そろそろ走るさね………………⑤

 ようやくやってきた。欲するものをだ。どこまでも手間がかかるだけでしかない。

 再現をするのにはそこまでの苦労はしない。一度やってしまえれば。

「だが、だからこそ渡した分を返してもらいたくてここまで来たのに」

 だがここにいるのはまさかまさか別の勢力も含んでしまっているとは。思惑の交差ほど面倒なことはない。

「別にいいだろう。どうせこちらもそちらも奪いたいと願うのは所詮贅沢な悩みだということ、それを忘れてしまっている」

 この場所にへと立ってしまっているグリファリドのその姿はぬいぐるみというよりは着ぐるみ姿というのが正しいのだろう。こちらの方がよっぽど動きやすそうだ。

 そこで握りしめているナイフというのはどれだけの数の血を吸い続けていたのだろうとも………………だがそんなことなど知りはしない。

「どうせ君が来たということは………………このビックイベントの乗り遅れるのが怖いからってことなんでしょう」

 そんなこと知ったことではない。自分が他者を傷つけることを恐怖するのは当然のこと。それがどういうわけかというのであればそれこそ人それぞれなのだろう。

「そうでもない。こっちとしてはこいつを失っても一切困りはしない。既に奪ったも同然だ。ここにあるのがそうだしね」

 そしてグリファリドが持ち出してきたのはその紅玉であるらしいのだが。それを見せられてしまえば動きを止めてしまうのもやむなし。自分の目とか脳とか演算領域とか正気すらも疑うくらいだ。

「どうやってそれを手に入れたか………………そんなことはどうでもいい。何せ我々が取る手段はそれの処分だ。そもそも破壊しても一切の問題などない」

 紅玉へと向けてどこからともなく数発の射撃が行われてくる。その速射に応じられるほど、グリファリドの余裕は既になかった。それによって速やかにその紅玉が弾け飛んでしまう。

「流石だ。エスアイも強くなっているらしい」

「これでも悔しくてたまらない心境で一杯なだけですよ。使い勝手のいいバルギリスがやられてしまっている以上はそれの穴を埋めるだけの活躍を他の面子で行っていくしかない。誰が貴重な人員を使い捨てるつもりで動かしているもんですか」

 階段を降りてきながらもその使用した銃というのを強引なパワーで捻じ曲げていき変形をさせていくエスアイだ。その身体というのもかなり修復をしてきている状態ではあってもその身体のあちこちというのがボロボロであることには変わりない。

「一度療養もしたいがそんな余裕もない。ここで終わらせてからか」

「そういうことだ。誰も彼もが犠牲になり続けている世の中でもその犠牲を強要しているのはその誰もであるのを。そしてどうせこいつも諸悪の根源としてはそういうことなんだろう」

 リズアッサとエスアイの二人でグリファリドの制圧でもしていこうという構えでもしていたはずだ。だがすぐさまその姿を消してしまっている。

「悪いがこれがないというのであれば既に必要のないものだ。どうせ破片でもこっちには役になんて立たない。その場でガラス片になるだけ」

 そう言い残して最後に影でも出したかと思ったら二人で見渡してもその姿を確認することは出来ない。

「あぁ、いなくなってしまったか。悔しいなぁ。所詮はこんなガラス片では役に立たないとでも思っているらしい」

 エスアイがそのグリファリドについている手元から転がり落ちてしまったガラス片というのを拾い上げていけばそれをかき集めてやる。一つ一つ色を失ってしまったただのガラス片となってしまったがそれでも構わないというのに。

 こうして見つめていけば見えてくる物を探し出すこともできる。便利な道具だよこれは。


「まぁこんなもんでしょう。どうせあらゆる世界は消し炭になる。そして誰もが一つの願いを」

「そういうことばかりして。他者を狂乱にでもして楽しいか。それであれば問題などないのだが」

 そこにいたのは軽装で首にマフラーでも巻いているという装いの人物か。恐らくはグリファリドがどうしてリースにまでやってきたのかなども把握しているのだろう。

「別にそんなつもりでもない。クロス・シンプローをどうやってでもおびき出してやるのかをずっと悩んでいた。そもそもがお前が目的でここまで来ていたんだ。その姿を出してやるという目的が達成されればそれで構わない。他の趣旨に構っているなんて出来っこないし」

