第26話
目が覚めると俺はベッドの上に居た。見慣れない天井だ。ここは何処だ?
「アルウィンさん、目が覚めたのね。良かった……」
そう声を掛けてくれたのはフィアーナさんで、フィアーナさんは丁度、回復魔法を掛け終わった所だったのか、俺に向けていた手を下ろした。
「ここは?」
「テーレの宿屋よ」
俺が怪我をしたせいで、テーレの町まで戻って来たのか……。
「迷惑を掛けてしまったようで、すみません」
「うぅん、大丈夫よ。気にしないで」
「ありがとうございます」
「ルーカスを呼んでくるね」
フィアーナさんはそう言って、座っていた椅子から立ち上がる。
「ルーカスさんを?」
「うん、アルウィンさんが気付いたら話がしたいから呼んでくれって頼まれていたの」
「話? なんだろう……?」
「──アルウィンさん」
「ん? 何ですか?」
「……」
フィアーナさんは浮かない表情で沈黙を挟み、首を横に振る。
「ごめん! 何でもない。待っていて」
「あ、はい。分かりました」
──フィアーナさんが部屋を出て行くのを見送り、少しした後、ルーカスさんが真剣な表情を浮かべて一人で部屋に入ってくる。
「アルウィン君、具合の方はどうだい?」
「フィアーナさんのお蔭で、何処も痛くありません」
「そいつは良かった」
「ルーカスさん、俺が倒れた後、魔物はどうなったんですか?」
「俺が親玉を倒したら、他の奴等は蜘蛛の子を散らす様に逃げていったよ」
「じゃあ皆、無事なんですね?」
「うん」
「良かった……ところでルーカスさん、話とは?」
俺がそう質問すると、長い話になるのか、ルーカスさんは俺に近づき、フィアーナさんが座っていた椅子に座った。どことなくルーカスさんの表情が暗く感じる。
「その事なんだが──」
ルーカスさんはそれだけ言って、言葉を詰まらせる。きっとフィアーナさんが浮かない表情で言葉を詰まらせたのと関係しているんだろうな。この先の話はきっといい話ではないのだろう。俺は不安を募らせながら、ルーカスさんの言葉を待つ。
「君は今まで沢山の魔物を倒し、貢献してきてくれた。だから……そろそろ王女様のもとに帰るか?」
「は……? どうして……?」
「──俺達が向かおうとしているのは、魔物を統率している親玉が住む城。当然、戦いは激化する。君には大切な人が居る。だから──」
帰れと? ルーカスさんが優しさから言ってくれているのは分かる……分かるけどッ!! 戦力外だと言われた様で、怒りと悲しみが同時に込み上げてきて、心の中をぐちゃぐちゃにされる。
──怒りが抑えきれず、ルーカスさんに何か言ってやろうと思った……けど、ルーカスさんは酷く悲しそうで、今にも泣き出しそうだったから、言葉を飲み込んだ。あんな顔をしているって事は、きっと弟さんのことを思い出しているのだろう。
俺はスゥー……と、大きく深呼吸をして、ルーカスさんに話す言葉を選び始める。
「──そんなこと言わないでくださいよ。前にも言いましたけど、俺は俺の意志で、ルーカスさんに付いてきています。例え取り返しのつかない傷を負ってもそれは自己責任……あなたのせいではありません。今回は判断を誤りましたが、今度は上手くやるので一緒に居させてください」
「アルウィン君……」
「もしそれでもダメだって言うなら、一人で向かっちゃいますよ? デストルクシオンを倒したい気持ちは俺だって同じですからね」
俺がそう言うとルーカスさんはソッと目を閉じ、黙り込む──少しして苦笑いを浮かべると目を開き「そいつは参ったなぁ……それだったら俺に力を貸してくれるかい?」
「はい!」
「じゃあ、少し休んだら出発する。準備をしておいてくれ」
「分かりました」
ルーカスさんはそう言って椅子から立ち上がった──が、まだ話し足りない事があるのか、黙ったまま俺を見つめた。
「どうしたんですか?」
「──アルウィン君は大人だな」
「俺が大人?」
「前に弟が大怪我をして、この状況と同じ様になったんだ。俺は自分の故郷が魔物に襲われて、苦しむ人を沢山みて……救いたくなって……それで自分の我儘でフィアーナとグランを連れ出した。その後ろめたさがあって、その時、グランに村に帰る事を提案したんだ。そうしたらあいつ、なんて答えたと思う?」
「──さぁ……? 何て言ったんですか?」
「あいつは『ちょっとやられたぐらいで、ガタガタ言ってんじゃねぇよッ!! 俺はこんな傷ぐらいで死ぬ程やわじゃねぇし、俺はルーカスよりずっと強いんだッ!! なんだったら、それを証明するためにこのまま一人で帝王の城に乗り込んで、ぶっ飛ばしてきてやんよッ!!」』って言ったんだ。あいつはアルウィン君に比べて子供だったよ」
──確かにそれだけ聞くと浅はかで子供っぽく聞こえる。だけど……優しいルーカスさんの弟であるグランさんが何も考えずに、そう言ったとは思えない。だから──。
「違うと思います」
「違う?」
「上手く言えないですが……グランさんは多分、ルーカスさんの事を心配して、わざと突き放す言い方をして、俺は自分の意志で魔物と戦っているし、心配されなくても大丈夫だから、ルーカスさんは前だけ見てて欲しいという気持ちを伝えたかったんだと思います」
俺がそう言うとルーカスさんはハッとした表情を浮かべ──クルッと背中を向ける。
「──そっかぁ……あの時、カッとなって口論になってしまったが……あいつの気持ちに気付いてやれなかった俺の方が子供だったんだな……ありがとう、アルウィン君」
「はい」
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