第二章 第一話 殺戮序章③

 宇宙要塞デルフェルスその外では深紅に染まった虎ロボットがその口を大きく開けて咆哮を放とうとしていた。この咆哮は一発でも撃たれれば壁一枚程度は容易く貫き砕いてしまうほどの威力を持つ。それもここが堅牢な要塞であることも考慮してという現実があるのだ。

 このような砲撃がここ以外の場所でその他のスペースコロニーに放たれてしまったなら容易くそれらを炭すら残らずに消滅することになる。それほどまでに脅威といえる威力の砲撃が優に三百を超えるほどの数で要塞を囲んでいた。

 それを凄まじい速度で飛び跳ねて撃破を繰り返していた存在がいた。それはこの要塞へと偶然たまたま来ていた特殊部隊のその隊長であるブルックリン・メイガス・ロクショウであった。それはフルスティングの搭載された全身の刃物で切り刻むことを繰り返す。

 だがそれでも虎ロボットはただではやられることはない。エネルギーをためた状態でフルスティングの腕へと嚙みついてこられる。それに対してその頸を刈ることで一つのピンチを回避する。だがその後ろで口をこの背へと向けて構えている個体がいたのだ。それもエネルギーがかなりたまった状態であるため威力の高いものが放たれていってこれでお陀仏だろう。

 瞬時に翼を展開して高速移動を実現させる。そこで現れたのはこの虎ロボットのどてっぱらだ。そのまま蹴りを入れて明後日の方向まで飛ばしていった。

 四方を囲まれて咆哮を放たれたとしても既にその場にはいない。瞬時にその虎ロボット共を切り裂いていく。

『こらっ!いくら自分がここで最強だと思っているからってあちこち好き勝手に飛び回らんてくださいよ!それで置いてかれるのはもう御免ですからね』

 僚機からの通信が入る。後ろの覗けばその馬鹿の声だというのが分かって安心をする。元気な声して傷だらけだなんてもう勘弁してほしいくらいだ。ほんと最後には穏やかな表情を浮かべていると推測できる声が聞こえてきていたとおもえばそれが断末魔の代わりだったなんていうこともざらだ。

 だからこそ搭乗しているその機体が無傷に近い状態だったとしても一切の油断などしない。

 このような姿から奇怪なものに憑りつかれいる汚染感染されているなんていう事態も経験したことがあるからかもしれない。その状態から救える助けられるなんていうのは極まれだ。いくら魔術師の家系でそれに相応しい結果を出しているかといってその結果に相応しい技能を持ち合わせているかといえばそうではない。少なくともそのような事態になって初見の半分近くはその時都合のいい方法なんて手元になかった。それでもう後悔も嘆きも悲しみも抱えてどうにかはした。

 この手でどれだけの戦友を見送ってきたかはもうわからないほどだ。

 だからこそ見逃すこともしなかった。周辺に散らばった虎ロボットの残骸からコードが飛び出していきこの後ろにいるフルスティングの隙間へとめがけて入りこもうとしているのを。だがどうしても距離が離れすぎている。アルデット機までたどり着くには速度がまだ足りない。それよりも残骸ごときにアルデットの馬鹿が捕まるのが速い。

『あぁそういえばこれ渡される前に『制式採用機だからパーツを用意するのは難しくないけどそれでもぶっ壊すなんてのはするなよ』なんて言われたりもしたけど無茶な話だよなあ。ど~せやられたら終わりなんだ、この私がくたばるまで精々使い潰してやるとするか』

 展開した翼をカクカクと小刻みに動かす。すると動かしていた翼がさらに大きく広がっていった。そして瞬時にアルデット機の右側面へと出現する。そこで目の前に映る配線等をエネルギー刃で切り刻んでいった。周囲の状況に気づいたアルデット本人もすぐさま機体を動かしていく。左にて蠢く触手と呼んで差し支えない物を高出力のエネルギー砲で消滅させていった。

 だがそれらを打ち破ったとホッと息をついた直後、先ほどのものが全面を覆うようにして聳え立っていた。いや、左右前後では済まさず上下までとなればこれは捕まったといってなにも問題ないだろう。ただそうやって捕まったほうにしてみれば問題しかないので困るばかりだ。

「ならばどうとでもなるか。なあアルデットさんや、黄泉の国まで付き合ってくれるか」

『なにいってんですか。どこでだって戦場で隊長がやられて一緒にいったやつがいるなんてなったら嫉妬されますから。どこまでだって付き合って大体この時間帯に帰ってきましょうか‼』

 アルデットは機体の背にマウントしていた大砲を手に取る。そしてすぐさま撃ち放つ。

 それによって金属線の障壁が裂けてはいくがすぐさま開いた傷口を修復してしまっていた。

 この反応に首を傾げる二人。ロクショウも同様のことをするが当然の如く返ってくる反応は殆ど同じものだった。これを互いに連続して撃っていくこととした。一発でダメならそれが耐えられない数を耐えられない時間で耐えられない威力のものを撃ち続けてしまえばいい。なんともまあ俗にいう脳筋というやつだ。理由はわからぬがどうやら今のままでは喰らおうなんて気概はないようだ。それならば気を張らず対処していく。だめならその時だ、その時のその場面に合うことを考えて実行すればいい。行き当たりばったりの出たとこ勝負っていうのはもう日常だ。

「だからどうとでもなるって半ばあきらめてそれでも必死になっているんだ。せめて今の私にくらいはこんなありふれた我が儘くらいは言わせておくれよ」

『我が儘ならいつもいってるじゃないですか。今更なんですよ、言い足りないならもうたくさん言っててくださいよ』

 それを聞いて思わず笑いがこみあげてきていたのを自覚するロクショウ。彼はアルデットの使用している大砲を取り上げる。そして自分のと連結をしてしまう。

 そしてすぐさまエネルギーを溜めていき引き金へと指をかける。その間にはうじゃうじゃとした触手が再びこちらへと向かってきていた。速射砲にてそれを露払いとして近づいてくるものを蠅蚊のごとくはたきおとすことをしていた。

 すぐさま時が来てその引き金を引くロクショウ。その際には凄まじい咆哮を噴いてしてそれを聞いてしまったアルデットは思わず通信を切断してしまったほどだ。

 その後に現れたのは変わらぬ戦場であった。このくず鉄ばかりの不毛な戦場には誰も欠損が見受けられないことに安堵の息をもらすロクショウ。なにせ全面が囲われてしまった際にはまともな通信など望めないことになっていたのだ。まあ現状でさえまともな通信なんて戦闘区域だその周辺ではその中ならともかく外となればまともに役に立つはずがない。

『それはそれはこじらせているなあ。でもどうしてなんだい。どうやればそこの君とはまともな殴り合いをさせてくれるのかい』

 突如としてロクショウの乗る隊長機のアンテナの上に見覚えのない男が現れた。それも顔も全身を覆わぬ生身でありどうしてそれでまともにその人型を保っていられるのは通常の科学技術で考えてもわかる。

『こいつはまともなじゃあない。なら簡単にくたばることはないから安心して殴りかかっていけって。そうでしょう‼』

 そしてアルデットはかっこよくもまあアンテナに一切の傷をつけずにその上にいる変質者に向けてバルカン砲を撃っていった。

 拍子抜けするくらいにそれを容易く全弾受けてしまったその男。ただその男は多大な出血が見られるものの倒された上体をすぐさま起こしにかかっていく。そして周囲に散らばる虎ロボットの残骸を自身の手元へとかき集めていた。その際にはフルスティングなどの要塞にて存在して今回の戦闘で破損してしまったそのようなものまで巻き込んでいっていた。

『隊長これってこれで撃ち抜きます‼』

 先ほどまで酷使していた大砲を持ち出してきたアルデット。それも二つ連結した状態でだ。ロクショウのフルスティングは隊長機とはいえそう何度も連続で撃てるようなものではない。冷却やエネルギーの回復などに努めなけれいけない。無茶をするつもりならその限りではないがその場合は後先など考えないことでありその後は少なくとも修理なしで戦うなんてそれこそ無茶な話だ。

