たとえこの小さな世界を失ったとしても⑥
エステルによる号令とかそんなこんなで行く先は決まった、はずだがそれでも話は終わってくれない。
「確認だけど、今からどちらの方面に向かうつもりなのか。端末で見る限りはこれ、月の方に進んでいるように思えるんですけれど」
針路を示すその画面をエステルへと突き付ける。そこには確かに月が遠くない場所まで進行方向を定めていることが確認できる。それもこの世界の地球といって差し支えない人類の始まりの星の、その衛星である。
「こうしてみれば随分と遠くまで………………。この機はどれだけの速度が出るんだか。この速度で進めばあまりにもかけ離れた針路をとることはわかっていたでしょうに」
問い詰めるが如く詰め寄っていくフォーン。というかこれはみた通りに問い詰めていっているのだろう。
「怖いって、そんな顔されなくてちゃんと説明をするっていうからッ」
などといっていたらピーなんて軽い高い音が機内へと聞こえてきていた。
これは仮にもちゃんとした警報である。これが示すことなんていうのは襲撃者がいるということ。えっ、何さグレイネイアとかいうのには反応がなかったじゃないかって。
それを言われると耳が痛いことだがあれを普通だと思っていられるのはあまりにも辛いものがある。あのような存在が徒党を組んでこられたらどうしろっていうのか。
答えは一つ、人事を尽くして天命を待つということをします。できゆる限り足搔いていきましょう。
「いったい何がきたのか。ちょっと見せて」
エステルがフォーンの持っている端末を覗きにかかっていた。そこにあったのはしっかりと徒党を組んでこのシャトルを囲んでいる複数の改造貨物船である。
これは光学カメラにて映し出されている画像から確認をしたものだ。ちゃんと戦艦と呼べるものには準じた機能を搭載している。カメラくらいはあって当然だろう。戦艦でなくてもこれはありますて。
この囲んでいる集団はこちらに砲身を向けてきていきなり主砲を放ってこられた。
それを最初から知っていたかのようにその砲撃を躱していく。連中が驚きを隠せずに呆けていた隙に包囲網から抜け出していく。
「で、これができたからといってこちらが危ないことには変わりない。どうするつもりだよこれは」
ついつい愚痴のようになってしまうことに嫌になってしまうフリオッソではあるが彼の言葉というのも確かに考慮しなければいけない。先の攻撃によって分かったこともある。
「奴らはエンジン部を的確に狙ってきた。居住空間ではなく動力の方をだ。これはつまり連中にはこちらを真っ先に殺しにかかることはしないらしい」
「それは希望的観測ということになるんじゃないか。この改造船なんて使っているのがまともなわけがないだろう。もしかしたらこれが彼らの狩りの方法なのかもしれない」
フォーンがこんな風に言っているが当然彼だって自分たちの在り様を忘れてはいない。これは最後の確認をということである。ここからおこなった行動によってこちらが被害を被ったとしてもその時には他に方法が思い浮かばなかったと言い張るためのものである。
「知ったことか。ならばならばこの連中だって後ろめたいことがあるんだろう。つまりは表沙汰には出来ないということ。どっかの賊だろうとだろうと特殊部隊であろうといくらでもやってやるさ」
ぼさっと余裕を見せてこのような場所で呑気にはなしをしているこの時間にワイヤーを延ばしてきてハッチに絡ませてきていた。
「嘘だろッ⁉そんなことが出来るのかッ!」
タブレット端末の画面を覗き込んでいたムニオが思わず叫んでいてこの空間に響かせていた。周囲にいた者達はそれにうるさいと思ってしまって耳を塞いでしまっていた。
耳を塞いでいたままで操作をしていくフォーンであった。彼はタブレット端末を操作をおこなっていく。そこに映る映像というのは当然、ハッチのすぐそばのカメラである。
「こうして乗り込んでくるということはこちらを殺害する予定はないらしい。もしくは侵入して兵器をばら撒いてくるというのも想定できるが」
「だったら俺らであればどうにか出来そうだな。制圧してきたところをこっちが殺さずに伏せさせてやるから。操船は任せたッ」
片手を上げていき脇差を持って駆け出していくフリオッソであった。それに応えるようにエステルは上層へと上がっていきパイロット席へと滑り込んでいく。
ここに残った二人はさてどうしようかと悩んでいたが視線を交わしてそれぞれ分かれて追いかけることをしていった。
そしてハッチの傍まで走り出したがそこでガタガタ揺れ動いている音が確認できている。
これはつまり向こうは随分とこの機のハッチの開閉に困っているということ。
