#05 疑惑
お互い結婚の意思が固まると、まずはマドカの家に改めて挨拶に伺った。
ご両親は全く反対することなく歓迎してくれた。
続いて、俺の家にもマドカに来てもらい、改めて結婚したいことを報告した。
ウチの親も全く反対することは無かった。
次に、住む所と仕事のことを相談した。
俺の方は、チェーン展開しているファミレスなので、異動の周期が一般企業よりも早かった。
長い時だと2年程度は同じ店舗に在籍することもあるけど、短い時だと半年経たずに異動したこともある。 離職率が高いことでの穴埋めの為の異動だったり、アルバイトやパートなんかの人手不足なんかが理由だった。
なので、住む所は賃貸で考えていた。
マドカの方は、妊活に入るまではしばらく仕事を続けたいと言い、時期が来たら仕事を辞めると言ってくれた。 住む所に関しては、マドカは自分の車を持っているので、マイカー通勤も視野に入れ通勤が出来る範囲なら特に希望は無いとも言ってくれた。
次に、結婚式や披露宴のことを相談した。
今の世情もあるので、なるべく小規模でお金を掛けずに地味にしたい。
お互いが同じように考えていたので、モメることなく方針は直ぐに決まった。
式場に関しては、マドカが色々調べていくつか候補を絞って来た。
お互い休みの日を併せて二人で3件ほど見て周り、その中で価格的に良心的な厚生年金会館に決めた。
半年以上先まで予約が埋まってるとのことで、翌年の5月下旬の大安吉日を押さえた。
仕事で忙しい中でも、マドカが色々と積極的に頑張ってくれたお陰で、着々と結婚へ向けての準備が進んで行った。
◇
二人で同居するアパートの候補も絞り、契約の話なども進めながら家具とか家電とかそろそろ見に行かないとな、と考え始めていた時期。
その日はお昼からのシフトに入ってて、23時に退店した。
金曜日の夜で、特に何も考えずにいつも通勤時に使う道とは違うマドカの家の近くを通って帰った。
車でたまたま信号待ちをしていると、目の前のコンビニに泊まっていた黒いワンボックスのワゴン車からマドカが降りているのを見つけた。
マドカの自宅から、歩いて5分くらいの距離のコンビニで、高校生の頃から俺もマドカの家に遊びに行った際に何度か行ったことがあるコンビニ。
そこにマドカが居る事自体は不思議じゃないけど、見た事のないワンボックスから降りて来て、コンビニに入らずにそのまま自宅の方へ歩いて行く姿に引っかかるものを感じた。
信号が青になってから1度コンビニの駐車場へ入るが、ワンボックスは直ぐに駐車場から出て行ってしまった。
う~ん、と思いながら車から降りてロックを掛けて、マドカの自宅の方へ歩いて向かった。
直ぐに追いついたけど、何だかマドカが俺に隠し事をしている様な恐怖を感じ、声が掛けられずに黙ったまま後を追跡した。
結局マドカはそのまま真っ直ぐ自宅に帰り、俺の追跡は直ぐに終わった。
コンビニに戻り、缶コーヒーを買って車に戻って飲みながら、その場で考え始めた。
ちょくちょくある金曜の遅くまでの残業。
仕事の後に黒いワンボックスのワゴン車に送って貰って帰宅。
遅くなったからたまたま会社の同僚が送ってくれた?
でもそれなら、普通は自宅まで送るよな?
なんでちょっと離れたコンビニ?
マドカか送ってくれた人のどちらかにコンビニに用事があるなら分かるけど、どちらもコンビニには入らずに帰って行ったよな。 家の前まで送ってもらうことを避けてる?
そして、1つ思い出した。
学生時代も金曜日は毎週家庭教師のバイトだった。
日数を減らしてからも金曜だけはバイトしてた。
だんだん不安な気持ちが湧いて来ると同時に、胸の鼓動がドキドキしてくるのが分かった。
まさか家庭教師先の親とかと、浮気?
それが社会人になった今も続いてる?
婚約指輪、あんなに喜んでくれて、結婚の準備も凄く頑張ってくれてるのに、浮気してるのか?
まさか、あの真面目で誠実なマドカが?
そんなハッキリとしない疑惑にモヤモヤが酷くなって、外の空気を吸おうとパワーウインドを下げて座席シートを後ろに倒して横になった。
車内の天井をぼーっと見てると、マドカとの最近のやり取りや高校生の頃の思い出が次から次へと浮かんできた。
胃の辺りがきゅうっと痛くなって、泣きそうになってきた。
まだ浮気だと決まった訳じゃないのに、まるでそうと決まったかのように悲劇のヒロインにでもなったみたいだった。
目に涙がにじんで来て、溜め息を吐くと、学生の頃、大学でナンパされた時に見せるマドカの冷たい表情が頭に浮かんできた。
俺が知らないマドカの裏の顔があるのかも知れない。
結婚を控えている今だからこそ、きっちり調べるべきなのかも。
たかだか仕事終わりにワゴン車で送られているのを見かけた程度で大袈裟だけど、興信所に依頼した。
ネットで調べて電話してアポとって、次の日の土曜夕方、興信所を訪ねた。
婚約者の毎週金曜日の動向調査。
マドカとの関係(婚約中の彼女)に氏名、住所、勤め先等々必要な情報を伝えて、スマホにあるマドカの写真を数枚データで渡し、1カ月(4回分)の調査を翌週からで依頼した。
興信所の担当者が言うには、浮気調査や婚約が決まってからこういった身辺調査とかの依頼は結構あるそうで、依頼内容を打ち合わせしててもトントン拍子で話が進んでいった。
翌々週の金曜日にあることが判明した。
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