第28話
──鉄格子の扉の奥へと進み、一本道の石で出来た通路を進む。俺は一つ不安に思っている事があったが、口に出せずにいた。でも、取り返しがつかなくなる前に──
「あの……ルーカスさん。さっき言えば良かったんですが、魔力感知が使える俺かルーカスさん、どちらかがあの場に残った方が良かったんじゃ……」
「確かにそうだね」
ルーカスさんはそれが分かっていたかのように直ぐに返事をする。
「気付いていたんですか? ならどうして……?」
「──アルウィン君はガイがこの城に入ってから、ソワソワしている事に気付いたかい?」
「うーん……いつもよりフィアーナさんを気にしている様には見えましたが、ソワソワしているまでは……」
「多分、その原因は最後の戦いに入ろうとしているからだと思う。ここからは内緒の話だけど、ガイはフィアーナの事が好きなんだ。でもガイはフィアーナが俺の事を好きだと思い込んでいる」
確かにそんな感じだ。俺は階段を上がりながら、そう思う。
「だからさっき、ルーカスさんとフィアーナさんを二人っきりにしようとした?」
「うん。気持ちの整理をしようとしたんだろうね」
「なるほど……実際の所はどうなんです? ルーカスさんの気持ちは?」
「食いつくねぇ……俺は──」
ち……良い所で……。ルーカスさんも強力の魔力に気付いた様で口を閉じ、足を止める。腰に掛けてある鞘から剣を抜くと「この先におそらく幹部クラスのボスがいるな。用意は良いかい?」
「はい」
「じゃあ行こう」
階段を登りきると、ひらけた屋上へと出る。中央に立っているのは顔が大鷲で人間の様な体に大きな羽を生やした魔物で、鉄の鎧に盾、そしてロングソードを装備している。
俺達が警戒しながら、ゆっくりと近づくと、その魔物は気付いた様でニヤリと微笑む。
「来たか……勇者に魔法使い。どうやら俺の方が当たりだったようだな」
俺の方が? って事はやっぱりあっちにも魔物が……でも二人なら大丈夫だよな。今はこいつに集中しないと。
「死にゆく奴に自己紹介したって無駄だと思うが、一応、名乗っておくか。俺の名前はチェルト。デストルクシオン様の右腕で、扉の守護を任されている。」
余程、自分の腕に自信があるのかペラペラと聞いてもいない情報を喋ってくれる。
「ご丁寧にどうもありがとよ!」
ルーカスさんは剣を構えてチェルトに向かって駆けていく。俺はクイックの魔法で援護をした。
──ルーカスさんがチェルトに向かって剣を振り下ろすと、チェルトは読んでいた様でヒョイっと空中に逃げる。簡単に攻撃を食らわないのは、こっちだってお見通しだ!
俺はチェルトに向かって片手を突き出し「大いなる力を纏った風よ。我が魔力を吸い上げ……」と詠唱を始める。
空中で止まっているチェルトは鞘に剣をしまい、何やら喋っているが、離れていているせいで、いまいち聞こえない。詠唱は続けているが、危険な魔法の様なら防御魔法に切り替えなきゃ。
俺が詠唱を終えて、風魔法を放とうとした瞬間、チェルトは地面に向かって片手を突き出す。すると地面がグラグラと大きく揺れ始めた。
「ち……アースクエイクか……!」
地震を発生させる魔法で俺達は足を取られ、膝をつく。そこへチェルトが俺に向かって下りてきて──剣で攻撃を仕掛けてきた。俺は直ぐにマジック・シールドを張り、凌ぐ。続けざまにチェルトは剣で俺を攻撃してきて、俺はアース・ロックで防御をした。
クソっ! 重そうな装備の割には素早い動きをしやがる!! 下級魔法で応戦するのがやっとだ。かといって見掛けからして下級魔法で倒せるような簡単な敵ではない。どうする?
アース・ロックが砕け散り、チェルトが剣を振り上げているのが見える。俺がマジック・シールドを張ろうとした時、チェルトは何故か空へと逃げた。
──ルーカスさんの顔が見える。チェルトはきっとルーカスさんの攻撃に気付いて上に逃げたんだ。
「大丈夫か?」
「はい」
「チェルトのやつ、戦い慣れてるな」
「その様ですね。通りで自信満々な訳です」
俺とルーカスさんはチェルトを見つめ様子を見る。奴の口は動いている。きっとアースクエイクをまた放ってくるだろう。あいつのアースクエイクと翼が厄介だな。どうにか封じる事が出来ないだろうか?
「──あ……」
「アルウィン君、何か思いついたのか?」
「えぇ……一回しかやった事ないですが、試してみたい事が1つ」
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