第1話  願うものはその隣に①

 え~と、皆さん始めまして。僕の名前は風雷神龍といいます。普通の中学2年生といいたいところなのですがそんなことは口がさけても言えません。口がさけたら何も言えませんか。

 全く持って普通ではありません。今日に至るまで、色々なことがありましたがそんな過去のことは追々していくとして、たしかに語らねばならぬ過去のおおいにあることなのですが簡潔にというと難しいのです。

 さて、そんな僕が今現在何をしているかというと。

「若、三徹は流石にあなたでも辛いのではないですか。いい加減寝てください。」

 そう僕は今、自分に与えられた屋敷を掘り進め地下深くに作り出した施設で同年代の女の子を隣に寝かせてパソコンのモニターや計器類を睨みつけています。

 後に一夜の悪夢と呼ばれる一晩で王宮を中心に国土の半分以上が炎に包みこんだ奇怪で異様な事象が発生した。被害としては大きく多数の死傷者が出て阿鼻叫喚の絵図となったがそんな中、王宮のバルコニーに黒い染みのような形容し難い異形の怪物を見た。遠くからだったのではっきりとは確認できなかったが、は一目見ただけで足が竦み、恐怖と畏怖とそしてどこかで感じたことのあるようなそんな懐かしさをおぼえた。

 はバルコニーからホールへと悠然と下っていった。近づくことすら危険だと本能が判断するほどに。だがから目を離すほうが自らの不利益になると思ったから、いやそれよりもはやくあの場に向かわなければという焦燥にかられ黒炎が各地で燃え上がり人々が逃げ惑う流れに逆らうようにして震えた脚で向かっていった。

 単身でというのは心細くはあったが、一刻を争うこのような事態にはそれぞれでこの状態の原因を探し出し対処するのがいいとそう勘が告げたがそれは正しかったようだ。

 あんな者に誰が進んで他人を近づけようと思う。

 そんな者がいるならそれは他殺志願者の類だ。

 後ろ向きの感情を誤魔化すようにそんな無駄口で思考を埋めてしまわなければ脚が前に動かぬほどにの存在は強大であった。

 そして遂に立ち止まってしまったその時。

 

 王城が崩れた。

 巨地だいちれた。

 爆発とも形容できるほどの衝撃が放たれた。

 そしてその衝撃と共に各地で猛烈な被害をもたらしていた黒炎が一瞬にしてかき消えた。

 また、あれだけ大きかったの気配が消えているのだ。

 正直なところこんなことは信じられなかった。

 人々も同じような心境のようで、何が起こったのかと戸惑う様子も見受けられた。

 あれだけの存在がそう簡単にやられてしまうようには到底思えない。

 そのようなことを実現させてみせたような存在がいるとすればすなわちを遥かに超えるものとなる。

 もちろんの目的が達せられた、が顕現できる状態ではなくなったからなどという考えが頭を過ぎったということもあったがならば今の衝撃はなんだ、なぜ炎がなぜ消えた。

 などとそういうことに対する疑問が尽きないため、考えることよりもと、現場に向かう足を早めた。

 そして辿り着いてこの眼で視てしまった。

 荘厳な城であっただろう残骸ともいえる瓦礫の山があたりを埋め尽くし、いやただ一箇所不自然なほどにその瓦礫が排除された空間がありその中心には。

「この子が仰向けに倒れていたと。そして穏やかに笑っていたなんてね」

 コツ、コツと足音を起てて長身の女性がこちらに向かって歩いてきた。

 彼女は名前をアルターという。僕の従者だ。

「あれ 、どうしたの」

「 あぁ起こしてしまいましたか。それは申し訳ありません。ですが、あんな作業中に眠りこけてしまうなんて以てのほかですよ」

 優しく幼い子供を諭すように叱られてしまった。

 なんとまぁ大事な作業中に眠ってしまったらしい。では先程の回想は夢だったのか。あぁ寝起きだと思うと頭が重くなってきた。

「では、あんな作業とやらの続きをやろうかクロウをいつまでも寝かせておくわけにはいかない」

「もう、若が眠ていた間に終わらせておきましたよ。もう少し寝てても構わなかったのですよ」

 あぁこれは呆れられているらしい。眠気覚ましにアルターの淹れたコーヒーを啜りながら他愛も無いことを考えていた。

「寝てろってひどいこというねきみは。もうじき一応の完成が見れそうだというのに」

「フライトデバイスでしたっけ、若に今更そのようなものが必要なのですか。なくてもどうにかしてしまいそうですけれど」

 アルターは退屈そうに透明なケースに入れられた白く光沢のある飾りっ気のない腕輪を眺めている。

「必要だよ。これができあがれば僕を構成するうえで欠かせないものになると、そんな予感がするんだ」

「で、いつできるんです?」

 ・・・・・・・答えにつまってしまった。

 何も言わないでいたらアルターが溜息をつき、そしてはにかむようにそっと微笑んだ。

 「どっ、どうしたの?」

「いえ、あれからずいぶん経ったなと思いまして。若が彼と出逢ってから、そして彼を失うことになり彼女を拾ってきた時から。本気で彼の生まれ変わりとでもお思いなのですか」

 はぁ、モニターの字がボヤけてきたな。

「 そういうことじゃないんだ。彼女は、クロウは僕にとって唯一縋れる希望なんだ」

「 わかっていますとも。たとえそういうことだったとしても誰も何も変わらないということは。というわけで話題の娘が心配なのでついていますね」

 アルターが空っぽのコーヒーカップとソーサーを持ち軽快な足取りで部屋をあとにした。

 デスクに寝伏せてしまっていたからだろう。肩や腰、首など節々が痛い。

 月日が流れてゆく。あぁそういえば、何だったろうか。思い出せないのならしようがない。

「 キリのいいところまで進めておこうか」

そうやって、再びキーボードを叩く音が聴こえ始めた。

 

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