第2話 始まった戦闘
ようやく塔の足元までこれた。ここまでくるのに数々の兵を撃破してきた。だがあまりにもあっけなくたどり着いてしまった。普通は隠したいもの、守りたいものの近くに戦力を多く配置するものではないだろうか。もしかしたら誘われているのではないか罠ではないかと疑うほどには不安になる。相手にする連中がなにせ変わり映えがしなかったからだ。
そんなことを期待しても仕方ないと思うが。
塔の入口には扉などなかった。そこにあるのはきれいに丸く切り抜かれたようにある空洞であった。
その空洞を抜けようと歩いてゆき、そして頭を打った。ぶつけた額を左手で擦る。
「たた、ああそういう」
そういうことか。そもそも戦力を厚くとる必要がない。この障壁のほうがよっぽど自信があるということ。なにせこの僕に触れるまで存在を気づかせなかったのだから。いや、これ僕の不注意だ。
さて、これはどうしたものか。少なくとも今手元にはこの障壁を突破するほどの火力はない。
嘆きながらも見上げれば塔頂に光るものを確認できた。
それの近くまで寄るために飛び上がろうとして、何故かそれができないことに気付く。
先程、次元の裂け目がいくつか観測できたがそれはおそらくひとつはフロウリアによるものだろう。
だからそれの対応は彼にまかせてしまって構わない。
そもそもこの塔の正体すらわかっていない。
設営基地へとの回線もつながらないことになっている。何らかの電磁波が放たれているということもなさそうだ。
この近辺だけだろうからここから離れればいいのだけど。この電波障害も範囲を広げてゆくかもしれない。
僕はこの塔に衛星兵器でもって破壊を試みることにした。おそらくそれでも完全に破壊することはかなわないだろうが。
まずはこの電波障害を突破するほどの出力まで上げる。
そして無事に繫がったので呼び出しを行う。
「おう、どうした。いや、言わなくていい」
応答があったと思ったらすぐさまそれをきった。
応答したのは衛星兵器である『G-ZX』に泊まっている
彼が泊めろと駄々をこねたのを思い返していたその時、目が灼けるほどの陽光が正面に放たれた。
これは連絡する前に既に温めていなければできない早さである。いったいどこに撃つつもりだったのか。後で問い詰めなければなるまい。
まばゆい光の中でパリンと水晶が割れる音が遥か上空から聞こえた。
おかしい。先程視認したよりも高い位置で聞こえた。
その後、衛星からの攻撃の後に残ったのは、攻撃を受ける以前よりも高く高く天まで伸びるが如く聳え立つ絢爛な装飾が揃った豪華な氷塔であった。
そしてその氷塔が今、形を保てずに崩れ落ちてゆく。
僕はこのこの光景がしんじられないでいる。
それも当然だろう。その氷塔の残骸の上に見覚えのある金属光沢があるのだから。それは先程、攻撃が放たれた『G-ZX』の外装部であった。設計から組み立てまで自分たちで行ったのだ。みまちごうはずがないだろう。
何故こんなことになった。桐は無事なのか。不安と焦燥で残骸へと走り出したその時、後ろから、衛星に使われたタングステンの板が飛んできた。
「グラッ!!とんでもないあったぜ。どーなってんだこりゃ」
その方を向けば、そのタングステンの板を蹴り飛ばした桐の姿があった。
ホコリまみれではあるがかなり元気そうだ。
僕は思わず彼のもとまで駆け寄った。
「よ、よく無事に地上までたどり着いて……」
落ちてくるのがあまりにも速すぎるというのが気にはなる。
まさかと思い体内時計と照らし合わせるために携帯端末を取り出したがそれで僕は驚いた。
体内時計と比べて遅れているのはそれは驚きはしたが予想もしていたことだ。
ただそれ以外にも問題があった。アンテナがたってない。僕達は別にG-ZXに通信関係を依存しているわけではないというのに。いや、これは先程確認したことではあるのだが。
そのなにが問題かといえばこの氷塔が崩れ落ちたにもかかわらず異常が維持されているということである。
ふと、後ろからゾッと底冷えするほどのものを感じた。
「お、おい。こりゃなんだよこんなバケモノ、一度も彼女から感じたことなんざねーぞ」
桐はその恐怖と己が見ているものがしんじられないといった様子で慄えている。
僕の後ろということはつまり桐からは正面となるわけだ。
そして彼からはあのバケモノの面が拝めるということ。さらにいえば僕も後ろにいるとはいえその面が見覚えのあるものであるのはわかっているんだ。
恐る恐るその方を向けばそこにある面は
僕としてはしんじられないというより信じたくないというのが本音だ。それほどまでに僕にとって彼女の存在は小さくない。
そういうこともありこの僕がステージで彼女を見つめることも少なくない。
彼女が飼い猫との写真をSNSに上げている画像を密かな日常の楽しみとしているのに。
そんな彼女がこのような非日常の風景に存在しているのかがわからない。
