第1話  願うものはその隣に③

シンシンと季節はずれの雪が降り積もる中、喫茶『楽園の巣』では。

「だ~れもいない。閑古鳥が鳴いてるよ」

 そう、今日は近年稀にみる大雪。大雪警報が発表されているほどなのだ。

 そんな中、来店してくる者など皆無であろう。実際にこの店の扉をくぐってくる者がいるのなら、こんなところに来るよりもお家に帰りなさいと言ってやりたい。こんな状況でお家に帰れないというのならよっぽどの事情があるのだとは思うが。

「パパ、close掛ていい?」

 と聞いたらサムズアップが返ってきた。パパ、店がこんな状態ですることではないでしょう。はやじまいとなるのは仕方ないけれど。

 そういうことを考えていたからだろう。店のドアの前に立ったその時、頭をぶつけた。

「ガハッ」

 あたまが痛い。だって目の前で開くとは思わないじゃないか。こんなお約束みたいなことが起こるなんて。

 いったいこんな閉めようという時に来るなんてどんな奴なんだろうかとうずくまっていたところから痛い額を抑えながら頭をあげた。

 そこにいたのは白い革のコートの白髪の少年だ……いやあれ白いのではなく透明なのか。なんて冷たい瞳だろうか。色を失ったようでそれでいて無垢だ。

 目の前の人物にどうしてこんなに惹かれるのだろうか。

 ずっと座り込んでいるわけにはいかない。

「い、いらっしゃいませ。何名でのご来店でしょうか」

 あたしは戸惑いながらも彼に声をかけた。

「えっと、2名で」

「あっはいわかりました。それではお席にご案内させていただきます」

…………あれっ。何かおかしいな。あぁそうだ。

「お連れの方はどちらに?」

 不思議に思って尋ねてみると彼は恐る恐る後ろに振り向き。

「い、いない」

 親とはぐれた子どものような顔をしたかと思ったら、神速と見紛うほどの速さで立ち去っていった。

「い、いったいなんだったのよ。あれは」

 夢でもみてたんだろうか。あぁそうだ。きっと疲れているんだ。

「あの、寒いからドア閉めてくれないかな」

 あれ、ずっと開けっ放しにしてたのか。

「は~い」

 カウンターからとんできた声に適当な返事で応じ、ぶつけた額を抑え言われた通りにドアを閉めた。

 そして振り返った先にあったものは、一つの札束であった。

 …………えっと、どうしてなんでここにこんなものが。さっきまではなかったはずなのに。

 その取ってパラパラとめくってみても不自然な点は見受けられない。本物のようだ。こんなものがここにあるなんて明らかに不自然だ。

 うん、見なかったことにしよう。

 とはならなかった。あたしは見てしまった。カウンターの背面を。

「パパ、オリジナルブレンドが一ケースないけどどこかに移動したの?」

 あたしは怯えた様子で尋ねた。

「あれ、ホントだ。おかしなぁさっきまではちゃんとあったはずなのに」

 慌てて札束を再び確認したが先ほどと同じ結果に終わった。

 パパはあまり気にしていないようだがそういうわけにはいかない。壁掛けの時計を確認する。時間には余裕がありそうだ。彼の印象は強烈だったからね。あんな格好でこの天候でもすぐに見つかることだろう。

「ちょっと行ってくる。すぐに戻ってくるから」

掛けていたエプロンをテーブルにおき、そう言い放った。

「ちょ、行くって外は大雪だというのにいったいどこにいこうとういんだ」

 悪いけど質問に答えている余裕はない。

 勢いよくドアを開け放ち、突如として出現した雪景色の中を、ティアマット・グレイドが駆け抜けてゆく。





「閉めてくれと頼んだのになぜ開けっ放しで出ていくんだ」

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