後日談

SS01 花蓮様の戯れ



 マドカが岡山に移住してから、2カ月が経った。


 マドカは慣れない飲食業での仕事に、俺の目から見ても積極的に頑張っていた。

 それに女将さんたちとの仲も良好で、特にユーコさんとは歳が近いせいか、よく食事の時間なんかは二人でお喋りに盛り上がってるのを見るようになった。



 生活面でも凄く頑張ってくれている。

 マドカは毎日、朝6時に仕事を始め、ずっと立ちっぱなしの仕事を15時に終えてから、一人でアパートに帰って洗濯物や買い物に夕飯の料理などをして、21時過ぎに俺が帰るのを待って一緒に食事をする。



 そして家ではマドカは俺の傍から離れなくなった。

 夕食の時は、小さいテーブルなのに向かい合うのでは無く、横に並んでくっ付く様に座る。

 食後食器などの洗い物は二人で協力してやるようにしてるし、部屋で寛いでいる時も横や前から俺にべったり抱き着いている。


 トイレの時も、当たり前の様に俺について来ようとする。 逆の時は何も言わずにこそっと一人で行くのに。 お風呂に関しては1度だけ一緒に入るのに挑戦したが、二人だと狭くてまともに頭も洗えないし、トイレや洗面台の周りがビチョビチョになってしまい、断念した。



 それに相変わらず夜の生活もマドカが生理の間以外は、ほぼ毎日継続している。

 致した後、裸のまま抱き合って寝るのも習慣になった。


 普段は翌日の仕事に影響が出ない様に、手短に済ませる。マドカを満足させてからそのまま逝けそうならって感じで、逝けそうにない場合はお口でして貰ったり自分で済ませて寝る。お店が忙しくて疲れている日なんかは、逝く前に俺だけ寝落ちしちゃうこともあった。


 だが、翌日のことを考えなくていい定休日前日の夜は、お互い体力が続く限りハッスルする。


 マドカは下着を普段とは違うセクシーな物を用意してたり、普段よりもサービス旺盛だったりで、この時間を楽しみにしているのが分る。

 俺も翌日の事をを気にせず、思いっきり楽しむつもりでがっついている。


 マドカとの性生活は、10代20代の若い頃よりも30代の今のが充実しているのでは無いだろうか。 普通は逆だと思うのだが、逃亡生活による空白が有った為に、昔以上にお互いを求めあう様になったのは間違いないだろう。

 ただ、流石に体力的にキツイ日もあるから、そろそろペースダウンしても良いんじゃないかとも思うけど、今の所はマドカが望む限りは頑張ろうって思ってる。




 そんな、仕事も私生活も夜の生活も充実した日々を送っていたが、ある日、突如として再びマドカの裏の顔を垣間見ることになった。











 4月に入って中頃の定休日の前日。夕食後に洗い物を済ませて、お茶を飲みながら雑談をしていた。


 マドカの誕生日が近いこともあり、翌日の定休日は児島の方まで瀬戸大橋を見にドライブに出かけて帰りに美味しい魚料理でも食べに行こうか、と話していると、唐突にマドカが切り出して来た。




「ずっと聞きたかったことがあるんだけど、話してくれる?」


「急にどした? 話せることなら話すけど?」


「マサくん、自分でSMクラブに行ってSMプレー体験したことあるんだよね?」


「え?」



 いきなりの不意打ちにビックリしてマドカの表情を見つめると、すっごい真顔。

 なんていうか(話すまで逃がさないよ)っていう圧を感じる表情。



「前に話してたでしょ? SMの事を理解しようと思って1度だけ行った事あるって。 その時は、また今度話すって言ってずっとそのままになってるでしょ? そろそろ聞かせて欲しいな」


 どうしたのだろう。


 怒ってる訳じゃないのは分かる。

 でも、凄い圧を感じる。

 それに、マドカは言葉を発する毎にドンドン目が血走り始めている様だ。



 嫉妬か?

 マチルダ女王様への嫉妬か?


 それとも、マドカの性癖に何かが突き刺さったのか? もし俺にその素質があるのなら、これからの性生活に取り入れようとでも考えているのか?


 っていうか、今更話すの超恥ずかしいんだけど。

 しかも、2時間のプレーで1度も逝けなかったとか、情けないし恥ずかしすぎて言いたくないんだけど。



「どうしたの?話せないようなハードなプレーしたの?初心者なのに?っていうか、そもそもマサくんも実は興味あったの?相手はどんな娘だったの?その娘、どれくらいの経験だって言ってた?」


「ちょっと待て!落ち着くんだマドカ!目が血走ってるぞ!なんか今日のマドカ怖いぞ!」


「怖くないよ。私はいつも通り落ち着いてるよ。 で、どうなの?どんなプレーしたのかな?」



 ダメだ。

 マドカ、今まで見たこと無いようなスイッチが入ってる。



「そうだ!その時のプレー再現してみようよ!」


「はぁ?」


「私、お店ではNGにしてたこともマサくんにならどんなプレーでもしてあげるよ? あ、でも前立腺マッサージとかは勉強してないからしてあげられないや」


「いえ、お尻は結構です。あの時も前立腺マッサージはしてもらってませんので大丈夫です」


「じゃあどんなことしたの?定番の鞭とか蝋燭責め?それともソフトに言葉責め受けながらの手で無理矢理逝かされるとか?」


 いや、鞭も蝋燭もココに無いだろ!


