狭い地上は宙にへと

 バッサリと切断されてしまった、そしてべっちょりと舞い上がる飛沫。それが噴き出すそれというのは途轍もなく勢いをつけてまで天井までぶつかっても、そこから地面にへと転がり落ちてしまうことになるだけ。

 空っぽになるまで吐き出されてしまうのがその血飛沫。この血飛沫なんていうのはヘモグロビンがかなりの割合で満たされている。そして反対側にへとあってしまっている切断面からはだらだらと垂れ流されてしまっているのは途方もない量の鮮血のそれであるのか。常人であればとうに命を落としていておかしくないほどの分まで達してしまおうかというのに。それでも平然と前を向いていられるのは特殊な事例でもあるみたいな感じだ。気合で誤魔化していてもそれでどうにかなるわけでもなし。結局はこの身をすり減らしているわけになる。止血もしないでというわけにもいかないので流石に我慢が利かずにそれに手を伸ばしていく。そうすればブルブルと震えてしまうこの落とされた腕というのが揚がってきて切断面を綺麗に合わせようともしていたか。

 だがそれは叶うわけもなかった。ここから焼き焦げてしまってその落とされた腕というのは炭と化して消え去ってしまうことになる。それに視線を落とすだけの余裕なんていうのはない。これでも体力と気合には限界が近づいてきてしまっている。だとしても纏う鎧にはシステムの信頼というのがあり、それで奪われた腕の分は足してでもいこうかなんて考えてしまう。だがそれが間に合わなかったか。鎧の展開というのもすら維持できる体力は失ってしまっており、そのまま前に倒れていくのみであるのか。咄嗟に未だ残っている反対側の腕で支えていくがそれでも思わずバランスを崩して倒れてしまう。呼吸すら万全に整っているはずもない。それでもこの弐本の脚は満足に備えられているので立ち上がっていくことまでならしていける。

「………………片腕失ってまでそのギラギラとした目をやめないなんて。よっぽど死に向かいたいらしい。その愚かな考えを訂正させるのがこの私であった事にはどれだけの満足を得られるのか」

「君はもう少し思慮深いとも思っていたのだけれど。その程度にしかなれていないのであれば脆弱なわたくしにすら勝利はありえませんよ」

 左腕を肩から切断されて失ってしまっているというのに一切諦める気などさらさらないとばかりの地海王ちかいおうくろうだ。ただここで左腕であったことにはとてもとても幸運であったともいえる。仮にも利き腕をやられたことであれば泣いてでも取り戻そうとするが、それで戻す手段があってそれを惜しんだだけであれば現在において特に問題などない。それならば出し惜しみしたその切り札の一つでも行使してしまえばいいだけ。だが別に自分の意志で制御ができるのかと言われてしまえば難しいこと。であればここから一発腕の再生でも挑んでみればいい。

「それが怖くて躊躇っていたのですけれどね」

「ッ⁉貴様はいったい何をするつもりで」

「貴方と大して変わりありませんよ。わたくしの打てる手というのはここからですから」

 そしてゴンッッゥと地面にへと握っていた得物というのを叩きつけておく。それで突き刺さってしまえればそこから虚空には消え去ってしまうことになるのか。これで誰かしらがやってきて奪取をしようなどということもできるはずもない。

 これから行っていくことなどそこまでの事ではない。自分が自分でなくなることへの恐怖はあれど、それよりも重要なのなんて背負った責任。帰るだけであれば早くにこれでもしていればいい。だからこそ、躊躇はしてもこの場で意識を手放してしまうことを選択する。

 ここまでムッチェチェは警戒の色でも滲ませながらも行動を制限されている状況に置かれていた。何せ同時に二人と向かい合っている場面、それでどちらもドでかい威力を有してまで圧力を圧しつけていくパワーの類。それで高速戦闘だって苦手の部類ではあってもやれそうなのがところ。

(………………相手を見ていれば出し惜しみしている余裕なんてないのは理解できるがその手札を切ってしまうのはそれでも怖いものだな)

