たとえこの小さな世界を失ったとしても④

 ようやくの思いで撃破した灰色の肌の侵入者の遺したモノがひとまずすぐに爆発したりといったような類ではなく危ないものではなさそうだと分かりホッと息をつくことが出来た現在である。

 その中で戦闘を行なった一人であるフリオッソは既にこの狭い空間には姿を存在させていない。このシャトルの乗り込んでいる他の仲間にここで起こった一部始終を伝えに行ったのだ。

 それでここに残ったエステルが何をしているのかといってしまえば。

「ここも、あぁここもか。あちこちズタズタでよ。これではまともな航行なんてできやしないか。いや、流石に巡行くらいなら問題なく動かしていくくらいはできるだろうけれどそれにしても永い時間をとなると………………。まぁそんなことはハナから機能としてできるものではないと知ってはいたけれど。でもこれだけだと心許無いというか、秘密兵器として置いておかれていた目玉の機能すら発動できる状態ではないとなれば困ったどころの騒ぎではないて」

 ここを襲ってきた怪人に対して文句を垂れ流しながらも同時にここからどうすれば直近の目的を達成できるのか、というか現在の直近の目的とはどれにあたるのであろうかと口に出しながらもコックピット内の掃除と片付けをおこなっていた。修復活動なんていうのはあまりにも気の遠くなるとまではいかないものの応急処置でなければもっと腰を据えて落ち着ける場所までいきたいと考えていた。

 そこで一つの箱を見つける。隅に転がされていただけの金属製の箱であった。この見た目であればお菓子でも入っていたのだろうか。手に持ってみれば重量というか重心が偏っているように感じる。第一お菓子一つでこんなに重たくなるものか。

 先ほどの件もあるからしてどうやら臆病な精神で大胆に行動を起こしていくらしいというのがすぐ後に分かった。

 この食べた後のお菓子の空き箱を気軽に開けていく。そこには仕切りを外された状態であった金属の箱の中という空間であった。これはまだいい、想像ができていることだこれは。そこにあったのは赤く塗られた棍棒くらいの太さを持っている懐中電灯であった。これが見た通りのものであるのは理解をできる。それは実際に持って見て確かめて、スイッチを入れてみれば実際に光が灯ることを確認したからともいえる。

 これはあまりにも不用心ではないかといわれてしまえばそれまでなのだがこうして使えることを確認して見なければ怖くて、もしもの時に使えませんでしたとなってしまっても困るだけですから。だとしても一度使ったらおしまいの使いきりであるかもしれないと考えればどうにも失敗したかなという思考も浮かんでくる。

 ひとまずは問題がないということを確認してこの懐中電灯を箱の中へと転がす。そしてすぐそばに置いていた蓋を持ち、その上へと被せてしまう。

 そしてこれを元あった場所まで戻しておく。これでひとまずは先ほどと同じ状態といえるであろう。この行動をしたことにおけるバタフライエフェクトまでは考慮できないため知ったことではと白を切る他ないが。

「後は調べておくべきことはなにかないか。今のうちに出来ることを済ませておかなければこの瞬間に問題が起きてもわかりませんでは済まないからね」

 いくらこのスペースシャトルを持ち出したからといってその全てを把握できているわけではない。中には危険極まりないものを含んでしまっているため目を背けたいものまで存在をしてしまっている。

 これを開発、製造したのが誰かと言われればうちの集落のというか工房の連中がとなるだろうがその連中が秘匿していた秘密兵器の一つだ、ただで済むはずがない。

 工房の連中は何かと物騒なものを製作しては皆の腰を抜かすことをしでかすような者共だ。そんなことをしすぎてもう今となってはそういうものかと大体のことには納得をして流してしまうようになってしまった。

 だが外に出る機会の多い者にとっては出ていくたびに地元の非常識に頭を悩ませボケの調整に毎度苦労をしている。

 そんな価値観を押し曲げてしまう連中が隠すことをしている一品だ、常人が正気を保っていられるか怪しいものである。

 だがエステルとて常人という枠組みからも周囲との平凡からもかけ離れた人種であるのは大変に自覚している。どの程度のものであるかは分からないが自分自身に匹敵するほどでしかないというなら何も恐れることはない。そもそもこれは所詮作り物であろう。それがこうして心臓を鳴らしている生命に………………。これでは何もかも語弊がある、というかそういう考えは差別に近いものではないか、ならばそれは落ち着いて思考を精査しなければいけないことだ。

 ………………。なんだ、何かに誘導されてしまうようなほどに自分の精神というのは脆弱なものだったか。それとも精神への干渉とかいう類の能力を高いレベルで発生させている存在がいるのか。

