第二章 第二話 果ての傍からどこに?⑤
フィリアの住み着いている小屋には多くのものが集まっていた。そんな中でも大半がアールアス連邦共和国の者であるのだが。それでもいくら室内に外見よりもたくさんのモノが入れるようになっているといっても当然ながら一個師団の全てを装備含めて入れてしまうなんてことはできない。
「だからこそ主な人物だけをここに入れて後は外で休んでもらっているわけだけどねえ。だからこそ話の分かる人物だけ呼んだつもりなんだけとね」
そういうフィリアは視線をこの部屋へと巡らせている。特におかしなことなんてないさ。例えばプルート・オルコットにつき纏うようなことをしている野郎と思われるものがいたとしても。
偉い艦長やってるやつがここの本を熟読し始めるなんてことをしているなんてのもね。ちなみに読んでいるのは子供だましな童話であった。ただ内容が内容なだけにある国では機密資料としても扱われる場合のあるといういわくつきのものではあるのだが。淡々と読み進めていくことならば何も問題はないために焚書なんてことはされておらずそれこそ子供であればだれでも知っている話だ。だからこそ内心少しはびくびくしながらもその様子を眺めていることにしているフィリアだったのだが。
あとはまあもう語るのは面倒なくらいには粗暴で紳士だったりする連中ということで一緒くたにしてしまっていいだろう。これを聞けばきっと内心納得はいかずともしぶしぶながらも従う他ないのだろう。
後他にはフィリアにとって見知った人物ばかりで………………。あぁそういえば死神さんも拾われてきていたらしい。まさかこの異常なことに対してこのような冷静な行動をとるなんて思いもしなかった。
そして生き残っていることは驚かなかった。だがまさかフェイクに連れ去られてきているなんていうのが今回の彼に関することで一番驚いたかもしれない。
プルートと合流してから何故か気まぐれに奥へと潜っていってそこで拾われてきたというのが何気に恐ろしく感じさせる。
そういうことで当然プルート・オルコットもフェイクもこの部屋へとやってきている。ただ彼らの表情は非常に不満気であった。そんな彼らがようやくといっていいくらいには口を開く。
「なぁどうしてあいつがいないんだよ」
「どうしてといわれてもねえ。誰だって必死だったつもりだったと思うよ。あの時はね。いつこっちに藍バードが襲ってくるかもわからないというのに真面目に仕事をしないやつなんているわけがないとも思っていたからね。これはオイラの驕りというものなんだろうね。実際にそれで何度もミスをしてきたというのにまたやらかしてこれは一生直らないな」
なんていう風に自嘲するように吐き捨てることをしていたフィリア。その相貌にも心なしか影がかかってくるように。
「お前のことなんか知らねえよ。そして何も知らないで糾弾なんかできるはずもなしだからな。話を聞く限りではお前らがかつて保護した少年が突如として乃蒼へと襲い掛かってそれが返り討ちにあったということ、そしてその後ろから来た怪物に拘束それて攫われていたと」
「あぁそれであっているよ。まさか彼のような騎士を連れているなんてね。保存していた映像を見る限りではあるが圧倒的な実力を見せての鮮やかなまでの勝利という文句のつけようがないものであった。だけどそれにケチをつけるとすればそれこそ相手に後ろを取られてしまったことであろうか」
淡々と語られるばかりであった感情の乗せないフィリアにやるせない苛立ちを隠せないでいるプルート・オルコット。
歯を食いしばっていることに力が入ってしまい周囲の空気が熱いものとなってしまっていた。部屋にいた者はゆっくり気取られることないように自然と距離を取ることをしていた。
「ただその程度であるならば仕方がないのかもしれないね。だったらここで全部終わらすなんてのもありかもしれないなあ。誰もオイラの期待に応えることなんてしてくれないんだもんね。クレイ王の暴挙なんてのもなくなって惜しくはないかもだからねえ。オイラの全力なら全部吹っ飛ばせるだろうけれど」
フィリアの表情は明るいものであるのだが他の誰もが恐怖を感じておりナイフを持って斬りかかろうとするのまで確認できる。
