朝食と物々交換

 駅前付近まで歩いて向かう。

 ある場所で足を止める木葉。そこには『珈琲美学』という看板があった。


 喫茶店か。

 ここは初めてだな。


 扉の前からしてオシャレな雰囲気。

 へえ、レンガとはな。


 店の中に入ると、これまたオシャレな店内が広がっていた。シックでアンティークだな。

 隅の席に座り、モーニングセットを頼んだ。


「ハムエッグとかベーコン、100円って安くね」

「そうなの、風吹くん。ここね、安くて美味しいんだよ~。バタートーストなんて50円だよ」


 コスパ最強の喫茶店だな。

 とはいえ、コーヒーとかは中々値段がするんだけどな。


 しばらくして、シナモントーストとフォカッチャが届いた。


 俺はカフェオーレ、木葉はストレートコーヒー。う~ん、良い香りだ。

 おまけのプレーンオムレツ、ゆで玉子もきた。



「朝からなんだか豪勢だな」

「たまにはこういう特別な朝があってもいいんじゃない?」

「それに可愛いギャルと一緒とか、もう贅沢の極みだね」


「ちょ、可愛いとか……! もう冗談が上手いんだから」

「いやいや本当だよ。それにしても、コーヒーの香りが最高だな」

「うん、風吹くんのカフェオーレも美味しそう」


 お互いコーヒーを味わっていく。

 おぉ……なんてコク。味わい深い。

 カフェオーレでこれなら、ストレートコーヒーも美味いんだろうなあ。


 気になって木葉を見つめていると、こっちの視線に築く。



「風吹くん、あたしのストレートコーヒーと交換する?」

「物々交換だな。いいよ」



 コーヒーも気になって、俺はカフェオーレと交換。

 口をつけようとして――ハッと気づく。

 さっき木葉が口をつけていた部分だ。


 いやいや、今更間接キスくらいで動揺するな俺。もう何度かキスしているじゃないか。


 ぐびっとコーヒーを飲む。



「……味と香りがここまで鮮明とはな。うん、上品で優しい味だ」

「でしょでしょ。カフェオーレも味濃くない? これいいわぁ」



 トーストを食べながら朝食を進めていくと、俺はふとした視線に気づいた。



「……」



 あれ、なんか別の席からこちらを睨みつける人がいる。あの悪魔のような視線、人外のようなオーラを放つ男性は――まさか。


 木葉のお父さんか!


 席を立つ凩父は、こちらへ向かってきた。



「木葉! こんなところで男と何をしている!!」

「げっ、パパ! そっちこそ、なんでここに!」

「ここは私の行きつけの店だ。安いからな。それより、なぜこの男と! こんな朝早くから!」


「モーニングを食べに来ただけよ」

「そうは見えなかった。俯瞰ふかんという視点から見た時、お前達は仲睦まじい恋人に見えたがな。コーヒーを交換し、間接キスまでしおってからに」


「み、見ていたの!」

「当然だ。大切な娘がこのよく分からん青二才に取られようとしているのだからな」



 今時、青二才とか言う奴いるんだな。

 まあ、ある意味間違ってはいないけれど、それとこれとは別問題だ。


 俺はこの場を乗り切る為に、フォカッチャを物々交換の条件した。



「凩父さん、これで怒りを静めてくれませんか」

「フォカッチャ……だと! なぜ私の好みが!」


 さっきこちらを見ながらフォカッチャをモグモグしていたからな。だから、ひょっとすると――と、思ったけど大当たりだった。


「これで今日のところは見逃して下さい」


 丁寧に頭を下げた。

 すると凩父は感激して俺からフォカッチャを奪い取るように受け取っていた。どうやら、交渉成立のようだな。


 凩父は、静かに去っていった。



「え、あの頑固なパパが大人しくなっちゃった」

「話が通じない相手ではないし、取引にも応じてくれるタイプだ。向こうが欲しがるものを敬意をもって差し出せば、相手も必然的に見返りをくれるものさ」


 これが物々交換の極意だ。

 伊達に何度も交換しているわけではない。


 というか、凩父が思ったよりも柔軟なんだけどね。


「へぇ、風吹くんって将来は営業かな」

「いやぁ、営業は向かないよ。弁護士にでもなろうと思う」

「え、本気!?」

「なんでそんな驚くんだよ。至って真面目だぞ」

「ごめんごめん。意外すぎちゃって……。じゃあ、あたしは秘書になろうかな」


 木葉が秘書かぁ、それは最高だな。

 毎日が楽しそうだし。


 そうしてモーニングを楽しみ、喫茶店を後にした。

 さあ、次は俺の番だ。

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