「なるほど、これはこれは面倒なことになったものだ」
ただいつもの彼女とは口調すらが違うのが救いであろうか。何か別物が成り代わることをしていると考えられる。それが殴る叩くでどうにかなるかもわからない、さらにいえばそれを
その正体がはっきりするまで決定的な一打を与えるのが躊躇われる。
そんな彼女がゆっくりとこちらへ歩を進めていった。
「なあどうするというかどうするつもりなんだよ」
桐が怯えながらもそう問いかけてきた。
そんなことは当然いつの頃から決まっている。
「まずはぶつかってみる!!」
そう言って杖剣ヴェルナントを振り回し勢いよく突貫してゆく。
「ちょ、だからお前は割り切りというのが!!?」
後ろで叫ぶ桐がその声をさらなる驚きによってつまらせる。それ驚きは僕だって同じだ。目玉が飛び出していくかと思うくらいには。
「グググガアァァァ」
そこに存在するのは音速以上で振るわれた剣先を2つの指でつまみ止めて魅せた夢のような悪夢のような現実であった。
歯を食いしばり力いっぱい押し込めてもそこから
そしてそのまま力まかせに放り投げてしまう。
僕は分厚い氷の張ったコンクリートに凄まじい勢いで背中から叩きつけられた。
「ガガアアアアアアアアア!!」
身体中からギシギシと悲鳴をあげる。ただ叩きつけられただけなのにこれ程のダメージを受けるなんて。
僕はこの傷を与えた存在を睨めつけゆっくりと立ち上がる。足元を見ればそこは血の海だ。大体10Lほどであろうか。まったくこれで動けるのが異常だ。いや、まずこれだけ出血しているのが異常でしょうに。
そうだただ地面に叩きつけられただけでこれ程出血するものか。恐らく目の前にいる存在によるものだ。
ふと身体中を精査してみれば血管や内臓などが大きく傷ついてはいるものの意外にも骨の方にはダメージが低い。比べれば骨髄へのダメージもかなり大きいのではあるが。
常人であれば即死となるほどの傷であってもこの程度であればしばらくすれば癒える。
それでも僕が大怪我を負ったことに変わりなくそれを容易く事実を認めなければならない。
僕は現在の自分の最大エネルギー量と同じ量のエネルギーパックを懐から取り出しすぐさま使用する。依然血まみれの姿であるがすでに止血され当然ながらエネルギーも全快した。
平常時、常日頃から自身から発生する余剰エネルギーを蓄えとしている。そしてそれを複数個持ち歩いている。それがごっそりと中身からっぽになったのをみるとかなり消耗してたんだなとわかる。
「いきなり現れてこれはあなたは敵ということいいんですよね」
僕は目の前にいる彼に剣と共にこの言葉を突きつける。
「まさか、君ごときがワタァシの敵になれる御見積か」
妙に芝居がかった口調で聞き慣れた深礼の声に重なって異様なまでに甲高い男性の嘲笑が響く。
この時、僕の中で何かがプツリと切れた。
静かに地面を蹴り駆け出していく。虚空から光り輝く造形物を取り出し杖剣ヴェルナントに取り付ける。これで剣身を自在にエネルギーの塊にすることができる。
先程までよりも遥かに速くそして重い剣撃が連続で放たれる。
そして彼の者はそれをどこからか取り出したか杖でさばいて見せている。
さらにお互いの動きが初速ですでに音速を超えている。
その勢いは安定して続き膠着状態となる。だがその速度は確かに徐々にましてゆく。
そしてやつは自身の後方へ、僕が雪玉を壊すのに使用した炎槍と同様のものを用意してみせた。
その炎槍は僕が放ったものより圧倒的に数が多く巨大である。
風雷神龍はその事実に驚きそして目の前にいる彼女の命を失わないことを諦める。
剣の先が真っ直ぐに突き進む。そしてそれが刺さるその前に…大型のバイクがリアタイヤで咲乃深礼の体を蹴飛ばした。
しんじられないことである。戦闘を行なっていた僕達に一切気づかせずに大きくダメージを与えてみせた。それが僕以上の存在である証明となる。そのマシンもそれを整備したものもそれを操る者もどれもこれも恐ろしい。
いやそうではない。咲乃深礼を彼女に取り憑いていたものから分離させてみせた。まるでそんな事実などなかったかのように。
驚きのあまり少し呆けていたら左側頭部に衝撃を感じ気づいた時には地面に伏していた。
「ななななななななななあぁんだキサマは」
先程までよりも明らかに震えた声で叫ぶバケモノがそこにいる。
どうやら奴はこの事態が受け入れられないらしい。
バイクから誰かが降りて来て風雷神龍の首根っこ捕まえ持ち上げる。
その体つきから年若い少女で僕とそう変わらない年代であると予想できたが僕はこの人物に見覚えがある気がする。
「おいこら。アンタお金足りないんだけど」
「お金が足りない?……いったい何のことですか」
「アンタがケースごと持って行ったコーヒー豆さぁあれ幾らだと思ってたよ。アンタが置いてった札束じゃ足りないってことなの」
「いや、帯の付いた百万円で」