「貴様はこれを本気でいっているのか。実現できると思っているなら頭の冗談にしても出来が悪すぎる」
「アハハ!冗談に決まっているじゃないか。そうでなくてもオイラはまだまだ最強にも万能にもほど遠い未熟者だよ。クレイ王の暴挙というのはその地に差し込まれてしまった楔みたいなものだよ。ただその楔が強力が過ぎるもんだからって星が滅んだとしても残ったとて不思議じゃあない」
「………………………………。相変わらずのとんでもだな。俺には冗談にしか聞こえないぞ。素人の考えで申し訳ないがもしかしてクレイ王の暴挙というのはいわゆるダンジョンということでいいのか。奥にそれを維持するものがあって破壊すれば勝ちというもので」
死神なんて呼ばれていた野郎が呑気に茶をしばくことをしていた。だがその表情は真剣極まりないものであった。
「きっとそうだろうね。というかいわゆるでなくても地下牢といった意味でのダンジョンではありそうなんだけどね。クレイ王の暴挙なんて呼ばれているのはそういうのも含まれていたりするからね」
なんてことのないように明かしていくことであるがこれはここにいるほとんどにとっては聞いたこともないものであった。まぁそれはアールアスのものが大半ということでなんか無知で済まされるような可愛い子が数人といったところではあるが。
「改めて聞くとかなり危険なものだよなあ。噂だと思いたくてずっと生きてきたけどそう言われてしまえば何も言えないじゃないか。相手がどれだけいるかなんていうのはわかりゃしないし事実上無尽蔵といっても文句は言われないだろうし。後はまぁいって帰って来れるのがどれだけいるかってことにもなってくる」
「そんなものはまともじゃあないがどうにかできるさきっと。攻略不可のゲームなんてクソゲーでしかないがそうでなければやりようなんてものはいくらでもあるさ。だからクリアもできる。今は自分でするつもりなんてないけれど」
実際にクレイ王の暴挙へと潜っていって生き残って帰ってきているフィリアが軽い調子で言ってのけていた。ただ周りの連中は全員が首を横に振って拒否の反応を示していた。
「無茶をいっているんじゃないのか。これでも多数の犠牲が出たうえで多くの将兵を置き去りにしてきたんだ。これじゃあ情けないとも自分でも思うが勝てるなんてすぐにはいえるはずもない」
ワイト・コーナンがこれ以上の侵攻には反対の意を示しておく。もうこうなってしまえば勝てるかどうかなんて話はできなくなっている。たとえ粛清されたとしてももうこれよりさらに戦争をおこなう気概なんてものは生まれない。
「別にいいよ。ここで抜けてもらっても。これでも用もなしに呼びつける真似はしてないから。でも仕方がないさ。いなくなってしまうのにそれを引き留めるのは我が儘というものだからね。戦争のやり方を知っていてそれにこだわらない連中だと思ったからここにいるんだと思ったけれど」
「どういうことだ。我々をそう評価してもらえるのは嬉しいかぎりだけれどさっきも言った通り我々はもう戦えない。損耗が大きすぎる」
「具体的は」
「ッは?」
何をいっているのであろうかというのがワイト・コーナンの印象だ。だからこそ素直に答えてしまっていた。
「少なくとも一割っていったところだけれど流石にこれじゃあ戦闘なんてできるもんじゃないぞ。できることとできないことはわかっているもんじゃあ」
「なんだ一割程度か。それなら充分にやれるじゃないか。これからのことはいくら何でもオイラだけじゃあ難しいからね。手が多い方が嬉しい限りだけれどね」
「何をさせようというんだ。損害が多いんだといっているんだが。帰るぞ。粛清くらいならどうとでもなるからな。じゃあ世話になったな。旗艦をまるごと失ってしまったんだ。責任を取るくらいなら頑張るといってできるさ」
腕を上げて小屋から出てしまおうとするワイト・コーナン。彼を心配する様子は見せてもついていく部下たちだったか。だけどフィリアはそれを容易く引き留める言葉を知っている。
「じゃあその失ったとかいう旗艦を取り戻しに向かわないかい」