 ただでさえ現在は巨大な翼を展開している。これは機体に大きな負担がかかるために切り札として口酸っぱく言われていたものだ。

 だからこそこれ以上の無茶を自分一人でやるよりは押し付けられる血気盛んな馬鹿がいるならそうして押し付けてしまえばいい。

『なんていえたもんじゃないでしょ隊長は。まあめんどくさい馬鹿が融通の利く馬鹿に変わっていったってところかしらね』

 離れた場所にいる僚機からなんとも呆れた声が聞こえている。その声の持ち主が無事でいるであろうことに一応の安心を覚える。そして先ほどまでの独白が聞かれていたのかと思うと身体が震えてくる。

 そんな彼の眼前ではとてつもない高出力のエネルギー砲がガラクタの渦の中へとぶつかっていくそのような光景が映し出されていた。アルデットの耳には何か軋むような音が聞こえてきている。それがこちらの機体によるものなのか向こうの渦が揺れ動いているものなのか判断がつかない。ただここで一つの結論が出てしまう。

 プラスチックが割れるような甲高い音を幻聴として聴いてしまう。そうして彼の操縦するフルスティングのマニピュレータの近くにあったのはただの砲身の残骸であった。視線を再び前へと向ける。そこにはしっかりと残骸が回る渦は消え去っていた。ただその代わりかという風にその場にあったのはこの要塞を取り囲んでいる深紅の虎ロボットを擬人化したかのようなマスコットキャラクターかと思えるほどには愛嬌が感じられる。

 問題があるとすればそれを簡単にかき消してしまうくらいには圧倒的なエネルギー量を内包している、そしてそれを隠す気がなくむしろ辺りへとまき散らしているくらいには示している。

「アルデット、お前ここから逃げろ。そしてとっとと近くで暴れているはずの馬鹿の一人をこっちへ連れてきてくれ。できればの話だが」

『いったいなんの話を逃げ――――――、あぁわかりましたよ。あの連中の誰かなら言い訳ですね。すぐに戻りますから精々気張ってくださいよ‼』

 そんな風に相手が軽い調子で立ち去っていくもんだから思わず笑いがこみあげてくる。全くこちらが負けるなんて微塵も思っていない感じだこれは。

「それこそ気張らにゃ嘘だよなあ‼どこまでだって付き合ってやるからどこまでいきたいかいって見ろよもうついてるからさあ‼』

 もう誰も音を拾わぬコックピットの中で叫び倒していた。そうしてこの怪物のいる場所をぶち壊しに向かっていく。

 幾層にも重なった圧力を振り切っていってこのふざけた顔を切り刻む。

「………………見掛け倒しもここまでくれば芸術点だな」

『それは………………もらえるならもらっておきたい性質たちなのでね。ではその芸術点とやらをいただこうか。さぁそちからその全てをいただこうか』

 そんな馬鹿なことをいうふざけた格好の怪物はフルスティングの背に付くバックパックに垂直に立っていた。

 そこから無動作に腕を刺し込んでいった。そしてそれをいとも簡単にべりべりという気色の悪い音が聞こえてきていた。宇宙空間で音などなるはずもないためこれはそれこそ内部から伝わってくるものかそれとも恐怖で引き攣ってそのうえで聞いてしまった幻聴であることが推測できる。

 すぐさまバックパックを切り離して吹き飛ばしていく。案の定それはこのふざけたマスコットに取り込まれてしまっていた。

 これで向こうに推力をもっていかれたことになったか。ただ巨大な翼はこちらの本体に搭載されたものであるためにバックパック奪っても再現なんて不可能だ。

 それでもやはり大きさが違いすぎる。スペックが大して変わらないどころか強大なものに対してそれよりも巨大なサイズで挑む馬鹿がどこにいるのか。ほら、こうして右腕を抱えられてしまう。それはミサイルで破壊する。その自分で撃ったミサイルの衝撃によってそれから距離を離していく。

 だがそんなものは知らんとばかりに瞬間移動かと見紛うこととなった。両足にそれぞれ同じ姿の怪物が現れて取りつかれてしまってした。それを手から飛び出すエネルギーで構成された剣で切断してしまう。

 また再びその姿を消してしまう。

「もう片腕、それも左のみとなったか………………。それでも負けることなど認められるかッ‼いいや違うな、自分じゃどうやってもいつまでたっても勝てないなんて言われたくないことなんだろうな。ならもう次に現れる場所なんていうのもまるわかりだ」

 ロクショウは明後日の方向へと左のマニピュレータを向ける。いやこれは確かなものを示している。この方向にいるのはアルデットの馬鹿だ。そのマニピュレータはライフルの引き金をひく。

 そしてまっすぐにエネルギーの弾丸が放たれていった。しっかりとその方向を歪ませる事無く進んでいった。そう、アルデット機の頭上にいたふざけた怪物めがけてそれこそ綺麗なお手本のように。

 その怪物はすぐさま姿を消してしまった。そして次に現れる場所がどこかなんていうのはハナから目星はつけていた。というよりこちらが本命になるだろうか。

 その時既にロクショウの乗っているフルスティングは再び巨大な翼を展開してしまっていた。ただもうここで後なんて考える必要なんてない。

 ほら、案の定こうしてコックピットの中にまで乗り込んでくる馬鹿な野郎だった。

 既にコードは打ち込んである。後はこの一つのボタンを押せば終わりだ。御覧の通りこうして誰もいなくなったじゃあないか。

 隊長のロクショウとは随分と離れてしまっていたアルデット機の後方では彼が見たこともないほどの爆発をみせられてしまっていたのだ。

「ハハッ綺麗な華だなぁ。こういうのが見れるのがこの職に就いてる魅力だよなあ」

 そうやって要塞の発着の場所まで飛んでこられた。ここはかなり入り組んではいるがしっかりと道順を知っているものにとっては入りやすいようにできているために普段から笑い話にもなっていたりする。

 ただやはり実際にこうした事態になってみれば入りずらいのではないかという風に思えてきていた。

 相も変わらずにぎやかな様相の格納庫ではあるがそれでもこの異常で非常な事態に対して皆が必死であることは見て取れる。

 アルデットはすぐさまコックピットを開けて機体から降りていってしまう。そしてハッチがしまっていることを確認してヘルメットを外してしまった。

「フ~~~~~~~~~、ようやく戻ってこられた。ま、すぐ出ていかなきゃいけないからゆっくりなんて出来ないんですけど」

「あぁなにいってんだこの馬鹿は⁉ええ加減にしないともうこっから飛び立たせてやんねえぞごらあ‼」

 早速アルデットのフルスティングへと作業を取りかかろうとして首元へ乗っていた作業着姿の男性から怒号が飛んでくる。

「冗談でしょう?そういうことはしないって信頼してますから。それよりも隊長のことが心配で………………。あぁそういえばデッドローグ乗ってきた連中って今どうしてます」

「知るかよ。あぁそういえば見たこともないというか伝説みたいな機体がその船から飛び出していったいうのを聞いた話がって持ち込んできた人がいるから。これつまり又聞きの繰り返しつまり噂ってことよ。役に立たんもんでしょ」

「わかった、それでは機体が直るまでに生身みたいなもんで頑張ってくるから」

 そう足元で作業している若い男へと告げてその身体の補給も満足とはいかない段階で頭にヘルメットをかぶせてしまう。

 そんな彼を呼び止める声がかかる。それは現在この現場を指揮している作業着姿からのものだった。

「馬鹿いうんじゃねえよ。自分の手がけた機体をぶっ壊されて手持ちがないけどその身一つでどうにかしますなんていって飛び出していっても困るんだよ。それならもう未完のだろうが十二分に動くのがあるならそれ使っていってくれたらいい。ほらよ、そこの開かずの扉に入ったの一つだからちゃんと番号確かめろよ」

