第1話 願うものはすぐ側に③‐弐
ようやく待ちあわせの場所に指定した広場の近くまできた。……あれ、同じ建物で寝泊まりしたのだからいっしょに出ればよかったのは……。なるほど、彼女がせっかちなのかいや僕が寝坊したのが悪い訳であって…………。
そんな益のないことを考えていたらランドマークのウサギの像が見えてきた。その近くには人がごった返す中で空をみあげ太陽を直視する
僕は手を挙げる、そして彼女に向かって声をかける。
「………やあ、遅れてごめん―」
「遅れてないですしし早いくらいですから気にしないでください」
彼女は静かにそして間髪入れずに返してきた。
………………
「黙っていたら困ってしまいますよ。ではこんな人混みの中ですし手を繋ぎませんか」
彼女は手を差し出す。
「そんなデートじゃないのだから――」
大人気アイドルにまでなったToddがデートだなんてファンの皆様に申し訳が立たなくなる。…………いや、今までやってきたことを思えばホントに自分で自分がいやになる。だからこそこんな自分を殴り飛ばしてくれた彼女に報いていかなければならないというのに。
「男と女が揃って出歩けばそれはデートでしょ」
「そっか~〜」
可愛らしい微笑みと共にいわれ幸せで陽気な顔をして差し出された手を素直に握ってしまう龍であった。
「あぁ”天獄”はもう食べましたから」
「………」
「じゃあさっそくそのラーメンを出す喫茶店へ行きましょう。……いや黙っていないで私その店の場所知らないから」
僕は彼女の手を引っ張り前に前に出て歩を進める。
「いや今日は春だというのにあまりにも寒くて」
そう今日は雪が積もるほどに冷え込んでいるというのに彼女はなぜそのような涼しげな格好をしていられるのだろう。いくら暑さ寒さに耐えられるといっても不自然なことをしていれば不審がられるというのに。
「え」
「えっ」
二人は驚いたような声を続けて出した。
「あれ、そういえばだんだんと寒くなってきたような」
「だんだんとって朝から雪が降っていたというのになにをいって―――」
なにかおかしい。なにかが、なにかを見逃していたりしてないかと最近のことを思い出そうとしたがここ最近というと僕が色々やらかしたことがあったりしたので心当たりがありすぎて考えるだけ無駄だろうとやめた。
「いやさっきまでどれだけ暑かったと思っているのか」
「そうそうあっちの方にラーメンを出す焼肉店があって――」
そんなこんなでその喫茶店に着くまでに道中さまざまな店でラーメンを食べ進めて行きましたとさ。
財布には余裕をもっているので寂しくなることはないとはっきり断言できる。断言できるはずだったのだがまさか足りなくなるとは。あと少しだったのに。
「という訳でようやく着きましたここが『楽園の巣』です」
ついにその喫茶店にたどり着くことになった。ここ『楽園の巣』は昔ながらの純喫茶の形をしているがその実、注文すれば大半のものが出てくるといわれているらしいのだが…………。ただ中でもコーヒーのオリジナルブレンドが人気ということなので気にはなっていたのだがようやく心の余裕が出来たのとラーメンを出しているというのを聞いたのでいい機会だと思いきたのであった。
「ねえ」
「言わないで」
彼女に問い詰められ思わず顔をそむけてしまう。
「雪、積もりすぎじゃないですか」
「言わないでっていったじゃないか」
そう…………明らかに大雪というほどに積もり積もることになっていたのだ。こうなる前に帰ればよかったなと思いはするが先程までこんな状態だったのに気づかなかったのである。なんておかしいことであろうか。
そうやって不思議なことばかり考えていたからだろう。
ドアの前に人影があったのに気づかなかったのは。
ドアをゆっくり引いた時『ドッ』という鈍い音がなったと共にうめき声があがった。
「ガハッ」
そこにいたのは緑髪の少女の店員さんだった。
痛かっただろうに。おそらく僕がドアを引いた時に掴んでいたのだろう。
彼女は額に手をあててうずくまりこちらを見上げ見つめている。そしてゆっくりと立ち上がる。
「い、いらっしゃいませー。何名でのご来店でしょうか」
「えっと、2名で」
カウンターにコーヒーのケースが見えた。
「はいそれではお席にご案内させていただきます」
そして彼女は僕の後ろを伺った。後ろには特に気配は感じないのに……あれ?
「お連れの方はどちらに」
いやだから後ろに………
恐る恐る振り返って見ればそこに広がるのは一面の雪景色。その風景に
「い、いない」
どうしていなくなった?!さっきまでいっしょにいたはずなのに。
僕は爪が心配で居ても立っても居られない状態となり恐ろしい速度で駆け出していった。
娘さんはゆっくりとそのドアを閉めた。
そしてカウンターの方へ振り向き、その後店を飛び出していった。
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