#14 二人で過ごす時間



 無事にマンションの賃貸契約を済ませた後、天気が良いので、車で1時間程の海岸にある観光地までやって来た。




 観光客用の駐車場に車を停めて、定食屋さんに入って昼食を済ませた後、二人で散歩をした。


 その観光地は、海岸から少し離れた沖に島があり、その島まで橋で繋がってて歩いて島まで行けるようになっている。

 学生時代、俺が免許を取って直ぐの頃だったか、俺の運転でマドカをドライブに連れて来たことがある場所でもあった。




 島までの橋をマドカと手を繋いで歩いた。


 学生時代を思い出す。

 大学1年の頃だ。


 あの時もこうして手を繋いでこの橋を歩いて渡った。


 あの頃、マドカと手を繋いで歩くの、好きだったな。

 最愛の恋人を男らしくリードするんだって意気込んでたんだよな。




 まだ、マドカがSMクラブで花蓮女王様になっていない頃か。

 今あの頃に戻れたら、全力でマドカを止められるのに。


 いや、無理か。


 俺という恋人の存在がストッパーにならなかったくらいだし、俺が言って止められるくらいならマドカもSMの世界に入っていないよな。 進むことを簡単に決心出来る様な世界じゃないだろうしマドカだってそれなりの覚悟を持ってただろうから、他人には止めるの無理なのかもな。


 だからこそ、相容れないのかもしれない。

 俺はマドカを理解してやれないし、マドカも俺に正直に話せなかったんだろう。




「マサくん、どうしたの?また調子悪くなったの?」



 しまった。

 色々考えてたら顔に出てたか。



「ごめん、ちょっと考え事してた。 何せマンションの契約とか人生で初めてだったからね。プレッシャー感じてるのかも」


「そっか、そうだよね。 でも体の方も無理しないでね。海風けっこう冷たいし、早めに戻ろうか?」


「そうだね、マドカも風邪でも引いたら大変だしな」


「うん」




 駐車場の車に戻ると、14時前だった。



「これからどうする? 家具とか家電とかでも見に行く?」


「うーん、今日は止めとこ? マサくんの体調戻ったばかりだし、ゆっくり過ごしたいな」 


 マドカのこういう言い回しは、つまりホテルに行ってゆっくりイチャイチャしたいということだ。


「わかった。 帰りの国道沿いにラブホあったから、そこでいい?」


「うん」




 ◇




 ホテルの部屋に入ると直ぐにマドカからプレゼントを渡された。


「少し遅れちゃったけど、バレンタインのチョコとプレゼントなの」


「あ!俺が体調崩してたせいか、ありがとうね」



 色々ありすぎて、バレンタインのことなんてすっかり頭から消えてた。

 プレゼントの包みを開けると、ネクタイピンだった。


「マサくんの仕事のユニフォーム、ネクタイするでしょ? コレなら仕事の時でも身に着けて貰えると思って」


「そうだね。ありがとう。大事に使うよ」


「うん」


「チョコは後でいっしょに食べようか」


「うん!」





 ホテルで19時まで過ごした。



 心配していたセックスは、問題無く出来た。

 むしろ、久しぶりだったせいか、凄く興奮した。

 マドカもそうだったみたいで、いつもより回数は多かった。


 そして、マドカはいつも以上に俺にべったりで凄く甘えていた。





 ◇





 ホテルを出て地元に戻って、マドカのリクエストで夕食にパスタ食べてから21時にはマドカの家まで送っていった。


 だけど、家の前に車を停めてもマドカは車を降りようとせずに、饒舌に喋り続けていた。


 久しぶりのデートだったし、マンションの契約も済んで結婚生活の準備も前進したし、久しぶりのセックスで満足出来て、かなり機嫌が良いのだろう。



 結局、マドカは時計が22時を過ぎているのに気づいて慌てだして、俺に抱き着いてキスしてから車を降りて行った。


 俺は、マドカが玄関に入ったのを確認してから車を発車させた。







 帰りの運転しながら、今日の事を少し考えた。


 マドカの裏の顔を知ってから初めてのセックスだったが、正直その事が惜しいと思ってしまった。 容姿もスタイルもこれ以上ないくらい自分の好みの女性であり、失踪することでマドカとセックス出来なくなるんだと考えると、惜しくなってしまった。 


 そんな自分に「男ってどうしようも無いな。 花蓮女王様の固定客とかわらんよな」と情けなくもなった。





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