 ずっと自らの格闘術等で戦闘を行ない続けていたのだがそれではどちらもジリ貧などいうことに気づかされた。それで一撃勝負でも決めていこうかなんて考えながらも鋭く薄い剣を展開してその若い少女のハリのあるきめ細やかな腕というのを切断してしまうことには成功した。見え見えの誘いにでも乗ってくれたことには驚いているのだが。どうせ成功なんてしまうだろうという考えの元に試しに動かした一撃。防いできて当然だというのにこれだ。であれば他に何かしらがあっておかしくないのか、とか余計な疑いばかりをしてしまう。

 仕入れていた情報では一度同じ手に嵌まっているらしいので効かなくともそれを確かめるだけの手順であったのだが………………。素直に受け取られてしまってざっくり成功されてしまっているのにはどこか自分にへと間違いでも疑わなければいけなくなるほどの切迫感。

 その結果というのはどうやら絶賛行われている最中らしいか。グツグツと切断面からマグマかというほどの熱量で以て沸き立ってしまっているそれ。そしてそれは強烈な速度での細胞分裂だというのを理解するのにはそう時間は必要ない。ここから出現してくる、顕現をしてくるのは奇怪な自由に組み替えを可能としているただの人間とは到底呼べないそれ。眼を見開いてまで出現してくるのは強烈な気配を有する金属生命体………………なのであろうか。それに寄生されている少女であるのだろうか。

「………………ウヒャウヒャウヒャウヒャウヒャウヒャウヒャウヒャッ‼あぁあの強者と呼べるザッハークが求めてその眼で見て感動を覚えたというのはこれかッ‼そうだよなぁ。それがただで済むなんてはずないもんなぁ。レスティラに弱者あれど弱兵無しってかぁ‼その通りだよ全く以てなぁ」

 眼前に映るその一つの光景には思わず我を忘れて歓喜の声をこの土ばかりの洞穴に響かせてしまうムッチェチェ。だがここで油断などはするつもりもない。居合わせたのがザッハークではなく自分であればその分だけ担うべき責任がある。

「見せてみろよ。その強者の意地でもッ」

 そして一切躊躇することなく全身を覆い尽くす分だけの砲撃が放たれてしまうことになる。この一撃によって彼は生を欲することをして宙にへと手を伸ばす。


 たった一発の弾丸、砲撃で正面にへと立ち塞がっていた存在は遺体すら残さずに消え去ってしまうことになったか。単独での戦闘を強要されていたのであれば体力の消耗をされてしまっていた現状を反省するべきだ。左腕の一本でも失ってしまえばそれに対しての悔しさというは当然ある。これでも負けず嫌いなもので。

 レールガンの形状にまでなっているこの左腕。まさか変形なんてするなんてという思いだってもあるが、そんなことよりも重たいと感じるだけのこの重量がある。

「いくら再生をするなんていう確信があっても変形させることが出来るのであればそもそもがこんな馬鹿なことなんてしないんですよ」

 それでどうにかこの場から去ろうともする地海王ちかいおうくろう。それで進んでいこうともすればどうにかたどり着く先というのも暗い土に埋もれた洞窟内部。ずっとそれだけしかない、変わらない景色だ。

「では今度は僕の相手でもしてくれませんか」

 そして現れてくる謎の人物。だが彼の纏う気配は先ほどの者と共通するそれがあり尚且つ他を圧倒するその王としての風格。それを備えていて隠さずにいるのが相応の自信があるということか。

「お断りです。わたくしは帰宅を優先するので。では失礼します」

 こんな奴に構っている時間がもったいない。速やかに去ることを優先する。だがそれでも前に立ち塞がってきて行く道を遮ってくるのが邪魔である。

「へぇ帰宅か。帰郷でなくて」

 あぁ無視だ無視でもしていなければ苛立ちだってぶつけられずにいて蓄えておけるから、それでいずれ時が来ればしかるべき時に放てばいいだけ。特におかしなことでもない話だ。

「あぁ、ムッチェチェを倒したつもりであるかも知れないがあいつはあれ一撃で朽ちてしまうほどの出来ではない。多分この時間であれば恐らくは瓜丘うりおか亞婁螺あるらとやらにへと襲い掛かっていておかしくはないくらいだ」

