第46話

「父様、朝ですよ。起きて下さい!」


 俺はホープに揺り動かされ、目を覚ます。


「あぁ……ホープ、おはよう」

「おはようございます。魔力の方はどうですか?」

「そうだな……うん。大丈夫、回復しているよ」

「なら、早く元に戻りましょう! 母様が朝から心配して、父様なら大丈夫だと言い聞かすの大変だったんですよ」


 ホープがそう言うので、チラッと隣に居るエマに視線を向ける。エマは視線が合うと恥ずかしかったのか、直ぐに視線を逸らしてしまった。本当、可愛い人だな。


「じゃあ……早速やるか」


 俺はベッドから立ち上がり「神より与えられし姿を捨て、禁忌を犯した罪を我が魔力をもって償う。逆転の時計の針を動かし、過去の姿へと再び戻る。リバース・リターン!」と、詠唱を終わらす。


 高音と共に白い魔法のリングが下に出来、俺の体を通って上へと抜けていった──どうかな? と聞くまでもなく、二人の笑顔を見れば直ぐにわかる。でも──。


「どうかな?」

「バッチリですわ。アルウィン様」

「そうか。じゃあ城に戻ろう」

「父様。その前に朝食ですよ」

「分かってるよ、ホープ。相当、ここの食べ物が気に入ったんだな」


 こうして俺達は朝食を済ませると、ゆっくり馬車に揺られながら城へと戻った。その日の夜──俺はホープが持ち帰った古い本を借りて、図書館で読んでいた。


「ここにいらしたんですね、アルウィン様。こんな夜更けまで何をされているんですか?」


 エマはそう話しかけてきて、隣に座る。俺はエマの方に顔を向けた。


「少しでもホープの旅に役に立てないかと、ホープが持ち帰った本を読んでいた」

「そうでしたのね。それで何か分かりましたか?」

「いや……色々な本を読んだりしてみたけど、やっぱり記号にしか見えなくて全く分からなかったよ」

「まぁ……」

「本から少し魔力を感じるし、多分これ、条件を満たした人しか読めない様に高度な魔法が掛かっているんじゃないかな?」


 俺のは本を開いたままエマの方に移動させる。


「エマ、君の方はどうだい?」

「私ですか? そうですね……」


 エマは返事をして本を見つめる──少しして口を開くと「ダメ……さっぱり、分かりませんわ」


「そうか……エマの方でもないのか」

「私の方でもない?」

「ホープがこの本を読めるのは特別な血筋が関係しているのかと思って。俺じゃなければエマかな? って」

「そういう事ですか……ふと思いついたのですが、特別な血筋といえばルーカス様はご存じないでしょうか?」

「ルーカスさんか……俺より旅をしてきた人だから、全く知らない訳では無さそうだけど、望みは薄そうだな」

「どうしてですの?」

「ルーカスさんとの会話で、ルーカスさんは瞬間移動の魔法はないと言っていたんだ。つまりルーカスさんはこの本の存在を知らないと思う」


 エマは納得いかない事があるのか、何か考え事を始めた様で、人差し指でホッペを軽く叩き始めた。俺が黙って様子を見ていると──エマは考え終わった様で指を止める。


「うーん……本の存在を知らないだけで、本を読めるかどうかは別問題のような気がしますわ」

「あー……確かに……そうなると勇者であるルーカスさんなら読める可能性も考えられるのか。だったら今度、会ったら聞いてみようかな」

「そうですね。ところでアルウィン様。ちょっと疑問に思っていることがあるのですが、ルーカス様ってデストルクシオンを倒す前から、なぜ勇者と呼ばれているのですか?」

「あ、それはね。これとは違う本に書かれていたんだけど、大昔にルーカスさんみたいに聖なる肉体を持った人が、ある戦争を終わらしたからなんだって」

「ある戦争? 本には書かれていなかったのですか?」

「うん、残念ながら」

「何故でしょう?」

「う~ん……書きたくない何かがあるとか? とにかく分からない事がまだまだあるから、今日はここまでだな……そろそろ寝るか?」

「はい、そうしましょう」

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