たとえこの小さな世界を失ったとしても

 緑色の肌をしたどこぞのファンタジーものにいるようなゴブリンの姿をした杖持ちの戦士がそこに存在していた。

 スペースシャトルの白い甲板の上へと飛び上がってこの場所を戦場としていた。

 その相手として出現しているのは巨大な肉体を持った異形の蟲であった。これを正しく蟲と呼称していいものかという疑問はあるがそのようなものはこの場では大した問題ではないといわせてくれるほどの巨体を宇宙に曝していた。

 それが奇怪な悲鳴を上げてこちらに襲い掛かってくるというのだから冗談では済まないだろう。

 全長でいえば乗っているスペースシャトルと大差ないほどであるこの巨体をどうやって維持しているのかなど気にはなる部分ではある。だが実際のところ、これだけの大きさのものを維持していくことなどできなかったというのが肉がダラダラと爛れ落ちてきている現状を観てしまえばよく理解できる。

 節足動物かというほどの脚の多さで体重を支えようとしたところでその肉体の全てが追いついてくれているとは限らないということか。

 いや、その前に全身の傷を修復しようとして強引に細胞の増殖をおこなっていったのが主な原因であろう。

「だから弱点なんていうのはそこらに転がっている。それと同時に効かない攻撃がいくつあってもおかしくはない。これはもう………………。ッ‼」

 杖をしっかりと強く握りしめてこの蟲の背へと突き刺していく。何度も何度も。肉が飛び散ることもなく突き刺した感触も奇妙なものではあるがこれでダメージが入っていないとなればまた別の方法を考えなければいけない。

 横にいるフリオッソが心底驚いた表情を見せているがすぐにこれはいつものことかと呆れたようにため息をついていた。

『ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアふざけるなふざけるなこうなってしまっても簡単にくたばることすらないっていうのにどうにもこうにも屈託のない笑顔を見せてくれないというならそのまま砕け散ってしまえば終わってしまえばなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで』

 要領を得ないどころか思考を全滅させてくるほどの威力を保有している叫びが聞こえてきている。それを防御せずにモロニ受けてしまったために墜落してしまい地上もない宇宙の彼方へと飛ばされようとしていた。

「チぃ⁉これで終わってくれないどころかここでこっちが終わってしまうのはあまりにもッ」

「んなことをいってくれるな。どうせこれで終わるような我々ではあるわけではないっていうのに。なぁそうだろう」

 なんていう風に二人で視線を交わして飛んでいくことにしていた。あぁそうだどうせここで面倒かけてしまうどこかの誰かが助けに来てくれるのだろうて。

 すぐそばからワイヤーが飛んできて二人を巻き付けて引き上がてきていた。それをおこなったのは二人の同胞であるムニオであった。

「こらっ、勝ちに祈るのではなく自分たちで奪い取るくらいのことをしてやってくれよ。全くこれで勝利を手に入れようかねぇ」

 こんな風に言われてしまえ諦めることすら出来ないじゃないか。あぁやってやろうじゃないか。

『キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロどうなっても知らないからな。絶望を見せてくれよなぁそうでなくてもでもどうしても』

 やはりこの蟲支離滅裂なことばかりを言ってきている。全くそれが我々には理解できないが少しは耳に頭に染みてきた気がする。これはきっとあのバカはあのバカ野郎がどっかにいるということだ。

「ならば、傷を入れることに成功してる現状では充分に実現の可能性はある。やってやるさ。全身痛いっていっても困るからな」

 エルエンスは自身に巻き付いたワイヤーを振り切って迅速に蟲の背に乗りあがっていっていた。そして走り出して背を蹴りだしていく。その際にも鞭や鎌、無数の針が飛んできているがその全てを手持ちの剣で弾いていっていた。

 更に頭の上までにたどり着いていた。この蟲というのはどうやら口からの咆哮を吐いてくるらしい。現在、この蟲は首を上に向けてエルエンスへと照準を定めていた。

 落ちてくるこの状態にも遅れる事無くしっかりと追従してきていた。このままいけばシャトルに咆哮が当たってしまい航行不能となってしまうのが目に見えている。

 ここで自分を勘定に入れていないのが彼の異常ともいえる精神性ではあるのだが。

 そんなことは知ったことではない。命を失うことの恐怖などは当然人並みにはあるつもりだ。それでもこのような行動を取る理由なんていうのは仲間の信頼であるか。

 濃密なエネルギー砲が異形の蟲の口腔部から放たれていった。

 エルエンスとこの凝縮された砲撃のあいだに差し込まれていたのは無骨な装飾もない大楯であった。この大楯もエステルが拾ってきて保管していたモノの一本である。

 これを投げ込んできていたのはムニオの鍛えられた腕であった。エルエンスが持ち出していたのを見て実はもっとあるのではと考えてガサゴソ物色した中で見つけたもので有効に使えるかは確証もなかったが効果を発揮して安心している。

