31. 言語・教育

 転移にしろ転生にしろ現地主人公にしろ、異世界言語に関して設定する必要がある。

 もちろん何も考えられていない、または一切説明されない作品もあったりする。


◆識字率


 日本では99%以上の識字率らしい。しかし外国ではそうではない。異世界ではどうだろうか。

 アメリカでも正しいスペルと正しい文法、さらに慣用句や難しい単語などを読み書きが可能な率はそこまで高くない。

 ニュースで使用する単語はなるべく簡単な単語を選び、分かりやすいように工夫をしていることがある。


 識字率が高くなければ、看板は絵や共通アイコンが中心になってくるだろう。

 そうなると、商店に固有名称を付ける習慣がないかもしれない。

 メニューは無いかもしれない。値札には商品名が書かれずに値段だけになるだろう。

 代筆・代読のアルバイトも盛んになる。

 掲示板、張り紙、チラシ、情報の伝達、本の普及などに影響してくる。

 文字を読み書きできる奴隷は、その分高く売れる可能性がある。


◆表意文字、表音文字


 文字には表音文字と表意文字がある。

 表音文字とは、アルファベットやキリル文字、ギリシャ文字などのことだ。

 これらは音に合わせて文字を並べることで発音がわかり、読むのが楽である。

 正しいスペルで書くには知識が必要とされる。

 そのかわり単語の意味は文字列から推測することが難しいので、意味不明な単語にあうときつい。

 表意文字は漢字に代表される。文字がそれぞれ意味を持っていて、読み方が一定でなかったりする。

 読み書きともに教育コストが高い気がする。そのかわり文字列が短くなったり、ある程度構成要素の意味が分かれば読めなくても単語の意味が分かるなどの特徴がある。

 文字の判子を並べて作る活版印刷では、表音文字のほうが作る判子の種類が少なくて済む。


◆数字


 数字はどうだろう。まず10進数だろうか。

 アラビア語などでは、文字は右から左に書くが、その途中に現れる数字はヨーロッパと同じで左から右に大きい桁から順に書く。

 算用数字は、普通の文字より読みやすいが、日本語の縦書きのように使われないこともある。

 専用の数字がない場合は、値札などが書きにくいだろう。


◆紙と本


 紙はあるだろうか。パピルスや木簡、木板、羊皮紙、粘土板というものもあるが本にするには不安がある。

 紙が高い、識字率が低いため本の需要が低い、印刷技術がなく手書きで本を作成などの場合に、本の値段が高くなり、さらに教育の低下につながる。

 そうなると本屋や図書館そのものがなかったりする。

 そのような世界では田舎の教育や独学での勉強が難しくなる。

 辞書の発明の有無も独学での知識を得るのに影響してくる。


◆言語チート


 主人公は地球・日本人なので現地語が話せない。

 そこで、翻訳魔法、日本語に見える、なぜか日本語を書くと相手には現地語に見えるなどの処置が必要なこともある。

 声の翻訳だけされて文字は全く読めないという世界のこともよくある。その場合、仲間になった人に翻訳を通じて文字を教えてもらうというシーンが出てくる。


 面倒なので、言語については一切話題にしないというのもありである。

 しかし、指輪物語の作者トールキンが言語学者でエルフ語などを考えたように、硬派なファンタジーを書きたい場合は言語要素があってもいいだろう。


◆不明な単語


 翻訳魔法にも設定として何か納得できないようなものも存在する。

 例えば異世界に「火薬」、材料の「硝石」がいままで存在していなかったとする。それを日本語から翻訳するとして、なんという表現に訳されて聞こえているか、かなり不思議であるということだ。

 これは鑑定にもいえる。世界のキノコや魚、秘境の植物などでは、そもそも固有の名前がついていない種類も多い。名前がないのになぜ名前が表示されるのか。誰がその名前をつけたのか疑問が出る。

