#13 新居の契約



 翌日、仕事が終わってからマドカに賃貸マンションの契約OKのメッセージを送った。


 直ぐに通話が掛かって来て、俺の体調の話とか色々あって、三日後の俺の休みの日にマドカが有休取って二人で一緒に不動産屋に行くことになった。





 ◇





 三日後

 朝8時半に家を出てマドカの家に迎えに行く。



 マドカの家を訪ねると、お母さんが「マサキくんいらっしゃい! 今マドカ準備してるから上がって待っててね」と言って、出迎えてくれた。


 お母さんには何も罪は無くて、きっと俺が失踪すれば、怒るか悲しむかするんだろうなと思うと、胸が痛んだ。 何せ、高1でマドカと付き合い始めた頃からよくして貰ってるからな。


 だけど、元を正せば、俺にこんな思いをさせて失踪を決意させてる人が悪い。

 それに、これからは非情にならなければ俺一人が割を喰う。




 リビングに通されて、お母さんと雑談していると10分程でようやくマドカが降りて来た。


「マサくん待たせちゃってごめんなさい!」



 マドカは、水色のニットのワンピースに黒いタイツで、落ち着いてておしゃれだけど、腰からお尻のラインが出てて色っぽい服装だ。 2月の下旬で少しづつ暖かくなってきてるからか、どこか春っぽい感じもする。手に持っているコートも春物だし。


 悔しいけど、やっぱりマドカは滅茶苦茶可愛い。

 俺は初対面でマドカに一目惚れした訳で、年を取る毎に更に綺麗になって行くマドカの容姿は、俺にとっては何よりも魅力的だったんだよな。



「ううん、ちょっと早く来ちゃったから大丈夫だよ。今日はいつもよりおしゃれだね」


「うん。久しぶりのデートだしね。マサくん体調戻って良かった」うふふ


「不動産屋は11時の約束だっけ? それまでどこか行きたいとこある?」


「じゃあ、不動産屋に行く前に、もう1度マンション見にいかない? 契約する前にもう1度確認しよ」


「おっけ」


「書類は私が持ってくとして、印鑑とかちゃんと持ってきた?」


「うん、大丈夫だよ」


「じゃあ行こっか」




 俺の車に乗り込むと、助手席に座ったマドカの左手に、婚約指輪を着けていることに気が付いた。


 モヤモヤっとしたけど、悟られてはダメだと心を無にする。


「うふふ。せっかく貰ったのに中々着ける機会が無いんだよね。今日は久しぶりに指輪着けてお出かけ出来るの楽しみだったんだよ?」


 俺の視線に気づいたのか、マドカが左手を前に掲げて嬉しそうに話した。


「そっか。俺が体調崩してたせいでデート出来なかったもんな。ごめんな」


「もう、そういう意味で言ったんじゃないよ? 今日は楽しみって言いたかったの!」


「わかったよ。でもあんまりはしゃいでマドカまで体調崩したりしないようにな」


「うん!」






 マドカの家から車で20分ちょっとで、これから借りようとしている賃貸マンションに着いた。


 築3年で3LDK。家賃は月8万。

 この地方では比較的安い方だ。


 結婚していずれ子供を作ることを考えて、立地とか間取りとか色々悩んでここにしようと二人で決めた。


 車を降りて二人で外からマンションの外観を眺める。

 晴天の中、太陽の光を浴びて佇むグレーの2階建てのマンション。


 マドカは幸せそうな眼差してマンションを眺めている。

 希望に満ちた顔だ。

 きっと、これから俺達二人で作る家族のことでも考えているのだろう。







 でもな、マドカ。


 お前はこれまで花蓮女王様として何人ものおっさんのちんこを手コキしたその手で、俺たちの赤ちゃんを抱くつもりか?


 前立腺開発と称しておっさんの汚い肛門をほじくったその手で、俺や子供の食事を作るのか?


 お前のその希望に満ちた表情の裏に、後悔とか罪悪感とかは無いのか?


 どうしてそんなにも幸せそうな顔が出来るんだ?




 ◇




 約束の時間に併せて不動産屋を訪ねて、無事に賃貸の契約を結んだ。

 流石に失踪する前提での契約だから、サインしながら躊躇する気持ちが一瞬湧いて来たが、心を鬼にしてサインした。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る