 既にグリファリドは魔方陣の展開を済ませている。魔術だろうと魔法だろうとカガクだろうとでも構築してやるだけの実力は備えている。多少の時間がかかろうともだがある程度なら。

 というか専門は呪術の類だ。ここから既に術中に嵌まっているクロスくんが滑稽でもある。笑えてくるよ本当に。

「本当にだ『呪術・裂創』とでも」

 そして既に展開を終えているという呪術を発動させる。だがこの一撃でさえもただ脚を踏みしめるだけで一瞬にしてその行使を止めてしまう者がいた。

「やめて欲しいものだ。この『蚊遁・衝登』とでも使わせてくるなんてよっぽどの達人でもなければこそ。それこそ侵入者さえいなければそれで済んだというのに」

 そこに現れたのは何者か。それを理解するモノなどいるのだろうか。だがそれでも実際に『呪術・裂創』が封じられてしまっていることは事実。だがそれでも奴が行使したのは技であって業にまで到達していなさそうだ。であればいくらでも対処の方法はあったりする。

 例えば意識を遮ってでも封じてしまえばどうとでもなる。それこそが、一撃となりつつも連撃となるそれだ。

 フランベルジュでも持ち出してきてその二つが重なった上から更に式を書き込んでいく誰かの姿。その綺麗で繊細て丁寧な書き込みというのを見せられてしまえば感動を覚えても当然の事。

「まぁこうなるよな」

 クロスもコーレクスもあれが何だというのかは情報として把握している程度。曲折見たことは………………どうだったか。

「まさかそっちから現れてくるなんでというくらいだよ。美しくも幸運でも感じてしまうほどに」

 そこにいたのはアンドリュー・アンドロス。それにそっくりなものが存在する本物を自称する誰かさん。………………とんでもないことだ。まさかグリファリドとの縁を手に入れているとは。衝撃が走ってきて当然のこと。

「またあのデルフェルスの傍にまで現れてくるなんて。相当に恨みでも持っているらしい。直近でこの頻度とは」

 コーレクスは把握している。恨むべきはずの対象が不在の職場を襲撃していたことをだ。それでまさかそこの者共に撃退されたとは聞いていたはずなのだが。

「それでこのカッコよさとか。改造でも受けたんじゃないかというくらいには強い」

 アンドリュー・アンドロスは無言でクロスとコーレクスの二人に得物のフランベルジュを突き付けていく。フランベルジュから少し距離を取ってでも炎が沸き立つところをみれば十分に臨戦態勢ということ。

「「やってやろうじゃねえかよッ‼⁉」」

 相対している二人としても気合を入れて全力での戦いに挑んでやろうとした。だがそんな気配などしてもくれない。お互いに一瞬視界を遮るそれがあったためであるのか。

 その加速の乗った衝撃というのでまさか全員が弾き飛ばされてしまうなんて誰が想像するだろうか。それを行った何者かが振り返ってみればそこにあったのは白の長いコートとかいうのを羽織った白髪三千丈という姿だった。謎の多いことではあるが生きているだけの時間は………………結構永いように見えてくるから不思議なモノだ。

「元気なようで。では僕はお先にいかせてもらいますね」

 そしてすぐさまその姿を速度で振り切ってきたのだ。そこまで求められてしまっても戦えるだけの強さをこの少年は持ち合わせている。それだけの奇怪な気配。それが目の前から消え去ってしまったら安心というのもするべきだろう。それが置いてきた土産物さえなければだが。

「ハロハロ~」

「………………」

 そこにいたのは観目麗しい女性二人か。その姿というのはとてもではないが普通の世間一般の風習の世界にいる者でハナイという理解がやってくるが。

(………………素肌を徹底して隠した姿でいるなんて。それも蛇の意匠というのをそれぞれで違う種を選んででもか)

 クロスとコーレクスはザッハークからの連絡を受ける。それはしっかりとした深刻な様子のわかる声色による忠告であったか。

『そっちにきてしまったらしいか。とてもではないがこれからは生き延びることを優先するべきだ』

「悪いが既にあの少年であればいない。それが残していった女どもがとても厄介に思えるが。手加減しないでも傷を付けることすら難しいとはこのことだ。超える時には一瞬だ」

 正直なところこの女性たちを相手にするのは腰が引けるということがある。なんというか防御力はあってもHPに値する部分がかなり少ないようにも感じられるというか………………いいや、そうではないのか。HPバーがボスキャラとでもあるようないくつも分割されて行って一発で全てが消し飛ばないやつなのか。