 すごくやさしさを感じられる言葉と共に上方から落とされてきていたのは簡単なアナログ式の金属鍵だった。そこには型式番号が刻まれていた。

 それには首を傾げながらもしっかりと頭を下げて礼を示す。そしてここから凄まじい速度で目的の場所へと向かっていく。

 何せ開かずのなんて言われてはいるが頻繫に開けられておりその開ける権限を持つ者がそれこそ部隊の中でさえ隊長のロクショウぐらいにしか存在していなかった。ただどちらかといえば開発に際しての意見を求められてというのが多かったのが事実なのだが。

 それはそれだ。アルデットの前にやたらと重厚感のあるそして随分と傷のついて使い込まれた扉が鎮座していた。

 アルデットは足元についた鍵穴へと躊躇なく差し込んでいった。そしてくるりと回す。それで何かが噛み合うようなそんな音は伝わってきたが別にこの扉が自動で動き出したりなんていうことはないようだ。

 まぁここでも首を傾げながらもドアノブを掴んで押し込んでいった。すると簡単に開いていった。これには拍子抜けするくらいだ。

 そして入ってきたこの場所を見渡していく。どうやら人員に関してはここには現在置いていない様子だ。当然だろう、この状況に置いても余裕ぶっこいて機密の秘密兵器の面倒見てまして使う前に壊れたもしくは奪われましたなんてなったら洒落にもならない。

 そしてそして何故か何故か異様な泥人形がこちらへと異常な動きで振り向いてきたいた。

『おやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれは何用でこのようなばじょまでおいでくださったのかな。ちなみに麻呂はここのものではない安心してくれたまえ』

 なんともまあ気持ちの悪い動きが幻視されるが気のせいだろう。あぁ気のせいと思わなければやっていけるはずもない。

「へぇ~~~~~~~~~~。………………………………あぁわかったそうかどうとでもなる。ここに隊長がいればここに来たのが隊長だけであったならそういってこういうふざけた野郎なんてあっという間に蹴散らしてしまうんだろうなあ。だけど知ったことか。そこをどけ、貴様に構っている時間がどれだけだろうと惜しいことに変わりない」

 そうな風にこの泥人形に向かって拒絶の意思を告げる。そして隊長に片手間で教わっていた魔術で炎を手元へ起こしていた。それを握って炎のパンチを実現してみせていた。そして躊躇なく叩きつけにかかる。

 それを容易く躱す泥人形。お返しとばかりに強く握った拳を振るっていった。

「見えてんだよ‼」

 それこそ簡単に炎の拳をその泥だんごに当てることに成功する。そしてその泥人形には悲惨にも周囲へと飛び散ることなく蒸発してしまっていた。

『ドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバドバなんということだ⁉まさか麻呂がこうも簡単に治癒できぬ傷を負うとは‼どこまでもふざけた国だならばそのような麻呂を傷つける国など滅んでしまうがッ⁉』

 握っていたその炎の拳を開いてその手でうるさいうるさい泥人形を引き裂いていった。それによってやはりこれでも蒸発なんていう結果になってしまう。だがそれでも安心などできるはずがない、このまま喋らなくなるまで焼いていったところでこの未熟者には確認できなくとも飛び散ってしまっていてそこからうるさくなるのではという考えが浮かんできてしまう。ただ、

「こんなこともあろうかとなんて普通はいわないしそれは用意したやつが相手にいうことではないだろう。だからこう告げようか、残念だったな」

『なにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをなにをいっているのだここからでも一瞬にしてこの空間を麻呂で埋め尽くすことも可能だというのになあ』

 暴れ散らかして突進してくるがそんなのは知ったことではない。アルデットは荘厳で長ったらしい詠唱をおこなっていた。その詠唱の際にも既に泥人形のあちこちに炎がまとわりついていた。

 そして手元で回していたステッキにキッスをおこなった。これは本人の気分だ。特に意味はない。

「だからどうした。これで終わりだ」

 この時にはもう既に決着はついたとの宣言が。そして実際にその通りであった。




 要塞のすぐそばでそのようなことになっているとは知らずに飛び回っていて砲撃で多くの虎ロボットを撃破してまわっていた。

 それもほとんど操っている機体が人型を取らずに動き回っていた。その姿といえばまるで巨大な砲身そのものといった形であった。

 そこから放たれる高出力のエネルギー砲によって周囲に散らばる深紅の虎ロボットが一瞬で消し炭となっていた。

 それでもわらわらとどこからともなく飛んできて襲い掛かってくる。そして手のあいたのがやはりこの要塞の方へと向かっていってしまうといった事態だ。

「これはまずいことばかりですが………………。自分とてこの程度では諦める性質はしてませんからね。どれでもかかってきなさい」

 後ろから口を大きく開いて嚙みついてくるような奴を変形途中からの蹴りで簡単にひしゃげさせてしまう。

 そしてエネルギー砲によってそれを破壊する。周囲から一斉に向かってこられた場合にはどうするかなんてそれはだいたい決まっている。砲身の形に変形をしてエネルギーを溜めていく。そしてその虎ロボット共が触れるかというその一瞬で動きがあった。砲身がくるくると回っていってその捕り付いてこようとするものを全て破壊していった。

 そのコックピットの中では笑いが響いていたがそれを自分でうるさいと思ってすぐに黙ってしまう。

 そうしている中で一つの船が近づいてきていたのが分かった。それはどうやら一見して貨物船のように見える。特に派手な武装なんていうのは見受けられない。あるのは護身用みたいなことで申し訳程度にあるくらいのものだった。特徴的なものといえばなにか脚がついているくらいか………………。

『そこの船今はこっちに来てはいけないすぐに立ち去ってくれ!』

 ハンティングに乗るオルトス・ダイアモンドが必死になって呼びかけてみるがこのような状況で聞こえてくれるとは思えない。そして案の定というかなんというかここらにいた虎ロボットはその貨物船へと襲い掛かっていってしまった。

「やはりこうなりますかッ!ならばそれよりも自分が動けばいいだけですよね。なあ」

 砲身の形に変形して設定を調整する。そしてこの砲身をとんでもない威力で燃やしていって飛んでいった。

「これはやるたびに二度とやらないと自分に言い聞かせているがそんなのは誰も聞いちゃくれませんから。そういった自分も含めてね」

 ヒトと比べてしまえば途轍もなく巨大な全身をロケットにしてこの虎ロボットたちを追い越してその前へと立っていた。

『オラオラとっとと道を開けろロこらあぁ‼そうしないならそこらに転がってろよなあ‼』

 そんなふざけた叫び声と共にその貨物船から桃色の人型ロボットが飛び出してきていた。そのロボットの腰には日本刀と呼んで差し支えないデザインのものがつけられていた。

 桃色のロボットはその日本刀を鞘からゆっくりと引き抜いていく。それはちゃんとしっかり中身も日本刀で合っていた。

 その日本刀で近づいてくる虎ロボットを容易く切断していく。そのようにしていき貨物船の道筋を揃えていくことをしていた。そして切り裂いていった虎ロボット共を踏み台にして加速を始めていた。

 思わず見惚れていたオルトス・ダイアモンドの視界が突如として想像していなかったもので埋まってしまう。すぐさまキーボードを叩いてそれに対応していった。

『おいこら‼いきなりどういう用件だごらあ‼こっちはただ大したことでもない仕事で呼ばれただけだっていうのにさあ‼答えてくれねえならいいやもうとっととくたばってその機体を置いてってくれよなあ‼その方がこっちとしても楽でいいからさ‼』

 日本刀でハンティングの頂点めがけて斬りかかってこられたところを実体盾で受け止めることをしていた。だがこの盾もものの数秒で切断されてしまっていた。

 向こうがすぐさま再びこちらへと斬りかかってこられたのを確認する。脚で相手の肩を蹴り飛ばすことで姿勢を変えさせてそれを躱す。この蹴りによって相手方の肩の装甲が外れてしまっていた。どうやら強く蹴りすぎてしまったらしい。

