降り立ってみれば魔境③
この偉大な地上へと降りてきた者だって多くいる。目的を持っている者は少ないのかも知れないが。
「そんなこんなで帰ってきたぞ。我らが星よ」
「………………できればアンタは来ないで欲しかったけれど」
肘を腹へと横から打つことをした青木后河であった。更にその横では面白いくらいに笑っているリグネア・ワスピータであった。。その容姿と恰好も相まって周囲から目立って仕方のないことになってしまった。
「なんだってこう肩肘張っているのですか。もう割り切ってしまえば、開き直っていけばいいじゃないですか。文句など言ったところであなたに抵抗できる存在がどれだけいるんだってことになりますけれど」
うん、そう言ってくれる者がいてくれるのは嬉しいことなんだが。まずは他にやらなければいけないことがある。
「というよりただの仕事です。要件を先にというのが流石にでしょう。自分は優先するべきことがあるので」
もう後ろ姿を見せて手を振ってくるオルトス・ダイアモンドである。彼の背から哀愁が見えてきてしまう。
「待ってよ」
引き留められたオルトス・ダイアモンドは当然ながらも足を止めることはせど後ろへと振り返ることはしなかった。
「どうしましたか。別に旧友への挨拶と道中起こったことの報告をするくらいなのでつまらないですが」
「いや、それはわかっているわよ。それ以上に重要なことがあるでしょうって」
後ろから肩を掴まれてしまうオルトス・ダイアモンド。そのままグワングワンと揺さぶられてしまている。頭が混ぜ合わされてしまったのかという勢いで酷い目にあってはいるが頑丈であるから大した問題ではない。この程度じゃれ合いだ。
「なんですか一体。急いでいるので。事は早めに済ませた方がいいでしょうしね」
「だったら船の周りに来た人たちに送って貰えればよかったでしょうが。事は成してこそでしょ。何も成さないままに時間が過ぎてしまえば自分たちが情けないとしか思えない」
そう、海岸から、港から少し離れた場所に着陸したかと思えばまぁ大変なことになる。ただあれを不時着といっていいのかという問題なども上がってくるのだが。
そんな港から離れた場所だとしてもそれは少しのものにしかならない。
当然ながらも軍隊だって港の近くにいる。というよりも正確に、騒ぎにならない程度のそれでいて注目を浴びる位置へと降り立っていたのである。
他国のものに見つかったとしてもそこまで問題ではない。どうせなら大きく帰還を知ってもらおうじゃないか。
(いろいろ足りないから盛大なとはお世辞にも言えないが)
近づいてきた複数の巡洋艦がいたがそれにはビクビクすることなく構えていた。それどころか喧嘩のつもりか拳を握って、もうそれを振る勢いであった。
「やめんか」
まさか女の子を引き留めるという行動を帰郷と呼んで差し支えないところでさせられるとは思わなかった。
(帰郷でいいはずだが。もう自分の故郷は………………)
それで艦の一つから降りてきた一人に案内を進められていたのだがオルトス・ダイアモンドがそれを拒否したためにだ。
「こうなってしまった訳だ」
現状大変なことになってしまうのは理解できるだろう。だというのになぜ拒否をしたんだと後悔をしてしまう。
「笑ってんじゃないわよ。路に迷ってしまう馬鹿はせめてアンタだけは違うと思ったのにどうして」
もう泣きそうなくらいの表情をしている青木后河。それを見ているともう辛いものである。胃がというか、腹がキリキリと痛くなってくる。
「………………それでこれからどうするつもりなんですか。案内くらいはやっぱり欲しかったのではないですか。というか私は欲しかったです」
膝にしがみついてきているリグネア・ワスピータであるのだ。無理に振りほどく気すら起きない。というかそれをするほど気が立っているわけではないからしない。
「さっきいった通り要件を済ませていくだけだ。安全を確認したのちにあいつを探しにいくというだけだ」
今度こそこの場から立ち去ろうとするオルトスである。だが悲しいことにこの二人は離れようともしない。
周囲からの視線が凄く重たい。こんなのでもアイドルだからな、どうしても容姿からして可愛いものであるのに。街中でするな、みっともない。
「ついていっていいですか。どうせすることもないし」
「別に君たちに観られてしまったところで困りはしないですからね。どうせそんなもの着てるなら文句など言わないでしょう」
そして少しばかり考える素振りをみせていたオルトス・ダイアモンド。そして遂に決断を迫られることになった。
「………………………………うん、やっぱり足が欲しいか」
