#23 新しい道
1年目の夏頃には岡山の生活や岡山弁にも慣れて来ていた。
食生活も、ぶっちゃけお米よりもうどんのが食べていた。
逃亡前の生活と全く違って、生活費は切り詰めてたし友達とかも居ないから、人から見たら寂しくて地味な一人暮らしだったけど、俺はマドカという呪縛から解放されたような気分で、それに一人暮らし自体初めてだったし、地元を離れての生活も初めてで、気楽で気ままで解放感を感じながらのんびり過ごしていた。
そんな岡山生活を満喫していた7月に、いつもの様にうどん屋で釜タマうどんを食べていると、朝からユーコさんが酔っぱらった客に絡まれていた。
女将さんも直ぐに出て来て二人で対応してたんだけど、酔っ払い相手では全然話が通じなくて、でもお店の方はお客さんが次々にやって来ている状況で、俺は見ていられなくてついつい首を突っ込んでしまった。
まぁファミレス店長してたから、クレーマーやら酔っ払いやらと揉めるなんて日常茶飯事だったからね。
「おっちゃ~ん、ちょっとお外出ようか~?」って肩組んで強引に外連れだして、「今日は暑くなるから早く帰って寝んと、熱中症で倒れちゃうよ? 今夜も美味しいお酒飲みたいでしょ?」とか適当に10分くらい会話して、「おっちゃん気を付けて帰れよ~」とか言って送り出して、とりあえず帰らせた。
それで、お店に戻って食事の続き済ませて食器片づけて帰ろうとしたら、女将さんに「お兄ちゃんちょっと待っといて!」って呼び止められて、持ち帰り用のパックにお店の商品のお稲荷とかエビ天とか鶏天(今思えば単価高いのばかり)山盛り詰め始めて、「これ持って帰って!さっきはありがとうな!」って渡されて、俺も「いやいや、そんなつもりじゃないっすから!」って、女将さんも「えーからえーから!」とか押し問答になって、最終的にレジ袋に入れて強引に手に握らされて「また来てーよ!」って言われ、持ち帰った。
次の日お店にまた食べに行ったんだけど、朝はいつも通りだったのが夕方にユーコさんから色々突っ込んだことを聞かれた。
「お兄さん、こっちの人じゃねーじゃろ?どこから来られたん?」
「愛知ですよ。5月の終わりに来たばかりなんですよ」
「ひゃー名古屋からなん。お仕事なん?」
「えーと、仕事ではないんですよ」
東海圏以外での愛知=名古屋という認識は、岡山に来てバイト先とかで何度も思い知らされたが、いちいち否定するのが面倒になってて、名古屋って言われても否定するのは止めていた。
「へー、住んどんは隣のアパートなんじゃろ? 仕事じゃねーんなら今なにしょーられるん??」
「フリーターですよ」
「え?そーなん?20代なんじゃろ?」
「そうですね」
「へー」
他のお客さんに会計で呼ばれてユーコさんとの会話はそこで終わったが、次の日また朝からお店に食べに行っていつもの様に厨房を眺めながらぶっかけうどんを食べていると、今度は女将さんから声を掛けられた。
「お兄さん、ウチで働く気ない?」
「え?ココでですか?」
「そう!うどん打つ修行してみない?」
「マジすか?」
「うん。ボーナス出せないけど3食食事つきで」
冗談では無いとは思ったけど、半信半疑で聞いてみた。
「俺、あんまり若くないんですけど、こんなのでも今からうどん打てるようになれます?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!ねぇお父さん!」
女将さんに声を掛けられた大将も「おう!だいじょーぶだいじょーぶ!」ってニカって笑ってて、(あ、コレこそ俺の新しい人生に相応しい道かも)って思っちゃって、その場で「お願いします!」って頭下げてた。
因みに、この時初めて「山城マサキと言います! 27歳独身です!」と自己紹介した。
そして、その日のウチにバイト先に7月いっぱいで辞めること伝えて、7月はその日から夕方だけお店で働き始めた。
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