ギャルと二人きりの朝
手を振り――凩と別れた。
ちょっと寂しさを覚えながらも、俺も自宅を目指して歩きだす。
とはいえ、この
「ただいま~」
玄関へ入り、靴を適当に脱ぎ捨て自室を目指す。
すると、リビングから親父が現れ立ち塞がった。仁王立ちの親父は、なぜか身だしなみに敏感なほど気を使っているらしく、オールバックの髪型。パッと見、極道にしか見えない厳つい容姿をしている。
「風吹、お前さっき公園でギャルと話してなかったか?」
「み、見ていたのかよ、親父!」
「まあな。金髪の綺麗なお嬢さんだったな。……まさか、彼女か?」
「か、彼女!? ち、違う、そんなんじゃない。ただのクラスメイトだ」
「そうは見えなかったがな。あの瞳は、まるで恋する乙女のようだった」
まるでカウンセラーのような分析能力を発揮する親父。ただの投資家のはずだが。
「そんなわけないだろ。たまたまさ」
「たまたまねぇ」
「もういいだろ。親父、それよりまた仕事をくれよ」
「いいだろう。詳細はメールで送っておく」
よし、これでまたお金を稼げる。
* * *
一日の時間はあっという間だ。
気づけば朝を迎えていた。
「……もう朝か」
スマホにセットしてあるアラームがうるさい。音を止めようと画面を見ると何か表示されていた。
【凩 木葉】新着メッセージがあります
凩からライン!
しかも、さっき送られてきたばかり。内容が気になって俺はラインの画面をタップする。
凩:おっはよー、風吹くん
凩:昨晩、ラインずっと待ってたのに~
凩:あ、遅刻したらダメだよー
と、三つのメッセージが連続して送られていた。たった五分前に。
律儀だなぁと思いつつ、あぁ――そう言われると昨日は飯食って風呂入って直ぐ寝ちゃったなぁ。一日の疲労のせいか、凩にラインを送る余裕はなかった。
とりあえず、既読スルーはマナー的にまずい。
風吹:おはよう、凩さん
風吹:昨晩はすまない。凩さんとのカラオケが楽しすぎて、あのあと泥のように眠ってしまったよ
嘘偽りなく率直に書いて送ると、すぐに既読がついた。数秒足らずで返信がくる。
凩:そ、それならいいわ! うん、あたしも楽しかったし!
凩:それじゃあ、ちゃんと学校へ来てね
良かったぁ。怒ってはいないようだ。
安心したところで俺は学生服に着替え、朝食を
朝っぱらからギャルとラインして登校とか、今まではありえない事態だったからだ。
徒歩でいつもの公園、交差点を抜ける。そのまま学校へ。
遅刻を見張る体育系教師が早くも校門前で立っていた。そのボディビルダーのように厳つい筋肉の横を素通りしていき、俺は教室へ。
扉を開けると、すでに凩の姿があった。相変わらず一番だな。
俺は家から学校が近いから、いつも遅刻せず一番乗りだった。しかし最近は凩がずっと一番をキープしていた。
特に悔しくはない。むしろ、この朝の二人きりの時間が日課にさえなっていた。
「改めておはよう、凩さん。相変わらず早いね」
「おはよう。風吹くんこそ、毎日遅刻しないで偉い」
俺の特等席――窓際の席へ向かう。
カバンを降ろし、椅子へ座った。
「凩さん、なんでいつもこんなに早いんだ?」
「ん~、なんでだろうね。それに気づいてくれたら嬉しいけどね」
「ん? よく分からないけど、大変なんだな」
「……っ!」
凩はなぜか呆気に取られていた。
なんだろう、
「な、なんだよ?」
「まあいいわ。そんなことより、風吹くんの好きな食べ物を教えなさいよ」
「俺の好きな食べ物? それは機密情報だ。
「へ? なんでよ」
「日本政府だけでなく、世界中に狙われてしまうからな」
「あはは……なにその中二病設定。そんな風に誤魔化さないで教えてよ」
ずっと顔を近づけてくる凩。そんなキスできる寸前の距離感はヤメテいただきたい。……凩の瞳って大きくてパチパチして綺麗だよなぁ――じゃなくて!
「俺の好きな食べ物ねぇ。う~ん、知りたくば物々交換だ」
「えー、またぁ? うーん、もう下着は嫌だよ」
「じゃあ、俺は好きな食べ物を教えるのと、自販機で使えるフリードリンクチケットを差し出そう」
「あー、それアプリのヤツじゃん。スタンプを十五個貯めると一本無料になるんだよね」
そう、学校の自販機はコーラ社製のであり、スマホのアプリと繋げることができた。一本につき一個のスタンプが貰える。で、それを十五個貯めると一本無料でドリンクを貰えるのだ。俺はちょうどスタンプを溜めてあり、チケットがあった。
「で、そっちはどうする?」
「うーん……キスとか?」
その魅力的すぎる提案に、俺はついつい凩の唇を凝視してしまった。あのツヤツヤした
ある意味、物理的なものであるし、交換条件としては問題ない。
「いいのか」
「ちょ、そんな見ないでよ! 恥ずかしいじゃん! やっぱり止め!」
「じゃあ、却下だな。他はないのか?」
「えっと、こっちは髪留めとハグでいい? ぎゅっと抱き合うの」
なるほど、凩と抱き合う権利ってことか。俺は、好きな食べ物情報とフリードリンクチケットを交換。うん、価値としては正直、
この条件で妥結だな。
キスはその――俺もちょっとまだ勇気がでなかった。
「決定で。凩さんを抱いてもいいんだよな?」
「い、いいけど……なんか、やらしい言い方ね」
「大丈夫だ。抱き合うだけだ」
「うん。早くしないと他の人来ちゃうわよ」
お互いに立ち上がって対面する。
身長差があって、凩の方が背が低い。
けど服越しでも分かる巨乳だ。
ドキドキしていると、凩が上目遣いで俺を見てくる。か、可愛い……。
「その、これは物々交換なんだ」
「わ、分かってるよ。その……男の子に抱かれるの初めてだから……」
「うわ、それ危ない発言」
「う、うるさいなっ」
ぎゅっと凩の方から抱きついてくる。
あの凩が俺に!?
あまりに突然の出来事に、俺は硬直。
凩の小さな頭が俺の胸のあたりに埋まっていた。
どうする事もできなくなった俺は、ただ心臓を早めるだけ。バクンバクンと音を響かせ、やがて耳が遠くなる。
呼吸するのも忘れて、俺は凩の感触を味わった。
凩のシャンプーの匂い、ほどよい香水の匂い。引き締まった肉体は折れちゃいそうなほど
興奮して抱きついていると、凩は息を荒くしていた。
「ご、ごめん、凩さん。強くしすぎたよな」
「もぉ、優しくって言ったのに……激しすぎ!」
もちろん、抱き合ってただけなんだが……凩が言うといちいちエロいな。
***おねがい***
続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。
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