悲しいかな、三人というのは動きずらい。
「もしかして私たちのこと心配してのことですか。だったら寄りたいこともありますし好きに行動してますよ」
リグネアは持っていた書類を掲げて見せてきた。それはオルトス・ダイアモンドが持っていた資料のコピーである。
「別に失うことでの損害はないから。奪われそうになったら燃やしてしまえ」
そう告げてオルトス・ダイアモンドは歩幅を大きく速くして目的地へと向かっていったのであった。
その後ろ姿を眺めていたリグネアと青木后河。駄々をこねることなく視界に映る背を見送っていく。
「理由もない。焦ることなど」
「………………勝手に知らない他人に喧嘩売ることはやめてよね。それで皆迷惑しているんだから」
危ないことはしないようにとしっかりと釘を刺しておく后河、その先には何があるのか。ただの海岸線である。
そしてやってきた海岸線である。どうしてかなんて理由は明白である。
「戦争ばっかりしているこに世界ってどうかしていますよ。いい加減に懲りてしまえばいいのに」
「懲りてしまったからこそこうして綺麗な海岸が見えるんじゃないの?でなかったらここすら戦場になってしまっていたんでしょ」
わかり切ったこととばかりに答えを示す青木后河だ。そして彼女が指さすその先にあったものといえば………………特になかった。
綺麗な水平線が見えておりただそれに満足するばかりである。この近くの海での戦争ですらこの海岸から覗けるものであったろう。国を焼かれた事実とその過去には辛いものを感じてしまう。
「戦艦を使用した海上での戦争って難しいけれど」
「あぁおりゃとしては二度とやりたくないと思うのは宇宙艦隊に所属していた経験からだろうな」
突如として彼女たちの後ろから声がかけられることになった。その声というのはどこか殺気立ったものになっている男性の持っているものだったか。
「そうですか。で、あたしたちになんの用ですか。観光案内なら必要ありませんんおで。地元の方たちよりは詳しくありませんがこれでも額面の情報ならしっかりと抱えていますので」
そして懐から取り出すのは書類の束であった。それも重要書類ばっかりのものであるのだ。
これを見てしまえば流石に軍人としてはびっくりどころではない。なして重要というか機密ばかりのファイルを抱えているのか。
その謎を解明するため、我々はアマゾンの奥地へと向かった。………………という冗談は置いておいてだ、なんだこの女の子は。
どうして海を眺めているのか。まぁ実はそれだけではおかしなことではない。何か黄昏ているだけだろう。若い時世ならこれくらいあってもおかしくない。多感な時期だもんな。
と、自分の過去を振り返ることをしていたディム。彼だって今まで周囲に大変な迷惑をかけてきた。だというのに現在では公務員やっているのだから不思議なものだ。
「何でもいいがそれよりも分からん」
あの子たちはディムにとってはホントに見覚えのない者たちであるのだ。ちゃんと階級の高い人たちくらいちゃんと覚えている。なのにこの子たちは見た記憶がない。
ザバ~~~と結構な勢いの波に乗っかって流れ着くものだって多く存在している。海岸だ、それくらいで目くじら立てても仕方ないだろう。多いのが問題なのであって稀に見るくらいであればそこまで文句は言わん。ゴミであれば拾い上げて処分しまえばいいだけの話だ。
ただ本当に問題だと思うのは人型のたんぱく質とカルシウムの塊が漂着してしまうことだと思われる。
「………………………………うん、それはただ単に人間の扱いをしてやるものだるってよ。それは」
少女のことは気にはなっていたが怪しまれても困るばかりだった。様子を伺いながらもすぐに駆け寄っていくディムであった。
「おーい大丈夫か。これで返事なかったら心肺蘇生法試すからな」
一応物騒なことを脅しとして送っておく。これによって後で文句を言われたとしても他にどうしようもなかったと言い張れることが出来る。
と、思えば呻き声があがるばかりではっきりした聞き取れるような言葉があがって来ない。
「うブブブブブブブブブブブブブブブブブブ部ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブッ」
呻き声と呼べるものが終わって何かが詰まったような音が聞こえてきた。それには一抹の不安が過ることになる。
うつ伏せになっているところをゆっくりといたずらに壊さぬようにと仰向けにしていった。
「アガァ?どこだここは」