「ハッ?何を言っているんだ。これでも我々は負けた、だからもう損害が出た後ではそれよりも強靭となった戦力にどう立ち向かえというんだ。だから降りるといったんだ」
「できるよ。助け出すくらいには証明はしたでしょう。それを君たちでやればいいことなだけだよ」
モニターにプルート・オルコットとフェイクの飛行経路を映し出されていた。これはかなり異常なほどに神経を狂わせなければいけないほどの挙動、怪物でなければできないのではないかというものだった。その挙動というはもう人間であることさえ疑うものだった。
「………………………………。できるわけがないだろう。それこそ精鋭ぞろいの怪物部隊でなけれいいやそれでも難しいくらいだ。その挙動はGがあまりにもかかりすぎるものだ。さらに言えばエネルギーや弾薬の管理も高度なものが求められているものだろう。それを素人に毛が生えたくらいの我々にやれというのか。絶対にいやだね」
「おいおい粛清されるはあっても負けてる戦争をやるつもりはないってか。それは少し筋が通らないものじゃあないのか。あぁそれともできないことばかりでハナから要らんものばかりってことで失っても惜しくはないってか。そういう性格かよよくわかったよ」
死神が茶のおかわりを自分で注ぐことをしていた。これでもう何杯目になるだろうか。ただその速度はゆっくりであるためになくなったタイミングが付きにくいということなのだが。
「冗談や御伽噺で飯が食えるほど軍人というのは安くはないんだ。だからいつまでたっても政治にも諦めがついてしまうこととなっている。できることできないことの分別くらいはつけて………………。くそっ」
悔しそうな表情をみせながらも席へと戻っていったワイト・コーナンだった。
「それでできるのか。こんなことが我々の末端にまで」
ワイト・コーナンは視線をいくつもの閃が走っているモニターへと向けていた。このような変態的挙動ができるというなら確かにどうにかして旗艦の救援、救出というのができるかもしれない。だがフィリアから返ってきたのは辛辣なものであった。
「できるわけがないであろうに。いいや、相応の時間を掛ければ気合でどうにかできるかと思うのだがな。だとしても今すぐになんていうのは無理があるぞ。それこそ天地が割れるくらいであれば。いやこんな言い方をしてしまえばかなりの頻度で起こるみたいなことじゃないか」
なぜだろうか。これを聞いたワイト・コーナンは一つの考えを持ってしまっただった。天地がひっくり返るくらいでそんなことが起こるのであればうまくやれば自分に都合のいいようにできてしまうのではないかなどと。
「それこそできてたまるかってことだよ。相手との気合の根競べになること間違いなしだよそれは。だから戦争ともいえるのはな、簡単にはいかない。だって相手がいるんだもん。顔を知ってしまえば戦争なんて呼べなくなるのが面倒なところではあるけれど。だからこそ割り切っているんだ。君たちだってそうでしょう」
「何をだいったい」
「今日殺してきた藍バードにも家族がいて平和かなんていうのは知らないけれど家庭があって社会活動があって。それを壊しているということに」
「そんなことは誰が相手だろうと同じことだ。時間になったら呼んでくれ」
今度こそ部屋から出ていこうとするワイトだった。
「何言ってるの。いけるなら今すぐにでも飛び出していくよ」
などと言われてしまえば困ること間違いなしのワイトはもう無言で速やかに退出していった。慌てた様子ではあるが部下たちもついていく。その顔は絶望にあった。戦場にいたのともこちらについたはかりのとも入室してきたのとこのどれとも違うものであった。まるで絶望で覆われた希望に自ら腕を突っ込んでいくものであろうな。彼らの心境というのは。
「と、考えれば人手があればなんていうことじゃどうにもならないぞこれは。寧ろ余計な犠牲を出すことになるんじゃないのか」
死神が茶を軽く飲み干してさらに次を次いでいっていた。たった一人残ってしまった隊長なんておかしなものではあるがそれで何度か成功を残しているのでおいていくなもっと鍛えてくれなんて部下に我が儘言われているのが現実だった。
「余計な犠牲なんてのはでるわけがないだろう。これでもこれ以上の犠牲を出さずに済めばそれでいいのではなんて思っているのだから」
