#04 就職と婚約




 無事にマドカも内定が出てからは、残りの学生生活はお互い穏やかに過ごすことが出来た。


 週に数回学校へ行って講義を受けたりゼミに顔を出したりして、他の日は僕はバイトをしていた。


 マドカの方も自動車免許を取得する為に自動車学校に通ったり、空いた時間は友達と遊んだりバイトも増やしたりと色々楽しんでいる様だった。




 ◇




 大学を卒業した年、社会人1年目はお互い兎に角忙しかった。

 僕の方もマドカの方も残業が多くて、体力的にお互い疲弊していたと思う。


 マドカは一般の企業だったからカレンダーどおりの勤務だったけど、僕の方はサービス業になるから一般の休日は稼ぎどきの為仕事で、休みは平日ばかりだった。

 そして、入社当時は僕もマドカも有給は取れないから、会おうと思ったらどちらかが休みの日にもう片方が仕事を終わってから会うしか無かった。



 この時期、僕の方は、土日を毎週シフトに入る代わりに月曜日と金曜日を休みにしてもらっていた。 当然マドカは両方とも仕事があるので、マドカの仕事が終わってから会うことになる。


 月曜日はマドカは残業がほとんど無くて、毎回短い時間でも会って食事をしたりホテルに行ったり出来たけど、金曜日の方は毎週では無いけどマドカの残業が遅くまであって会うことが出来ない日が度々あった。


 僕の方も日によって客入りが変わり急な残業をすることも度々あったから、残業があること自体に疑問は感じなかったけど、「そういえば学生の頃もマドカは毎週金曜日は家庭教師のバイトで、会うこと出来なかったよな」と一人の休日を過ごしながら考えたこともあった。




 社会人になって、2年3年と経ち、有給もたっぷり取れるようになり、仕事の要領も覚えてくると、お互い休日を併せて取るようにして、1年目の頃よりは二人で過ごす時間を増やせるようになった。


 ただ、マドカの方は相変わらず金曜日は残業で遅くなることが多かった。


 マドカが言うには「週末は、翌週に持ち込めない業務が集中してて、それに銀行業務なんかもどうしても週末になったりしちゃうから日中は手が塞がりがちになっちゃって残業するしか無い日が多いの」と話してくれてて、職種が違う僕は、そんなもんなんだと深く考えることは無かった。






 ◇◆◇






 お互い忙しくしつつも、時間の都合を付けて二人で過ごし、連休なんか取れたら少し遠出をしたりして、相変わらず二人で仲良く過ごす日々が続き、俺もマドカも社会人4年目の26才の時に遂に正式にプロポーズした。



 特別凝ったことはせずに、休みの日に二人で過ごしている時に「付き合い始めて10年経つし、そろそろ真面目に結婚のことを考えたい。 まずは婚約指輪を買ってあげたいから一緒にお店に見にいかない?」とプロポーズした。


 こんな色気も味気もない俺のプロポーズに、マドカは涙を流して喜んでくれた。


 その日の内に二人で地元のショッピングモール内にある宝飾店に行って、マドカには予算を言わずにどれが欲しいか選んで貰った。



 マドカは、とてもシンプルなデザインのパールの指輪を選んだ。

 真面目で落ち着いた彼女らしいと思った。


 その場ではサイズ合わせを依頼してカードで支払い、後日仕事終わりに待ち合わせて二人で受け取りにお店へ行き、受け取ったあと駐車場に停めていた車に戻ってから、車内でマドカの薬指に付けてあげた。


 この時のマドカは、緩み切ってニヘラと笑った顔で自分の手の指輪を眺めたあと、俺に抱き着いて「一生大切にするね」と言ってくれた。






 今思えば、この頃の自分は、とても間抜けだったとしか言えない。

 目に見える物しか見ようとせず、マドカの表情や態度、言葉を全部素直に受け取り、マドカの見せる笑顔に喜びすら感じていたんだから。
















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