#28 マドカの覚悟
マドカは封筒を胸に抱きしめながら、嗚咽を漏らして泣いていた。
その姿を見て、逃亡して以来、初めて後悔の気持ちが生まれた。
俺は、きっとやり過ぎた。
マドカの秘密を知って、確かに俺は傷ついた。
でも、今のマドカはあの時の俺以上に傷ついている。
「マサくん、ごめんなさい・・ううう」
「・・・」
「嘘ついてごめんなさい。隠れて風俗で働いてごめんなさい。何年も騙してごめんなさい」
「・・・いや、その事はもういいよ」
「よくないよぉ、マサくんのこといっぱい傷つけちゃったんだよ?結婚から逃げたくなるくらい追い詰めちゃったんだよ?何よりも大切な人なのに裏切って酷いことしちゃったんだよ?」
「だから、そのことはもういいんだって。俺だって結婚式逃げてマドカのこと滅茶苦茶傷つけたからお互い様だろ? 時間戻してやり直せる訳じゃないし今更どうしようも無いことだろ? だからマドカに隠し事されて騙されてたことも、俺はもう忘れる。 っていうか、5年も経って忘れてた。ここ最近は思い出すことも無かったよ。 だからマドカもこれからは俺のこと忘れて生きていけよ」
「ヤダよぉ!そんなの無理だよ!忘れられるわけないよ! どうしてそんなこと言うの?ずっと会いたくて会いたくて探したんだよ? ようやく見つかって会いに来たのにそんなこと言わないでよぉ」
「そんなこと言われても、俺にはもう資格が無いんだ。 マドカのこと酷く傷つけた俺は、マドカを慰める資格もマドカに優しくされる資格も無いんだよ」
「・・・また、逃げちゃうの? このお部屋、何も無いのもいつでも逃げられるように準備してあったの?」
くそ
相変わらず、俺の考え全てお見通しかよ。
仕方ない。
心を鬼にするしか無い。
「そうだよ。いつでも逃げる準備万端だよ。 でもな、俺はココが気に入ってるんだ。 出来ればココを離れたくない。だから黙って帰って欲しい。 もう俺の人生に関わらないでそっとしておいて欲しい」
また両手を着いて頭下げた。
「お願いします」
「マサくんがそう言うなら、私にも考えがあるよ」
マドカはつい今し方泣いていたのが嘘の様に、落ち着いた低いトーンでそう言い、俺は思わず「え?」と顔を上げた。
マドカの表情は、真っ赤に目を腫らしてはいたけど、凄く冷たい表情だった。
学生時代にナンパをあしらっていた時の氷の様に冷たい眼差しだ。
「私、ココへ来る前に仕事辞めて来たの。マンションも1月いっぱいで引き払って来たんだよ。 マサくん分かる?私がマサくんと会うのにどんな覚悟で来てるのか」
本能的に「まずい」と直感した。
普段は真面目で清楚で優しいマドカだったけど、たまに見せるマジ切れしてる時の表情と声だ。
マドカは自分の左手から婚約指輪を外しテーブルに置いて、話を続けた。
「もうマサくんとの結婚には拘らないよ。 でも、これからは私はマサくんから離れない。 恋人じゃなくてもいい。絶対にマサくんから離れないから。 私のこと忘れたのなら、また思い出して貰うから」
「ちょっと待てよ!お前、無茶苦茶だぞ! 仕事辞めて来たってこれからどうすんだよ!マドカまでココに来てどうするつもりなんだよ!」
「そんなことマサくんに言われる筋合いないよ。 マサくんだって仕事辞めて全部捨てて岡山に来たんでしょ? 私も同じ事するだけだよ」
ぐぅの音も出ねぇ
俺の直観は当たったようだ。
俺じゃあマジ切れしたマドカを説得するのは無理だ。
そして、また逃げても無駄だろう。
というか、逃げ出すことすらもう無理だろうな。
この様子だと、マドカは俺を逃がす気はないだろう。
そもそも、嫌いになって憎んでた訳じゃないしな。
好きだからこそ許せなかったんだから、もう許せる気持ちを持てるようになったのなら、後に残ったのは、俺のちっぽけな意地とプライドか。
はぁ
「わかったよ。降参するよ。 もう逃げないし、好きなだけ岡山に居ればいいよ」
俺が全面降伏を表明すると、氷の様に冷たかった表情を崩して、またえぐえぐ泣き出した。
「よかったぁ」ううう
マドカは、再び封筒を胸に抱きしめて、泣きながらも肩の力が抜けた様だった。
その姿は、高校受験の合格発表の時、そして高1で告白してくれて俺がOKした時の俺の記憶の中のマドカと重なった。
諦めの気持ちと何故かホッとした気分を誤魔化すように、無理矢理話題を変えた。
「とりあえず、腹減った。 マドカは夕飯食べたの?」
マドカは泣き顔のまま無言で首を横に振った。
「うどんで良ければ用意出来るけど、いいか?」
今度は無言で頷いた。
「じゃあ落ち着いたらお店に行くか。 今日の麺残ってるから、かけうどんくらいなら直ぐ用意出来る」
「うん」
「それと、指輪はまだ持ってて」
「うん!」
「っていうかマドカ? 今日の宿は取ってるよな?ドコのホテル?」
「・・・・」
はぁぁ・・・
これからどないしよ?
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興味が湧いた作品がございましたら、是非一読してみて下さい。
■本作の執筆状況。
連載物の読者様方の一番懸念されるのは、謎を残したままエタって作者が逃亡という事態かと思いますが、本作に関しましては、既に最終話(#41)まで公開予約済です。
ですので、安心して最後まで物語を楽しんで頂ければと思います。
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