「それは当然のことであろう。寧ろここからさらに多くの犠牲が出てしまいましたなんて笑い話では済まないことだからな。それでいい案はあるのか」
それはここにいる者にとって誰もが気になっていることであった。一つの怪物ともいえるクレイ王の暴挙の奥深くへと入ってしまっているかもしれない。そうしたらどうやって助け出すのか、まさかフィリアが持ち上げていくのか。
「あるよ。というかいくつか気になることがある」
「気になることだあ。いったい何を」
「クレイ王の暴挙というのは大穴に近づいていかなければ何も出てくるはずはないんだ。それが今回大軍とも呼べるかもしれないがそれがあれだけの離れた距離にいたところで湧き出てくるもんじゃあないはずなんだ。穴の外に出てくるなんてそれこそ誰かが無理に逃げ出そうとするくらいでなければ」
「つまりそれは誰かが大穴を開けっ放しで放置していたということか。それも俺がそこのリリオとかいうのにやられたみたいに線でつないでぶら下げているくらいの状態でというのが現実的なものじゃあないのか」
「えっ、あぁそういうことだと思うよ。まあその線というのが誰かの手に未だに握られているのであれば問題でしかないと思うけれど。でもそうでもなくてもディストピアなのは今更だ。サイアクがサイアクになるだけだ。気にすることではないさ」
自分の部下がそのようなことをして申し訳ないとも思っているのであろう。そうでなくてもあちこち大変なことが多いのだ。あっちでフライパン焦がしたとかこっちで鍋を焦がしてしまっただとかいうのばかりである。面倒は少ない方がいいというのにな。というかここはあちこち焦がしてばっかだな。
「どうしたそんなゲテモノを観るような顔をしてさ。これでも普通を心掛けているつもりなんだけどな」
「どこが普通だよ。達観が過ぎるんだよ。命を大切にしろよこの野郎」
なんて言われてしまったフィリアであった。室内で傘を開いて蹲ることをしてしまったとさ。
「………………。いやこれでいいんですか⁉」
なんて思わずおっきな声で叫んでしまったフェイク。彼女がこんな大きな声を出すのなんて珍しいというのに。
周囲を見渡してみればもうここの人は皆が肯定するように頷いていた。あぁこれはもう誰も思っていて慣れてきたことらしい。ただ疑問をもっていることからまだ重症とは言えないのが救いであろうか。………………。こんなのは比べるもんじゃあないだろう。
プルート・オルコット外に並べられた数々の戦艦を眺めていた。これほど多くの戦艦が揃うとなれば壮観の一言であろう。たとえそれが多大な傷を覆ってしまっていて応急処置の真っ最中だということだとしても。
「これだけあっても勝てない。というより相手がこちらに戦力を合わせてきているのかもしれないな。一定の難易度を維持することとして」
「それはそれはうちらが滑稽な話じゃないか。どれだけやったところで相手方に遊ばれているとなればな」
聞き覚えのあるというかできれば聞くことなく忘れていてくれたらなんて思っていたのが聞こえてきている。それもプルート・オルコットの真後ろにて。
「別に遭わずに済むならそれがいいんだけど。んでけがは治ったか。流石にこの短時間じゃあ難しいだろうな」
「そうですね。助けてくれた礼を言いたくてずっと探していたのですが見つからないんですからねえ。それにしてもここにいるなんて」
こうしてプルート・オルコットが立っているのは小屋の煙突の上であった。ただこの煙突は見た目通りの機能を果たすことはない。ここにいたところで煙突の邪魔になることなんてない。とも言えないが現在は使用していないために問題はないだろう。
「それでいったい何用だよ。俺は今回では所詮ただの一介の兵士に過ぎないからな」
こうしてちゃんと断っておいたはずなのにその先へと踏み込んでいくことをした。ただ自分が名乗ることから始めて。
「フリアといいます。今回は助けていただいて感謝しています。たとえそれがあなたのおこなってきた有象無象の一つだとしても」
