銀髪ギャルがグイグイ来る件

 長い一分間だった。

 凩が離れ、俺は名残惜しく感じてしまった。もう十分は抱き合いたかった。



「ありがとう、凩さん」

「う、うん。その、あたしも嬉しかったし……?」


「え?」


「な、なんでもないっ! それより、好きな食べ物教えてよ」



 ――そうだった。

 それが物々交換の条件だった。



「そうだな~、俺はハンバーグとかオムライスが好きだな」

「へえ! ……うん。どっちも作れる」


 声が小さくてよく聞こえなかった。


「え? なんだって?」

「いいの! 気にしないで!」



 慌てた様子で凩は席へ戻る。

 そのタイミングで他のクラスメイトも続々教室へ入ってくる。二人きりの時間も終了か。



 * * *



 昼休みになって、凩は誰かに呼び出されていた。……ん、あの険しい表情の女子は『風紀委員長』だったかな。


 名前は確か『水瀬みなせ』だっけ。

 なぜか一度だけ声を掛けられたことがあった。


 黒髪の真面目そうな女子。

 それが凩になんの用だろうな。


 俺は気になって廊下まで追いかけた。


 二人は階段まで進み、そこで立ち話を始めた。俺は陰に潜んで聞き耳を立てた。



「――で、風紀委員長があたしになんの用?」

「凩さん、最近、微風くんと親し気ですよね」

「それがなに? あなたに関係ないでしょ」


「そうかもですね。でも、あんな男子と関わらない方がいいですよ。友達もいなさそうだし、一緒にいても詰まらないですから」


「はあ? いきなり何よ。風吹くんのこと何も知らないくせにそんな風に言わないで! 彼は優しくて一緒にいて楽しい人よ」



 おいおい、俺悪口かよ。

 風紀委員長ってあんな人だったのか。

 それにしても、凩があんな風にかばってくれるとは……嬉しくて、泣きそう。



「微風くんのどこがいいのですか」

「どこって全部よ! ちょっとえっちだけど、でもそれくらい男の子なら普通だし、こんなあたしを助けてくれるの」


「……分かりました。しばらくは様子を見ます」


 背を向ける水瀬は、階段を降りていく。


「ど、どういう意味よ! ていうか、これは立派な侮辱よ。風吹くんに謝りなさいよ!!」



 だが、声は届かなかった。

 おっと、凩がキレながら戻ってくる。

 俺は先に教室へ戻っておかないとな。



 席に着き、スマホを弄っているフリをしていると、凩はションボリしていた。



「どうしたの凩さん。まるで、おみくじで大凶が出たような落ち込み具合だね」

「ううん、なんでもないの」


「悩みがあるなら聞いてやろうか」

「ありがと。でも大丈夫だから」


「そうか。なら、元気の出るおまじない・・・・・をしてやろう」

「おまじない?」



 俺は、スマホに繋げてあったイヤホンの片方を凩の耳につける。


 音楽が流れると、やがて凩は頬を紅潮させて――けれど笑顔になった。



「どうだ、少しは元気でたか」

「……うん! 元気でた。風吹くんって、こういうの聴くんだ。意外だね」



 流れている曲は『小さな恋のうた』だった。さすがの凩も知っているようで、機嫌を取り戻していた。

 良かった、俺ことなんかで悩まれても困る。凩には、いつものキャピキャピのギャルでいて欲しいんだ。




 ――時は流れ、放課後。




 今日は珍しく、凩が女友達と楽しく会話していた。相手は、隣のクラスの『鈴屋すずや』というギャルだった。


 あの銀髪は目立つんだよなあ。



「え、木葉それマジ?」

「まあね。隣の席の風吹くん」


 なんかいきなり名前を出されたぞ。



「なんだい凩さん」

「そ、その……愛衣めいが紹介してって言うからさ」


 愛衣?

 ああ、鈴屋さんの名前か。


 つまり――『鈴屋すずや 愛衣めい』というらしい。名前は初めて知ったな。なんだか可愛らしいというか、実に似合ってるな。うん。



「って、俺を紹介? えっと、鈴屋さん……俺に何か?」

「よろしくねえ、風吹くん! いやぁ、なんか木葉がお世話になってるって聞いたし、なら、わたしも友達になるしかないじゃん」



 さすがギャルだ……ノリが軽い。

 というか、こんなアイドルのような銀髪ギャルとお友達になれる? マジかよ。どういう流れだよ、これ。信じられんな。



「い、いいの? 俺なんてNPCみたいなものだぞ」

「ウケるぅ~。よく分からないけど風吹くんって面白いね!」



 よく分からないけどウケたのかよ!!

 ギャルって単純なのか、何なのか。


 そんなわけで俺は、鈴屋とライン交換してしまった。で、彼女は塾があるらしく――早々に帰っていった。え、塾?


 まさかあんな派手な見た目をしているのに勤勉なのか。



「なあ、鈴屋さんって何者なんだ?」

「え……風吹くん、それ本気で言ってる?」


「え?」


「愛衣って、生徒会長なんだけど。ギャル推進派なの。だから、髪色は自由なんだよ」



「は? はあああああああああああ!?」



 鈴屋が生徒会長!?

 し、知らなかったぞ。

 だから塾とか……へぇ、世の中分からないものだな。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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