#21 結婚式当日



 昨夜、マドカと最後の通話をした後、精神的にきつくて大事なことを忘れてそのまま寝てしまった。


 その大事なこととは、ウチの家族への手紙を書くこと。 朝起きてから思い出した。




 親へ手紙書いて送る目的は


 ・自分の意思で失踪していること(事件性無い)を伝えて、警察への通報をさせない。

 ・静岡から手紙を発送することで、逃亡先の方角を勘違いさせる。

 ・もしマドカが、俺の失踪理由(隠れてSM嬢してたことがばれた)を隠して、ウチだけが一方的に責められた場合の保険。



 なので手紙には


 今回の失踪は自分の意思で実行しているから警察へは届けないで欲しいこと。

 このことで迷惑を掛けてしまう謝罪。

 失踪する理由は、マドカにあること。

 その理由とは、マドカが俺にあるコトを長年隠していて、それを知り、重大な裏切りであり、信用出来ない人間だと判断したこと。

 俺はそれを興信所を使って調べて証拠も持っていること。

 その内容は、今は俺から言うつもりは無いこと。

 地元には一生戻るつもりは無いから俺の事は探さないで欲しいこと。

 親子の縁を切られる覚悟で失踪していること。



 こんな内容の手紙を、寝ぼけながら書いた。

 最後の2つはちょっと大げさに書いた。


 もしマドカ側がシラ切ってウチだけを一方的に責めるようなら、この手紙見せれば黙らせることが出来るだろう。




 書き終えるとシャワーを浴びて、チェックアウトしてからホテルの朝食を食べた。

 朝食を食べ終えてホテルを出ると、車に乗って出発。


 静岡市内で小さい郵便局に立ち寄って、営業開始を待って書留で手紙を発送し任務完了。



 この時点で朝9時過ぎ。

 

 丁度、式場入りの時間か。

 まぁ、今更気にしてもしょうがないしな、さっさと出発するか、と岡山目指して出発!




 ◇




 国道1号線を西に向かってのんびり走らせながら、あちらでの混乱模様を妄想する。



 今日は9時に式場である厚生年金会館へ入る予定だった。


 当然俺は現れない。

 ウチの親やマドカは何度も俺のスマホへ電話を掛けたりするだろうが、電源が入っていない。


 あれ?おかしいぞ? 

 あいつ、ちゃんと来るのか?

 と騒ぎになるだろうな。


 そこでウチの親辺りが新居のマンションへ探しに来るだろう。

 マドカの持ってる鍵借りれば中に入れる。


 むむ?マサキのヤツ、居ないぞ?

 車無いしもう出たのか?入れ違いだったか?


 そこで置き土産の茶封筒を発見。


 あの野郎!逃げやがったぞ!


 茶封筒を急いで式場に持って帰り、マドカに見せる。

 マドカ、ショーック!


 そして


 どうしてこうなった?

 あんたんとこの息子、何考えてやがる!とウチの親は責められるだろう。

 ココはマジで申し訳ないと思う。

 俺の手紙が届くまでどうか耐えて欲しい。



 で、こうなってしまっては、式は中止。


 因みに式は、ウチの親族とマドカの親族のみ。

 披露宴は、お互いの高校大学時代の友人を数名追加しただけ。


 元々地味に行こうって最小限に抑えたから、仲人も無しだ。

 友人たちには申し訳ないが、今回の件を拡散する役目を頑張ってもらいたい。



 この後はどうなるのかな。


 正直言って、予想がつかない。


 マドカは実家に戻るのかな。

 それとも一人で新居に帰るのかな。

 俺の失踪の手掛かり探す為に一度は新居に帰るかもな。


 もし新居に帰ったら、俺の荷物が一切ないことに気が付くよな。

 部屋掃除してあることも気づいてくれると嬉しいな。

 お掃除頑張ったからね。



 それと、マドカは自分から白状するのだろうか。

 それともシラを切り通すのだろうか。


 俺の知ってるマドカの性格なら、白状すると思う。

 でも、マドカには俺の知らない顔があった。


 5年も平気な顔して俺を騙し続けて来た訳だから。

 昨日のやり取りで結構しんみりしちゃったけど、隠れてSM嬢やってる女が言ってる言葉だって冷静になって考えると、全てが嘘くさく聞こえるしな、恋人騙せるくらいなら、家族や友人騙すのなんて簡単かもしれないし。 


 だから10年以上の付き合いでも、俺にはマドカがどういう反応してどういう行動に出るかは読めない。




 ただ一つ、マドカは確かに俺のことを愛してくれていた。

 プロポーズした時に見せた涙までは、嘘だとは思えない。

 だから、俺に逃げられたことは少なからずショックなはずだ。



 俺はもうそれで両者痛み分けだと納得する。


 そして、俺はマドカを過去のこととして封印して、新天地で新しい人生を始める。


 









 1部 完







__________


続きます。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る