なんてことを言いながらふんわりと後ろから抱き着いてきた。それに驚いて思わず振りほどくことをしてしまうプルート・オルコット。その手の動かし方も含めていやらしいものと感じてしまった。
「え、なに怖いんだけど。………………。なぁまさか冗談を真に受けるような野郎ではないと信じたかったけど。ただの耳年増なんて思いもよらなかった」
「えっ、耳年増な女の子はお嫌いですか」
何だろうか。妖艶なポーズというのをやってみせているが幼い顔立ち体つきのために可愛らしいというのがどうしても浮かんできてしまう。
「………………………………。生憎だけどそういうのは受け付けていないんだ。俺はな何もかも冗談にしか聞こえないんだ。冗談なものでも俺は観たくないものだってあるんだよ」
屋根から飛び降りてその姿を消していったプルート・オルコット。
(ほんとに冗談じゃねえよ。野郎かと思えば狂ったことに付き合ってきてそしたらそれを大真面目に受け取って近づいてくるだって。俺が見てる悪夢かよ。後はまあ性別が分からないところにあるかもしれない。最初にあった違和感はこれか。だから謎があってもこんな風に俺も向こうも平然としているわけかよ)
(まさか奴隷だなんだというのがその場の冗談だったなんてね。顔も見えない相手に一目ぼれなんて可笑しいかもしれないけれどね。でもしたものは仕方がないじゃないか。あんなかっこよくピンチを救ってこられたら。でもそれでも命をもらったならどうしたいかなんてあんなことをいわれてしまえばああなってしまうのは当然のことだと思うんだ。それなのに、あぁ)
((なんて気持ち悪いんだ))
フェイクは工房にて整備が行われている鬼公を眺めてしたりしていた。彼女にとってはこれがなければ己が身の一つでこの世界を渡っていかなければならないためだ。いいや、流石にこれで世界を越えるなんていうのは現実的ではない。それもパイロットを欠いてしまえば絶望的となる。自分が使い込んできたものを使用するのが一番いいに決まっているのだ。
だからフェイクも愛用の杖を肌身離さずに持ち歩いているわけだ。だからこそ無茶は厳禁だ。そう厳禁なんだ。だから必要に応じて厳禁だろうがそれをやることにはなるだろう。
今までそうやってきて生き残れてきたんだから今更でしかないだろう。
「なとといっているうちはそれが治ることはないからな。自覚があってもやめられんない俺がいうから間違いないぞこれは」
なんていってむしゃむしゃとスナック菓子をかじっている野郎がそこにいた。
「何ですか、いったい。ナンパするなら場所と相手の年代を常識的に考えてくださいよ。流石に死人が出たばかりでこの鉄くず散らばる一帯で幼い女の子を誘うなんてどうかしてますよ。それともアールアス連邦共和国とやらの男どもは皆そうなんですかねえ」
目線を外さずにゆっくりと速やかに距離を置くフェイク。
「なんて辛辣なことをいうんだよ。別にお前さんは幼いなんていうほどじゃあないと
思うけどな。全くそうでなくてもこっちは軽い機体ででかいのと殴り合いをさせられる羽目になったんだ。それを終わらせてくれた奴に礼をいうのはそんなにおかしいことかよ。あっこれ喰うか」
なんていって差し出されたスナック菓子を躊躇なく口へと入れてしまう。毒がないであろうというのはわかっていた。というよりも一瞬で調べてそうだろうという目算に近いものを出したというのが正確であろうか。
スナック菓子のはずなのにボリボリバリバリなんていう咀嚼音がなっているのはおかしいと思わなければいけないのであろうがそんな余裕はない。
「旨いか」
「ぼちぼちですね」
「そりゃあよかった。大佐が食わせてくれたものでなあ、その大佐も向こう側にいってまって帰って来ねえし」
空の袋に手を突っ込んでみるがもうないことに首を傾げることをしているアリアリだった。
「そうですか。その大佐さんにもいずれ会えることでしょうからそれまでのみあげ話
をたくさん持っていくことですね」
「勘弁してくれよ。早いとこ撤退の道を作って戻るよう説得しなきゃいけないんだろうって。それができるという証明をしてくれたことには非常に感謝している。だけどあのフィリアとかいう英雄は謎が多いからな。まぁ外のそれも末端であるがゆえなんだろうな」
