第二章 第三話 騒ぎの中心で何を知るか③

 影かとも蜘蛛かともそれかクジラかという形容しがたいものとの戦闘が一つ終わらせた後で現在といえば………………。

「あぁたんぽぽコーヒー飲みます?」

「いや、ちょっと流石にそういう気分には………………。というかタンポポだなんてこの周りに咲くものなんですね」

 正面で座る薄緑の肌のピエロの女から出される黒い水を差し出されるのを丁寧に遠慮をさせてもらう。

 あの戦闘の後でシグライが詰め込まれたのは可愛らしい内装と装飾のこのピエロの女の自室であった。

 このような僻地と呼んで差し支えないような場所にこれだけのものを集めてこられたのは権力の証明と多大な熱量における趣味の領域であろう。

「これでも頑張って増やしたんだから。少ししか生えていなかった手間暇かけてこうして使えるようにして………………」

 彼女のその表情は随分と誇らしげに映っているものと感じる。

「そうですか。それで一ついいですか」

「何ですか。今は気分がいいので大体のことは答えられると思いますから。質問なりお願いなりをどんどんと持ち込んできてください」

「じゃあ一つ………………自室に他人を女の子を連れ込むどころかこうして縛り付けているのはどういうつもりなのか聞かせてもらえますか」

 現在、この女の部屋でシグライは椅子に括り付けられてそれを倒されている状態となっていた。

 このような脆弱な縄など簡単に引き千切ってはしまえるのだ。だがそれでも相手の目的も知らずになんてことになれば面倒なことこの上ない。後でぐちぐち文句を言われるのが大変なことだと考えているからか。

「別に、それはワティクシの趣味になるのでしょうね。あなたが指摘した通りのことではありますよ。変態趣味なんてのは誰しも持っていて当然のことだと思います。ただワティクシの場合それが少しねじ曲がった方向にあるというだけです。これでも我慢して真っ当な方に矯正しているんですから」

 だが彼女の表情が紅く染まっているのが確認できる。恥ずかしがっているのとそんな自分に興奮を覚えているという大変に高度なことをやってのけている状態であったか。

「どこが真っ当ですか。女の子を連れ去って孕ませるファンタジーもののお約束みたいな種族をしてやっぱりそうなんですね。どこでそんなイメージがついたのか分からないので風評被害もそちらにとってはあるでしょうし。ただあなたが変態さんだというのは話がなんとかできる類のであるのはなんとか解釈できますよ。遇ったばかりの女の子をこうして………………牢獄に繋いでと思ったら今度は自室に連れ込んでのことですか。女性としても生き辛いんじゃなくて」

 なんかもう面倒になって縄を引き千切っていってテーブルに置いてあった果物を手に取って口に含んでいく。

 見た目からして異常なものではあったが味も中々に奇妙なものではあった。それでも不味いと呼べないものではあるのが救いであるのだろうか。

「どう、美味しい?」

 顔を沈み込ませて覗き込んでくることをしてきていた。それに驚きはしたがその瞳に見惚れてしまっていて跳ね上がることすらなかった。

「まぁそれなりにというところですかね。可もなく不可もなくクスリといわれれば希少なものなのだろうと覚えさせられるというか」

「そう、それはよかった。ただでさえ食糧も食料も貴重で希少なものであるから一人増えただけでもさてどうしようかと頭を悩ませることになっているからね」

 この果実も彼女が少し首を傾げながらも満足げに飲んでいるたんぽぽコーヒーも贅沢なものなんていえるものではないと。

「どこも大変なんですね。でもコーヒーくらいならこの………………そうか」

「そう、ここでは雨すら満足に一定の周期をもって降ることがない。存在するのは怪物といわれるまでに進化したものかどうにかして必死に試行錯誤している我々のような虐げられる者たちのみですよ」

 その表情には種族や集落といったものでの考えではなくて大きな他人事では済まないような私情を抱えているものが読み取れる。

「………………………………だとしてもここまでの部屋を用意できるのも恵まれていると思いますけどね」

 ぬいぐるみやフィギア、ポスターなんかもありこちらの類の趣味を多く傾倒しているらしいとよくわかる。

 荒廃したどころか整備されていないというのが正確なところの場所ではあるのだが。そんな世界にでもこれだけのものを集めて来られるのはその熱意には驚きと感動を隠すことが難しい。

