第二章 第八話 見ない地上かここは⑦
ティアマット・グレイドといえば逃げ回っていた。草木が生い茂った山の中を駆けまわりひたすらにどこかへと走り出していた。
目的の地までの距離など理解できてはいないのである。だからこそ背にへと迫っている呼吸音すら残酷な機械に追いつかれることは望むことではない。
それによって狙い撃ちされている現状というのはよっぽどの事態だと思う。まず命の危機であるのは明らかだ。
別にマシンに乗っていればこんな危機になってもいないのだ。それも違うな、乗っていればこれほどの危機に陥ったとしても容易く切り抜けられるといった方が正確だろうか。
「だとしてもねぇ!」
生えている木々をどうにか壁にして巧みに弾丸を避けていくティアマット・グレイドではある。
だがそれでも崖の上から振ってくる場合があるのが面倒なところか。ただの普通の日本の女子高生がこんな現場にいること自体が間違っているともいえるか。
「またか、あのロボット兵器はッ!」
崖から放ってくるのは火炎弾であろう。そんなものまで持っているのが恐ろしく思えてくる。
ただの機械が火を噴くんじゃないとも思うがそうも言ってられない。泣き言を叫んだところでこんな敵地では誰も助けてくれない。
放たれた火炎弾によって枯れた落ち葉がいくつか散らばっているような山林が焼かれていく。それはティアマット・グレイドの立っている足元だって焼かれていくであるから。それはつまり逃げ場はドンドンと無くなっていく。
ほら、こうして目の前の途にすらなっていない一本の筋すら炎に包まれてしまいどうにも進めなくなってしまったか。流石にこの状況で目の前に突っ込んでいくほど酔狂なことはしない。
だとしても振り返ってみれば周囲はガチャガチャとちっぽけな機械兵器が動き出している光景が存在している。
こうなってしまえば逃げ切ることすら叶わないかもと思えてくる。炎の影を覗くことをしてみれば向こう側に何かしらのものが存在していると思えてくる。
「これ生き延びろというのは無茶が過ぎるんじゃありませんかね………………帰りたい」
痺れを切らしてきたのかただの一機がこちらへと向けて弾丸を撃ち放っていたらしい。
「ッ⁉¿」
これには疑問が浮かんでしまうのも当然であろう。どうしてピコピコと小さくではあるが音を立てているようなニンゲンを撃ち亡ぼすための無人機械の一機が制御を離れてしまうのは想像がつかない。
理由を問うてもどうにもこうにも現在にて解決を図る方法などない。まずはこれを受けずに済むようにしなければいけない。
(どこへいってももう撃たれるだけ。ならもう動いたなら次の行動をするべきだろうってね)
地面を蹴りだしていって一気に距離を詰めていくことをしていったティアマット。そして向かっていくのは撃ってきたはぐれモノの方である。先ほどまでいた場所にへと弾丸が撃ち放たれていくことであった。それによって木々へとぶつけられていったことで大きく損傷を受けることになった。これはもう残念でならないが木々にまで気を配っている余裕などないのである。
他の機体も追従するようにティアマット・グレイドへと狙いをつけてハチの巣にしていく。だがそれは機械が見た一時の夢であった。既に目指した一機の眼前へとたどり着いている。
目の前に並べられた機械を軽く蹴り飛ばしていこうとする。
「ッ~~~⁉」
これには思わずうなりながらも脚を押さえてその場に蹲ってしまう。脚がへし折れるかと思った。女の子の細い足で無茶をするものではないと思い知った。
この行動に戸惑ったのか他の無人機械の多くがティアマット・グレイドから離れていくようなことをしているように思えた。それはわずかに距離を取っただけだというのにそう感じさせてもらえるというのは自分の精神からして追い込まれているらしいと感じた。
機械相手にまともに喧嘩を売って勝てるようにはできていないらしい。
ゆっくりと立ち上がりながらも次の行動へと移る。胸を反らしてゆっくりと後ろへと後ずさりをしていっていたのである。
それで何かと相手方も警戒をしていたところに不幸は起こってしまった。なんてことはない、足を踏み外した末の滑落である。
ただこの状況となってしまえばどうしようもない。無人機械たちは自分たちでカメラを見合わせるようなことをして首を傾げる仕草を取ってきていた。全くしっかりと意志で以て生きているのではないかと疑いたくなる。