 豹変したマドカにおののきながら、気が付いた。

 今のマドカ、花蓮様だ。

 花蓮様のスイッチが入ってるんだ。



「あの・・・ソフトな方でした・・・」


「ふ~ん、こんな感じ? あー全然ダメじゃない、元気無いよ?しょうがないなぁ」





 * * *





 なんだろうか。


 流石、元中級者とも言うべきだろうか。

 ニコニコしながら、俺の事優しく責めるの。


 マチルダ嬢の様な語気を強めて罵倒するのでは無く、優しい口調で弱点を的確に突いて来ている。マチルダ嬢よりも花蓮様のが格が上に感じた。 しかも、俺の弱点とか苦手意識とかほぼ全て把握してるから、掌の上で転がされてる感じだった。「モーヤメテー」って感じに。


 そして、マチルダ嬢では逝けなかった手コキだが、花蓮様にはあっさり逝かされた。


「お店じゃずっとNGにしてたからこんな風に手でするの初めてだけどちゃんと出来たね。気持ちよかったかな?」と花蓮様は俺の耳元でそう囁き、凄く上機嫌だった。


 対して俺の方は、嬉しい様な悲しい様な複雑な心境。


 何て言うのかな。

 男としてのプライド?


 なんかさ、普段のエッチでは俺がリードしてるつもりなのに、手コキで簡単に逝かされてクソ雑魚扱いでもされてるみたいに感じちゃって、結構凹む。


 それにさ・・・5年前に初めて行ったSMクラブ。

 もしあのお店じゃなくて、花蓮様のお店に行って花蓮様と初SMプレーを体験してたら、俺は普通に逝けてて満足してたんじゃないのか? 流石にSMの扉を開いたとは思わないけど、怒りに任せて逃亡決意するまでには至らなかったのでは?


 そんな今更な想いが胸に去来して、なんとも言えないような気持ちだった。


 しかし、俺の複雑な心境などお構いなしに、スイッチが入りっぱなしの花蓮様は止まらなかった。



「次はどんなことしたの?手コキだけじゃないんでしょ?顔面騎乗とか?人間イス?それとも道具とか使ってたのかな?」


 と、相変わらず耳元で囁く花蓮様。


「あの・・・顔の上に座られるのは少しやりました」


「へぇ~、ちょっとやってみようか?」




 * * *





 今夜のマドカは、いつも以上にご機嫌だった。

 っていうか、楽しんでる感じ?上も下もじゅるりってヨダレ垂らしてたし。 終始マドカのペースで、何度もしてしまった。



 深夜1時を過ぎて、落ち着いてから聞いてみると、素直な気持ちを吐露してくれた。


「マサくんには絶対に知られたくない見せられないって思ってたから、あの頃はマサくんとそういうプレーは考えもしなかったけど、マサくんもSMプレーを体験したって聞いたら、マサくんのSM初体験を他の女に奪われた!って凄く悔しくなったの。物凄い嫉妬だよね。 あとは負けず嫌いな気持ちかな? 実際どうだった?その時の娘よりも私上手に出来たかな?」


「ああ、それは間違いない。 あの時は1度も逝くこと出来なかったからな」


「うふふふ、そうなんだ、よかったぁ。 それにね、私も1つ発見したの。 あの頃のアルバイトはストレス発散だって言ったけど、楽しいって思うことは無かったの。 でも今日のマサくんとはすっごく楽しかったの。マサくんの反応見てるとキュンキュンってするんだよ?もっとイジメたい、もっと困らせたいって思っちゃうの」


「う~ん・・・」


 マドカの今日の様子や話を聞いていると、やはりマドカにはS嬢としての素質があるのだろう。 話を聞く限りでは、夜のアルバイトを始めたことでその素質を開花させたようだけど、獲物を狙う様な血走った目で迫って来る花蓮様に、俺は恐怖だけでなく普段とは違う美しさの魅力も感じ、マドカがNGだらけのSM嬢として5年間もやってこれたのが、分る気がした。



 まぁそんなこと言って、開き直られて、またSMクラブで働くとか言い出したらたまらんので言わないけど。


 ただ、今度はコスチュームも女王様スタイルでして欲しいかな。

 まだ持ってるのかな。辞めてから5年だし流石に処分しちゃってるか。









 いや、違う。

 俺は扉を開いてはいないぞ。


「もし、またそういう機会があったのなら」の話だからな。







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