「これはワティクシも外に出てくことがありましてね、その時に毎度買い集めているだけですよ。あっこれがお気に入りの一つなんですよね」

 なんていって出してきたのは異形の姿をした女性のシルエットをしたフィギュアであった。

「それって、どこかで見覚えがある気がするけどなんだったかなぁ」

 などといったからか今のどれよりも勢いのあるもので近づいてこられた。流石にこれではのけ反らずにはいられなかった。

「えっとねぇ、この子はねえ錐𩿎ぎりあ麻海あさみちゃんっていってね普段は周りのと変わらない普通の女子高生なんだけどね突如としてこの姿を自覚して自身に眠る欲に従っていって数々の個性豊かな可愛い女の子を性的に襲っていくっていう大変に感動的な物語を持っている娘なんだけどねただそれでもここまでにしておかないとネタバレになってしまうか。じゃあ次は………………」

 持っていたフィギュアを元の場所に戻していっていた。そして部屋をぐるりと見渡していって何かを思案していた。そんなことをしても私案にしかならないというのにな。

「ちょ、ごめんなさい。わたくしが悪かったですから他人の趣味に気軽に飛び込んでいこうなんてしたのが愚かでしたごめんなさい」

 考えを改めようか。この女は可愛いというよりその類を含んだオタクと形容できるような存在の趣味というとこであるのか。

「そう?他にも紹介したいものはたくさんあったんですけれど………………そう言われてしまえば仕方がありません。後は簡単に紹介できるものといえば」

 そこで少し大きな音を立てて落ちてくるものがあった。それは重たく厚みのあるアルバムであろうか。

 思わず手に取って開いてしまっていた。そこには写真などは殆ど入っていないように思える。視覚がもしゃ足りていないのであろうか。

 この行動をいいようには思われないのも当然であろう。取り上げられて棚へと戻していく。

「………………………………さっきのってどういう」

「あなたには関係のないものでしょう。ここにあるものは毒にも薬にもならぬようなものばかりですから」

「いやそれはちょっと無理があるんじゃないのかな。この部屋を小さい子が観たら性癖が酷いことになってもう戻んないか心に一生のものを抱えてしまうんじゃないかなあ」

 このピエロ女の部屋にあるものは一つ物を動かしてみればやたらとセンシティブが広がっているようなものである。素人がひとたび入れば凄惨な現場が出来上がることを信じなければいけない。

「見せられるものでいうとあとは………………あぁもう外に出てしまいますか。いいものがあるのを思い出した」

 などといわれてもピンとは来ない。この捕まっている人に見せられるものなんて。食堂が構わないというなら機密を抱えているような場所でなければ大体どこでも同じことであろうか。

「じゃあ行きましょうか」

 なんてこれからのことを考えていたら気づいた時には先ほどまでと同じようにどころかそれよりもきつく縛られていた。

「………………………………………………やっぱり君は性癖が倒錯している変態さんだ。縛り方もここまで巧くできるもんじゃあないだろうに。それでもこの能力では重宝などはされてはいないだろうて。君の持っている性別すら怪しいところだけどそんなものは怪物に成り果てているらしいわたくしがいうことではないでしょうしね」

 なんていいながらも床を引きずられていたシグライ。途中で女性にすれ違うこともあるがそれにしても反応がいいものではない。自然と遠ざかり距離を取るようなことをしていた。

