#33 俺の覚悟



 しばらく歩道を歩くと、県の総合グランドに着いた。

 街中のど真ん中にある広い敷地の中に、野球場や陸上やサッカーが出来るスタジアムや体育館などがあるのだが、緑が多くて散歩やジョギングや管楽器の練習をする人が居て、この辺りでは人気のスポットでもある。



「寒いのに朝から人が多いね」


「ジョギングとか犬の散歩とか、あとは通勤や通学で中を通り抜ける人とかも居るからね」


「へぇ、マサくんもよくココに来るの?」


「定休日にすること無い時とかね。散歩しにちょくちょく来るよ」





 中に入りしばらく歩いてから「結構汗かいたし、ベンチで休もうか」と休憩することにした。



「疲れたでしょ?大丈夫?」


「うん。私も歳感じるようになってからジョギングしてたから。 これくらいならまだ平気だよ」


「そうなんだ。 マドカがジョギングかぁ」


「意外?」


「まぁそうだね」


 でも花蓮女王様のが意外過ぎてもっとビックリしたぞ?と言いたいけど、まだ言わない。




 手を繋いだままベンチに座り、一息ついた頃にマドカが話し始めた。


「ふぅ・・・よし!  マサくん!私の話、聞いて下さい!」


「急にどうした?そんな大きな声だして」


「風俗でアルバイトしてた話、マサくんには全部話さないといけないから。 今ならキチンと話せそうだから聞いて欲しいの!」


「ココでか? ちょっと待って!その話はキチンと聞くつもりだけど、その前にハッキリしたいことがあるんだ」


「な、なにをハッキリしたいの・・・?」


「さっきも話してた結婚のこと」


「でも、結婚の話が先だと、私の話聞いて幻滅して、やっぱり結婚無しってことになるかもしれないんだよ?」


 俺は、約5年前に逃げ出した事へのリベンジをする。

 もう俺は逃げるのはヤメだ。

 マドカが作ってくれたリベンジのチャンスを、無駄にはしない。


「いや、逆だ。 結婚する覚悟があればどんな話でも受け入れられる。 5年前はそれが出来ずに逃げ出したけど、今の俺は大丈夫だ。 だから、マドカ、俺と結婚してくれるか? それとも俺の覚悟が揺らぐくらいヤバイ話なのか?」


「そ、そんなことは無いと思いたいけど・・・でも、いいの?」


「なんだよ、はっきりしないなぁ。 マドカはもう俺から離れないんだろ?なら結婚でいいじゃん」


「だってぇ・・・」



 あ! 

 マドカにとって結婚って、俺に逃げられたことがトラウマになってるのか!


「すまん!結婚結婚言ってて大事な所が抜けてた! マドカ、俺はもう逃げない!ずっとマドカの傍に居るから!俺の傍に居てくれ!」


「ホントに? 約束だよ?」


「約束する! 俺、マドカに沢山嘘付いちゃったから、これからはもう嘘付かない。この5年の間も「もう嘘はつきたくない」って思いながら生きて来た。だから、約束も嘘じゃないし絶対に守る。マドカの傍に俺ずっと居るから」


「うう、私も、もう隠し事しないし嘘もつかない。 マサくんに信用して貰えるように頑張る」


「おう! お互いまずはソコからだな!」


「うん。 でも籍とか式とかはどうするの?」


「入籍はしちゃおう。 結婚式とかは今は無理だけど、落ち着いたら入籍だけはしておこう。 もうこの歳だしな、結婚ドリームじゃなくて実務的なこと考えないとな」


「うん、わかった」


「よし!決まったな!」


「うふふ」



 静かな朝の総合グランドの林の中、ボーズ頭のおっさんがハイテンションで騒いでいたから、通る人通る人にジロジロ見られていたが、全然気にならなかった。 



 これでマドカの口からどんな話を聞かされても、こらえる覚悟が出来た。


 もう5年前の自分とは違う。

 そうじゃないと、俺の逃亡生活全てが無駄だったってことになる。

 マドカだけじゃなくて沢山の人に迷惑かけた逃亡生活、絶対に無駄には出来ない。


 マドカが執念と覚悟を見せてくれたから、ここからは俺が見せる番だ。



「さぁ花蓮様!どんと来い!」



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