 「その上からでもまだこっちに向かって来そうなのが怖いですね。むしろこうしてわかりやすく見える形で傷を負わせてしまったのは何気に面倒ではあったかもしれない」

『な~~にをぶつくさいってんだこいつは‼どうして俺たちが襲われなきゃいけないんだよ‼それ聴けるまで納得いくのがでてくるまで追いかけてぶつかっていってやるからなあ‼』

 年若い少年といって差し支えないであろうそんな声が聞こえてきていた。どうやらそれほどの人間がこんな機体を動かしているなんて………………。それをいい始めたら知り合いも大体同じくらいには若いか。

 それに決して他人のことなんて言えないくらいには幼い時から戦場にいたか。

「そんなことはこっちが知りたいくらいですよ。このふざけた連中がどこから出てきたなんて誰かに聴いてわかるくらいなら今すぐにでもここから飛び出していってその誰かの元までいってやりますから」

 二人の機体を囲うようにして虎ロボットが集まってきてしまっていた。彼らの視界の中では貨物船が追いかけ回されているのが映っていた。ただその貨物船の動きが余りにも奇怪なものであった。鈍重とも思える船を巧みに動かしていって虎ロボットの咆哮を紙一重で躱していっていた。咆哮には副次効果として波による衝撃も含まれているはずなのだがそのようなものを感じさせぬ、いやこれはその波に時に乗って時に抗っていって暴れていた。自分を特異な位置へと置いてそこで攻撃を誘導していく。そこで放たれた攻撃というのが干渉しあって互いにその身を傷つけていた。この際には貨物船は殆ど無傷といって問題ないだろう。

 ハンティングとその正面にいる桃色の機体は互いに足を踏みしめて前進をおこなっていった。ここは宇宙空間であるためにこの動きに大した意味はないだろう。

 そして互いに位置を入れ替えることとなった。その場にいた深紅の虎ロボットたちはすべてバラバラに切り刻まれてしまっていた。そこにあったのが刃物によるものか

熱線によるものかの違いはあれどそうした部分では大した差はない。ここにいるわけのわからん真っ赤なロボットは一通り破壊されていった。

 桃色のロボットのパイロットが周囲を見渡した。そしてコトコト何かを煮ているような音がオルトス・ダイアモンドの元へ聞こえてきていた。

 余りにも正気を疑うこと仕方のないことだと思うがこれはいったいどういうつもりなんだろうか。

『あぁ湯冷ましなんて用意するの面倒だからこのまま飲んじゃっても………………。流石にやめとくべきだよなあ。ここでぶちまけたら電子機器とかにかかったらもう笑えないからなあ』

 ダメだこいつ心の余裕というのがもうたくさんで仕方のないのかもしれない。オルトス・ダイアモンドは桃色のロボットの肩をトントンと叩く。もちろん装甲の残っている方をだ。

『は~~い、なんですか。俺は今このお湯をどうすればいいかなんて考えていたりしているんで暇じゃなんですよ。要件があっても簡単なものでお願いしますね』

 この男は大丈夫だろうか。これでよくもまあ今の今までやっていけたものだ。それもこれもあの船にいるものたちといろいろなことを経験していったことだろう。彼以外もまあ誰も彼も癖が強そうだ。

『君たちにはとっても悪い知らせがありますが』

「………………………………。なんだよいってみろよその悪い知らせとやらよさあ。できればそこにいい知らせも加えてさな」

『ご期待に沿えず申し訳ございませんというべきなんでしょうか。生憎だがこの赤いのがここだけにしかないと思ったら大間違いです。今現在ここ宇宙要塞デルフェルスにてこのような虎のような』

「いや虎はもっと可愛いだろ。これは別のなにかだ」

 非常に大事なことなのでしっかりといっておかなけばならないことだこれは。今、この男はほかに沢山いるっていったか。

『そうですか、では続けていきますね。まあこのようなのがゴロゴロとそれこそこの要塞を囲うようにして存在して知るわけです。それどころではなく既に要塞の外壁に攻撃を仕掛けている状態です。それらを一発でも撃たせてはいけないなんて無茶な話でしょうが現実です』

「あぁそうかい大体だけどもうわかったよ。それで悪い知らせというのはなんだよ。ないならもう面白そうだしで参加してってもいいか。というかもう行ってくるわ‼」

 そんな風に告げて飛び出していくことをしていった桃色のロボット。

 あぁなんか『ヒャッホ――――――――――――――――――――――――い‼』なんていう叫び声が聞こえてくるがこれは幻聴だろう。流石にあれだけ離れていってその声が聞こえてくるなんてあってたまるか。そうに決まっている、そうでなければもう………………、素直にオカルトの類だこれ。

 桃色のロボットが飛び出していった貨物船がこちらへとやってきていた。あれだけの異常ともいうべき動きと最低限の武装でかなりの数を減らしていっていたらしい。それでも未だ多くの虎ロボットに追いかけ回されている状態となっていた。

「………………………………………………………………………………………………………………忘れてたな。自分の家よりも優先することがあるのかあの男は、それとも仲間家族を信頼しているというところか」

 オルトス・ダイアモンドが口を開いた時には既にもう貨物船の後ろにいた深紅の虎ロボットはすべて動けない状態となっていた。

「す、すげえ」

「あれを欲しいなんていったらここにあったりしたりしないか」

「冗談だろ、あれは大戦中で大暴れした一機だ。それもあちこちが改修されている様子だ。あんなのもうどこに図面があるのかなんて話になってくる。ただあの機体ハンティングを超えるのを用意しろなんて言う方がうちらにとっては簡単かもしれないけどな」

 そんな会話がこの貨物船の中であったとかなかったとか。おそらくあったことだろう。

 貨物船からワイヤーが伸びてきてハンティングへと引っ掛けてきた。

『あの、うちの馬鹿なんていって走っていったんですか』

 この貨物船からであろう。こちらとの信号を確かめることをしていた。

『さっきの怪物が他にもうじゃうじゃいるなんて伝えたらそれでといった感じですかね。気安くいうできことではなかったとは思いますが自分もここに勤めているわけではないので今更どうこういっても仕方のないことではありましょうが』

『そうですか、では我々はこのまま港まで向かっていくこととします。ありがとうございました………………、でいいのかな?』

『開いてると思いますか。この非常事態な戦闘中に打合せしてないのが急に来られても困ると思うんですけど………………』

 それを聞いてかすぐさま舌打ちがマイクに拾われてしまっていた。そして数度の足踏みの後吐息が耳に入ってくる。

『わかりました。それでは仲間になりたければそれだけの実力を示せとそうですかそうですかではこちらもかなり気合を入れて望ませてもらいましょう』

 そうハンティングへと告げてこれまた凄まじい機動によってここから立ち去ってしまっていた。ただワイヤーに引っかかって巻き込まれる形にてそれに引きずられてしまって存在がいることを忘れてはいけない。だがそのようなことは不可能だこの時点で皆ワスレテイル。




 鬼公量産型改造式を動かしているのはフロウリアであった。彼が動かしているのはその呼び名の通りに大きく調整を施しておりもはやそれこそ改造と呼でるものであるためだ。

 まずコックピット周りからして違っていた。操縦する彼が機械が苦手ということもあるのでそれ相応のシステムを搭載している。

 立って前面に映る標的に向かって蹴りを放っていけばこの機体はそれ通りに動く。そして背からのしかかってこられた場合にはそれだけのフィードバックがパイロットへとかかるようになっていた。そののしかかってきたガラクタに関しては手持ちのブーメランで切断していく。

「いったいどこの誰がこんなふざけた真似をして………………………………………。昼寝の時間を遮ってまでやることかよ。なあバーデス・ヴェードさんやあ、俺はこれからどうしたらいい。オルトス・ダイアモンドの馬鹿は捕まったかと思えば気づいたら機体出して飛び出していったし説明求めても何もわからないそんなのは自分たちで調べることだろうなんて言われてさあ」

