第29話

 俺は試してみたい事をルーカスさんに話す──ルーカスさんは苦笑いを浮かべて「ちょっと心配だが、試してみる価値はありそうだな」


「じゃあ、やりますよ?」

「うん、頼む」

「イリュージョン・ミスト!」


 俺はイリュージョン・ミストで自分たちの姿を隠す。数十秒も待たないうちにチェルトはアースクエイクを放ってきた。


「馬鹿な奴らだ。姿を隠したところで直ぐに分かる!」


 馬鹿はどっちだ。俺達だって直ぐに分かる。俺は万が一に備えてマジック・シールドを張れる様、集中する。


 ──予想通り、チェルトは装備の薄い俺の方に向かって飛んできた。低飛行になったところで、ルーカスさんが作戦通り、チェルトの背中に向かって斬りかかる──。


 残念ながらチェルトは直ぐに気づいた様で俺の前でグンッと急上昇を始めた。でも──失敗じゃない! 俺は思いっきり両手を振り上げる。


「危なかったぜぇ……何でだ……? 何で地面が揺れているのに奴は動けた……?」

「──さあ? 何でだと思う?」


 ルーカスさんがチェルトの後ろからそう聞くと、チェルトは声にならないぐらい驚きながら後ろを振り向く。その頃にはルーカスさんは中級魔法の詠唱を済ませていて、片手をチェストに向かって突き出し──。


「ソニック・ブレード!!」と、音速のごとく速い、刃の形をした風魔法を放っていた。


 ソニック・ブレードはチェストの翼を切り裂く。チェストは片翼を失ってバランスを崩し落下していった。俺は追いかける様にルーカスさんを操作する。


 追いついたルーカスさんは両足で地面に叩きつける様に思いっきりチェストを蹴った。


「──アルウィン君、そろそろ解除しても大丈夫だ」

「はい!」

 

 俺はエマ王女の猫を助けるのに使った浮遊魔法を解除して、地面に足をつけた。すかさず両手をチェストに向かって突き出し詠唱を始める。


「全てを凍てつかせし氷の精霊よ。我が身に宿る魔力と混ざりて荒れ狂う白き嵐を呼び起こせ!」


 地面に強打したチェストはなかなか起き上がれないでいたが、少しずつ体を起こし始める。だけど、遅かったな。


「ブリザード!!」


 俺は大吹雪を起こす上級魔法をチェストに放つ。魔法を帯びた吹雪は強力で、チェストの身体と地面を氷で貼り付けるのに、数十秒も掛からなかった。


 魔法が止まった所で、ルーカスさんはゆっくりチェストに近づく。


「自信持つことは良い事だと思うけどよ。意外と奇襲攻撃に弱かったりするんだよな──あばよ」


 ルーカスさんはそう言って、両手をチェストに向けて突き出し──ホーリー・インフェルノで跡形もなくチェストを焼き払った。俺達の完全勝利だ!


 ※※※


 ──チェルトを倒した後、俺達は屋上を歩き回る。だけど、仕掛けも何も見つからなかった。


「何も起こっていない? 様ですね……」

「いや、チェルトは扉の守護を任されていると言っていた。きっと俺達が気付かない何かが何処かで起こっているはずだ。一旦、ガイたちの所へ戻ろう」


 俺達は来た道を戻り始める──さっきの話の続きが気になる所だけど……とてもじゃないけど、聞き出せる雰囲気ではなかった。


 階段を下りると強力な魔力の気配と金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。ガイさん達が戦っているんだ! 俺達は駆け寄り、鉄格子の隙間から様子を窺う。


 ──ガイさんが戦っているのは、全身鎧に身を包んだ魔物で、顔が見えないからおそらくリビングアーマーだ。


 相手の武器はエストックで、ガイさんの鎧の薄い部分を狙って攻撃している様だ。パワータイプのガイさんの攻撃でさえ弾かれているのを見ると……相手も負けず劣らずの力を持っているか?


 いや……魔力があるのに、さっきから魔法を使わない所をみると、魔力で身体能力を底上げしている可能性も考えられる。どちらにしても援護したいけど、俺達の魔法では離れすぎていて届かない。


「ガイ、ごめん! 私はいつもあなた達に守られてばかりッ!!」


 ガイさんの後方にいるフィアーナさんは今にも泣き出しそうな顔で、そう叫んだ。


「──そんなの気にするな! それより取って置きの補助魔法を頼む!」

「うん……」


 いつも守られてばかり……何があったか分からないけど、フィアーナさんは今までその不満を抱えていて、いまここで抑えきれなくなってしまった様だった。


 フィアーナさんは祈る様に両手を合わせ、ソッと目を閉じ「我は平和を願い、光の上位精霊に力を借りる。聖潔なる光の力を纏いし我が魔力は……」と、詠唱を始める。


「チマチマ……チマチマ……守るのも大事だと思うけどよぉ……そんなもの俺の性に合わってないし、大切な人を守るにゃ、時には豪快さも必要だろッ!」


 ガイさんはそう言いながら仁王立ちをする。魔物はその隙を逃さず──鎧に守られていないガイさんの太ももをエストックで貫いた!


 ガイさん!!! と叫びたいけど、俺は言葉を飲み込む。ガイさんがわざと隙を作ったのには意味があるはず。俺の声で集中力を削ぐようなことはしたくない。


 ガイさんは一瞬、グラッと体勢を崩すが、持ち直す。魔物は一生懸命、エストックを抜こうと引っ張っているが、ガイさんが踏ん張っているからか全く抜ける気配がない。


「一時の間、悪しきものを切り裂く聖なるつるぎへと進化をさせる」と、その間にフィアーナさんは動じることなく詠唱を進め「ホーリー・ブレードッ!!」


 フィアーナさんが詠唱を終えると、ガイさんの大剣が光り輝く大剣へと変わる。あれは味方の武器に属性を付与する呪文!


 ガイさんの大剣をみて、魔物はまずいと思ったのか、抜けなかったエストックから手を放そうとする。だけど──。


「おりゃぁぁぁぁ……一刀両断ッ!!!!」


 ガイさんの振り下ろし攻撃の方が早かった。ガイさんの攻撃は豆腐を包丁で切るかの様にスパッと鎧を切り裂き、中の本体ごと切り裂く! 本体は完全に消滅し、真っ二つに割れた鎧はズシンッ!! と、音を立てて倒れた。


「俺とフィアーナの勝ちだ。じゃあな、コーシャス!」

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