どうやらようやくまともな思考が戻ってきたらしい。先ほどまで彼がいた場所に眼を向ければ口元が当たっていたとされる地点が強く濡れていた。どうやら水をひたすらに吐いていたらしい。それでいいのかよ。
ただ彼がどこだと聞いてくるということは自分のいる場所すら把握できていないということ。更にいえば仰向けになって見えるものと言ったら大きな蜘蛛、あぁ間違えた大きな雲くらいのものだ。他に何か来てもそれこそ困るというもの。
思わず仰向けになっているままの彼に倣うように雲一つない空へと見上げていくことにする。
「どこといわれても海岸でしかないですよ。平和な、皮肉にも血の匂いのしなくなってしまったね」
それを聞いてしまえば大体予想のできるものである。バサッと起き上がろうとしていた彼であるがそれは難しいことになる。身体を動かそうとも倦怠感があるのだろうとも傍から観ている他人としては思ってしまうディムだ。
倒れてしまった彼のものにと近づいてくる影というのもあった。助けられてもらった相手にはその倒れている姿を見られたところでそこまで構いやしない。だがそこで第三者が来るとなればまた違う話になってくる。
どうにか顔を見られる前にと強引に力を振り絞って立ち上がっていくをした。
「だぁだぁ」
そしてなんとか息を吐いていってそのやってきた影というのを拝んでいく。
………………………………………………えっと、うん見覚えのある人物だ。それも以前ぼこぼこにやられてしまった相手じゃないか。
「………………………………………………………………………………………………………………………………ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ~~~~~~~~~~~‼⁉」
二人して叫んでその場に倒れこんでしまうことになってしまったとさ。
「いや、砂浜で寝てんじゃないよ。そこまで水に耐性あるわけじゃないんだから」
この倒れてしまった青木后河はちゃんと連れのリグネアが連れて帰ることにした。
「いや、待てよ。どこの部隊の方ですかあなた」
「答える理由はあるのでしょうが。どうせ部隊名を答えたところであなたが知っているはずもないでしょう」
もちろんこれは結構なハッタリだ。実際に記録として軍に所属はある。だがそれでもいってしまえば実体のほとんどない架空に近いものである。
それにケチをつけられてしまえば面倒なことこの上ない。どう答えるのが正解だろうか。
「じゃあ上司の名前くらいはいいでしょう。それで納得してあげますから」
「え~~~~~~~。そんなことでいいなら」
本当にそれでいいのかとも思えてくる。かっこよく名乗りを上げさせてもらえないのは流石に辛い。それと同時にこの軍隊はそんなことで済ませて今までよくやってきたなぁと感心してしまう。いや、もうこれは心配の方が上回ってしまう。
「DRC所属のリグネア・ワスピータ中尉です。平和に殉じる愛の戦士ですよ」
抱えていた青木后河を後ろへとぶん投げてしまう。それにはもう追いついていけないことになってしまったディム・オーバル。彼をしっかりと見つめることをして敬礼をしてみせた。レスティラ王国の規格にあるような綺麗なまでの敬礼を。
敬礼になんて大体どこも一緒だろって言われてしまえばどうしようもない。だからこそ事前に覚えておくことが出来たのだろう。
「そうですか。こちらはQPG所属のディム・オーバル大尉です。これからよろしくお願いしますね」
「よろしくはしませんよ。そんなよろしくするつもりはありませんが」
すぐさま振り返って落ちている青木后河を拾い上げてしまう。………………落としたというか投げたのはお前だろうが。
バタバタと脚を動かしてこの砂浜から立ち去っていくことになった。
「落ち着いた行動をしてくれって。DRC所属なんて本当にいるとは思わなかった。架空の部隊だと思わされていたけれど、それは隠し事の多いこの国だからね」
もう激動の一日だったなと先ほどまでのことを振り返ってみせる。そしてこの綺麗な海にへと向かって叫んでしまおうと波の方へと拝んでおく。
「ッッッッッッッッッ⁉信じられない。これって現実かよ」
そこにあったのは血に塗れた水平線であった。………………あぁえっともうどっから突っ込んでいったら分からない。まず疑うべきは目の不良か、それよりも頭の処理の仕方がおかしなことになっているのか。
「一度医者に診てもらった方がいいかも知れない」
一度瞬きをしてみれば既にその真っ赤に染まった海はなく透明な綺麗なままのものであった。
(気のせいか)
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