第1話 願うものはすぐ側に⑧
私が店を飛び出してすぐ、目に飛び込んできたのは通常ではありえないものだった。
「人が内から燃えて倒れてる」
そこには地面に何人もの人たちが炎を湧き上がらせていた。それだけでもなぜこんなことにと思うがこれだけならば通常の現代技術で以て実現させることは可能だろう。だがこの燃え上がるこの炎は明らかに異様なものだ。確かに炎が燃え上がっているのだ。いるはずなんだ。だがこの炎は周囲に燃え広がることになっているようだがその燃えているものを一切焼いていない。私は炎に手を突っ込む。
「あつッ」
そして手を引っ込める。手がキズを負っていないことを確認してその燃えている一人の少年を触っていく。呼吸も脈も確かにある。ただ意識を失っているだけに思える。この炎はいったいどのようなものなのだろうか。そんなことを考えてていたら後ろから声をかけられた。
「これ、あなたがやったんですか?」
「そのセリフ、そっくりかえしますわよ」
まだついて来るのか彼女は。この惨状のことを言っているのなら私ではないしおそらく彼女でもないのだろう。ときどきこの子の気配が消えるのは何なんだろうか。おそらく癖なのだろう。私の中ではそういうことにしておく。そしてさっきから気にはなっていたんだ。待ちあわせに指定した場所の方から火柱が上がっているのが。さらにその火柱の上がっている場所が動いているのが。
「ごめんなさい。それじゃ、私もういくから」
「いや、いったいなにしに―」
彼女が振り向くとそこには既に私の姿はなかったとさ。そしてこの暑さと熱量の中、誰が急激な冷え込みが襲ってくると予想しただろうか。
私が火柱の方へ向かっているとうめき声ともとれるような強烈な笑いが聞こえてきた。あたりに広がる惨劇がこの声の持ち主によるならわかりやすいのだけど。その声に気を取られていたからだろう。背中から槍で刺されるなんて思いもしなかった。
「グッガァ」
恐る恐るゆっくりと後ろを振り向くとそこには突き刺した槍を引き抜く男の姿が見えた。
「なんだ。あの男を殴り飛ばしたと聞いていたからどれほどかと思えば………なるほど、奴が出てくるまで続ければ――」
私は右脚を軸にして独楽のように回り、男の頭に蹴りを飛ばした。男の首がゴギっと鳴る。男は再び左腕で槍を振るった。そして右手で指パッチンをして見せた。空から私の頭へと火の粉が降り注ぐ。私は地面を蹴り相手の首根っこ掴み走り出す。コンクリートがえぐり取られる。男の槍が横腹に刺さる。
「グガアアァ!!!」
男としかわからなかった奴が私の咆哮を聞き微かに嗤ったように視えた。男は私の胸元に膝を当て打ち上げた。懐から手持ちのブラスターが覗く。
「なっ!!」
この男はここをいつのどこだと思っているんだ。
私はバッグを上に振り火の粉を吹き飛ばせる。そしてその勢いのままバッグは男の胸元へ直撃した。
ゴンッと鈍い音がする。その反動を使い地面へと着地する。振り返って見れば男や着ている衣服、所持していたブラスターは傷を負っていないように思える。
「あの、私に用がないならここから立ち去ってもらえますか。そうしたら悔しいですけど私に大怪我負わせたことに文句言わないであげますから」
「それを大怪我で済ませるとはやはり奴らしいか…そうだな、そうさせてもらおう」
男はもう用はないとばかりにきびすを返した。
「あれ、もういかれますのですか」
「ああ、自分に女性をいたぶる趣味などないことを思い出した。―もっとも貴公が私を倒すつもりでいるのならどちらもこうして立っていることはできなかっただろう」
男は私に背を向けたまま答える。いったいそれを男がどういうつもりでいってるのかわからない。
「それはどんな―」
「ヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロ ヴォ〜ロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロヴォロ」
な、なんでこんな恐ろしい化物が近づくのに気づかなかったなんて――
―全身を燃え上がる炎で包み込まれた人型の物が脇腹を―撫で回せ肩口に噛み付いてくる。いやこの物がこの事態の火元、おそらくこの人型の物から炎が発せられているのだろう。