「ッガ‼」

 気づいていたらこの身体というのは動いていた。動いていたのは左腕であったか。

 それが咄嗟にでも動いてしまえばどこにへと向かっていくのかなんて、このふざけたことをぬかす怪人にへとだ。細い女の腕へと戻っていた状態から意識してすぐさま自らの意思で変形をさせる。そして躊躇うこともなく撃ち抜いていく。だがその速度を増してまで姿を消したか。それがただの高速移動であるのは理解して、追いかけていくように砲撃を撃ち続けていくことまでしていく地海王ちかいおうくろうであったとか。


 遠い遠い意識が遠のいてしまう気もしてくるがそれを自身の意志で突破するなんていう気概はあれど自信がない。この不甲斐なさにはどれだけの血反吐を吐くことになるのかもわかりもしない。だがそれでもこの命で賄えることなど大したものでハナイとしても、だとしてもそもそもが現在生き残るのが難しいというのに。

 瓜丘うりおか亞婁螺あるらのこの全身を喰らいつくしてくる蠅の集団を討伐していこうかとか暴れて悶えているがそれで消え去ってくれるはずもない。全体を残すだけであればムッチェチェの執念は申し分ないそれ。

 ここで普通の方法での討伐なんていうのが叶わないのは承知するべき。だがここにたかってしまっているのが蠅であることには変わらない。それであれば通常の退治方法とそう変わらないのではないだろうか。別に根絶しようとするから辛くなるだけ。

「だからこういう一般にでも知られている液体でもかけておけばしばらくは動かなくなってはくれる」

 そして現れてきたのは美しい優男であったか。彼がぶっかけてきたのはいろいろ酒だの塩だの酢とか醤油とか調味料とかを混ぜたものであった。それは確かに蠅とかの蟲にも効く液体ではあるだろうが………………普通に人間が浴びても危ない劇物ですから。

「何てことしてくれたんだよッ!危ないじゃないかよ」

「………………おっと、そう怒られてしまうとは思わなかったな。そう怒ってばかりいると可愛い顔が台無しだぞ」

「………………………………」

 なんというか、言葉が出てこないほどの変な人だ。というかそもそもここまでどうやって来たのかということもあるし。宇宙に浮かんでいる建造物にあってそれを破壊しようなんていうことが行われているというのに有毒ガス等の警戒なのかガスマスクとかだけの状態なのだ。それでとんでもな液体を用意してくるその手腕には驚きだがそれと同時に心配が勝つ。

「親愛と共に君のことを心配していたのだけれどそれは届かなかったかな」

 何を言っているのか。とりあえずは群がってきていた蠅というのは粗方動きを止めている。それを払い落としてみればどうやらどれもこれも生命活動を停止しているようにも見える。まさかこの液体一つでくたばるようなのなんておかしなことでもないのか………………んな馬鹿なことでもないってこと。

「冗談でもふざけているとしか思えないな」

(あたしはここにいるはずの友人を探しているだけなのにどうしてこんなことになるのか。教えて欲しいのは連れて帰る手段とか)

 とか考えていてもそれどころではない状況にでも追い込まれているらしいのか。出現してくるのはなんてことのない温度計。彼が持ち出してきたそれでまさかプールにでも差し込んでいくことで測っているらしいのか。

 そして彼はこちらにまで振り返ってきたのか。

「僕はギリアム・バルス。この名を君のような女性にでも覚えて欲しいというのは我が儘だろうか」

 名乗りを上げてくるがそんなことなど知らん。

「知らないな。お空にでも上がりたいか」

「………………僕、高所恐怖症なので」

 という風に容易く認めることをしたのか。


 雷撃走らせる怪人の襲撃というのはコンテナばかり積み上げられたこの空間の中でも大きく状況を変化させてくるそれであったらしい。加仲かなか実留みるとキールドの二人でさえも何度壁に叩きつけられてしまったとかも分からない。正直その回数は重要ではないと思わなければやっていけない。そうでもなければ心が折れそうにもなる。