「つまりその者が所属する上層部であれば多くのことを知っているのではないのかって。それは当然でしょう。そうでなくては困る。世の中にはそれどころか組織の誰にも知らせずに単独でそこに存在できた怪人というのもいますから」
寝物語に近いくらいには口酸っぱく聞かされてきた御伽噺がある。これが起こってからまだ四半世紀も経っていないという事実。これがまたいつか起こるかもしれないなんて考えてもしまう。
今考えてもどうにもならないことをしても仕方がないだろう。今はせめてできることを。帰るために。ついていきたいなんて言ったのは自分たちなんだから。
「あぁ、ありがとな。助けてくれて」
「へ?」
彼から礼の言葉が飛んでくるなんて思いもしなかった。人間性を疑っているわけではない。こんな奴でも流石に礼の一つくらいあってもおかしくはないとも思ってはいる。菓子を分けてくれたり尊敬する上官を心配していたりと親切や優しさが見えているものだ。
そうではなくてだ、心当たりがないのだ。こんな風に儚いものを愛でるような気持ち悪い眼で見られる覚えなんて。
「仕方がないよな。そっちからは顔なんて見えてはいなかったんだから。ほら、あの時シンレンテでどでかいのと殴り合いしてた馬鹿だよ」
「うそでしょ、どうしてそんな馬鹿なのが今の今まで生き残って来られたのよ。全くもってわからない」
「そこに疑問が入ってくるのは流石に意外というかなんというか。まぁこうして元気にやっていけてるから今更このやり方を変えるなんて難しいだろうけどな」
「へぇ、じゃあ戦闘でぶっ壊した腕や脚やらのあちこちをどうにか持たせていくのも案があってのことなんだろうね」
後ろから途轍もない強烈な悪寒が向かってきていた。いや、これは正確ではないだろう。悪寒がアリアリへと送られていってそれが横にいるフェイクへと伝わってしまっていたということなんだろうとは思う。
彼は悪寒の発生源に首根っこを掴まれて何処かへと消えていってしまっていた。
「………………………………。一体何だったのか。それにしてもここの施設というのはどこも大きいのか小さいのかサイズ感がおかしくなりそうです」
「それはまあそうだろうな。寧ろ初見でそこまでの違和感を覚えられることがすごいともいえるからな。ここにきたらまずは道に迷わぬように案内板をよく読んで進んでいくというのがいつもの恒例なんだけど。こんなによそ者がくること自体滅多にないことだと………………。思うんだけど」
訳知り顔でやってきた作業着姿の男がこちらへと近づいてきていた。
「なんですか。暇なんですかそうですかでははよう鬼公を使えるようにしてくださいよ。そうでなくてもよそ者であって兵士でもない自分は手持無沙汰になりやすいんですから」
「そういわれても、あぁそうだよな。片割れを見失えばそう警戒心も強くはなるよな安心しろ、今急ピッチで進めている最中だ。なにせ四肢や装甲を試作のものでやったからな。データの抽出なんてのも行いたいからな」
端末を操作して現在進行形で送られてくるデータを眺めていっていた。その中には貴重な鬼公の運用のさいのプルート・オルコットのパイロットとしての最新のデータが入っているのだ。決して無駄にできるものではない。
「………………そんなに気合入れられても他をアールアスの人たちの方を優先してもらってもいいんですけど」
「別に適切な人員の配置をしているから支障はない。それよりもこの鬼公を仕上げてしまう方がよっぽどの利益になる。だからまぁ自分たちの機体なんていくつかあるがあまりいい状態じゃない」
「それって整備状態が悪いってこと」
送られてくるデータを眺めて一喜一憂している彼が面白くなってきていた。
「いいや、別にそういうことはしてない。もっと深刻かもしれないな。パイロットがな、戦闘員やっていられるので強いのがほとんどいないという状態なんだ。まとななんていえるのはそれこそリリオとか大きく飛ばしてフィリアがいるがこいつらの場合にはマシンに乗らない方が強いのではなんていう本末転倒ぶりを見せていたりするからな」
「それって技術不足を嘆いているようにしか聞こえないのだけど」
