第1話 願うものはその隣に②
まるで姫君の住まう王宮と見まごうてしまう、そんな一室にその部屋の主が物憂げな様子でベッドに伏せてしまっている。
「 はぁ、回数を重ねたとはいえこの定期検査には、全身を隅々まで洗われるような、あの感覚には今でも慣れませんわね」
地海王
艷やかな桃色の後ろに流した髪と紫紺に輝く双眸という嫋やかでそのなかにあどけなさをも含んだ少女。
この屋敷に来てから定期的に行っている検査が先程終わった。
この屋敷の主に拾っていただいてから三年が経つが自分の立場というのがよくわからない。
使用人としてここに住まわせていただいているが、扱いとしてはまるで人形のようだ。
私はなぜここにいるのだろうか。そんな思考が頭を巡っていたその時。
……コンコンと扉をノックする音が聴こえた。
「 入ってきていいですかでは入りますね」
「 返答をさせないつもりですか⁈」
有無を言わせず長身の燃えるように赤い色をした髪の女性が
「元気があるようで良かったよ。あぁ本当に良かった」
一人で納得したように頷いているが、この人は何しにきたのだろうか。定期検査の後は毎回このやり取りを行っているためこれにはもう慣れてしまった。
彼女はアルターと呼ばれている。
長い赤髪を結い、胸元までとどくほどの純白のヴェールを被っている。そしてヴェールに合わせたパールホワイトのグローブとランジェリーを身に纏い、足元には白くエナメルが輝くパンプスという装いである。
「 どのような御用でしょうか」
「 あら、用がなければ来てはいけないのかしら。まあ、用はあるのですけれど」
アルターはとぼけたようにそう言った。
なんだろうか。
「 あなたの衣装を用意しましょうか」
聞いたところで分からなかった。
「 私の衣装ですか、それはいったいどのようなものなのでしょうか」
「 あなたがここに来てもう二年でしょう」
「 三年です」
本当にぼけているのかもしれないこの人は。
「 そう、だからこそあなたを正式にこの組織の一員として迎い入れても構わないと思って」
さらに分からない。
「 あぁ特に何かが変わるわけではないので安心してくださいね」
「 はぁ」
「 では行きましょうか」
そしてたどり着いた場所にあったものは。
「 さて、ここが衣装部屋です」
そこは端が見えぬほど広く、様々な時代や地域のもの、数々の組織の制服などなどが並べられている、そのような部屋だ。
「この部屋の中から選ぶのですか」
「 まさか、ここにあるものは今回、参考程度に考えて」
参考とはいったいどのようにしてするのだろうか。
そこには人一人入れるほどの無地のカーテンがつけられた個室があるのみで他に変わったところは見受けられない。
「 では、決まったらあれに入ってくださいね部屋の待っていますのでわからないことがあったら声をかけてください」
そう言ってアルターがこの衣装部屋から出ていった。
入れと言ったが特に何かがあるようには見えない。あの空間に入ればどうなるというのか。
疑問が湧くなか、中央まで足を進めたその時、まばゆい光が
そしてしばらくしてその光が消えた。そこには全身を黒いボディストッキングで包み、瞳と同じ色のTシャツの上から髪の色に合わせた薄桃色のコート、同じ色のロングスカート、黒いロングブーツという出で立ちとなった少女の姿であった。
そして終わるのを見計らったかのようにアルターが部屋に入って
「 わぁ随分と可愛らしくなりましたね」
「 そ、そうですか。それは何よりで」
未だに現状がどうなっているのかわからないがほめられて悪い気はしない。
検査の後ということもあり、ひどい倦怠感と疲労感が
だが問いただしておかなければいけないことがいくつかある。
「 先程の、いったいどのような仕組みなのでしょうか。なぜ私はこのような格好でいるのでしょうか」
「 あれは異能を付与する技術を応用して作られたのですよ。確か、魂を精査して外装を構築すると。まとめるとこのようになりますね。この装置、未だに名前が決まっておりません」
「 ごめんなさい。まったくもってわかりません。」
わからないが衣装はあっという間に出来上がってしまったことはすごいと思う。
「 これから新たな物語が始まります。頑張っていきましょう」
「 誰の!?我々が関わることになるんですか!?」
何を言っているのかわからないが。
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