 だが高い威力であったのは間違いがなかったようで一撃をその場で止めてすぐさま

「満足だよ。これで」

 甲板へと落ちていって優雅に着地していた。そしてすぐさま飛び上がって喉元へと杖を突き刺していくことをする。

 確かに傷を負わせることに成功するが奥まで入っていくことはなくその傷は浅く済んでしまう。だが首に掴みかかり振り落とされないようにしているためできることすらなくというものはない。

 この状況にはどうやら煩わしいと考えるくらいの知能はあるらしい。ブンブンと首を身体を振ってどうにか掴みかかっているものを落とそうとしていた。

 いくらやっても落ちることのないため多くの鎌を首元まで伸ばしていってエルエンスを狙っていった。

「そうやすやすとやられるような群体でもないから」

 いつの間にか腹の下に入っていたフリオッソが脇差くらいの剣を持ち出して渾身の一撃でそのでっぷりとした贅肉に切り刻んでいくことをしていった。

『ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア』

 どうやらこの腹からなら簡単に傷を負わすことも難しくないらしい。

 それを見た好機とみてムニオがシャトルから持ち出していた遺物というのもあったりする。

「これが古代の遺物RPG-7というやつさね。壊れてくれるなよ」

 いったいどこにあったというのかRPG-7というソ連製のロケットランチャーを肩に抱えて蟲へと狙って構えていた。これは本物というには少し不都合があるような出来をしておりレプリカと呼ぶのが実は正確であろう。レプリカだから効果が低いというものではなく寧ろ威力が高すぎるため再現の失敗なんて言われたシリーズの一品でもある。

 これを使う中で怖いのが乗っているスペースシャトルを壊してしまわないかということだ。なまじ威力が高いだけにこのシャトルの耐久力なんていうのも知らないという身分であるため足がなくなることへの不安が尽きない。だがそれでも躊躇なく使っていくのがムニオという人物である。

 装甲が剥がれていくことの現実というのは簡単にやってくることもなく少しの安心を得られた。だが爆風によって吹き飛ばされてしまっている個体が三体もいることを忘れてはいけない。

「何やってんだこいつはッ、こんなことをされたら俺らくたばっちまうじゃかないかよっ⁉」

『フギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブ⁉』

 なんだろうか、その中でも蟲の鳴き声というのが悲鳴にも聞こえるようなものになり何故かその鳴き声も溺れていると解釈できるものになってしまっていた。いったい何に対して溺れたような反応を見せているかわかるものではない。

「何やってんだよこいつはッ⁉あのバカ俺らまで巻き込むことはねえだろふざけてんじゃねえぞこの野郎ガァ‼」

 思わず叫ぶことをしてしまい恨みのこもった声を上げてしまう。それはもう余りにもギャグが過ぎませんかと考えてしまうのは残念なことである。不幸では済まない悲劇であるが………………………………。

「んなことはまったくもって関係ないだろうが‼」

 シャトルを操縦していたエステルが用意がいいらしく手持ちできるサイズの噴射装置を投げ込んできていた。それをしっかりと受け取っていこうとするが鈍器のような蟲の腕に殴られて遠くまで飛ばされてしまっていた。

 歯を食いしばってずっと手元にあるように引き寄せていたワイヤーを操作していってシャトルへと戻っていこうとする。

 だがこの蟲というのはこちらに視線を向けている。それはもう攻撃をするための照準を合わせていることであるというのが理解できる。

 一緒に宙に投げ出されたフリオッソがそれをもう気楽に眺めていた。

 もうこれは他人事になってしまっているかもしれない。こんな呑気な気になっているのはきっと文句をつけようのないくらいには信頼を置いているのだろう。

「だってあいつはそこらのチンピラみたいなことしてそれらのチンピラ共よりも遥かに強いから。まぁ僕たちも似たようなものか」

 フッと何故か笑みがこぼれるのに自分でも驚きがある。これはつまり思考でも信頼を置いているということか。どうやらエルエンスに対しての信頼というのは強くあるのだと突き付けられる。