「うん。それ税抜き価格」
あれ、気付かなかったのか。調べて何度も確認したけれど勘違いしてたのか。
僕は懐から財布を取り出し消費税ぶんの一万円札を渡す。
「ああそうそうちゃんと払ってくれればいいのよ。で、お連れさんは見つかった?」
「いや、まだ再会には至ってない」
気性が激しい人かに思えた彼女が穏やかな表情で揺らいで立っていた
「そう、お相手も心配している彼女さん早く見つかるといいわね」
「彼女じゃないし心配はお互いにしない。流石に心配しなきゃいけないほど弱くはないと知っているから」
「へえ彼女さんとも――」
初めて会話する中であるがその雰囲気は随分と穏やかであった。だが忘れてはいけない。ここが今がこの状況が非日常の空間であり非日常の時間でありそれが非現実的で形成されていると推測できることだということに。
そしてこの場にいる誰もがそれを忘れることはない。感情的に掴みかかった彼女、ティアマット=グレイドでさえ当然として行っていた
ティアマット=グレイドがその言葉を止めたのは周囲から聞こえる音が異様なものであったからだ。
咲乃深礼に取り付いてものであろう異形の怪物が氷搭の残骸を身に纏い更に周囲の雪をも取り込み肥大化している。
ティアマット=グレイドがばら撒いたガソリンが引火していたり風雷神龍が杖剣ヴェルナントが軋むほどのエネルギーを込めて炎槍を今日一番の威力で放ってみせたりするが意に介していない様子だ。
2メートル以上の巨体となったこの怪物からそれよりも遥かに巨大な氷の柱を生成して振り下ろす。ティアマット=グレイドは乗ってきたバイクのハンドルを握りしめる。風雷神龍はという剣を振りかぶって叩きにいく。
だがそれらが交差することはなかった。
その視線のあいだに勢いよく横切る人影があった。
「オォィオォィオォィ」
とんできた方向から踵の高い足音をたててゆっくりと歩いてくる音が聞こえてくる。
この落ちてきた白い西洋の鎧に包まれた大男を倒したということだろう。
風雷神龍は音の鳴る方へ意識を向ける。そこにはずっと探していた彼女が頭身を下げ桃色の金属鎧を纏い顕現していた。
そんな彼を驚きを含んだ冷ややかな目で見ているティアマット=グレイドであった。
「さて、………逃げましょうか」
手で力強く握った得物を掲げて地海王爪はそう高らかに逃走の宣言をした。
金属鎧の大男は取り出した短剣を巨大化させ車道の一車線よりも大きいそれを振り下ろす。
だが、そこには地面が大きく深く凹むことにしかならなかった。
「あぁホント逃げられましたねぇ。ああなたも痛めつけられたことですねぇ」
「問題はない、この程度のことではな。相手が弱くなかったのは事実だ」
鎧男が戦闘を行なっていた相手である地海王爪へ思いをはせることをしていた。これはいわゆる一目惚れであろうか。
そんな彼を尻目に氷搭の怪物、いや二足歩行をしており腕があり胴体の上にしっかりとした頭があることから怪人と呼んで差し支えないであろう。その氷搭の怪人は辺りに散らばったG-XZの残骸を拾い集めている。
「おーいこらーアルカ、カイてめえら当然無事だよなーこの俺様は無事じゃねえぞー」
「おや、お冗談もほどほどにしましょうかねえぇ。我々でも飽きます飽きますからねえぇ」
遠くから二人を呼ぶものは魔法使いがもつような杖を持つ年若い青年である。彼の名はフロウジェス。フロウリアの実兄である。皮肉なことに手に持つ杖は魔法を行使するのに使われることはない。そんな彼だが無事でない割には衣服がかろうじてその形を保ってはいるものの肉体へは一切の傷が認められない。
「冗談のわけねえだろうが。あいつマジで尋常じゃなく強くなってもんだからよう………カイお前なにやってんの」
フロウジェスは氷搭の怪人にその行動の確認をした。
「よくわからないものを収集するのがわたあぁしの趣味なんですよおぉ。お忘れですかあぁ」
「あーそんなこと言ってた気がするな………ってあれ、そのその姿なに!!お前さっきまで使ってた皮はどうした」
「解除されたようだ。それも二輪の前輪によってだ」
「ぬああ………」
フロウジェスは思わずうめき声を上げる。
憑り依いていた肉体から引き剥がす。間に合わせのものだったにしてもいとも容易く。そのようなことを行うことができるというだけでもその者のが強いということがわかる。
だがフロウジェスはその点においてはあまり動揺はしていない。フロウジェス達がこれ程してるのかといえばこれを行なったものに心当たりがあるからだ。いや、そうじゃない。その心当たりの人物では自分たちのような異能は使えないはずなのだ。
「へえいったい誰だろうなぁ」
フロウジェスは期待を込めた眼差しを、既に雪に埋もれてしまって見えない四輪車輌の足跡に向けている。
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