「そうだな。情けない限りではあるんだけどそれでもできるだけ個人に見合った機体を与えてやれるように努力はしているんだけど」
ど、とな。これはつまりできていないのであろう。技術不足でやりたいことができないなんていうのはよくあることだから。
「それで悔しい想いを抱えて毎夜酒に溺れる生活を送っていると」
「実はちゃんと金に糸目を付けぬトンデモなのならできてはいるんですけれど。あれは危険だということで封印されているんですよ。まぁ有事の差異にはそんなものは知ったことかと持ち出すのがお約束ではあるんですけど」
なんか物騒なことを聞いてしまったな。でもそれなら大変なことになってもどうにかできそうな気がするから気が楽になる。
「それで勝てるんですか。封印されたのはこの近くにあるんですよね」
「んなわけがないでしょう。ちゃんと本国の誰にも見つからぬ場所にあるはずです。といって私の知らないうちに人の入らぬ僻地に送られているかもしれない。だから機密だらけで使えぬ機体など役に立たないと」
「それで遂に一度も使われなかったと」
「まさか。悲しいことにかなりの頻度で使用されていますよ。つまりそれだけ出番を必要とする惨劇が多いということになる。どうにかはならないのだろう」
データの抽出が終わったのか端末を動かす速度が速くなっていた。
「今回の件ではまだ優しいほどだと。命を数字や額面で測っていてはいけないとは思いつつもそうなってしまえばまだこれで揺らぐほどこの世界は脆くできあがっていないか」
「そういうことだ。誰かのためになんていうのは簡単じゃあないからね。それを限界なくなんてやってしまえばそれはもう既に破綻している。あぁこちらは終わったから後は細かい調整か。これはパイロットを呼びつけて行うものであろう。君、杖のメンテなんてのは私では難しいと思うしこの通り忙しい。本国には優秀なエンジニアがいるから彼らに一度見せてみるといいよ。見られたくないデータが入っているというなら隠せばいいし」
そう言って懐からメモ用紙を取り出してスラスラとペンで書き連ねていく。そして自分の名刺と共にフェイクへと渡していた。
「これはお節介だ。いいように使ってくれたまえ」
そして颯爽と鬼公の上へと飛び乗っていった。重力下だというのにあれだけの軽快な動きができるなんて彼も戦ったら強いのではないかとも思ってしまう。
「なんてこともないことかこれは。さて、じゃあ」
フェイクは一度この工房から出ることとした。あまりにもうるさく慌ただしいために自分が邪魔になっているのではなんて考えてしまっていたからとなる。
そして向かう場所なんてここであろう。他に優先する場所なんてなかったから来るのは二度目になる。
「現場からはもう何も見つからないか」
ここは乃蒼が攫われる際にいた場所である。この場所でクッキーを食べてそのすぐあとに襲われてということだったか。最初のものには先手を打たれて一方的な攻撃を受けてしまい傷だらけとなってしまったが身代わりを着こんでいたためにすぐさま杖の方が代打を務めて圧倒的な勝利をもぎ取っていった。
だがその後ろからいきなり黒い影が現れてきて飲み込まれていき残ったのがたったこれだけの箱だった。
「それにしてもなんの変哲もないキッチンですね。家庭的というかなんというか」
「そういわれるとは思わなかったな。でも凝り性な奴が設計したのもあってかあちこちが狂ったみたいにできるんだ。試しに使ってみるかい」
なんか訳知り顔で現れてきたのはリリオだった。プルート・オルコットを大穴へとぶら下げるなんてことをした彼のその時の目的は未だに首を傾げるものであった。
「使いませんよ。別に飯を喰わなきゃ生きていけないなんていう情けないことをいえるはずもないのに無茶なことをいいますね」
「なにをいっているのですか。ここにいる大半がそれなりに旨いとも思える飯を食らって便を垂れ流して適度な頻度で寝てられなきゃやってられませんよ。そんな怪物の集まりではないですからね」
「………………それはそれで窮屈ではありますね。私の周りになんて怪物とも化物ともしっかりと呼べる存在がいますからね。そうじゃなくて知らない大人のいるところに置いてかれるなんて普通は………………」