 するとバーデス・ヴェードからではなくグレイシア・アルボロスから声がかかってきた。それもまあ軽い調子で深刻なことを語りだしていた。

『このデスパレードの近くにいれば流石に安全ですなんてことは言えないけどそれでも充分な活躍やできると思う。それで提案なんだが、もう俺たちだけでこっから脱出してしまったら楽じゃねえか』

 一つ二つと口を開いて突進をしてくる虎ロボットに対してブーメランを投げて切断していった。だがそれでもうじゃうじゃと湧いてでてきてしまっていた。

「無理だねそれが出来れば誰も苦労なんてしてない。それをするよりはこの事態の終息の方が一大事だ。ここから俺らがいなくなってそれでこいつらがいつまたどこかを襲うかびくびく怯えながら生きていけって。それは無茶な相談だ。なら速いくらいにとっととこのふざけたガラクタ共の原因を探さにゃならんからさあ」

 そうしてデスパレードから少し距離を取ることをしていた。より機動的な攻撃をおこなうならそれだけの空間が必要となる。ブーメランを手元へと引き寄せていた。姿勢を低くしてそれを力強く投げていった。

 それは視界に映るガラクタ共を全て綺麗に切り裂いていっていった。

 デスパレードへとこのデルフェルスから通信が入ってきた。すぐさまそれに応答をおこなってしまうグレイシア。

「こちらは絶賛好き勝手に暴れさせてもらってますけどそっちから連絡くるってことは面倒ごと引き受けてくれってことですよね。嫌ですよ絶対に引き受けませんから」

『ロクショウの機体を消失ロストした。そっちで探してもらいたいのだけど。頼めるか、というかお願いしますあいつ失いたくはねええんだ。今はもうこんな事態で皆動けなくてそれで自分が飛び出していこうとしたらさあ周りから止められるわでもう大変なんだよ。他にこんな無茶頼めるの知らねえんだよだからお願いします』

 なぜだろうか。音声だけしか送られてきていないというのに向こうでは頭を下げているのが伝わってきていた。彼にとってはよっぽど大事な人なんだろう。まあああいう人ならばだれが消えたかなんていっても飛び出していこうとする馬鹿なんだろうとは予想できる。

『それって別にそれこそオルトスの野郎に頼めばよかったじゃねえか。それが起こった時にはもうそばに居なかったというやつか』

『そうそれ、で頼まれてくれるか。もうこれ貸し二つでいいからさあお願いだ』

『もう黙ってくれ。とりあえずここの隔壁開けてくれ。そうしないとここから出てこれないからさあ。なあに安心しろってちゃあんとその馬鹿野郎を拾ってくるからさ、デーンと構えていればいいんだよ。今までのお前の上司だってそうだったろ』

 それを聞いた途端に司令室にてキーボードを叩き始めることをするアンドリュー・アンドロス。部下に命令することなく自分でこのようなことをしてもまあこの人ならで済まされてしまうくらいには傍若無人で知られている。

 そして彼は常にその場所で他に誰もいないことを確認していた。そのためここから巻き込まれての事故がありましたなんて流石にないだろう。このように自分が油断していることも自覚しているためにこれで何かがあっても夢見が悪くてたまらない。

「これでどうにかなりますかね司令殿」

「知るかよ。できることを全部やる。それで犠牲が出たんだとすればそれはもうただただ我々の力不足だ。申し訳ない想いでいっぱいになる」

「そうならないためにこうして複数の手段をとっているわけでしょう。アルデットの方が少し手間取るかもしれないなんていってこうして他のとこにまでマイク越しにではあるけど頭さげてさ」

 それをいくつものモニター画面を眺めながら聞いていた。そして急に立ち上がってくるりと一回転をおこなっていた。

「なあレビアたん、ここ任せていいか。やっぱ大真面目にいかなきゃいけないとこがあったわ。それも他に任せられないようなひっどいとこが」

 軽い調子で発せられたその言葉にこの空間がシャンと引き締まったようになる。

「おう、とっとといってこい。みあげ話期待しておくからな」

「こっちは皆で楽しくやっていますから安心してくださいねえ。その結末を笑っていたりしたらごめんなさいねえ」

「飽きたら戻ってきてくださいよお。仕事なんていくらでもありますんで」

「まさか私たちが嫌いになりましたなんていって帰ってこないのは無しですからね。そうでなくても皆司令がいなかったら書類仕事もまともにやらないような人たちなんですから」

 それぞれここにいるものから三者三様の言葉を贈られていた。それに朗らかな笑みで返してきたもんだからそれを見た皆が不安になってしまっていた。

「じゃ、いってくるわ」

 そして一目散にこの部屋から出ていってしまった。

 その後に彼がでていったばかりの自動ドアがスライドする音が聞こえてきた。

「なんですか。司令あれだけ気張って忘れ物なんて情けないことありませんね」

 ただそこにいたのは当然ながら彼らの司令ではなかった。アンドリュー・アンドロスの姿をした何か。ただのケダモノダ。

「一体あなたはどこのだけです?その姿はどこで手に入れたものですか。昨日今日でというのはあまりにもなじみすぎている。それほど違和感の出ないようにするなんて長年にわたっての付き合いがなければ難しい。それこそ本人くらいでなければ。そしてあなたは私たちの司令とはあまりにも違いすぎる」

「同じですよ。この私が本物オリジナルだそこを否定されたらお話にもならないから。あぁそうだこの私こそがアンドリュー・アンドロスだ‼」

 司令と同じ顔をしたケダモノが司令と同じ声で司令と同じ仕草でここにいる他の誰も知らないケダモノだけの動きを見せ始めた。

「バァン!」

 虚空から陽炎のように揺らめいている銃を取り出す。そしてそれを構えて引き金を引くような動作をおこなった。

 このケダモノの正面に立っていたグリフェイの右胸がきれいに撃ち抜かれていた。

「グリフェイ⁉」

 予兆なく傷を負ったグリフェイに駆け寄っていく一人の男。彼は躊躇なく衣服をひん剥いていった。ただそこにあった衣服や胸ポケットに入れていた金の延べ棒には一切の傷が見当たらなかったということになっていた。

 それはいったいどのような攻撃だったのか。フィンが傷を負った胸へと手をあててみる。

「っつ⁉どうしてこんなに熱いのか。いくら撃たれたばかりとはいえ弾丸一発でここまで熱くなるなんて普通じゃねえぞこんなの」

「う、動けこの野郎が………………………」

 撃たれたグリフェイといえば必死に歯を食いしばって立ち上がろうとしていた。だがその表情は苦痛によって歪んでいるのがよくわかる。

 それを見て愉快な表情を浮かべているケダモノが存在しまっているのがここにいる者達によオオオオオオく映っていた。

「じゃあもう一発いこうか。バァン!」

 このケダモノは再び銃声を口で鳴らして陽炎の引き金を引いた。それも敬愛する上司の顔を醜悪に歪めながら。

「そうだな。動いたほうがいいか」

 この部屋の機能のすべてを一度停止させてしまう。ここでおこなっている管制とかは実際のところ必要ない。そんなものがなくてもないなりで自分たちでなんとかしてしまうものしかいないと信じている。

 それにここにいるものの総意として一つ存在しているものがある。

『こいつの顔含めて気に入らねえ我々はその貴様の全てを唾棄する‼‼』

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼それそれは大きくでたなあ。だがどうする?君たちの上司と同じ顔をしたものをそんなぞんざいに扱って構わないというのかね。それはそれは大きくでたなあ」

「なあにどうせあの人だったらテメエみたいなのを追いかけてそのために生きてきたんじゃねえかと思えばいろいろと辻褄があうからさあ。もういなくなってくれよ」

「ええ全くです。あの人は肝心なところは何も言わずにいて勝手に出かけていって気づいたら傍にいるなんてざらにあることですし。だからあなたはあの方にとって害悪にしかなりません。これ以上の風評被害になる前に痕跡一切消してキエテクダサイ」

 口々に罵倒を含めての言葉を浴びせられているケダモノ。その表情は非常ににこやかなものだった。

「アハハ!そうですね確かに私の存在なんてもうちっぽけなのかもしれない。でも知ったことか。ならばやつが私の全てを奪ったというなら私も奴から全てをいただこうか。私を使って手に入れたものを多くね」