シャコシャコと動いていたのかと思えばホイールを回してティアマット・グレイドが落ちていった場所にまで駆け寄っていくことをする。
だが残念ながらもそこで何か穴などがある様子ではない。だというのにここから人間一人落ちていったのである。その気配すらないというのは恐ろしいものである。
集まっていた中の一機が慎重を期すようにとマニピュレータを刺し込んでいくことをしていた。だがそれでも起こることなんていえば地面に突き刺さるのみである。センサーなどでは見えないらしいのに疑いながらも探っていったのはかなり賢く危ない性格らしい。
残念ながらそんな異物のような兵器にも救いはないらしいのだ。彼は姿勢制御を誤ったか倒れこむ体勢を取ってしまった。それくらいでは問題にはならない。たとえ倒されても起き上がるくらいの機能はちゃんと備えている。
だというのにそれは倒れてそのままに地面へと吸い込まれることになってしまってのであった。
そして彼がたどり着いた先というのが焼却炉であった。現実は無情である。せめて穴の一つの管理くらいはちゃんとしておいてほしい。仕事に関わるので。
なんていっても落ちていく機械兵器というこの光景を眺めているティアマット・グレイドであったのだ。
「まさかの事態であったけれど。これでは確かに助けてくれたあなたに礼を負わなければいけないわね。この通り出せるモノもないし出すつもりもないのだけれどね」
アロハシャツを着ながら麦わら帽子を被って目を伏せているこのふざけた野郎の隣でそんなことを宣言してみせる。
彼がインターセプトを掛けて弾いてしまわなければ自分もああなっていたのかと思うと胸にぞっとするものが沸いてくる。
「別に礼なんていってもねぇ。持ってないのから奪うつもりもないし。後は好きにしていいよ。帰りたければお好きにどうぞ」
「………………………………へッ?」
これには自分の耳を疑ったかもしれない。どうにも仕事柄相手を疑うというのを常にしてしまっているようにも思える。こんないい人がここまで高い地位を持っているはずもないだろうと読んでしまっているのだ。
考えすぎだとも思うが黒幕ってそういうものだろうと浅野さんに世間話の中で言われていたこともある。あれはどんな話をしていたのだったか。あぁ好きな小説をお勧めされてそれを語る中で聞いたものだったかと記憶していた。
浅野さんとはそこまで親しいわけでもなかったとは思うがどうしてそんなことをされたのだったかまでは憶えていなかった。まぁ趣味があったとしかいいようがないだろう。それにすぐに思い出しそうな気もする。
「どうした。そこからすぐに道路がある。街まで遠いかも知れないが気まぐれに誰かが拾ってくれるかも知れない。………………あぁそれで面倒ごとに巻き込まれたくはないか。だったらどうするのがいいか、まぁこんなチンピラに年頃の少女の扱いなぞ期待されても困るというものだ」
片手で目元を覆いながらも反対の手でどこかを示すことをする。そこにあったのはどうやら勝手口らしい。背景と同化していて今まで気づかなかった。
ダメだ、彼はこれを本気で口にしているように思える。だとしたら嘘偽りなくあたしのことを必要としていないということか。そしてこの調子では更に排除することすら視野にいれていないという証明すらされそうだ。
謎の多い彼ではあるがこの要害を乗っ取った勢力のボスだといわれても信じてしまいそうになる。
「ご厚意は受け取ります。ですがやはり目的が分かりませんね。なぜの説明がなければ後ろをビクビクうかがっていくばかりだ。それで自分は安寧を得られるとは思えないから」
「じゃあどうする?まさかこんなチンピラ一人掴まえてそこの風呂に投げ込むつもりか。熱いのは苦手だからできれば勘弁して欲しいなぁ」
彼が風呂だといったのは焼却炉の更に奥にあるマグマで煮立った水槽のことをいっている。ティアマット・グレイドはその存在を正確には把握していな。
焼却というくらいなのでかなりの火力を有しているはず、それをどうやって着火しているのかと想像をしたらそんなものが浮かんできただけ。実際にはもう少し簡単にやっているだろうと、どうせバーナーでつけているんだろう思っているティアマット・グレイドなのである。
