#10 屈辱と決断
予約の1時間以上前に目的地に到着したので、コインパーキングに車を停めて、一度お店まで歩いて場所を確認してから、近くの牛丼屋で少し早い夕食を食べた。
そのまま牛丼屋で時間を潰し、予約の20分前にお店に行った。
受付に居た店員が女性で、戸惑いながら予約してたことを告げると、料金の説明を受けて待合室に案内された。
めちゃくちゃ緊張してきた。
マドカにプロポーズした時ですら、全然緊張しなかったのに。
予約の5分前に男性の従業員が来て、個室に案内してくれた。
直ぐに嬢が来て「マチルダです。ご指名ありがとうございます」と自己紹介してくれたので「風俗もSMプレーも初めてなので、よろしくお願いします」と挨拶すると、「そうなんですかぁ。じゃあ今日はいっぱい楽しみましょうね」と女王様っぽくない笑顔で笑ってくれた。
一通り説明を受けて、一人でシャワーを浴びて出ると、既にマチルダ女王様はスイッチが入っていて、いきなり頭の髪を鷲掴みされてパンツ1枚のまま床に正座させられた。
◇
予約していた2時間、身を任せるように言われるがままプレーを体験してみたが、俺には扉を開くことが無理だと痛感した。
全く興奮しないし、脳内で必死にマドカとのエッチを思い出しながら手コキして貰ったけど、1度も射精出来なかった。
言葉責めも無理だった。
マドカが怒ってる表情を思い浮かべたが、罵倒されればされるほど、イライラが募った。
後半は「なんで俺はこんなトコロまで来て、金払ってまで知らない女にインポインポ言われなあかんのだ」と必死に怒りを抑えていた。
予約していた時間が終わった時、マチルダ女王様から「お兄さん、あまり向いてないかもだね。もしまだ興味あるようなら、また来てみてね」と名刺を渡された。
◇
お店を出てコインパーキングに戻って、ポケットから車のキーを取り出したら、ポケットに突っ込んでたマチルダ女王様の名刺が落ちた。
はぁ、とため息吐いて拾うと、「マドカにもこういう名刺があって、客に渡してるのか」と考えてしまい、無性に腹が立ってきた。
名刺を丸めて全力で地面に叩きつけて、パーキングのお金払って車に乗って、真っすぐ家に帰った。
無理だ。
俺にはマドカの相手を続けるのは無理だ。
自分にMの素質が無かったことだけじゃなくて、SMプレーを実際に体験してみて、「これをマドカは5年続けているんだ」と思うと、軽蔑の気持ちしか湧かなかった。
それに、マドカとの結婚をなんとか前向きに考えようと、色々調べて遠くのお店まで来たというのに、屈辱しか無かった。
風俗行って射精も出来ず、男としてのプライドも傷ついた。
そして、一番の決め手は、マドカがお客に名刺を渡している姿を想像してしまったことだった。 さっきまでそのおっさんのちんこを手コキしてた手で、にっこり営業スマイルしながら「また来てね」とか言って名刺を渡している姿は、胸糞悪くて仕方なかった。 あくまで想像だけど。
ここまで来ると「なんで俺の方から歩み寄る必要があるんだ? 興信所にしても今回の風俗にしても、自腹切ってまでなんで俺が?」という気持ちになり、決断した。
結婚は止める。
そして、マドカとは別れる。
そう決めてしまうと、意外なことに気持ちの方は楽になった。
この日の夜は家に帰ってシャワーを浴びると、お酒に頼らなくてもすんなり寝れた。
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