 そして再び陽炎の引き金を引く。

 それで二人が倒れてしまうがそれは後回しだ。決して大きくもないここが正しく要塞と呼ばれる理由によるものだ。あとでどうとでもなる。

 距離で最も近くにいるフィンがケダモノへと向かっていった。

「だからそれでどうにかなるなんて思わないことだ。これでも私は魔術をたしなんでいるのでね」

 そのような宣言をして両側が波打ったようなノコギリとも呼べない奇妙な刃物を取り出していた。フランベルジュというものであろうか。その剣でフィンの頸を刈りにきていた。

「うちの国のものが言うことでもないけどさあ文明の利器ってやつはよっぽど強いぞどこまでやれるか楽しみだなあ」

 フィンは次がどうなるかはわかっている。だからこその笑みをこの顔に浮かべていられるのだ。上方へと腕を躊躇うことなく伸ばす。

『ギロリゴロリキリキザメヤゴラア‼‼‼』

 低い重厚感のある電子音が天井から聞こえてきていた。そしてフィンの手元へ虚空から現れるは紅く派手なカラーリングのチェーンソーであった。

 それを掴んで大きく飛び跳ねていくフィン。ケダモノが片手で陽炎の引き金を引くことをした。

「今更そんな小手先の手品が俺たちに効くかよお‼」

 弾丸は確かに撃たれた。ただそれが無傷で済んでしまうほどに強固な肉体へと現在成っているだけだ。だから決して自分が強くなったなんて思いあがったことをすることはない。

 頭へとまっすぐに振り下ろしていった。そこでケダモノがフランベルジュで受け流していく。ここでお互いの剣がこすれあうことでそれぞれに引火してしまう。

 ケダモノはそのフランベルジュを数回振ることで簡単に消化してしまった。

「さてとそちらは―――――――――――――――⁉」

 彼のケダモノにとっては驚くべきことが行われていた。このフィンという男は引火したチェーンソーをこちらへ向かって振り下ろしてしたのだった。スターターを引くことで重たいエンジンが鳴らされていく。そしてそのチェーンソーにまとわりついた炎がさらに大きくなっていた。

 そのようなものを見たケダモノはとっさに陽炎の引き金を引く。それで少し剣筋がぶれることとなった。だがフィンはすぐさま姿勢を正してそこから自らの意思で崩していく。

 必死にフランベルジュで応戦するケダモノだったがものの数合でヒビを入れられてしまう。しかもそれで分かったことといえば相手が本気を出していないという屈辱を現在進行で受けている事実か。

「これで満足か、弱いものを甚振ってこれで満足か。あぁ満足だろうな、これより楽しいことなんて他にないものな。さぁでは私をとことんまでゲブラッシャ⁉」

 非常に重たい炎でぶったたいてやった。これでもこの性根が直らんようならこれから一度はくたばってもらったほうがいい。

 フィンはチェーンソーのスターターを一回それも強く引いた。軽い電子音と共に刃に纏う炎の密度も大きさも強くなる。

「あぁそうだ。もう終わっているからな。痛い目に遭えば幸いだ」

 そしてそれをここにいる他の誰も追いつけぬ速度で振るっていった。鈍い音が部屋にゆっくりと響いていく。

 煙が晴れた頃にそこにあったのは黒く円い消し炭くらいなものだった。

「………………どうやら逃げられたらしいな」

 この消し炭を観てそう呟くフィン。握っていたチェーンソーを虚空へと投げる。その際に粒子の形になって消えていった。

 そのすぐ後にこの部屋のモニター画面が点きターミナルコンピューターがこちらの操作を受け付けるようになっていた。

 パンパンと軽く手を叩くフィン。

「お前ら、いつまで寝てんだ仕事は一度致命傷負ったくらいじゃあなくなってくれないぞ」

 そのすぐ後に咳き込むのと共に身体を起こして者がちらほらと見受けられる。その者達には決まって胸や眉間などに致命傷と呼んで差し支えない傷が風穴開いていた痕跡がある。それらはすでに塞がっている。そして皆が自分の席へと座って仕事へと戻っていった。





 そしてその隊長さんといえばふざけた姿の怪物と生身での殴り合いを繰り広げていた。

 自身の乗っていた機体の残骸を蹴飛ばしてこの虎ロボットの擬人化野郎へと当てていく。それを拳一つで破砕してしまうネコパンチ。

「それはもう驚くばっかだな。こっちは単独で艦船動かしていくのが生業だっていうのにそれを否定していくことばかりだ。私を何だと思っているのかこれでも一介の船乗りだぞ」

『それはもう期待ばかりを押し付けて申し訳ないですけれども。でもそれでも本音をいえばもっと色んなものをあなたに魅せてもらいたい。あぁ名乗るのが遅れましたねこちらはグリファリドと申します。が、そのような必要などありませんよね。ただね我々の望みをかなえてくれるだけでそれだけで構わないのですから』

 このずんぐりむっくりなマスコットが慇懃無礼に礼をする。するとそのマスコットはどこからともなく分厚い辞書かなにかであろう本を取り出していた。

 それを見て思わずこの身体がその方へと突き動かされていった。この時、開かずの間で使っていたのと同じ炎の拳を振りぬいていった。それを後ろに下がったことで容易く躱される。するとその腕を掴まれてそのままねじられてしまう。ここで銃弾をこのグリファリドとか名乗ったマスコットの両眼へと撃っていく。

 これで弾かれることにはならなかった。しっかりとこの撃った弾丸は黒ずんだガラス玉にめり込んで割れていった。撃たれた弾丸の衝撃によって更なる後退となってしまった。

 そしてねじ切られそうになった腕はその回転と合わせて同じく回ることで回避してみせた。

『………………………………………どうにも相性が悪いのか。それとも単に実力の差なのか。どちらにしてもか、勝てるようになってから挑むできではあったかも知れんか。いや、お互いがそのようなことではまともにやっては不可能か。勝てる戦しかいないなんていったら片側がそういえば相手側がまともであればつまりその勝負すら引き受けてくれない、逃げてばかりになります。そして双方が勝てるなんて言い出したら未熟者で愚か者での極みだ。もうこれはどうにもなりませんよ』

「なあ御託はいいから。私をどうしたいんですか、聞かせてくださいよ。それによってこちらの行動だって変わるんですから。貴女みたいなのがまともな組織でやっていけるとも思えない。というかあなた一人でこのようなことを準備含めてできるとも思えない。あなたもまともでなければあなたの所属する組織もまともでない。かかってきなさい相手してあげます」

 いびつなマスコットへと軽く手招きしてみせる隊長ブルックリン・メイガス・ロクショウ。

 彼のその行動に激昂したのか凄まじい勢いで本のページをめくっていった。そして目当てのページを見つけたかそこへと片手を叩きつける。

 そこで魔法の詠唱と呼んで構わないであろうものがそのページから浮かび上がってきていた。

 それを見え歓迎するような笑顔をその顔に浮かべていたロクショウ。そして彼は炎の拳を再びこのずんぐりむっくりな野郎の顔面目掛けて叩きつける。

 ズシン‼という非常に重たい音が双方に響いてきていた。だがその鋼材でできた顔が一切表情を変えることはなかった。

『あぁ痛いです痛いです痛いです痛いです痛いですこうでなければやっていけないくらいですからもう。これでやっていく必要はありませんねこれで終わりです』

 ロクショウの周りを囲むようにしていくつもの文字が見たこともない未知の文字が浮かんできていた。

『あぁこれはまずいかな。というよりもう訳が分かんねえっていうのが正しいところか』

 手製のナイフを取り出してきた。そしてその文字へといくつも刃を刻んでいく。するとその文字が少しずつ歪んでいっていた。

「なんだなんだこれは。こうしていけばなにもかもキエテしまうというわけだ。実にあっけないことだな」

『やったなやったなやってしまったか残念だよ。勝手にやってくれるならそれに越したことはない。これは最後に特定の部分を改悪することで様々な現象を巻き起こすという途轍もなく面倒なものなんだ。そして今回あなたが傷をつけたことで発動する術はこれだ『ものを知らぬ愚か者』これほどまでに場面にピッタリ嵌まるのもそうそうないからねえ‼』