だから風呂などといわれてなんのことか思い浮かべることが出来なかった。風呂に入れてすぐに人間が倒れるはずもない。火傷はあれどすぐに出てくれば表面だけで済むはずだ。それこそ直火で丸焼きにでもされたならまた違う話になっていただろうがとも考える。
「期待しているみたいに聞こえますが。生憎と戦闘狂を相手にするだけの力を持っているとは思われたくはありませんね。ではご厚意に甘えてここは失礼させてもらいますねッ」
ソ~っとできるだけ足音を立てないように動いていって示された勝手口へと向かっていく。そしてドアノブを掴んで一気にドアを開けて駆け出していった。
それを眺めていた彼はすぐに立ち上がっていって天井を見上げることをした。
「あぁもうじきか。取り引きとはいえここを手に入れてしまって心苦しい想いが詰まっているんだよな。そんなことをいうのであればやるなって話なんだが」
勝手口から出てきたティアマット・グレイドといえばまず周囲がどのような場所であるかの確認をした。
見渡してみればすぐそばにかなり大きな幹線道路と呼んで差し支えないものがあるのが見つけられた。こんな場所の近くに基地の出入口をつけて全く以て正気を疑うものである。
だがこれで自分の無事というのもあと少しで確保できる。まずはあの道路までと駆けだしていった。安心して欲しい、道路に飛び出すことはしない。どちらにも危ないから。
その笑顔の浮かんだ顔であったが車通りが多いこの道路には流石に立ち止まって瞬きを数回するくらいには驚いていたらしい。
これほどまでに大きな道路というのならいずれ目的の場所にたどり着くだろう。ただ一ついうならば正確にいえば目的は場所ではなく人なのだが。
目印などもない状態でたどり着けるのか心配になってくる。
(これでもう日本に帰ってましたなんていったら冗談じゃすまないからな。誰が迎えに来てくれるのよ。誰も来ない気がしてくる………………あぁ怖い)
なんてぼさっと立っていた際に少し遠くから爆発が確認できた。それはどうやら散発的であるために気づかなかったらしい。今まで何度も行われてたものか。
「ゼアぁ、ブワアァ。クソッタレ、どうしてこの僕がこんな目に遭わなければいけないんだ。どいつもこいつもふざけた強さを持っていてなぁ。隊長の仇をだなんていっている場合じゃないか。どうしてあんな怪物ばかりいるんだ。いや、怪物というのは自分の主観かよ全く」
ティオヒア・ブラウンは大きく傷を負った姿にてこの大海原からどうにか必死に這い上がっていくことをしていた。
膨大な熱量で以て焼かれてしまったその身を冷やすにはちょうどよかったとも思える。それと同時にその海面にぶつけられたことによって凄まじい痛みがあったことは忘れられない。
あればかりはどうにもならない。激痛ではあったのだ。少し前で行っていた戦闘で受けた熱の方がよっぽどといえるが。
まさか生身で宇宙空間に放り出されるとは思っていなかった。ただそれよりもあのふざけたデフォルメキャラはなんだとも思う。
あんなキャラクターはデルフェルスにもいなかったはずだ。前もって確認はしておいた。面倒な事態は出来るだけ避けたかったこともある。標的すら見極められなくなったらおしまいだ。
どれに籠ってきたのか判別をしなければいけない事態となれば多少とはいえ知識で抗っていけると踏んでのものだ。
実際にはそれすら意味をなさずに若い女に一瞬で片付けられてしまったわけだが。ああも強いとなると恐怖というのも、畏怖すら沸いてくるものか。だがあの程度であれば本気を出せば殲滅など容易いことのはずだ。それをやらせてもらえなかったというだけである、つまりは全力を出さなかった自分が悪いということになるのだが。
「だがだとしても何だったんだあの眼帯の女はッ⁉明らかにただの人間の域を超えているものだろう。発生させた膨大な爆発の類のエネルギーを危険域すれすれで制御してみせていたが………………………………あれは」
あれは到底いかれているとしか思えない。どういう頭をしていればあんな芸当が出来るようになるのか。
命を捨てるくらいの覚悟がなければ実現できないであろう程の大馬鹿な術である。
あのようなモノを術と呼んでいいのかも怪しいくらいだ。であれば勝てる勝てないの話しですらなかったか。