『だとすればよっぽどでなければ………………それは無視していい。時間稼ぎでもというのであれば相手してやればいい。倒してしまえば恨みでも買ってやられるのはこちらだ。それでどちらも一発で滅んでしまうのは計画において望まないそれのはずだろう』

「ごもっともな意見だ。ならばしっかりとその分だけ引き受けてやる」

『それでいい。僕のところに彼がやってくるというのであれば望むところ。そうなる前に抑え込んでいられる不安もあるが』


「ドリャ―――ッ‼」

 大剣ぶん回してでも目の前に広がるブルーネオ共を排除していく。だがそれでもいなくならないことを見ればきりがないと嘆きたくもなる。

 いくら何でも多すぎる。これで一体何機撃墜したかすらも覚えてないくらいには怪しい。いろいろと、もう実際には一機も墜とせてないんじゃないのかという馬鹿な考えすら過ってくるくらいなもんで。

 ブルックリン・メイガス・ロクショウとしても自分がこの場所にいるなんて感動で胸がいっぱいだ。人間とことんまで追い詰められてもやれるもんだと。こいつも自分の愛機というまでに馴染んできている。

(フルスティングの調子もよし。後はそれこそあのグルオルフィーナ帝国のあいつがいてくれたらとか思うがあいつも忙しいだろうし、そも別の組織の奴にその場にいないのに頼るなんて貧弱にもほどがある)

 だが彼の声というのがこの戦場で聞こえてきたのなら話は別だ。まさかリースにまでやってきているとでもいうのだろうか。そうであるのなら頼ってもいいのではないか。そして自分のこの感覚を頼りに座標でも合わせてそこまで到達していく。だが残念ながらもその場所にあるのは周囲と変わらずのドンパチやっている戦場だ。

「まさか俺の記憶違いか。だったら一度戻った方がいいのかもッ⁉」

 で、そこで見知った気配というのを感じてしまえばそちらに意識が向けられてしまうのも当然だ。

(アルデットが来ているのは………………まぁ驚かせてくれんなよという想いで一杯だよ。無事に生きていられるのであればそれで幸いだ)

 ドラドラと円を描いてでも周囲に散らばっているパンジャンドラムの撃破をしていく。だがそれでもわらわらと湧いてくるのには気味が悪い。

「だったらどこか制御でも生産でもしている箇所があってもおかしくないと疑ってしまうってぇの」


 そして当然その期待をされているアルデットはペイルライダーを全身鎧にまで変形をさせて変質したリース内部を闊歩している。あぁ懐かしい。とてもではないがそんな感慨にでも耽っている余裕などない。だがそれだけの気持ちの余裕はこの状況では持てていなければ問題にも思える。

「銃口を他人の後頭部にでも突き付けられるなんて。技術者に乱暴なことをされてもかなり誰にとっても不利益にしかならないというのに。どうせ損害を出すならそういうことでもして欲しいもんだよ」

「そういうこととはいったいどんなそれだ?こちとら迷い込んでしまって状況の把握というのが出来ていないんだが」

 大真面目にアルデットはどこかの一部屋でも開けてそこにいた研究職の誰かしらを尋問してでてここらの情報でも取ってやろうというつもりだった。だがそれで勝てる相手を対象する弱い者いじめみたいなことでもヤラネバこっちの身からして危険だ。

 それ相応の実力があってこそ。何せそうでなければ恨みでも買ってこちらの頸でも一瞬で刈ってくる。だがどうやら目の前の彼はそこまで戦闘能力が欠如しているというわけでもないらしい。無謀な戦闘をするような忠義に厚すぎて迷惑をかけるような奴でないならいい。

 こうして銃を突きつけられてしまうこの状況はラサナーデだっても慣れてなんかいられない。

「とんでもないことで。別に欲しければ持っていっても構わないですよ。どうせここにあるモノなんて大したそれではないですし」

「………………いや分かんねぇですよ。そもそもどこにいるのかなんていうのも何とか理解するのにかなりの苦労もしているというのに。それで………………ここがあのリースだというのはわかってもどうしてこんなことになったかなんて君たちの手によるものだというだけしか理解のしようもない」

