#32 朝のお散歩
とりあえず、朝食を食べる為に湯を沸かしてお茶を煎れた。
その間にマドカは、鏡のある洗面所(ユニットバス)で顔を洗ったり用を済ませたりと朝の準備をしていた。
洗面所からマドカが出てくるのを待って、二人で頂きますしてからおにぎりを食べた。
「朝食食べたら散歩にでも行かない? なんか外の空気吸って頭シャキっと冷静になってから考えたり話合ったりしたい」
「うん、行ってみたい」
「んじゃ、そのついでにあとでお店寄って大将たちに挨拶しようか」
「え? じゃあメイクとか服とか着替えないと」
「そこまで気負わなくていいよ。 ボーズ頭にヨレヨレのシャツ着たおっさんの横に、バッチリメイクで正装の美人居たら違和感半端無くてみんな引くぜ?」
「でもちゃんと挨拶したいから」
「ならメイクだけしたら? 服装は部屋着でもいいよ。どうせ大将とか家だとジャージだし」
「うーん、じゃあそうしよっか。あまり堅苦しくするのも気を使わせちゃうかもしれないもんね」
「そうそう」
結局マドカは、洗面所に20分程籠って自分で持ってきたGパンと部屋着用のパーカーを着て、髪のセットしたり軽めのメイクをした。
因みに俺はボーズ頭だから部屋にはドライヤーが無い。 マドカが、自分で持ってきていた。ホテル予約してなかったし、最初からココに泊る気だったんだな。
「マサくん、お待たせ」
「なんか、懐かしいな」
「うん?」
「いや昔さ、マドカんちに迎えに行くとまだ準備出来て無くて、よく待たされてたなって思い出して。 そん時によく「マサくんお待たせ」って言いながら2階から降りて来てたからさ」
「そうだっけ? でも、私待ち合わせ時間に合わせて準備してたはずだよ? いつもマサくんが来るのが早いからだよ」
「そりゃそうでしょ。女の子待たせる訳にはいかないから早めに行くよ」
「っていうか、お散歩行こうよ」
「ああ、そうだね」
マドカはヒールの高いパンプスで来ていたので、俺のクロックサンダルを貸し、上に春物のコートを羽織った。
部屋を出るとマドカは
「マサくん、手、繋いでもいい?」
「うん、いいよ」
俺が返事をすると、手を差し出す前にマドカの方から俺の左手を掴んできた。
「マサくんの手、こんなに大きかったっけ? なんかすっごいゴツゴツしてる」
「うーん、大きくなったかは判んないけど、ゴツゴツなのは、毎日うどん打ってるからマメだらけだからだね。麺打ちと水仕事で、ゴツゴツでガサガサだよ」
「そっか、職人さんだもんね」
マドカはそう言うと、握ってる俺の左手を自分の顔に持って行き、頬擦りをした。
「昔と比べて、凄く荒れてて硬いけど、逞しくて男らしい手だね。 恰好良いよ」
「飲食店で働いてたら、みんなこんなもんだよ。 流石にファミレスじゃココまでにはならないけど」
「でも、5年だもんね。 随分変わっちゃったんだよね。私もマサくんも」
「うーん、マドカの見た目はそんなに変ったようには感じないけど。髪をショートにしたくらい?」
「だって、いつマサくんと会っても良い様に、美容と体形はずっと気を使って頑張ってたもん」
「むむ?」
「マサくんって、見た目で私を好きになった訳でしょ? それなのに久しぶりの再会で、太ってたり皺だらけのおばちゃんだったりしたら、また逃げられちゃうかもしれないじゃん。 それだけは絶対にイヤだったから、美容と体形維持だけは手を抜かなかったよ」
「それも、マドカの意地と執念か・・・昔と変わらず綺麗だなって思ったけど、変わらない様にするのも大変だったんだな」
「でも、その努力も報われたからね。うふふ」
そういえば、マドカって昔からそういう所あったな。
周りから容姿でチヤホヤされるの嫌がるクセに、俺には「可愛い」とか「綺麗」とか言わせたがるの。 美意識高いんだけど、それが全部俺に向かってくる感じ?
実際に「マサくん以外の人に可愛いとか言われても、全然嬉しくない」と言ってたこともあったし。
マドカを手を繋いで歩いていると、不思議と嫌な思い出よりも懐かしいことばかりが頭に浮かんだ。 久しぶりの女性の肌に触れて、ちょっと気分が高揚してるのかな。それとも、美人で気の合うマドカとのお喋りが、純粋に楽しく感じているのかな。
ドチラにせよ、5年前の様な後ろ向きの思考はもう出てきそうにないな。
昨日はいきなりの事で動揺しまくったけど、今日はキチンと前向きな話し合いが出来たらいいな。
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