「はぁ、考えていたって原因が見つかるわけもなく。作業を続けなければ」

 コンピューターからの確認を今度はおこなっていく。先ほどまでやっていたのは配線等の補修である。もちろんこれはフリオッソにも頼んでおいたが彼がどれだけできるのかなんて能力を疑うことはする、そして信じる。そうしなければ他人への期待などできようはずもない。

 まぁ侵入者の存在を許してしまったとはいえこれでも何故か奴に信頼をしてしまっている自分がいる。まっすぐにここのコックピットまで来られたというのはそれだけの実力の証明であろう。それができるのであればシャトルの中にいた不意打ちで各個撃破していけばいいだけの話だ。それでなくてもじっと息を潜ませて機を伺いなんてことをしていればいいだけであったろうに。

(ん、もしかして潜入はできても隠れ潜むことを同じ場所でするのは難しいということだったりして。それだったら助かったというべきか。艦内で動き回られたら堪ったものではない。それこそ各個撃破されて一巻の終わりだ)

 などとキーボードやタッチパネルを叩きながらも結晶体を入れたダッシュボードを開けてそこに手を入れる。

「ッは?」

 何故かあるはずのあるべき硬い感触がないことに受け入れなれなかった。ゆっくりと周辺をまさぐってみれば確かなその感触と共にコツンという軽く石ころが転がった音が聞こえてきた。これには安心を覚えつつもすぐに作業へと戻っていく。

「やはりというかコンピューターの中身への侵入は許していないのはセキュリティが高いレベルであったのか、それともそもそもそんなことをするつもりもなかったのかというのがあるが………………。もしくはそれを悟らせぬほどの静寂を以て破壊をしていったか」

 確認をすればどこか違和感を覚えるがそれがどこかということが分からない。どうやら今は冷静ではいられないらしい。戦闘直後のために興奮が未だ冷めやらぬといった具合であろうか。だとしても………………。いや、これはもう後回しだ。いつだってとは言わないが一見して航行に問題がないのであればひとまずはこれで巡行をしていけばいい。

(とは言ったものの、データやプログラムの破損が出てしまっている以上は何か攻撃を受けてしまったのか。それとも元からこういう状態で放って置かれているのか)

「何にしてもデータのコピーくらいはやられたとみて行動をするべきか。だとしてもこうして倒されたならこれ以上の被害など望むべくもなし。それよりも明らかな問題があるがそれに関しては困るのはこっちよりも向こうだろうねぇ」

 などと天井を見上げながらも遠くの宙の先を思い浮かべている様子であったエステルであった。

 その先に何があるのかといえば故郷ともいえる荒野の大地としてある欠けてしまった小さな星か、それともそこにあった自ら世話を続けたたんぽぽ畑か、もしくはそれを見て心を落ち着かせて笑みを浮かべていた同胞たちであろうか。その視線がどこを向いているのかなんて誰にも分かりはしないさね。

「にしても心配をするべきではないと分かっていてもしてしまうのがシグレイちゃんだ。彼女のことだから無事ではあると思うが別方向で飛び出していったから先の行方すら分からない。心配くらいは………………」

 そこで自分が他人を心配する殊勝なものがあったことに驚いていた。これではまるで自分が普通であるみたいじゃないか。

「まぁ普通であるなんて恐らく向こうの方がかけ離れたものであるだろうから。どうやらその自覚もあったことだし、あれだけの非日常体験をさせてもらったわけですがね………………………………………………………………」

 だがだがただ怪人になることを望んでそれを目的としているものなどはどこにいるのか。自分だって常軌を逸した怪人などなりたくてなったわけではない。怪人などは産まれ堕ちるものか手を伸ばして運で掴み取ってしまったかのどれかになってしまうだろうていうのに。欲しかったのはこんなものでないといっても喚き散らかすことしかできないじゃないか。では彼はいったいどんな気持ちであの瞬間に自分の砲撃を受けていたのか。

 後ろでカタカタと音を鳴らしている物がある。それを確認せずとも振り返らずとも誰かなんていうのはよくわかっているものだ。

「あぁそうだよね。ここで泣き言をいっていても仕方のないことだ。もっと遠い場所に求めているものはあるさ。だからいましばらくはお付き合いをお願いしますよ」

 軽快に跳ね上がっているのが聞こえてくるのは結構だが床に傷がつくためほどほどにしてほしいなとも考えてしまうエステルである。

 そしてしばらくの時間を作業に費やしてそれが区切りがつくと席を立っていく。そして床に転がっている愛用の杖を拾い上げていき他の皆が集まる居住空間へと歩いていくことにした。