 それもそうだろうと納得をしてしまう。女性がそれよりも年代の下であろう娘を縛って引きずりまわしているとなれば近づきたくないと思うのが普通であろう。

 女性というのも考慮されてしまっているのか実は野郎が連れているのであればまた違う反応を見せてくれるのか。

 などとということでもないのか。通路で時々すれ違う娘とはハイタッチをしたりして陽気な調子を見せていたりしていた。

 そして長い通路を通ってきてようやくといったことで外の日差しを浴びることになった。

 ゴツゴツとした岩肌は先ほども見たものだがその正面に広がるものが素晴らしく美しいと感じる。

「よくもまぁここまでのものを………………………………言葉を贈るのが失礼ではないかと感じてしまうほどだな」

 そこには硬い岩盤であろうはずの大地に一面で黄色一色のたんぽぽが広がっていたのだ。これだけのものを碌にヒトも生きていけるような場所ではないというのに育ててきて苦労がしのばれるものである。

「なんて考えてるわけじゃあないでしょう」

「へッ?」

 どうやら彼女にとってはその評価はお気に召さないものであったらしい。そうだろうな、他人の言葉になどはなんだっていいというものなのだろうな。それもヒトの在り様というものであろう。

「これはもうワティクシの趣味ですね。与えられた特権というのを有効に使って自堕落な生活を送るのも悪くはないとおもいますがそちらは………………」

 なんて彼女が誇らしげに胸を張って自分の努力の成果を眺めていたりしていた。ただそこでは小さな子供たちがたんぽぽの花畑で楽しそうに遊んでいたりしていた。それこそ絵に描いたように幸せそうに笑顔を振りまいていた。この光景を自分の手で作り出されたものとおもうと。

「なに、頬が緩んでいるのはいつもなの?可愛いことでありますねえ。ずっとそれでいたらいいのに」

「………………………………」

 勢いつけてたんぽぽの花畑へと投げられていったシグライだった。縄で繋がれているために身動き取れないのは悲しいことだ。子供たちにいいように花の中へと埋められてしまっていく。あぁ面白いことでありますなあ。





 この小屋ともいえない中でごく少数の面子ではあるが会議とも呼べぬ雑談が始まっていた。

 なにせここは土の中であるために潜ったところでは小屋だなんていえるのは水に浮かんでいるモグラくらいであろう。そのモグラは機敏に泳いでいる様子が簡単に目に浮かんでくるのが面白いくらいなのがあるが。

 中央に座っていた老体があのピエロの女が世話をして摘んできているたんぽぽコーヒーを口に含んでいく。

「それであのよそから来たあの者の処遇はどうするつもりか決まったのか。儂は嫌だからな。もう彼女のような存在をここから出したくはない」

「とは言いましてもね、我々だってあんなモノを望むことをしているわけでもない。けれどそんなことをいえば今までのことが………………あぁそうだこれもあの時に」

 この中では平均よりも年若いのが何かを思い出したように震えていた。平均よりもといってもこの老体の一人が異常なほどの長生きであるために狂わされているのであるのだが。

「そうだ、彼女がいたからこそ我々はこうして誰かに犠牲を強いることを必要とはしなくなった。それはそれとして長年の文化カルチャーはそう簡単に変わることもないか………………」

「なぁそういえば二脚のは視線が上にいくからオンナの膨らみが胸の方に出てくるんだとさ。四脚のは尻に注目が集まっていってそっちばっかりになっているそうなのに不思議なもんだよなあ」

 この中でもかなりの若造がしようもないガキの言葉に大したものではないが耳を傾けてしまう。

「何が言いたい。我々はまともに対話もできない程度の低い獣だとも?」

「まさか、獣であるのと低位のものであるのとはまた話が違うものであろう。それはいつもいつも脅威にさらされているのが我々であるのが現実としてあるんだ。それにこの大地が」

 若い彼の話に割り込む形でそれよりも年上の者がカツカツと机を叩いてくる。

「その話をしたいなら重い腰を上げていかなければならないぞ。今抱えてしまっている目下最大の課題にぶち当たっているからな。いつまでも勝手にやってきたその脅威に怯えているなんてのはやっていられないだろうて」

「忘れちゃいけないのはこの大地が切り離されてしまったという現実に向き合わなければいけないということだろうて。どれもこれも危険がつき纏うのは事実だがそれによってまた他の危険が離れていくのを確認しておかなければいけない」