「次なんてない。負けたら終わりだ。そのはずだったのにどうして生き延びてしたのか。でもならば生きて世界を破壊することで復讐としようか」
ゆっくりと立ち上がっていこうと膝を動かしていたティオヒアであった。だがその上に影がかかってきていた。
一体誰のものかと考えてしまった。そしてすぐに覚えのある恐怖がこの身にあがってきているのがこの影の正体を知らせてくれる。
「じゃあここで終わりにしてあげようか。どうせなら華々しくね」
これはティオヒアにとっては死刑執行を告げる合図でしかない。死刑宣告すらなく頸をギロチンで刈られる恐怖というのはやはり深刻なものだ。
振り落とされるのは残酷なギロチンの刃であった。それがただ高速の落下によってになるが頸を落としにかかった。
ゴロゴロと砂浜を転がっていくことによってどうにかそれを躱すことに成功するのだが。
これによって違和感を覚えることになったティオヒアである。
(どうしてだ。あれくらいであれば私を倒すことくらい簡単に出来てしまうはずだ。まさか甚振ってくる変態か。だったらもう)
「隊長はもういないのか。どうしてああまで変わってしまったのか」
「やあやあやあ元気そうなので嬉しくなってしまうよ。それでさぁもう君の存在はいらないから。というよりは用は済んだからね。手ずから壊しにきた」
(ッ⁉ふざけたことをぬかしやがる)
すぐに立ち上がっていき相手の後ろへと廻っていこうとする。視界と射程の外に出てしまえばもう楽なことはない。であればこの選択をするのもおかしくはないはずである。
ただすぐにこれが安直な考えによるものだと思い知らされた。頭上から落ちてくるのはあまりにも大きな爆発エネルギーを詰めた球であった。
見上げてみれば数多くのものが生成されており確実に骨すら残すつもりはないという行為であるのがよくわかる。
「ふざけたことをッ⁉」
(どうして自分の隊長に、それも死んだとばかり思っていた者に襲われなければいけないのか。これこそ悪夢といって申し分ない)
これに対してはある程度巨大な氷塊を複数生成していって散らばった爆発の球へとぶつけていった。
これによってどうにかすべて処理することには成功する。だが当然ながら相手は遠距離で球を投げてくるばかりのものではない。
寧ろ正面へと飛び込んでいき直接内部を破砕してくる性格である。
予想通りティオヒアの腹目掛けて拳を握り振るってきていた。これはあまりにも速すぎる。相も変わらず実現不可能なことばかりをぶつけてくる。
「そのどこか甘い性格も治っていないようで安心しましたよ!」
これには思わず鼻で笑ってしまう。ティオヒアは自分のへと飛んでくる拳を掌で受け止めることをした。
ぎしりという悲鳴が聞こえてきていたがそれは歯を食いしばってどうにか誤魔化していく。
「隊長どうして今までずっと姿を隠していたのか聞かせて貰えますか。納得できるまで締め上げますから安心しておいてくださいね」
「いうようになったじゃないか。では美しく汚らしくも撃ち亡ぼそうじゃないか」
すぐさま次の拳が振ってきていた。それを平手で受け流すことをする。やはりこれもギシギシと骨身に伝わって軋んでしまう音が聞こえてくる。
いくら体力もあり頑丈な肉体と凄まじい再生速度だというのにこれだけの攻撃を何度も受けていたら簡単にやられてしまう。
根性でどうにかなるものなのかと疑問にもなる。だがそう言っている間は実現などしないだろう。
「今度は後方にかッ!」
その界隈ではよく知られた術である氷結ハンマーにて背に目掛けて飛んできていた爆裂球を叩き落とす。
そして顔面に向かってくる拳に対して手刀を叩きこんで軌道を変える。
「ええ加減にせえよ」
更に襟元を掴むことをして揺さぶっていく。それにどうずる様子のない相手に対して非常に苛立ってくる。この歩和栗・ホーモルクという人物はいつもそうだ。誰も彼も見下しているようなことばかりで、実際に今もこうして用が済み邪魔だからと部下を始末しようとしている。
「そんなことで嫌いになったりはしないだろう」
「買い過分なそれは」
自分の頭を大きく振りかぶっていき歩和栗の頭を固定してお互いの頭をぶつけるに至った。
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