#08 出ない結論
興信所の最終報告を受けた日から、三日経った。
この三日で少しは冷静になれたとは思うけど、何一つ納得は出来ていないままだし、今後どうするかも決まらないままだ。
「こんなの当然、証拠突き付けて破談にするべきだ」という最もな考え。
「やっぱり歩み寄って事情を聞いて、納得出来るのなら予定通り結婚する。 納得出来そうになかったら、婚約は保留に」と、どうしても、マドカに対する情の部分が、なんとか許してやれないかと甘くなろうとしてしまう考え。
「いや、そもそも一発アウトレベルの隠し事する様な人間を許したら、結婚後も同じ事する可能性は否定出来ないぞ。それを疑い怯えながらの結婚生活、俺に出来るのか?」という、弱気な考え。
こんな考えが脳内でずっとグルグルもやもや渦巻いている。
誰かに相談したり愚痴ったりしたいけど、絶対に無理だしな、こんな話。
◇
この日の夜、マドカからメッセージが来た。
『マサくん、体調はどう?無理してない?』
うーん
『まだ本調子じゃないよ。心配かけてごめん』
『そっか。 それで、そろそろマンションの返事しないといけないんだけど、どうしよっか?』
俺が返事すると、即レスだった。
このまま契約しちゃっていいんだろうか。良くないよな。
でも、理由なんて言えないしな。
言ったが最後、待ってるのは地獄絵図だ。
『もう少し待ってくれる? ちょっと気になることあって決断出来ずにいるの』
とりあえず時間稼ぎしようと、返信したらすぐに通話の着信が来た。
「もしもし? なんか悩んでるの?」
「うーん・・・うん」
「お金のこと?」
「いや、お金のことじゃないよ」
「大丈夫?体調が悪いのも関係してるの?」
うーん、鋭いな。
10年も付き合ってる恋人だしな。
「体調が悪いのはたまたまだよ。心配かけてごめん」
「今、お家にいるの?」
「そうだけど」
「今から行くね。顔見たら直ぐに帰るから」
「え?ちょっと」
俺の返事聞かずにプツっと切れた。
しまったぁ、迂闊だった!
心配させるようなこと言っちゃったから、来るとか言い出しちゃったよ。
時間は、夜の23時を過ぎていた。
マドカは自分の車を持ってるから、車で来るのだろう。
同じ市内だし、この時間なら20分で来るな。
親に「マドカから、今から来るって連絡あった」とだけ伝えたけど、どんな顔して会えば良いのか全くわからん。
こまったぞ、どうしよう、と頭を悩ませていると、予想よりも早くやって来た。
玄関で母親が出迎えて、二人で話している声が聞こえる。
ううう、覚悟決めるか。
直ぐに洗面所行って冷たい水で顔をバシャバシャ洗ってから玄関へ。
「遅いのに来させちゃったみたいでごめん」
「ううん、大丈夫だから。ちょっと顔見たくなっちゃって」
そう言って、おちゃめな感じで舌をチロっと出す表情。
何年経っても、やっぱり可愛いんだよなぁ。
とりあえず上がって、と自分の部屋に案内する。
少し離れて座ると、心配そうな顔をして話し始めた。
「ホントに顔色悪いね。 仕事忙しいの?ちゃんと寝れてる?」
マドカのせいで寝不足だよ・・・
「まぁちょっと忙しいかな」
離れて座ってたのに、ズズズっと俺に近寄って来て俺のおでこに右手を当てた。
「ちょっと熱っぽい?」
マドカの綺麗な顔が目の前に。
この可愛い口でどこぞのおっさんを罵倒しながらこの手でそいつのちんこを手コキしてんだよなぁ・・・
ぼーっとそんなこと考えながらマドカの顔を見つめていると、キスされた。
「思ってたよりも体調悪そうだね」
「ああ、うん。ごめん」
「もう!謝るようなことじゃないからね!」
「うん」
「明日は仕事休みだったよね?」
「うん」
「病院行ってきたら?」
「そうする。マドカは明日も朝早いんだろ?」
「うん、そうだけど」
「悪いな。遅い時間に」
「もうそれはいいから。それにもうすぐ奥さんになるんだもん。こんなの当然だよ?」
「そっか」
結局、マドカは30分もせずに帰って行った。
色々心配を掛けたままだけど、なんとか怪しまれずには済んだと思う。
もうすぐ、奥さんかぁ
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