男は足をさらに進めていた。そしてその足を止めてこちらへ振り向く。
「ガッガアアア」
熱い。そしてしんじられないほど痛い、苦しい。離せ!!なぜ離れない。振り解こうと必死にもがいてみせるがこの炎の塊にはびくともしない。
「それでは私はこれで退散するとしよう。ああこれはどうしよう――」
そして男が両手で掲げたものはさっきまで私といっしょだった少女と――
「――フヌ!!」
「――ノガッ!!」
気付いたら男の顔を踏みつけ持っていたものを奪い取っていた。男が掲げるように私に見せてきたのは彼女と―
「なんであなたがさっきまで振り回していた私のバッグを持っていたのですか。ここには財布も入っているのに」
「えっ」
「エッ」
何故か私が抱えている彼女のほうから驚きの声があがったので同じように返してしまった。
「いやだってさっき店でお札をポケットから裸で出していたじゃないですか」
「い、いやあれは………特に理由はないですわね」
「…なんですかそれ」
そうこうしているうちに炎の怪人がこちらへ腕を勢いよく振るった。それを私は難なく躱す。地に足をつける。そして抱えたままの彼女をようやく降ろす。男の足が再び後ろへと向く。
「それではこれで今度こそ退散させてもらおう。それでは―」
「―そうですか、では―」
「ああ、そういえばいうのを忘れてたな。今回のことはそれをどうにかすれば解決する」
それというのは……そこの燃えている怪人のことをいうのだろうか。
「どうにかっていったい―もういない!!」
再び目を向けたその時には男の姿はなかった。
先程までいた男のことは頭の隅に置いといて今はこの化物のすることを考える。そういえばもしかしてこの怪人ってあの男が私に仕掛けてきたってことなのか。造ったのももしかしたら――いやだからそれを考えたところでやること、できることは変わらない。
怪人は動かない。まるでこちらの、私の出方を伺っているようだ。
右腕につけてる私の髪と同じ色のに腕輪が熱を持ち光を放ち始めた。なるほど、さっきまでいたあの男のいうところの奴とやらもあなたではなく私にやれというのですか。
「あなたならさっきの男が相手でもない限り自分の身は自分で守れるでしょうからあれにとって目立たないようにしてなさい」
その目の前の炎を放ち続ける怪人を指さしいった。
「わかりました」
うん、素直で宜しい。
私は右の拳を正面へと突き出し静やかにこう宣言した。
「take off」
突如として先程まで私を抱きかかえていた女性を中心として突風が吹き荒れ砂埃が舞い上がる。ここ、地面コンクリートですよ。
周辺の燃え上がる炎が風に揺られ大きくなびく。その砂埃と中でドザッ!と重量のある物が突き刺さる音がした。気の所為だろうか、女性の影から見える背丈が私と同じくらいまで下がったように感じる。
その人影が地面に突き刺していた物を持ち上げてゆく。やはり気の所為ではない、確かにあの女性より低い背丈だ。
そして人影はその重量物を水平に薙ぎ周囲の砂埃を振り払う。そこから現れたのは――
「やっぱり縮んでる」
先程までより髪に艶を持ち、金属光沢が見える黒ベースで淡いピンク色の装甲を身に纏いその手に握るはおそらく鎧と同様の素材であろう側面が刃物のようになっている弦楽器である。
ああ、これ夢ですね。そ~っとその女のコに近づき頬をつねる。
「いや、あのちょっと、…いたいいたいいたいって!」
「嘘ですよね、これが現実だなんて馬鹿なはなしはありませんよね!?」
「だからいたいって!それやるなら自分のでやりなさいよ!!”私”が―あつッ!」
「熱いですね」
私たち女のコ二人は横から炎で炙られるのに苛立ちそちらのほうを向く。
「ヴォロ〜~」
「あっ」
そこにはあの炎の怪人が静かに佇んでいる。
私は後ろへ勢いよく飛び退き彼女がその怪人へ拳を振り抜いた。怪人は後ろへ身体をそらせそのまま宙返りをして見せた。
「私に手伝えることはありますか」
「おねがいですから私の今ははしゃぐことはやめてください」
「あっ、はい」
こ、怖い。今まで私と同じくらいのほとんどなかったから。
私はさっとビルの物陰に隠れる。
……もうじっとしておこう……。
さてこれで仕切り直しかね。そして一撃で決める!