 脇差程度の剣をしっかりと握って軽く振るって見せる。これで剣閃が放たれていって巨大な蟲へとぶつかっていく。

 それに応戦して鎌を持ち出してきて一発で空間共々引き裂いていった。あまりにも過剰な威力を発揮していたが当たらなければそれこそ何も変わらないというものだ。

 その一撃がまさかのエルエンスの持っていたワイヤーをぶった切ってしまっていた為に遠くまで飛ばされていく。

「「『ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ⁉』」」

 そうやって飛ばされてしまっていったエルエンスに対してその風景を眺めていた誰もが思わず息を呑んでいた。

(これで生き延びていられるのならよっぽどの幸運か。やれることをなんていったらこのまま)

「落としていくことだけッ⁉」

 偶然に手元までやってきていた噴射装置を掴んでいたフリオッソ。

 巨大な怪物との呼称を問題なく使用できる蟲がこちらに向かって糸を発射してきていた。

 これに表情を歪めつつも彼はその手に入れた噴射装置を巧みに操作していってどうにか躱していっていく。

「これで後は撃破していけばいうところだがそれを不可能といわれても反論できないであろうさ。だから一か八かでッ‼」

 一直線にむき出しの腹を見せているその骨めがけて突進していった。鎌で防御をしてみせるがフリオッソは強引にその勢いのままにぶつかっていく。

「ガガァガァガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」

 目の前にいる怪物に負けぬほどの咆哮を相手に聴かせていた。そのまま宙であるというのにこの蟲を引きずりまわしていく。藻搔いて暴れるようなことをしているがそんなことでは決して抜け出せるものではない。

 たったこれだけの大きさの噴射装置でこのような効力を発揮してくれるというなら始めから出してきてくれということを思ってしまう。

『ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアグボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボロ』

 腹から発生している声というのが溺れたものに近い呻き声へと変化しているのが確認できる。だがこれだけやってもあまりにも絶望が過ぎるこの怪物相手に撃破の現実が見えてこない。

「だからここでやるのはあのバカを引きずり出すことだ」

 懐から自然と取り出してくるのは栓抜きのような形の黒光りする物体でそれを大事に握りしめることをして持ち出してきた。

『グボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボログボロギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア』

 どうやらこの怪物というのはすぐに息が戻ってくるほど存在自体が強力と知らされる。

 シャトルの上に乗ってその白い装甲に立っているのはムニオ、その彼が持ち出していたのはまさかのコロコロと転がるようなくらいの信じられないほどの質量を内包する物体であった。

 それは蟲の亡骸の動く存在に対して自爆をしていきやがったフォーンの遺品の一つであった。

「これで勝てるなんてお世辞にも言えないが一度倒せた実績があるから。全力で行かなければ礼儀に反するというもの。彼のだが」

 この大量の弾丸を持ち出してきて頑丈に出来上がっている大楯で殴りつけて蟲を押しつぶしてしまう。

 苦しみ悶えるそして骨組みからしてひしゃげる音がべりべりと聞こえてくる気がする。これは宇宙空間であるために音は伝わってこないが生命イノチの保有するエネルギー量の多い巨大な怪物からのものであれば周囲にいる者に影響が出てきていてもおかしくはないだろう。

『ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアガガァガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザアァァザザアァァザアァァザアァァザザアァァザアァァザアァァザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザザザアァァザアァァザアァァザ』

 偶然そこに通りかかったかというほど運のよく怪物蟲とフリオッソとの射線上にそれよりも巨大なスペースデブリが存在していた。そのスペースデブリは様々な石ころを巻き込んだと思われるほどに肥大化しており既にこの怪物蟲よりも大きく育ち切ってしまっておりぶつけてよくわかるほどに出来上がる。

『ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアフギャギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア』

 いくら暴れたところでこのデブリからは抜け出せない。これでも頑丈に出来ているのだと感心するばかりだ。

 遂に倒すことに成功するのか。このまま貼り付けておけばとりあえずは動くことはないだろう。撃破の方法などは後で考えればいい。出来なければ封印でもしてしまえばしばらくの時間稼ぎにはなるだろう。

 ようやくの勝利を獲たのかとシャトルへと戻ろうと投げ渡されたワイヤーに摑まって引っ張られていこうとする。

「これでこちらの憂いもなく合流できるというものだ。皆に訃報を伝えるのは忍びないがッ」

 安心してシャトルの中へとフリオッソを戻していこうとするムニオであったがその中で何か異変を感じていた。そしてそれが確かなものであると信じられたことで思わず叫びをあげる。

 それにしてもさっきから勘が働いているのがムニオばかりである気がしない。これには自分としてもフリオッソの不調を疑うことをしてしまう。

 気を緩めて背を向けていたフリオッソに向けて大きく顎が開かれていた。

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