 しばらく悩みダッシュボードから結晶体を取り出して持っていくことにする。ここで実際にあったことを説明するのであれば現物もあった方がいいだろう。

 そう言うわけで自動ドアを抜けてまっすぐにこのコックピットからでていった。

 コックピットに誰もいないのは危険かもしれないがこのくらいで事故を起こすほどには壊れていないはずだ。

 自動運転もついていることであるし少しの時間であれば離れていても問題はないだろう。

「さてと、やっぱり憂鬱に感じるのはワティクシの生来の性分でしょうかねえ」

 なんとも情けないことをいってこの白い廊下を進んでいくエステルだった。




 そんなことをいってもグレイネイアと名乗る怪人との戦闘を行なったばかりの片割れであるフリオッソの方はといえば、サーバー室にまで入ってケーブル類の直接での確認、保全作業をおこなっていた。

 いくら侵入してきた者を倒したとはいえ安全なんてのはそれで保障されたわけでもなくて、寧ろ被害を受けたとしたならばそれをおこなった者を抜きにして対処しなければいけないということになる。それは流石に苦労の連続というものだろう。

 こんな配線配管だらけの場所での活動など長居して時間をかけるものでもない。

 やるなら速やかに使えるモノは何でもだ。立っている者は親でも使えという言葉があるくらいなんだ。同格の存在をこき使うくらいで文句を言われたくはない。

「ねぇ、フリオッソさんやぁ。いきなり点検やるぞと言われても何も聞いてない俺らでは納得なんかしてやらないんだが。説明を求めます」

 抗議の声を上げつつも作業は素直に慎重に進めていっていたムニオであった。いくら部隊を共にしている仲間としての付き合いが長いからといってもできることと出来ないことだってある。

 命を捨てろなどと言われてもそんな義務はないが義理なら恐らくあるだろう。その場合であれば重要なのはそれを求めるだけの理由であろう。

 行動に対する説明を聞かないことにはその行動に納得などできようもない。何せ理解などすることすらないのだから。

「あの蟲に襲われたからどこか破損個所がないかということでしょう。それならまだ充分に納得もできることだけど。さて、後はこれだけで」

 自分で起こした爆発で消えたと思いきやそれからすぐに帰ってきたフォーンという爆弾魔の習性と呼び名を持つ緑色の肌の少年が作業に対しての一応の終わりを告げてしまう。

「これだけあった配管を簡易的ではあるがこんな短時間で終わらせてしまうなんてすごいな。相変わらずどうしてこんなことが出来るのか、決していい加減にやっているわけでもないのに」

 思わず息を吞んで感嘆の声を上げていたフリオッソ。それに並んで間抜けな顔でポカンと口を開けている姿を晒しているムニオがいた。

「まぁこれでも周りから『稀代の爆弾魔』とかいう異名をもらっていますからねぇ。他者から勝手に呼ばれているものとはいえそれに見合った仕事くらいはこなして見せますよ」

 なんて気負うことなく言って見せるフォーンだ。これだけの実力であるのが失われるのがその損得であってもつらいものである。それをしっかりと実感している。できれば前線になど出ずに工房にでもいてほしい、危ないことはしないで後ろで後方支援をしていてほしいと考えてしまう。

「だけど戦場でも暴れ具合からして毎回別の理由で戦場にいないで欲しいとおもってしまうんだよなあ。その活躍の度合いと反比例して」

「あまりにもひどくないですかそれは。これでも毎回頑張っているんですけど」

 何を言っているのか。あれを頑張るで済まされてしまえばこの世界で頑張りますと自身に活を入れている他の者達に申し訳がないと思わないか彼は。頑張るというのは命を軽々しく捨てるというのと同義ではないというのに。勘弁してほしいものだっていう、評価なんていうのも相対的なものでしかない。

「なんて言い出したらあらゆるものが相対と主観の集合でしかないからな。どこまでいってもその逆まで辿りつくことはない」

「何言ってんですかこの人は」

 ムニオに軽く一蹴されてしまったがそれでも元気に活動をしていくのが我々であろうて。

「それにしても説明はしてもらっていいですか。点検も終わったことだしね」

「わかったよ、そんな大したことでもないけど」

 フォーンに促されるままにこのやらせるに至った事の顛末を語っていく。

「ちょっとそこの上の方に知らない他人がいて明らかに友好を求めてのモノでなかったからッ」

「「ちょっとなんですか侵入者ってッ⁉それを速くいっていればもっと高い意識で仕事が出来たってゆーのに‼」」

 二人で胸元持ち上げてきて天井までぶつかるというほどの高さまで上げていた。首が締め上げてしまっていて中々に顔色が悪くなっていた。これでは生き残ろうというのに半分欠けた部隊の中でさらに一人欠けようとしてしまっている。

