クレーンゲーム対戦①

 この勝負、勝たねばならない。

 幸い向こうはスーパー初心者。

 勝てないわけがない……はずだ。


 俺は一人で“お菓子コーナー”へ向かう。


 ちょっとズルいけど、勝負は勝負だ。お菓子はダメとはルールではなかったし、問題はない。


 100円で三回プレイできる『うますぎる棒』を狙う。

 あれなら楽勝で――って、あれ?


 よく見るとディスプレイに【調整中】の張り紙。プレイできなかった。



「マジかよ!!」



 こんな時に限って一番簡単な『うますぎる棒』がプレイできないだと!! しかも、100円で三回プレイできるという大チャンスなのに。


 ……なんてタイミングの悪さ。


 仕方ない、一度ぬいぐるみのコーナーへ。


 通路を歩いていくと、木葉と凩父の姿があった。



「取れたぞ!!」

「パパ……嘘でしょ」



 父親を監視する木葉は頭を抱えていた。

 目の前でデカい犬のぬいぐるみを獲得していたからだ。俺も驚いた……あんなデカいのを一発で? ああいうのって確率機だろうし……内部的に“当たり”が確定していたのかな。


 くそ、ビギナーズラック恐るべしだな。



「ふふふ……風吹くん。君はまだひとつも獲れていないようだね?」

「くっ……!」

「では、がんばってな! ふはははは!」


 まだ時間はある。

 諦めるにはまだ早い。


 木葉が駆け寄って応援してくれた。

 しかもかなり至近距離で。


「風吹くん、がんばって。応援しているから」

「ああ、その言葉だけでやる気がスゲェアップした!!」


 俺は別の筐体きょうたいを探す。

 取れそうな台を選定していく。


 そして俺は気づいた。

 今日のクレーンゲームには“放出台”の激甘機があったことに。


 放出台とは、もう何年も前から余っているフィギュアを獲れやすくしてあるアームつよつよの神台なのだ。その獲得率は50%以上はあると言っても過言ではない。



「あ、風吹くん。まさか!」

「木葉も気づいたか。そう、在庫処分を狙う!!」


 ダッシュで向かい、台の確保に成功した。

 なんと1プレイ100円じゃないか。

 お財布にも優しい。


 俺はさっそく100円――いや、500円を投入した。これで6回もプレイ可能になる。



「これで行くぞ!!」



 * * *



 残り時間五分。

 俺はあれから放出台でフィギュアを五個獲得。


 木葉は、親の様子を見に行っていた。

 まあ、こっちは五個だ。


 余裕で勝てるだろ。

 などと思っていると、慌てて木葉が戻ってきた。



「大変大変!!」

「どうした、木葉」

「パパがぬいぐるみを八個も手に入れてるの! 風吹くんは!?」


「え……マジ!? 俺は五個だよ。まずいな」

「やばいじゃん! 残り時間五分だよ。頑張って!」


 驚いた。あの凩父、只者じゃないな……。

 ビギナーズラックだと思っていたけど、上達スピードが半端ない。


 焦っていると凩父が現れた。

 大量のぬいぐるみを抱えて。



「どうしたのかね、風吹くん。おやおや、獲得景品が少なそうに見えるのだが」

「……ま、まだ時間はありますよ」


「その数では、私には勝てんな。残り五分を切った……これで貴様と娘の関係は終わりだ」

「まだ勝負は完全に終わったわけではないです」


「悪あがきを……」



 喋っている時間も惜しい。

 俺は全力疾走して台を探した。


 とにかく数だ。

 なんでもいい、小さいものでもいいから獲得しないと……俺と木葉の生活が終わる。


 別の通路へ向かうと、曲がり角で誰かとぶつかった。



「うわっ!」

「きゃ!」



 しまった、前をよく見ていなかった。


「ご、ごめん。俺が悪かった――って、愛衣じゃないか」

「……あ、風吹くん」


 お互いに尻餅をついて顔を見合わせた。

 よく見ると愛衣はスカートがめくれて……あ。


「……」

「風吹くんどうしたん?」

「その、愛衣。そこが……」

「そこ? ちょ、どこ見てるの!!」


 顔を真っ赤にして恥じらう愛衣は、スカートを押さえた。可愛い……なんて思っている場合ではない。残り三分。


「すまん、愛衣。今はクレーンゲームで景品をゲットしなきゃならん」

「なんで?」

「ちょっと勝負をしていてな。勝たなきゃならないんだ」

「なんだ、そんなことか」


「え?」


「わたしの落としたヤツあげるよ」


 と、愛衣は小さなキーホルダー的なのを五個差し出してきた。そうか、こういう小物系は取れやすいもんな。


 けど受け取ることはできない。


「すまん。俺の力で勝たなきゃ意味ないんだ」

「そっか。じゃあ、台を教えるのは反則じゃないよね」


「それはアリだ」

「うん、わたしがプレイしていた台を教えてあげるね」


 連れられて――かなり隅にある小さなクレーンゲームを発見。こんな分かり辛いところにあったんだ。


「これなら余裕だな!」

「でしょ~。ここに推しのアニメキャラあったから、さっき頑張って取ってた」


 そういうことか。だから五個も。

 よし、残り時間はもうない。

 愛衣に教えて貰ったこの台で追い上げるぞ!!

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