フリオッソはこうして待っているのが面倒だ。足搔いているのがいじらしいとも思える。上から見下ろしている気もするがそれだけの自信がある。だから我慢ならずに苦労を台無しにしたいとも思えてくる。
「だからこっちから開けてしまうッ」
速やかにこのハッチを内側から開けてしまう。これはもう驚かれることだろう。
遠くからこちらを撃墜してしまわないということはつまり中身を失いたくない惜しいと考えているということ。さらに言えば襲われている相手側からドアを開けてこられたらびっくりはするだろう。
そして開けて外の景色を拝んでみれば星空浮かび輝くつまらないものであった。
そこに添えられているのは想定外の行動に戸惑いを隠せずに動きを止めてしまっている宇宙活動のためのスーツを着込んだ集団であった。
『なんだ?生身で船外に、宇宙空間に出てくるなど自殺志願者か』
『いや、肌の色といい、これは自分たちとは違う人種なのであろう。安易に攻められる相手ではないらしいな』
などという声がこの連中から聞こえて気がする。どうやら一度の時間稼ぎには成功したらしい。
後ろからはムニオも来ていることだし勝てない理由もないだろうて。
床を蹴り、勢いをつけて飛び出していこうとしたが重力なんぞ碌にないことを思い出された。
数はざっと三人といったところであろうか。背中や腰に何かごっつい装備がついていることから攻め落とすつもりで来ていたと分かる。
そしてやはりたった三人というのは少なく感じる。これは少数精鋭ということであろうか。実力でいうならば相応のモノを備えていると考えられる。ならばその程度であれば充分相手できるであろうさ。
宇宙空間での活動くらいなら今更というものだ。この程度で難儀するほど軟な鍛え方はしていない。
腕を掴んできてそこから投げ込もうとする。
『速すぎるッ⁉こいつも魔術師の類かッ』
空いている腕でフリオッソへと銃口を向けてきている。職業軍人と比べても高い修練度だと一目見ていえる。
「それでも間に合わねえッ!まずはひいとおぉりッ‼」
勢いつけてぶん投げてしまってやらかしたと後悔を見せる。ただ運がよかったのか無意識でやっていたのかハッチの方までまっすぐに飛ばしてしまっていた。
これで受け止めてくれるのはムニオである。彼はしっかりとハッチの前に陣取ってくれており飛ばされた彼をしっかりと捕まえてくれている。
着地する前に銃口をしっかりと向けて攻撃の態勢を取っていた彼だったが。
弾丸を放っていくが凄まじい速度で的がその姿でブレを起こしていた。
当然ながら命中するはずもなかった。埒が明かないとナイフを引き抜いて突進していくがブレを起こしていたその画には触れることが出来なかった。
『ナッ⁉
「ただの残像だよ。あぁ君に聴こえるわけもないか」
既に後方へと廻っていたムニオが打撃を加えていた。そこでシャトルへと墜ちていく賊はこちらへと翻ってきてしっかりと銃口を向けてきている。
正確な射撃ではあるが全て武具で弾くかそれとも躱すかをされており傷を負わせることには成功していない。
さらに銃を握っている腕を掴んでいきシャトルの壁へとぶつけていく。
驚きと与えられた衝撃で大きな隙が出来てしまう。首元を掴み一つ隔壁を開けていき誰もいないことを確認してその場へとぶん投げてしまう。
すぐにナイフを以て斬りかかってくるが蹴り飛ばしてそこに転がっていたワイヤーで拘束して括り付けてやった。
彼の表情は不満気なものではあったが観念した様子ではあったために身体検査は今すぐでなくても構わないと考えた。ここで武器の類を奪い取るのが何かあった際にリスクが高く後味悪いとも思えてくる。
そうであればこれもやっておくべきか。
床に転がしたナイフを足元へと飛ばしていく。これであればもしもの場合には自分の身を守るくらいはできるだろう。
自分たちにとって脅威になるような存在であれば恐らくこの程度であれば眼中にないだろう。まぁそういう自分たちだってギリギリで視界に収まっている程度ではあるが。
『おい、どうしてお前らはこの宙域にいるんだ』
この空間から出ていき残りの二人にも同じことをしてやろうとしていたムニオに後ろから声がかかる。
この部屋は一応ではあるが気体で満たされているために声が通るらしい。
ヘルメットからスピーカーで声を出しているらしい。仲間内で通信をおこなって連携をしていたのであろう。
「そんなことを聞いてどうするつもり?どうせそっちも俺たちを掃討するつもりもない癖に」
図星であろうように視線をそっぽへと向ける。そこにあったのはマーカーペンで引いた一本の線がある。なぜあるのは聞かせれていない。
