ギャルと二人きりの朝

 手を振り――凩と別れた。

 ちょっと寂しさを覚えながらも、俺も自宅を目指して歩きだす。


 とはいえ、この公園の近所・・・・・なので五分足らずで到着。



「ただいま~」



 玄関へ入り、靴を適当に脱ぎ捨て自室を目指す。

 すると、リビングから親父が現れ立ち塞がった。仁王立ちの親父は、なぜか身だしなみに敏感なほど気を使っているらしく、オールバックの髪型。パッと見、極道にしか見えない厳つい容姿をしている。



「風吹、お前さっき公園でギャルと話してなかったか?」

「み、見ていたのかよ、親父!」

「まあな。金髪の綺麗なお嬢さんだったな。……まさか、彼女か?」


「か、彼女!? ち、違う、そんなんじゃない。ただのクラスメイトだ」

「そうは見えなかったがな。あの瞳は、まるで恋する乙女のようだった」


 まるでカウンセラーのような分析能力を発揮する親父。ただの投資家のはずだが。


「そんなわけないだろ。たまたまさ」

「たまたまねぇ」

「もういいだろ。親父、それよりまた仕事をくれよ」

「いいだろう。詳細はメールで送っておく」


 よし、これでまたお金を稼げる。



 * * *



 一日の時間はあっという間だ。

 気づけば朝を迎えていた。


「……もう朝か」


 スマホにセットしてあるアラームがうるさい。音を止めようと画面を見ると何か表示されていた。



【凩 木葉】新着メッセージがあります



 凩からライン!

 しかも、さっき送られてきたばかり。内容が気になって俺はラインの画面をタップする。



 凩:おっはよー、風吹くん

 凩:昨晩、ラインずっと待ってたのに~

 凩:あ、遅刻したらダメだよー



 と、三つのメッセージが連続して送られていた。たった五分前に。


 律儀だなぁと思いつつ、あぁ――そう言われると昨日は飯食って風呂入って直ぐ寝ちゃったなぁ。一日の疲労のせいか、凩にラインを送る余裕はなかった。


 とりあえず、既読スルーはマナー的にまずい。



 風吹:おはよう、凩さん

 風吹:昨晩はすまない。凩さんとのカラオケが楽しすぎて、あのあと泥のように眠ってしまったよ



 嘘偽りなく率直に書いて送ると、すぐに既読がついた。数秒足らずで返信がくる。



 凩:そ、それならいいわ! うん、あたしも楽しかったし!

 凩:それじゃあ、ちゃんと学校へ来てね



 良かったぁ。怒ってはいないようだ。

 安心したところで俺は学生服に着替え、朝食をってルンルン気分で家を出た。



 朝っぱらからギャルとラインして登校とか、今まではありえない事態だったからだ。



 徒歩でいつもの公園、交差点を抜ける。そのまま学校へ。



 遅刻を見張る体育系教師が早くも校門前で立っていた。そのボディビルダーのように厳つい筋肉の横を素通りしていき、俺は教室へ。


 扉を開けると、すでに凩の姿があった。相変わらず一番だな。


 俺は家から学校が近いから、いつも遅刻せず一番乗りだった。しかし最近は凩がずっと一番をキープしていた。

 特に悔しくはない。むしろ、この朝の二人きりの時間が日課にさえなっていた。



「改めておはよう、凩さん。相変わらず早いね」

「おはよう。風吹くんこそ、毎日遅刻しないで偉い」



 俺の特等席――窓際の席へ向かう。

 カバンを降ろし、椅子へ座った。



「凩さん、なんでいつもこんなに早いんだ?」

「ん~、なんでだろうね。それに気づいてくれたら嬉しいけどね」


「ん? よく分からないけど、大変なんだな」

「……っ!」


 凩はなぜか呆気に取られていた。

 なんだろう、にらまれている気がする。


「な、なんだよ?」

「まあいいわ。そんなことより、風吹くんの好きな食べ物を教えなさいよ」

「俺の好きな食べ物? それは機密情報だ。漏洩ろうえいしたら世界がヤバい」


「へ? なんでよ」


「日本政府だけでなく、世界中に狙われてしまうからな」

「あはは……なにその中二病設定。そんな風に誤魔化さないで教えてよ」



 ずっと顔を近づけてくる凩。そんなキスできる寸前の距離感はヤメテいただきたい。……凩の瞳って大きくてパチパチして綺麗だよなぁ――じゃなくて!



「俺の好きな食べ物ねぇ。う~ん、知りたくば物々交換だ」

「えー、またぁ? うーん、もう下着は嫌だよ」

「じゃあ、俺は好きな食べ物を教えるのと、自販機で使えるフリードリンクチケットを差し出そう」


「あー、それアプリのヤツじゃん。スタンプを十五個貯めると一本無料になるんだよね」


 そう、学校の自販機はコーラ社製のであり、スマホのアプリと繋げることができた。一本につき一個のスタンプが貰える。で、それを十五個貯めると一本無料でドリンクを貰えるのだ。俺はちょうどスタンプを溜めてあり、チケットがあった。



「で、そっちはどうする?」

「うーん……キスとか?」



 その魅力的すぎる提案に、俺はついつい凩の唇を凝視してしまった。あのツヤツヤしたうるおい抜群の唇を奪える権利ってことだよな。しかも、ファーストキスだよな……?

 ある意味、物理的なものであるし、交換条件としては問題ない。



「いいのか」

「ちょ、そんな見ないでよ! 恥ずかしいじゃん! やっぱり止め!」

「じゃあ、却下だな。他はないのか?」

「えっと、こっちは髪留めとハグでいい? ぎゅっと抱き合うの」


 なるほど、凩と抱き合う権利ってことか。俺は、好きな食べ物情報とフリードリンクチケットを交換。うん、価値としては正直、抱擁ほうようの方が上な気がする。ついでに髪留めもくれるのかよ。


 この条件で妥結だな。

 キスはその――俺もちょっとまだ勇気がでなかった。



「決定で。凩さんを抱いてもいいんだよな?」

「い、いいけど……なんか、やらしい言い方ね」

「大丈夫だ。抱き合うだけだ」

「うん。早くしないと他の人来ちゃうわよ」



 お互いに立ち上がって対面する。

 身長差があって、凩の方が背が低い。

 けど服越しでも分かる巨乳だ。


 ドキドキしていると、凩が上目遣いで俺を見てくる。か、可愛い……。


「その、これは物々交換なんだ」

「わ、分かってるよ。その……男の子に抱かれるの初めてだから……」


「うわ、それ危ない発言」

「う、うるさいなっ」


 ぎゅっと凩の方から抱きついてくる。

 あの凩が俺に!?


 あまりに突然の出来事に、俺は硬直。

 凩の小さな頭が俺の胸のあたりに埋まっていた。

 どうする事もできなくなった俺は、ただ心臓を早めるだけ。バクンバクンと音を響かせ、やがて耳が遠くなる。


 呼吸するのも忘れて、俺は凩の感触を味わった。


 凩のシャンプーの匂い、ほどよい香水の匂い。引き締まった肉体は折れちゃいそうなほど華奢きゃしゃ


 興奮して抱きついていると、凩は息を荒くしていた。


「ご、ごめん、凩さん。強くしすぎたよな」

「もぉ、優しくって言ったのに……激しすぎ!」


 もちろん、抱き合ってただけなんだが……凩が言うといちいちエロいな。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る