全身から桃色をしたエネルギーの奔流が溢れ出る。
武器を持ち上げそして静かに真っ直ぐに振り下ろす。
音はしなかった。いや、一時周囲から音が消えさった。普通なら気にも留めないような、だがそれは確かに大きな違和感であった。
そして一瞬にして炎が、熱が収まった。
先程まで闘いの中にいた炎から出てきたのは年若い青年であった。私は武器を手元へと戻す。鎧が粒子のように全身を包みそして何もなかったかのようにその姿を晒す。私の身体はもちろん衣服なども攻撃を受けたことなど素人がみてもわからないであろう状態となっている。私は倒れてゆく青年を抱えた。
呼吸も脈拍もある。おそらく気絶してるだけだろう。
「お知り合いですかその人?」
電柱の影から恐る恐る出てきてそう聞いてきた。
「知りません。それから――」
「ああもうようやく見つけたよどこ行ってたのさ」
私の後ろのほうから聞き覚えのある女性の声が走ってきた。そして振り返って見ればほらよく知っている顔だ。
「あれ、そこにいるのは
「それがわからないから困っているわけであって…道端で倒れている人がいたらどうしたらいいとおもいます?」
「警察に保護してもらいなさい」
ばっさりですね。
「じゃあ近くの交番に私の知り合いがいるから連れて行ってもらえないかしら」
「いやよ。知り合いがいるなら自分で連れて行きなさいよ。それともあなた、急ぎの用事でもあるのかしら。私、妹探し回るので疲れて休みたいの」
相変わらず圧が強く真っ当なことを行っているなこの人は。ん?あれ。
「じゃあ、妹さんはみつかったのですか」
「いや、これ」
彼女はそういって下方向へ指差す。これって、だって彼女が指差しているのは。
「えっ、この子あなたの妹なの」
「そうよ」
そんなこと…だって私――。
「あなたとはそれなりに付き合いは長いと思ってますのに妹がいるなんて聞いたことないのですけど」
「いってませんでしたからね。この馬鹿は
そう言いながら彼女は肆栗ちゃんの頭をアイアンクローで捕まえてる。ああ、彼女のあれ私も何度か受けたことあるけどかなりいたいのだよね。まさか彼女の妹だとは思わなかったけれど…なるほど、この姉妹はそれぞれフィジカルとメンタルとで異能を保有しているわけか。………いや、肆栗ちゃんはなにかへんな異能をもっているだろうけど彼女にはない。絶対にない。あったとしたらそれは彼女がそういうデタラメな存在なんだ。
「いたいいたいいたい。何するんですか。こんなかわいい妹に向かって」
「あなたが勝手にいなくなるからでしょうが」
「じゃあこの男は俺が警察へ連れていくから。文句ないよな」
そういって”天獄”の店長がいきなり現れ青年を担いで立ち去ってゆく。
「「「…………」」」
「だれ、いまのひと。」
「さっきまでいた店の店長」
「……」
彼女は怪訝な目で私を見つめている。あの人、ずっと私たちのこと見てたんじゃないかな。
いやあ~お姉さんがみつかったのは幸いだ。それが知り合いというか同僚なのがびっくりしたけど。
さて、もうじき彼との待ちあわせの時間か。
「あっじゃあ私もういくので。ちゃんと妹さん締めといてください」
「―!?」
彼女は驚きを隠せなかった。眼の前にいた知人がものすごい勢いで立ち去っていったからだ。左腕に少し力を入れる。
「おねえ、あの人なんだったの?」
「ギターかき鳴らすアイドル」
「あっ、おねえが所属してる『Todd』の――ずいぶん印象が違ってみえたけど」
「もういいでしょ。あなたが食べたいっていってたパフェ食べにいくわよ」
「おねえいつまで掴んでるの」
無言で肆栗の頭から手を離しその妹の手を握り
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