 軽く投げて天井へとぶつけてしまい頭を押さえているフリオッソ。こんな調子であるが語りを続けていくフリオッソであった。

 それを一通り聞き終わったところでムニオとフォーンの二人は頭を抱えて悩まさてしまっていた。

 ただすぐに表情を戻していた。

「まぁ別にこれだけであれば問題ないんじゃないか。というか問題が起ころうと起きまいと俺らにとっては日常であるからな」

「それはあまりにも否定をしなければいけない事象ですが。不幸中の幸いではあるのが僕たちだけで非戦闘員がこの場に存在しないということですか。おかげで危険を遠ざけようとする手間が省ける。これははぐれたことにも悪いことばかりではなかったというでしょうか」

 なんて言われてしまえば喜んでいいのか今まで降りかかってきたモノに恨み節をぶつければいいのか、大変に困ったことである。

 いや、これは今までのことも今回のことにもあってはいけないことだと考えながらも出来うる限りはそれに対処をしていくというのが本懐であろう。

「だとしても………………」

「じゃあ彼女にも話しを聞いておきたいんだけど。今どこにいるのかってさっきもいっていたな」

 天井のさらに上を見上げていたムニオ。彼の視界にはきっとフライトデッキのコックピットにて見落としがないかと安心材料を探しているエステルの姿が映っていることであろう。

 作業も終わって三人で上の階層のミッドデッキまで上がっていく。そこにはゆっくりと通路を歩き回っていたエステルの姿が存在していた。この行動には流石に首を傾げなければいけない。

「いったいどうしたんだよ、そんな冬眠前の熊かっていう動きをして」

「熊なんて観たことありましたかって。ずっとあなたたちを探していたんですよ。どこにいったのか、せめて目の着くところにいてほしいのに」

 なんて失礼なとも思ったが例えに対して文句を言われたのであれば自分も大概に悪いであろう。それよりも目につくところにいろっていうのは無茶な話であろう。

 それよりもそっちのほうが先に作業を終わらせたのは驚きか。たった一人でやっているとはいえコンピューター相手にやっているのであればそちらの方が先に済むのもおかしなことではない気もしてくる。

「それで、何か成果でもあったのかよ。それでなければこうわざわざ急ぎ騒いでまで探すことはしないだろうて」

 フリオッソの言葉を聞いてしまい凄い悩ましい表情を作っていた。何をもったいぶっているのか分からないがいいことでないのは容易に想像ができる。

 だからこそ何を言われても受け止める覚悟は出来ているつもりだ。

「いい知らせと悪い知らせとどっちから聞きたいですか」

「真っ先に言いたそうな悪い知らせからでお願いするよ。そちらからの方が進めやすそうだ」

 なんて促していくのはフォーンであった。先の仕事量が多かったのも彼であろうためになんの成果もなしでは不満もあるというものであろう。

 長く親しい付き合いがあるわけでもなく実力によって行動に信じるモノを得られている以上はそれだけに見合うだけの証明をしなければやっていられないというもの。相手がいる以上はいつもどうにかできるわけではないにしろ肩身が狭くなっていくには仕方のないことであろう。

 ただそれよりもグレイネイアとかいう怪人の討伐に成功した事実があるためにそう簡単にここでの立場を失うなんてこともないが。

 それをいえば一つの部隊の中で一人だけ紛れたとなれば既に肩身は狭くこれ以上など誰も対応を変えるつもりもないという今までことを無駄にしてしまう統括であった。

「非常に言いづらいことではありますが、このシャトルからすぐには皆のいる本隊には戻れません」

 残念であることを意を決して言い放ったエステルであった。彼女の眼元を観れば申し訳ないと考えているくらいのものを浮かべていた。

 ただそれを聞いた三人の反応は予想と違うものであった。

「あぁよかった、か?」

「まぁここで全部爆発します、既に手遅れです一巻の終わりだからなんて言われるよりはまだいい方ではないんじゃないかな」

「原因の究明をといいたいけどもしかして人知を超えた現象によるものであればもうなんでもありですからね。遭難をしてなければどうとでもなりますよ」

 と、それぞれ楽観的とはいかないもののその誰もが希望を捨ててはいない状態であった。

 これには肩透かしを食らった気もしてどうしていいのか戸惑うエステルであった。

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