#26 再会
逃亡してから4年と9カ月が経とうとしていた2月のある日。
その日の営業を終えて、俺は調理器具を洗ったり厨房の掃除をしていた。
翌日は定休日の為、仕込みの仕事は無く、大将は先に2階の自宅へ引き上げていた。
女将さんはレジ締めの作業をしていて、ユーコさんは食器やトッピングなんかの片付けをしていて、アルバイトの学生の子が客席フロアの掃除をしていた。
そんな時間に一人の来客があった。
アルバイトの子が応対してて俺は来客に気付かずに、ユーコさんとお喋りしながら掃除をしていたんだが、女将さんから「マサキくん、お客さん。ちょっとおいで」と呼ばれた。
こんな時間に誰だ?クレームかなんかか?と思いながら、「あいー」って気の抜けた返事して腰に巻いた前掛けで濡れた手を拭きながら客席フロアに出た。
店内の入り口前に立つ来客の姿見て、一瞬で血の気が引いた。
そこには、マドカが立っていた。
マドカは、出てきた俺と目が合うと、俺に向かって何も言わずに頭を下げた。
俺が見間違うはずがない。
SMクラブの顔隠した写真ですらすぐ解かったくらいだしな。
いきなりの事に「まずい!逃げなくては!」と咄嗟に思い、裏口から逃げようと焦って振り返ろうとしたら、誰が来たのか気になったのかすぐ後ろにユーコさんも立っていて、思いっきりぶつかってしまい逃げられなかった。
そして女将さんに「逃げるな!マサキ!」と怒鳴られ、逃走する気力も喪失した。
完全に油断していた。
4年以上も色々上手くいってたから、甘くなっていた。
俺の様子から、女将さんは全てを察したのだろう。
「マサキくんを探して態々会いに来たんじゃろ? 逃げるばかりじゃのーてそろそろ向き合うべきじゃないの?」
「はい・・・すんません」
「お店の方はウチらでやっとくから、今日はもう上がって外でゆっくりして来られい」
「はい・・・」
目を瞑りながら大きく深呼吸して、再びマドカを見る。
服装は見たことのあるニットのワンピースに黒のタイツ。
手には同じく見たことあるコートとバッグを持っていて、横には旅行用のキャリーバッグが置いてある。
左手の薬指には、俺があげたパールの指輪を通していた。
昔と変わらずキリっとした眉毛と目つきで、相変わらず美人だ。 式の為に伸ばしていたストレートの髪は短くなっていて、ショートヘアになっていた。
海岸の観光地へドライブした時の姿が思い浮かんだ。
お互いもうすぐ32歳なんだけどな、髪型以外あの頃と全然変わってないな。
それに、あの指輪を着けているってことは、この年まで独身のままってことかよ。
マドカは相変わらず無言で、目には涙をいっぱい貯めて、鼻を膨らませ口は真一文字に結んで、必死に泣くのを我慢している表情だった。
「久しぶり。 よくココが分かったな」
「うん」
「ちょっと外出ようか」
「うん」
「荷物持つよ」
「うん」
はぁ。
どないしよ?
___________________
時間軸に関しての補足です。
・前話#25の冒頭が逃亡から丸3年後。
・その年の秋(逃亡から3年と半年弱)にテレビ局からオファー。
・更に1年後の秋(逃亡から4年と半年弱)にユーコさんが婚約して、翌年の夏頃に結婚予定。
・今回の#26は、逃亡から4年9カ月(
前話のコメント欄を拝見していて、ユーコさんの婚約も逃亡から3年後の出来事と勘違いされてしまったかな?と思いまして、補足しました。
分かりづらい描写ですみませんでした。
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