 訳語が決まっているのを主人公が把握可能なのであれば、その世界にその物が存在していると想定できるかもしれない。名前があるのに存在しないというのは、かなり変だ。

 翻訳スキルは神の介入を感じるスキルだといえる。


◆異世界固有単語


 動植物の名前、都市、人物などの名前に、固有の名前を付けることがある。

 そのときに英語風やヨーロッパ風にしたり、謎言語風にしたり、作者の味がでてくる。

 日本での名称に近い別の名前を付けることで、覚えなくても何か分かりかつ異世界であることを意識させられるようなテクニックを使っている人もいる。

 「アプル」「キャーロット」「キャベット」のようなもの。

 だだしこれを始めると、次々別名をつけだして収拾がつかなくなることもあるので注意を要する。


 ヨーロッパ言語では大陸、国など土地を意味する接尾語「**ia」がある。こういう名前をつけると異世界でもそれっぽくなる。

 Wikipedia「地名接尾辞」の記事に詳しい。


 大陸、地域

 ユーラシア、アジア、オセアニア、シベリア


 国

 イタリア、オーストリア、ジョージア(グルジア)、ブルガリア、ロシア


 スタンも土地、国という意味で中央アジアに多い。東方の異国の国、砂漠や山脈地帯などにつけるとそれっぽい。


 カザフスタン、アフガニスタン、トルクメニスタン


 ネシアはギリシャ語の諸島という意味で島国に使われる。


 ポリネシア、インドネシア、ミクロネシア


 都市ではドイツ風が割合よく使われる。

 burg城、町、城下町のブルク、ベルク、バーグなどがつく。

 bergは山の意味。城は山にあるからして同根語。


 ハンブルク、ヨハネスブルグ、エディンバラ(Edinburgh)、サンクトペテルブルク


 furt(独)、ford(英)、fort(英)は川の浅瀬、渡し場の意味。


 フランクフルト、オックスフォード、スタンフォード


◆大陸語、なまり、エルフ語、不明な言語


 国ごとに言語がある設定の小説もあれば、大陸共通言語で方言程度の違い、あとは種族ごとに言語があるなんて場合がある。

 異世界語で方言、なまりがあるときに、日本語訳でも日本語の方言のなまりで表現することが割りとよくある。


 大陸言語であっても、大陸外の人と会話を要求されるシーンが出てくる事も多い。

 そのときに、Unicodeの文字を読めない文字として採用する人がいる。

 私はNintendo 3DSの携帯表示で過去、なろう小説を読むことが多かったのだが、アラビア語などが表示されないためすべて豆腐(表示できないときに表示する代わりの四角)で表示されることになる。

 PDFではフォントがない文字は「白抜け」になる。

 携帯対応やPDFやリーダーアプリを考慮する人は、日本で馴染みの薄い文字を読めない文字として採用することは控えた方がいいだろう。

 ギリシャ文字とキリル文字はShift_JISにあるのでどの環境でも読める文字に含まれている。


 ミスリルは指輪物語においてエルフ語かなにかで「灰色の輝き」の意味である。このように音写で表記した場合の単語に他の言語での意味づけ設定を用意すると、世界観が深まったりする。

 スタートレックや指輪物語などの長編作品では、ある程度会話が可能な程度の設定量があることも少なくない。ファンタジー作品でもゴブリン語の設定が見られる。


◆古代語、魔法言語


 主人公はチートで翻訳魔法で一発変換だけども、古代語、魔法言語は意味不明なのが定番である。

 禁書庫や遺跡で古代語が必要だし、オリジナル魔法の開発には魔法言語の知識が必要で、それでチート魔法を生み出すことも多い。


◆学校


 国立学校のような物が王都にあり、身分の高い人たちが通い、騎士や魔法使いの勉強ができることが多い。

 平民では教会のシスターや寺子屋のような小規模な私塾が開かれているかもしれない。

 教会の場合、教育の主導権は宗教が握っていることになる。

 いっぽう町の職人たちの子供は、学校教育よりも親方に弟子入りして、その職業知識を学ぶことも多いだろう。

 都市学校がそれとは別にあり、裕福な家庭の子供が読み書きを教わったりする。

 たまに学園都市や学問が盛んな国家が出てくる作品もある。同様に宗教国家もよく見られる。


◆図書館


 図書館がでてくる小説もある。大抵の場合、国立図書館または行政の図書館だ。

 閲覧するには入場料などの料金を支払う必要がある。

 アイテムボックスがある世界がほとんどなので、盗難の危険性がある。その対策として魔法が掛けられていたり、期限が来ると魔法で返却されるような話もある。

 異世界語の読み上げや、古代語・魔法語の読み上げスキルを必要とする。


 国や古い魔法学校には古い書物や禁書があり、神話、奇跡、神罰、伝説の類が記録されている。

 主人公は歴史、魔法またはスキル、地理、生産レシピ、モンスター情報などのために図書館で調べることが多い。


◆水泳


 現代日本のようにプールがあるわけではないだろう。

 現代でも外国では泳げない人が少なくない。水に沈んで、顔を水に付けるだけでパニックになったりする。立ち泳ぎや平泳ぎすら難しかったりする。

 川や穏やかな海・湖の周辺に住んでいる子供たちは遊びの延長として泳ぎも覚えている可能性がある。


度量衡どりょうこう・単位


 度量衡とは、長さとか重さとかの単位系のことだ。

 異世界転生転移系では、主人公は地球人なのでメートル法をそのまま使うことができる。

 作品によっては現地主人公にもかかわらずメートル法が使われているものもある。これはいちいち細かいことは考えないという場合もあるだろうが、現地人が現地の単位・言語で書いたものを「見えない作者」が日本語メートル法に翻訳したものと考えることもできる。それなら別に何も問題にならないはずだ。

 アメリカ映画でも「ちょうど80km/hだ」とかいう台詞があるが、これは50マイルだからで、もちろんアメリカ英語版ではマイル表記だったりする。それと同じことをすればいい。

 少数ではあるが、中世ヨーロッパ風だからという理由で、ヤードポンド法やキュビットなどを使っているものもある。しかし個人的意見を述べるならやはり換算がわかりにくい。

 換算はわかりにくいが「両手を左右に広げた長さ」や「成人身長何人分」「徒歩で何日の距離」のような「身体尺」と言われる人間の長さなどに基づいた単位を使うと、自然ではある。