言葉に詰まってしまい最後まで出てくることはなかった。それに思わず考えを巡らせてしまっていた。
「それはつまり君は普通じゃないということか。それも………………。いいや、やめておこう。これの続きを求めたところでどうにかなって君の強さが変わるわけじゃあないだろうし」
リリオは冷蔵庫から卵を取り出していく。フライパンをもってコンロの上に乱雑に近い形で置く。そしてフライパンの上に卵を転がす。火を着けて卵をフライパンの上で転がしていっていた。
しばらくしてそこから出てきたのは変わらずの卵だった。それを殻ごと口へ入れて砕いていった。咀嚼音がかなり大きなものとなっているため抑えるのが難しいのであろうと推測できる。
「………………………………。なんて人ですかこれは。おかしな人もいるんですね」
「そんなことをいわれてもどうにか旨いのがダメなんだよな。旨ければそれで満足だからな。じゃあさお前もくうか」
フライパンを上へと放り投げていくがフェイクはそれを受けとることをせずに眺めていた。
床へと落ちる前にちゃんとキャッチするリリオ。もうそれを口へと持っていこうとするが寸前で止める。
「あっぶな⁉喰ってしまうかと思った。俺も休んだ方がいいかもしれないな。これが終わったら休暇か後方への移動にするわ。許してくれればいいけど」
「そんな悲観的にならなくてもぼちぼち今までできてたことなんだから。とはいかないものですよね。今まで必死に戦ってきたんですから休みたいとも思って当然ですよね。今度あったらお小遣い下さいね」
などと言われてもうフライパンをシンクへと投げてしまう。そしてすぐさま立ち去っていった。
他に誰もいなくなってしまって困ったものだ。冷蔵庫を開けて中を覗いてみる。そこではなかなか面白いものがあった。
「何もないですね。ここまでになると生活なんて簡単ではないと思うけれど。どうして冷蔵庫が空っぽになって生きていけるのかな」
じっくりとそこを覗いてみれば何かがある気がしていた。それはクッキーか。
手を伸ばして手に取ってみる。これはなかなかに重たいものであった。見た目だけはあの乃蒼が食べさせられたものと同様のものである。
少しの葛藤の後にそれを口へと含んでいく。彼女の周囲から確実で真っ黒な粘液があぶれ出てきていた。
「あぁまさかこうなるとはね。これでどこへと行くのか楽しみだなあ。出てこい出てこいってね。じゃあいってきますね」
杖を行使して連絡を試みる。これの相手は近くにいるプルート・オルコットではない。もっと遠い場所にいる、デスパレードへと送っていったのだ。なにせどこにいるかなんているのはだいたいではあるがわかっている。というか情報としてフィリアから共有されていた。
「これで誰かに占拠されていたなんてなっていたら笑えないから。だからここまでかどこまでか割り切ることをしなければね。じゃあまた会えなかったらごめんなさいね地獄ってどんなところだろうな………………。なんだろう随分遅いな」
全身を覆う粘液が固まってしまっている。叩いてみればバリバリと簡単に綺麗に引き剥がされていった。
「これならもう………………。まさか本人ではなかったということだったのかな」
この黒い粘液が一つに固まっていって小さな姿をとっていった。そうして現れたのはピィピィ鳴く小動物であった。
「………………………………。うそでしょ。勘弁してほしいかも。面倒になったかもしれない。今すぐキエテしまおうかな。冗談言ってる場合じゃないよね。これから人助けに向かうっていうのに」
なんてことでフェイクにペットとしてかはわからないが捕まった小動物がいたことを憶えてほしい。
ここから始まるのは世界の地獄悪夢それとも幸せであろうか。誰も望んでいないことをみせられてまともでいられるとも思えない。だけど戦場はどうせすぐそばにあるんだ。
逃げているんだからその逃げてきた場所が戦場になったところで戦わないなんていうのは通じないかもしれない。
なんてことを空高く飛びながら考えていたフィリアであった。
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