パイロット席へと座ったエステルといえばガラス面に映る現実の光景に対して余裕の心持ちでキーボードを叩いていた。
「こんな危ないものを向けてこられたらこっちとしても戦うこともやぶさかでないですがッ」
「んあぁ、せめてやぶさかであってくれよ。このシャトルに武装なんてありはしないんだから」
後ろから声をかけてくるのは息を切らしてまで急いできたフォーンであった。
彼の言う通り、このスペースシャトルなんて普段から戦闘を行なうために動かしているつもりもなかったために武器自体は搭載していない。というよりは機内から操作できる攻撃手段を用意していないというべきか。
実は切り札としては存在をしているのだがまさかのグレイネイアとか名乗っている怪人との戦闘の際に被害を受けてしまった。
そしてその切り札というのが今現在では発動が出来ない状態ではあるのだが。
「それでもこのパワーには勝てるものか!」
「じゃあ蟲だってこれで撃退すれば済んだ話では………………。あぁ」
何か納得を得た吐息を出したフォーンであった。
「一体何をッ腑に落ちたなんて満足な顔をしてるんですかッ」
抗議の声を上げるエステルであったがどうやら聞いてくれていないらしい。平凡な機能しかないこの機体で出来ることをするだけ。
「手数は足りますか」
余計なお世話として迷惑になってもいけないので始めに確認を取っておく。この言葉で質問の意図を読み取ってほしいが。
「どうにかはできますよ。ただ楽が出来るのであればさせてもらいたいですね」
こうして会話をしている中でも機を振り回して砲撃をどうにか避けていた。だがワイヤーであちこちが拘束された状態であれば制限も多いというもの。
いくらパワーがあって速度が出るからといっても故障してさらにできることを減らしてしまうなんていうのは愚の骨頂というのではないだろうか。
「それに問題はハッチから侵入を試みている連中ですか」
「無駄な殺生は避けておきたくはあるからな。無理に振り回してしまってそれでワイヤーが切れて宇宙に放り出されるのは誰だって勘弁したいですから」
そういうことだ。人員を送り込むなんてのはもっと安全におこなうものではないかと考えるがそれを待つことすら出来ないとはよっぽどこちらを高く買ってくれているらしい。
「で、あれば慎重に動いていきハッチ近くの騒ぎが納まったらというところでいこうか。まぁそれまではッ⁉」
巨大戦力は他にも用意がされていたらしい。15m程度の大きさをした巨人の姿をした機械兵器がエステルらを乗せたシャトルの上の位置を取っていた。
それは腕部に取り付けられたバルカン砲でこちらへと照準を合わせてきていた。
流石にこれには対応を考えなければならない、そしてそれを相談する時間なんてありはしない。
こちらの速度と同期をしていた船の位置をを確認してそれにぶつからないことを気を付ける。そして更に命綱が確かに繋がっていることもしっかりと視界に入れる。
速度を一気に上げていき周囲を存在する包囲網から脱出してみせる。これには恐ろしく変態的な軌道を描く必要があったが出来ないことはしていないので気にしないことにする。
こうした後に残るのはシャトルが存在した場所にバルカン砲が放たれていくという光景であった。ハッチ奥に立っていたムニオとそこへ閉じ込めた二人はともかくとしてもフリオッソともう一人は無事では済まなかった。
簡単に言えばフリオッソの方が命綱へと掴まっていた。それはハッチとも繋げられているものであった。そこで置いていかれることなくついてこれた。
だがフリオッソはこのような正気でない状況の経験を少なくない数経験しているとはいえ、いや流石に宇宙空間で引っ張り続けられるのはあってたまるか。
この命綱に勢いを任せて漂うなんてのは訓練でも想定していないであろう。普通はこんなことにならないようにするものだ。
だが包囲網を抜け出してすぐに速度を落として逆噴射でその場に止まろうとする。
それで命綱を持った者達は遠くへ行ってしまうことはなく留まることに成功する。
フリオッソはこれでくたばるような鍛え方をしていなかった為に心配はしていなかったが相手側の方は艦内で騒いでいたらしい。心配でたまらなかったろう。こんな単独で宇宙に放り出されることも考えただろうから。
「………………これは失敗したかもしれないですね。線が絡んでしまうことは出来るだけ避けたかったことなのに。でもここからは」
「一気に攻勢にということ。ようやく僕の出番ですか」
腕が鳴るとばかりに肩を回しているフォーン。