「ドロドロに溶けるまでの強さなんて。禄でもないくらいの脅威じゃないか」

 襲撃してきた怪人というのは観目麗しいというべき女性とも見紛うこともあるかも知れない容姿をしている。そこに付けられているのは何せ黄金の武装であるために雷撃を徹底して通していっている。床が鉄板であったのが途轍もなく不幸なことであるのか、バチバチと周囲が帯電している状態であるらしいし。

「それでも共同で戦線の維持をなんていうことをした以上は時間稼ぎでの籠城でもするのが………………」

 だが加仲かなか実留みるだって理解している。この状況にあるのはどうせ援軍のないことだということを。どうせあの三人だっても決着が着けばここまで来ておかしくはない。だがそれで満身創痍の状態で来られても弾除けぐらいにしかならない、そんなことに費やすのであれば自分たちでこのままやるので構わない。

 籠城なんていうのは援軍あってこそだがその見込みがないのに行うことでもないというのに。既にその三人がこの盤面に参戦でもしていても攻撃の隙が無い。

 レザナイもエンドミル・昭矩もオルトリンデ・アントだっても、どうしても得物の距離というのが長くなってしまっている。その分だけ近くに行けば使いづらいともなるのだが、どうにも雷撃の怪人というのが立ち回り素早く巧くてそれのあいだまでを縫っての攻撃など通すだけの隙が見当たらない。

「くッとらぁ!」

 自分の銃の扱いが足りないことなど今まででも滅多になかったのでこうまで捉えきれない相手がいるなど信じられないことである。思わず悶えてしまうくらいには精神が可笑しくなりかけている。で、それが聴こえたことで咄嗟に雷撃の怪人から距離を取ることをしたキールドと加仲かなか実留みる。それぞれ別方向にでも跳んだことでどちらに向かうべきかなんていうのは迷うはずである。こうなれば一度の僅かな時間稼ぎでも叶えばそれで構わないとでも考えていたのだが。

「ヒュボアァ⁉」

 思わず悲鳴を上げてしまったのは加仲かなか実留みるだが、これで達成するべき事項は成功した。信頼してこその一撃。吹っ飛ばされるのは一撃の弾丸によるものである。

「一発当たれば事足りる」

 特別製の弾丸。この一発でも撃ち抜いていくことを成功させてしまえば対象の内部から撃ち亡ぼしてくるだけの威力は備えていること。その内部から沸き立つのは蠅の大群である。ムッチェチェからもしものためにと渡されていたこの弾丸。だがすぐさま立ち上がっていくのがこの雷撃の怪人であるのか。吹っ飛ばされて鉄板の上を転がされたというのにすぐさま起き上がっていこうとしてくる。

 だがその頭上から腹を食い破るだけの勢いへと更に突けてくる一撃。

「心配になるわねこれは」

 たった一撃。強烈な勢いで金属光沢のある棒切れを真っ直ぐに頭上から振り下ろしていったというだけ。この現在でも内部から全身を食い破っていこうとしているその気配というのは漂っているそれ。これをこのままに壁に柱にへと叩きつけていくことまでしていった。だがそれでも未だに息をしていることを確認する。とりあえずあの二人にへと襲い掛かっていて圧倒する状況が見えていたのでそれを見かねての介入である。だがそれはどうやら失敗ではなかったとは確信にまで至る。その眼に映る悪意が尋常ではないそれ。とてもではないが放置など出来るわけもない。その意志が見たらないからこその恐怖気分だよ。

 ここですっぽ抜けてしまうことになってしまうのだがこれはエンドミル・昭矩が意図したこと。ここから全力でバッサリと雷撃の怪人が有する全身がバサバサと切断をさせてしまうことになる。それはたった一度の攻撃によること。それを多段ヒットさせていくだけでいいのだから便利な能力だよなこれは。

「こんな風に一発でも受けてしまえば激痛で悶え続けるというのに。あっけないことだな」

 オルトリンデ・アントが鞭を振るったことによる現象。これだけの業があっても尚そもそも当たらなければ通用しないというのだからお互いに膠着して当然のこと。

 レザナイにもキールドにも通り辛かった理屈はここにある。

 満足は未だ出来ない。天井を見上げてみればそこにあるのは今までの戦いで傷ついたそれ。………………これから再びこの者たちと戦わなければいけないなどと気が重くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る