 そう、実際にこの集落のあるここの大地というのが割られてしまっており現在宇宙のどこかに向かって漂うこととなっていた。

 それを理解しての中のどうしたらいいのかという力不足で嘆いている現状ではあるが。にしても方法はわからないといってはいるがずっと探してはいるが簡単にはではなくても学者たちが試行錯誤で模索している状況だ。

 そのために時間稼ぎなんていうのもおこなっているがそれでも限りがあるものだ。

「あぁそういえば他の地域との連絡も簡単にできないことであるからなあ。それに噂ではコロニーの一つが破壊されたなんていうのも聴こえてきたりするし」

「何だそれは。冗談でもいっていいことと悪いことがあるぞ。1000万人以上の住む空間が消え去ったなんて夢でも見たくはないものだ。恐怖と畏怖で震えあがるものにしかならない」

 緑色の肌の野郎がたんぽぽコーヒーを口に含んでいく。少し熱かったのか咳き込む様子も見られたが元気には見えていた。

「んでまあそんなことではあるが訳が分からないなんていってもとっととできることから始めていこうや。まずはその用件のあるものをここに呼んできてしまうことからやってみるか」

 なんて発言がありましてここにいる一人がこの部屋から出ていった。発言にもあったと通りに誰かを呼びに行った様子か。

 しばらくして彼がこの部屋へと戻ってきていた。………………なぜかその手にはオンボロではあるが丁寧に手入れのされているフライパンをもって。

「………………………………おいこら、いったい何しに行ってきたんだよ。内緒の内密の緊急を要する会議だっていうのに遊んでいる暇はないんだ。いい加減にしてくれよ。こういってはなんだがそんなフライパンで何しようっていうんだよ」

「いやあこれで何か旨いものが喰いたいなあと考えてしまっていたらついつい持っていたんですよ。これくらい見逃してくれたら嬉しいんだけど。これでも今のご時世といっていいのかわかりませんが飯も満足に喰えない世の中ですから」

 などと悲し気な表情を浮かべていることをしていた。大事そうにフライパンを持って抱えているだけというのにこれはなんだろうかとも考えさせられる。

「それで、どうなんだ」

「どうとは?」

 首を傾げてきょとんと可愛い表情を向けてきた。フライパンを持っているだけだというのに。

「いったい何しにいったと思っているんだ。呼び出しを受けての向こうの反応をというか応じてくれるのかという返事が来たのか保留なのかすぐに来たのかというか実はもう来ていて待たせていますという状況を聞かせろっていうんだよ」

「あぁそれならもう当然きているに決まっているじゃないですか。連れてきた時には彼女も一緒にいましたので引っ張られている感じで嘆いていましたが。何だかんだで面倒見がいいことであるのがあの子のいいところであり悪いところでもあるのが残念なところではありますかね」

「うるせえよすぐそこにいるってんならとっととここの場所に顔を持って来いっていうのにはあ。これでも考えてのことではあるかもしれないけれどだな、別に身体を引き上がしてなんてことはいってないんだから勘違いされても困るけれども」

 なんていわれてうんざりした様子でまたこの部屋から立ち去っていった。っていうか勘弁してほしいなんてのを見せられてもちゃんとしていないのが悪いんだろとは思ってしまうのが残念なところでもあるかもしれない。

「さてと、こうしてあなた方の面を拝み倒すことには成功したわけなんですが。どうしていったいなんでこのような集まりが現在行われているのか聞いてもいいですかねえ。こんな田舎になんて用はないんですが。といっては失礼にあたりますかね。ここには希望のフロンティアと呼んでも差し支えないでしょうかね。あぁそれともここの民はもしかしてとしれば島流しにでもあった罪人の集まりだったりしますか。だったらごめんなさいねえ。これでも失礼のないように心掛けてはいるんですがそのようなものは人生の大きなところに置いてきたらしいですかね」

 高い高い天井にぶら下がった状態で中々に饒舌にしゃべりやがるのはシグライ・エンドル・ヒーリア・ネイア・グリモワ・メイガス・レスティラであった。

 それはもうカラスか蝙蝠かというほどの自然な様子で佇んでいることとなっているのがもう周りにいる者にとっては首をかしげるばかりであったのだが………………。

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