 工夫されているものとして「メトル」「キログ」のような、なんちゃってメートル法を用いることで、異世界であるのを強調しつつ、疑似的にメートル法を採用しているものも見受けられる。これなら換算も不要である意味わかりやすい。これは「トメト」「ジャガモ」みたいな「なんちゃって日本野菜」に通じるものがある。


◆小説上の言語表現


 異世界ファンタジーで日本人主人公の場合、日本語ベースの表現は違和感なく使うことができる。

 一方、現地主人公、現地の登場キャラクターでは、表現の選択でどうしたらいいか迷うことがある。


 例えば現地ヒロインが「呉越同舟だね」と言ったら、異世界に「呉」「越」とかあるの?ないよね、という話になる。自転車が無いのに「自転車操業はやばい」と書かれていたらどうだろうか。

 この「現地に存在しない表現方法」の採用の是非は、なかなか難しいところだ。

 他にも「ハンバーグ、フランクフルト、ウィンナー、タルタル、佃煮、伊達じゃない、伊達眼鏡、包丁、沢庵、南京錠」もちろん「ハンバーガー、サンドイッチ、フレンチキス、ドラキュラ、ジャーマンポテト、ジャガイモ、カボチャ、サツマイモ、ガッツポーズ」なども地球の地名、地球の人間の名前由来であり、そう呼ばれているとしたらおかしいということになってしまう。

 この矛盾の解決策の一つは、度量衡と同じで「現地人は別の表現を使っている」が「それを筆者が翻訳してたまたま地球固有表現を使っているだけである」という体にすることで、ほとんどの場合問題がなくなる。

 ただ難しいのは「詐欺」と「鷺(さぎ)」を間違えた、というような表現を現地人がするケースで、どう考えてもそれらが同音異義語になるのは「日本語」であって「現地語」ではないだろう、というものがある。

 同様に「異世界語のはずなのに日本語ベースでしりとりをする」などもある。

 他に「あの、あのね、す、す、す」「す?」「涼しいね」(好き……)みたいなやりとりも難しい。

 言葉遊びの類は、異世界ものではやりにくいということになる。


 ただし、言葉遊びでも翻訳している「不思議の国のアリス」という作品がある以上、別言語だから言葉遊びは不可能だ、というつもりはないので、考慮が難しいということだと押さえてほしい。


 ちなみに、言葉遊び系の翻訳では、元の文の意味を注釈などで示すことで、英語の言葉遊びであることを書く場合や、まったく異なる日本語ベースの言葉遊びに置き換えて、雰囲気を訳すというものがある。


 固有名詞「シンデレラ」を「灰被り姫」、「スティング」を「つらぬき丸」、「フォース」を「理力」と訳すように、固有名詞だから必ず音写のはず、という前提も危険で、より身近な単語に置き換えられている可能性もある。

 身近な例はないが、カタカナ語からカタカナ語に訳されている場合もあり得る。

 異世界小説ではどれもエルフ、ドワーフと書かれているが、ある小説の現地語ではそれぞれ、バウデウン、ドスラウンと呼ばれているかもしれない。設定次第である。


◆日本語英語


 名前を付けるとき、英語っぽい名称にする事は良く行われる。

 そのとき日本語カタカナ表記では、英語特有の表現のうち、いくつかが失われる場合がある。


 複数形等の末尾のsの欠落:

 McDonald's →マクドナルド


 定冠詞theの欠落:

 will-o'-the-wisp →ウィル・オ・ウィスプ

 The White house→ホワイトハウス


 先頭のtheとsの欠落:

 The Lord of the Rings →ロード・オブ・ザ・リング


 形容詞などが元の単語になることがある:

 wooden shield →ウッドシールド


 英語ではエルフ、ドワーフ、ウルフ、ナイフ、リーフ、ハーフ、ワイフ等の**fの一部について、複数形が**vesになる、という特例がある。

 もちろん**fだからといってvesにならないものもある。

 同様にJapanに対するJapanese、IndiaはIndianのような形容詞形「○○人」「○○の」という用法でも同様に「**ves」または「**ven」になる。

 "エルフの弓"はエルヴンボウelven bowという風にすることが多い。

 日本語英語では、こういうものは元の単語で「エルフボウ」とする。


 エルフelf →エルヴズelves、エルヴンelven

 ドワーフdwarf →ドワーヴズdwarves、ドワーヴンdwarven

 ウルフwolf →ウルヴズwolves、ウルヴンwolven


 ここでは「**ヴン」と書いたがもちろん「ブズ/ヴェズ/ベズ」「ブン/ヴェン/ベン」なども考えられる。

 似た単語にエルフィelfieがあるが、こちらはエルフではなく「妖精のような」という意味で使われる。

 ちなみにハーブharbとローブrobe、セルブselbはbなので、この仲間ではない。

 ハーフhalf、ローフloaf、セルフselfという別の単語はある。


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