 あぁ自分でも何を言ってんだか。正直に言えばあの物騒な奴に襲われて、そこからどうにか少し離れていればここにたどり着いてしまったというだけ。どうしればいいのかという目算も建ってはいない。

 というかそもそもがあの煙の怪人でも追いかけていってあのヘンナ施設にまで気づいたら来ていてそれで更に進んでみればその場所に来てしまったとか………………どうなっているんだがこれは。

「君は理屈でもなければ納得しないという質か。そうであればそもそもの考えから訂正した方がいい。どうせこの世界で誰か一人が理屈で追いかけられる次元というのはたかが知れている。手を伸ばしてもそれが砕け散るだけだ。そこで自分の思考すら制圧でも出来ないというのであれば諦めろ」

 ラサナーデだっても北極からの撤退でもすればすぐさまこの様だ。相変わらずに運がないとしか言えん運命だ。統計ばかりを気にしていも仕方ないのだろうがそれですら嵐の前の静けさとして不安を誘ってくる。

「冗談でもない。どうせこんなことをやるのはザッハークかそのシンパくらいのもんだ。もしくはそいつらに覚えのない罪状でも送りたい誰かしらか」

「そこまでいけば全部クリア。君はもう仲間の元にまで戻った方がいい。どうせここから命を落とすことなど滅多なことでもない。君ほどであれば」

 ただひたすらにキーボードを叩いているだけでモニター画面を点灯させていないその行為には奇怪にでも感じてしまう。どうして頭に銃口を突き付けられている状況で戯れなど出来るのか。

「どの口がいうのか。その惨状で以てリースにいた皆の命を奪ったのはお前らだろうがッ‼」

「………………だから」

「………………………………はッ?」

「それが我々にどう関係があるのか。そして私だっても興味はあれどその責任を背負うぶんなど。自分が負うとする責任は自分で決める。余計なモノをくっつけるな。それは私が行ったモノでもなし。そいつらが脆弱であったことを恨んで後悔するだけで済む」

 あぁわかった。ここまで聞けば十分だ。誰も躊躇もなく命を奪うことが出来る。

「どうせここからであれば」

 そこでアルデットにへと通信が入ってくるがそれに構っている余裕なんてあるはずもない。

『あぁえっと、誰か聞いてますかってそんなわけないか。別にそれで構いもしないのだが。どうせ安心が得られればいいだけだし』

 そしてどこか海中にでも飛び込むような音が入ってきたがそれが何なのかを追求しているなんて………………そんな時間もない。

「あぁどうせ君らが生きていられる保証もしてくれないし。それと同時に時間切れだから」

 ただキーボードを叩いていただけだと思ってはいたがまさかここでエンターキーでも押してしまえばそこからたどり着いてしまうのは『重落』と同様の系統に位置する術であったか。

 それによってアルデットは足元に出現した虚空の穴によってでも落下をしてしまうことになる。そこで出現してくれるのはまさかのフルスティングの目の前であるらしい。

「ハッ⁉」

 咄嗟に回避すれば衝突などもしないで済んだので幸いともいえるのか。だがそれはそれとして大真面目に気まずい。

『どこに行ってたんだよ。それをずっと維持しているなんて馬鹿なことはないと信じているが。そうであるならお前は正気ではないし、誰かということすら疑わなければいけなくなるぞ』

 あぁやっぱりこれは隊長の声だ。普通に大真面目に外にへと排出されてしまったと考えるのが常套ではないだろうか。そうであってほしい。が、そうだったら自分が大間抜けにでも思えてくるから嫌な気持ちにもなる。

「なんで隊長がここにいるんですか。まさか独りで突っ走ったとかではないですねよそうだったら責任ほっぽり出したなんてことに」

『馬鹿。こちとら絶賛世界滅亡掛けた唐突な戦争をしてんだよ。軽々に責任から逃れられるほどの状況ではない。相当手が足りない。特に雑魚狩りに。火力任せにやっても機動力が奪われるわで結局は地道にだよ』


 アインドローグだっても自分のするべきことというのは自分で決められる。自分のしたいことなんていうのは難しいがそれでもだ。

「ムッチェチェもエスティゴも分割しなければいけないほど追い込まれているとはとんでもないな。これだから人手不足は。コーレクスさえも求められたら相当に不味いと考えた方がいいか。こんな時にザッハークがすることなんて決まり切ったことか」

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