彼女の秘密を知った僕は、逃亡を謀った。

バネ屋

#01 プロローグと出会い





 君の手を引いて歩くのが、僕の幸せであり、この幸せは一生続く物だと思ってた。


 でも、僕はその手を自ら離すことを選んだ。




 なんでこうなった?













 今月の25日、日曜日の大安吉日に結婚式の予定だ。


 式場は、市内にある厚生年金会館。

 このご時世だから、身内と少しの友人だけ呼んで仕事関係は呼ばずに、派手にせずにささやかな式にしようと彼女と話し合って、1年程前から準備を進めていた。


 そして5月に入り式まで1カ月を切ると、職場では後任に業務の引継ぎをしたり、後任が少しでも困らない様に根回ししたりパートやアルバイトのスキルと時給が上がるように指導や申請など進めてと、とても忙しい日々を送っていた。



 もう少しの辛抱だ。


 もう少しで俺は解放される。


 彼女からも結婚からも。




 俺は、23日を最後に有給の消化に入り、今月いっぱいで今の会社を退社する。

 急な退職になり会社には迷惑かけてしまうが、3か月近く前に決めた。


 そして23日の夜中に、長年住んできた地元から一人で離れる。

 今使ってるスマホも今月いっぱいで解約だ。

 

 仕事を辞めることも、この町から出て行くことも、婚約者である彼女には言っていない。

 これで彼女ともおさらば出来る。









 ◇◆◇










 彼女との出会いは、中学3年の卒業間際。

 出会った場所は、公立高校の入試の会場だった志望高校の教室。


 他所の学校の制服を着た受験生ばかりの教室で、みな緊張した面持ちの中、一際目を惹く美少女が居た。


 斜め前に座る彼女の時折見える横顔から、僕は目が離せなかった。


 辛うじてドコの中学かだけは分ったけど、名前は分らないまま二日間の試験は終わり、「あの子も僕もこの高校に合格出来たらいいのになぁ」と淡い期待を持ったまま、家に帰った。





 合格発表の日。


 発表の会場である受験した志望校まで自転車に乗って一人で行き、駐輪場に停めてから合格者が張り出される臨時の掲示板の前で待機する。


 発表予定時間が近づくにつれ人が集まって来た。

 緊張しすぎて、試験の時に見た美少女のことは頭に無かった。


 そして時間になると、職員の人がB1サイズの白い紙を順番に張り出していく。

 受験票を取り出して、受験番号を心の中で何度も唱えて、合格者の受験番号を端から見て行くと。



 あった。

 無意識に小さくガッツポーズ。


 もう一度受験票を見てから掲示板の自分の受験番号を確認する。

 間違いない。合格出来た。



 ふぅ~と大きく息を吐いてから、他の人の邪魔にならない様に移動しようと後ろを向くと、あの美少女が目の前に居て、両手で受験票を胸に当てるようにして、先ほどの僕と同じようにホッとした表情でふぅ~と息を吐いていた。


 うわぁ、やっぱ可愛いな。

 この子も合格したんだぁ。


 と、数秒そのまま固まって見惚れていると、その子と目があった。


 目が合った途端恥ずかしくなって軽く会釈すると、その子も真っ赤な顔で会釈してくれた。



 この時、彼女が初めて僕の存在を認識してくれた。









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