「張り切っているところ悪いけれどここでの出番は今回ないですから。出来れば外に出ての制圧に数揃えておきたいのですけど」
それを聞いては素直に従う他無いか。別にわざわざここに無理して残る必要はないだろうし。とも考えたがここに上がってきた理由を思い出したフォーン。
「でも何かあった時のために手数を揃えたくて僕はここに残っているんですけど。こういってはなんですけどこの調子であれば二人で充分ではないですか」
そう言われてしまえば仕方のないことか。それであればどうとでもなるという楽観的な考えがあるのか。
実際、その実力を遺憾なく発揮していたフリオッソであった。
命綱が絡んでしまうかと思って下手に動けずにいた襲撃者の一人はひとまず冷静になろうと眼球をグルグルと動かして視界を広く確保していた。
まっすぐに延ばされたことを確認してこれから結ばれてしまうこともないだろうと想定する。
となれば考慮するのはひとまずシャトルから出てきた人物だけでいい。シャトルからさらに人員が出てくるとも限らないとも思うが。その様子が見受けられないところからこれも考える必要はないとする。
だがその単独で出撃してきた者がやたらと強い。
まず宇宙空間にて生身で飛び出してくること自体が異常だ。そしてやたらと相手のリソースを削ることをしてくることから長時間の活動すら考慮に入れている、それが可能であるという事実がなければそのようなことをしてこないであろう。
つまりは縦横無尽に駆け回る相手に対して細かい噴射でどうにか機動をしなければいけないということを強いられている。簡単にはいかない、というか出来ない勝てないであろう。
(ならば機銃等で片付けてしまえばいいのだが自分がいる限り怖くて撃てやしないだろう。ならば自分が帰還する他ないか)
ワイヤーが切れずにいることには感心する。だがそれで巻き込まれているのは残念でならない。というかこうなるなら切断してしまえとも思うがこれも出来やしないだろう。
なぜなら命綱がシャトルの隔壁に挟まれており、これを切断してしまえばそれこそ敢え無く仲間たちとの命綱が失われるという事態になる。
だがそれに気づいた向こうから切り離されてしまえば悔しくも諦めることも選択肢に入ってくる。
『だからこんなリスクのある手はしたくはなかったんだ。無茶して犠牲が出ましたなんて笑えない』
そもこのような行動に出た理由はこちらからの信号を無視していた為になんていうことである。
(通信を受信する術がないんじゃないかとか番を立てていないために通信が来ているのを見ていないのではないかともいったが実は真実でありそうな気がする)
『だったらこれ、何のために戦っているんだこれはッ』
ヘルメットの中で息を落ち着かせながら飛び回っていた。その視線の先にはやはりこちらと一定の距離を取りながらも適宜詰めてくる、そんな行動をしている戦士の姿があった。
いい加減にしないとこちらの方がジリ貧である。ただこれだけの時間を使っていれば痺れを切らしてくる者だっているだろう。
そういう者はどうしてくるのか。生命が畏怖する巨大な兵器でもって一気に決着をつけにかかる。
フリオッソの後方にあったのはシャトルを撃ったのと同型の機械兵器である。それはライフル銃をこちらへと向けてその場に留まっていた。
そして通信機器でもってこちらへと呼びかけてきていた。
『おい、こらあッ!どうしてッ』
だが悲しいかな、そのようなものを受信するためのモノを持ち出してはいなかった。
これではどうやって連絡付けて決着をつけるのか不思議でならない。そんなことを考えていないほどの間抜けだったとしたらこの強さには関わる周りが迷惑するだろうて。
現れたこの機体を視界に収めるとすぐさまそちらへと目標を変えていく。そして凄まじい勢いで虚空を蹴り上げ不規則な軌道を描いていた。これでは行動の予測など簡単にはいかないだろう。
「来てくれるなら実は話がはやく済むんじゃないかこれ。ならばやることは一つ」
いくら宇宙でさえも常人よりも高い能力を発揮しているような存在だとしても機械には勝つのは難しい。ましては駆けっことなればどうあがいてだ。それはもう別の競技ではないだろうか。
だが緑色の人型ロボットは向かっていくことを選んだ。ならばこのままいけばぶつかることに、接触の機会が得られることになる。
そしてお互いが考えているこれから行われる構図というのも概ね一致していた。
その勢いのままに機体の胴体部分へと突進していくフリオッソ。そこにあるコックピットへとぶつかっていくことに成功をしたのだった。
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