるんだ」


「そうなの。じゃあ、準備してレッツゴ~!」



 準備を進め、服もそれなりの格好を選んだ。

 玄関前で待つと木葉が現れた。

 今日はシャツにショートパンツというラフな格好だ。


「随分と軽装だな」

「あたしって実はシンプルな方が好きなんだよね」

「そうなのか。まあ、似合っているけどな。ていうか、木葉は何着ても似合う」

「そ、そうかな! 褒められると照れるし、嬉しいわ」


 そう本当に照れながら、木葉は俺の腕に抱きついてきた。こ、これで歩くのか。


「いいのか」

「いいよ。道は案内するから」

「お、おう」


 腕が幸せだ……。

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