 この深紅の虎ロボットの集合体は感極まったように笑いだしてしまっていた。

 ロクショウを囲うように浮かんでいた文字が次々と燃え尽きていく。そしてその黒い炎によって全身が焼かれてしまっていく。

 こうして使用した本のページが燃え尽きようとするのがロクショウの視界にてよ~く映っていた。

 どうやらこの本はページの消費はしてくれるらしい。それでもこの魔導書と呼んで問題ないであろうこれが量産されているとも回復なんてされることもあると想像はできてしまう。だがそれは想像だ。ならばならば。

「今ここにあるそれだけでも終わらせないとなあ‼」

 その黒い炎に染まった拳をこの胡散臭い擬人化キャラクターへと再び叩きつけてその硬い硬い肉を引き裂いていった。

 だが彼の動きはここで止まってしまっていた。全身が黒い炎で包まれてしまいその全てが燃え尽きてしまっていた。するとその炎の端が黄金に輝きだしていきそこからその炎の全てが輝く粒子となって消えていった。

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハこれは驚いたな。ここまで相手が自分の命に可愛く思っているなんて。それで冷めてしまうのも致し方ないといっていいだろう。………………ふざけるな!どうしてどんな思いで我々がここまで準備を重ねてきたと思っている‼』

 この一人取り残された宇宙で激昂を示していた。相手のいないのにこれではどうしようもない。ここらに転がっている僅かな残骸をデブリを砕いて苛立ちをぶつけていたりしていた。

 グリファリドの元へと思念ともいえる通信が入ってきた。それに持てるこの激昂を一切隠すことなく応じていたグリファリド。

『なんだあぁ‼こっちは今ものすごく機嫌が悪いんだ!後でも今でも痛い思いしたくなかったら――――――――――――――――』

『そっちにやべえの飛んでいったからそれの相手頼まア。相当面倒だと思うから気を付けてな』

 それのみを告げて相手はそのまま回線を通話を切断してしまう。そのすぐ後にグリファリドの横腹めがけてぶつかってくる肉塊が存在していた。

 瞬時に障壁をするが展開するがぶつかった衝撃によって容易く越えられてしまう。

 その肉塊がムクムクと動き出していって人の形を作っていった。それは黒焦げになりながらも人として違和感のない肌色を取り戻していく。

「あぁようやく復活できたあぁ。今回の戦闘でやられてきただけですサンドバッグなんていったら情けないことこの上ない。隊長だってそういっているさ」

 そうして姿を現してきたのは先ほど眼帯の少女に焼かれて転がされた青年である。

『なんだ、この機に乗じて自分の目的を果たそうなんて根性が据わっているというかそれともちゃっかりしているというか。それでそちらはどういうつもりか』

 男は氷で覆われた首元を手で押さえながらグリファリドの方へと向いてきた。反対の手には氷の棍棒が握られていた。

「そんなの決まっているじゃないですか隊長の敵討ちですよ。それがすぐに叶わない場合?そうですねえ。ゼンブホロンジャエ」

 そうこの男の宣告が行われてしまった。彼の視線の先にはこのデルフェルスよりもさらに大きい氷塊が存在していた。

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼そうですよ最初からこうすればよかったんだ‼もっともっとすごいことが起こるからさあ‼ご照覧あれっ‼」

 それほどまでに巨大な氷塊が実際に堅牢な要塞へと近づいていく。その纏う冷気によって要塞の表面から次々と凍結を繰り返していた。

 その巨大な氷塊がたった一発の砲撃によって大きなヒビを入れられてしまった。

「へあ?」

 この事実に驚いて思わず男は素っ頓狂な声を上げてしまった。

「まあこれだからこの国の連中はどいつもこいつも危険な奴らばかりで。それこそこうした風に遊ばれているくらいには」

 ここにいる二人には砲撃をおこなったものがどのようなものかはしっかりとこの眼に映し出されていた。そしてその中に彼の見覚えのあるものが含まれていた。問題はこうして氷をここに用意したこの男にとってその見覚えのない部分だ。

「幽霊船なんて冗談にもほどがある。どれだけ私のトラウマを擦ってくる気だオルトス・ダイアモンド‼」

 そう、彼の眼に映るのはオルトス・ダイアモンドが操縦するハンティングが全身が黒く染まりボロボロになった縦帆を掲げた船の主砲に接続された姿だった。

『このようなものがいきなり現れたのは驚きに次ぐ驚きだが存外想像したよりは大したことはないな。そちらはどうだよければもう一発さらに撃つが』

『正気とは思えないですね。まあうちの主砲だけじゃああれだけの威力なんて出ませんからね。全く………………、いくら強力な炉をもっていたってそれを使いこなせなければ宝の持ち腐れってことになりますからね』

「だってこれだけのエネルギーはあのバカのためにあるようなものなんですから」

 幽霊船の形をとっているとはいえその中身は最新鋭の技術を投入されているためにこれを初見で動かせるものなど存在しないであろう。

 舵輪のあるブリッジが下へと下がっておりその上に更なる甲板をかぶせることをしていた造形をしている。これはどちらもブリッジと言い張りたいがための製作者の我が儘だ。これにはただブリッジといっただけではどちらを指すものはわからない。さらにこの幽霊船は海や水辺にもしっかりと浮く。水辺といっても小さなところには深さ大きさといったもので船と昔から呼ばれたものと同じく断念せざろうえないなんていうことは実はあまりなかったりする。

 閑話休題か………………。

 この幽霊船に乗って中のブリッジにいる者達はキーボードを叩いて時折計器類を確認なんていうのも見られる。

 その一人がハンティングへと通信をおこなっていた。

『こっちはもう準備は一通り終わりました。コントロールはそちらに渡しておきますんで気が向いた時にでも撃っちゃってください』

『気が向いたらなんていってたら困りますよ。自分もあなた方も………………。ですからもう全力で撃ちますから。………………船壊れたらごめんなさい』

 その謝罪を聞いて一瞬その動きを止めてしまった幽霊船の操舵手含めて一同。その声を聴いた印象ではそれはもう申し訳ないとは思っていてもそれが当然だとでも言いたげなものだ。

 そしてオルトス・ダイアモンドの手元にはハンティングをデフォルメしたコントローラーが握られていた。肩を軽く回して座席から立ち上がろうとする。すると頭をゴン!とぶつけてしまう。

「後でここも調整ですかね。いや、それは難しいでしょうか。ただでさえ可変型ということでスペースを限られていることですし」

 そのコントローラーを目の前のモニター画面に映る巨大な氷塊へとしっかりと狙いを定める。

「ロックオン!てね」

 コントローラーの引き金を軽く引く。するとハンティングの現在なっているもの含めて幽霊船の砲身が紅く染まっていった。その砲身から鋭い牙を輝かせたワニを幻視させる膨大なエネルギーを濃縮させた凄まじい砲撃が放たれていった。

 それは要塞にちかづこうかという氷塊を砕いていった。命中した部分は一瞬にして蒸発だ。

「ハハッこの程度か。ならッ」

 肉塊であった男がそう言葉をもらすがすぐさまその者達の次の行動によって掻き消えてしまう。

「オープンだ」

 砲身の形をとっているハンティングを構成する全身が更なる変形を展開を始めていた。それはまるで現在撃ち続けているエネルギー砲に幻視するワニのようで………。

 オルトス・ダイアモンドはコックピットの中で銃型のコントローラーの引き金を再び引く。

 するとその氷塊の全てがワニの幻視するエネルギー砲によって喰われていってしまった。

 それを男は呆然と眺めているに終わってしまっていた。

 このような戦場では隙を見せてはいけないというのに。そうでなければクイモノニサレルダケダモンネ。

 そのティオヒア・ブラウンを深紅の虎の幻影が全身くまなくまとわりついてかみ砕かれていくという悲劇が起こった。

「ヒギュアァ‼⁉ナナナナアアアアんンンでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてだ⁉私が貴様のような見ず知らずのものに食われなければいけない⁉」

「そうかそうか君はわかっていなかったんだねそれとも忘れていたのかな。戦場にいるものにとっては全てが敵だそしてその全てを利用して生き残ることは基本的なプレイ指針だ。そのようなことすら頭からもう入っていないのではお話にならない。この我の僅かな糧と成れ」

 酷いくらいにとても他人様には見せられないきかせられないほどの見苦しい惨劇がたった一人に向けて押しつぶされていた。それは肉塊と成れても正気を眠らせて置けた先ほどとは違いこれは断末魔以外の何物でない。そのような悲鳴が虎の幻影としてある口腔内で響いていた。宇宙空間だというのにそれが余りにもうるさいと感じるほどに………………。

「うるさいですね。もう黙って」

 ずんぐりむっくりなマスコットがその身体で指パッチンをおこなう。ただしこの際にはなることはなかった。すると虎の幻影は頭蓋骨から下がっていくようにベギベギバギボギという音を鳴らして骨と共に咀嚼していった。

 そしてこの虎の幻影は粒子となって消えていってしまった。ティオヒア・ブラウンの全てを含めてであるが。

 自身に還元されたその存在を確かめるようにその身体のあちこちを動かし始めていたグリファリド。

 ふと見上げてみれば彼の頭上には光り輝くその巨大な剣が掲げられていた。

「まぁそういった自分が最後にあっけなくやられるというのも悪くはないのかもしれないなあ」

 その巨大な剣が振り下ろされてグリファリドのその全身を吞み込んでいった。そして光り輝く剣はその場所からどかされていく。そこには既にグリファリドの姿は残されてはいなかった。

「なんていうことだよ。簡単に終わってしまったじゃないか。俺らが出てきたのはこれだけのためかよつまんねえの」

 フロウリアは鬼公量産型改造式のコックピットで腕を組んで座りこんでいた。その口をとがらせて不満な表情を隠そうともしていない。

『いいじゃないのか何事もなくこんなに簡単に仕事が達成されることがあるならそれに越したことはないだろう。それとまだ終わっちゃいないからな』

 鬼公に立っていられて邪魔だと思ってしまっているバーデス。彼はしっかりとデスパレードの操舵を握っておった。その彼の意に沿ったかはわからんがフロウリアにそこから退く様にいったグレイシア。

「どうやらさっきのふざけた見た目のが」

『えっただただ可愛いそれに尽きるだろ』

 そんな風にフロウリアから言葉が返ってきた。それに驚いて艦にいた二人は目を見合わせるなどしていた。

「ま、まぁ個人の感じる美醜についてなんて言い出したらキリがないからな。それで向こうで光が走っていたりしてるけど意見が聞きたい。あれ、何だと思う?」

「決まっているだろそんなのわさあ」

『どっかの馬鹿の高速戦闘やってんだろ。うわあ絶対にいったら弾かれて痛い眼みるやつじゃねえのか』

 気だるげな声が艦橋内へと響いてきていた。遂にあくびまでし始めている。

「それでお願いがあるんだけど」

『あいよ、というかそれお願いじゃあねえよもう。ここにいる中で階級高いのがどっちだかわかってていってんのか』

「はい、多分一応私だと思います………………。……………あれ、そういうこと?」

 そういうことです。現在ではほとんど役に立っているとはいないがこれでもバーデス・ヴェードは中尉の階級を戴いているのである。少なくともこのポンコツ共の中では一番偉いのだ。

「だからそういうのはもうええんだよ‼勝手に暴れてくるわ」

 デスパレードにはそう告げて凄まじい速度を出して光り輝くその場所へと飛んでいってしまった。

「………………………………星になって綺麗な綺麗な星になって羨ましいものだな」

「おいこらそれはもういなくことになってるから。大袈裟も大げさで冗談が過ぎるぞごら」

 なんていう風に言われてしまった操舵手だった。

 そのような会話を聞くことなく飛んでいたフロウリア。彼と彼が操縦する鬼公には彼の愛用する物差し竿がしっかりと握られている。それは既に普段の姿とは大きく異なり血の雨とも見える紋様が浮かんでいた。

 ようやくの思いで光り輝くその場所までやって来れたとおもえば泥が跳んできて装甲へとかかってしまう。その泥は異常な毒を発生させてもいたが装甲が結界を纏っていたために無傷ということで済んだ。

「な、なんだぁ」

 フロウリアが何気なく上方へと見上げる。そこには泥人形とももう言えないような不定形の怪物に追い回されている見たこともない機体があった。それは美しい流線型を描いており各所にスラスターの配置をおこなって機動力の確保や小回りの効きやすさなんていうのをよく気を遣っているように感じられる。

 それに乗っているのはアルデット・ウィザード・リリアンという男だった。

「デエアアァァァ‼」

 手元で形成されたエネルギー刃で向かってくる泥を蒸発させる。そしてすぐさま切り返して相手側へと飛び込んでいく。

『こらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこらこら‼いったい麻呂がなにをしたというんじゃ?こうして追いかけ回されてもわかりはしないのだが………………。麻呂に教えてくれないかのお』

「顔もまともじゃねえからなんていったら怒られそうだけどよお‼それでもう認識や価値観すら違うという土俵にすら立てねえんじゃどおにもならねえじゃねえか」

 周囲に散らばっていたデブリを掴んで投げ飛ばしてくる泥人形。それを踏み台にして更なる加速を手に入れる。その勢いをさらに追い越して速度を上げていく。前面いっぱいに泥の障壁が張られた際にはそれをエネルギー刃で切り裂いてその道をこじ開けていく。

『ここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞここに間抜けがいるぞとんだおお間抜けだこいつはあ‼こんな簡単な罠ともいえないものに引っかかるなんてなあ‼』

 飛び散った泥が流線型の機体めがけて飛んでくるがすぐさまその速度を追い越していく。

 再び正面を塞ぐ障壁が張られてしまうが先ほどと同じようにエネルギー刃で引き裂いていこうとする。だがこの障壁が余りにも圧縮されて硬く厚いものとなっていたために一撃では割れてはくれなかった。三度目でようやく開いた。すると時間をかけすぎたのであろうか周囲には泥の塊がいくつも集まってきていてドロドロと機体の全身に張り付いてこようとしていた。

 このペイルライダーの薄い装甲を掠める形で飛来してくる物体があった。それは通った全ての泥を蒸発させており掠めたペイルライダーにはそれ以上には傷を負っていないという神業に芸当を成し遂げていた。

 その物体は狂ったようにしてわめき散らかしていた泥人形の胸部分に突き刺さっていた。

「すげえ棒切れだな」

 長い物干し竿を掴んでいきそれに飛び乗っていく。脚を擦らせて滑っていった。エネルギー刃をさらに強力なものとしてぶつかっていく。片側の手で物干し竿を引き抜く動作をする。それでカエルがつぶれるよりも酷い声が聞こえてきたがそれによって笑みを浮かべていたアルデット。

 ポッカリと開いた穴に向けてそれが塞がる前にエネルギー刃を刺し込んでいった。

 その瞬間にこの場所で八閃の剣戟が叩きつけられて刻まれ破砕されていった。

 もう断末魔なんて聞こえない。それが聞こえるならここでないどこかだ。

「ようやくかぁ。隊長のピンチになにもできなかったなあ。それでも―――――」

 それをいい終わる前にデイスプレイの上に頭を倒してしまっていたアルデット。彼の状況を知らずかしばらくしてフロウリアがその場へとやってくる。そしてペイルライダーの肩を掴んで乱雑に運んでいった。その際に揺れるもんだからゴツンゴツンと頭を左右に振ってぶつけていたりもしていた。そうはいっても起き上がってはこれぬ状態ではありました。

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